2019(03)
■握る包丁の日常感
++++
「ハナちゃん誕生日おめでとー」
「わー、ありがとー」
今日はハナちゃんの誕生日だということで、インターフェイスの1年生が俺の部屋で集まることになった。台所ではエイジがせっせと支度をしていて、俺は部屋でみんなのおもてなしをする係になっている。祝われるのがハナちゃんだということで、緑ヶ丘流の会にしましょうということにはなってるんだ。
緑ヶ丘流の会と言うと、やっぱり無制限飲みになるんだよね。食べたい物や飲みたい物は自分で準備するっていう。今エイジが用意しているのは、ハナちゃんが用意した食パンを使ったサンドイッチ。生ハムやチーズを挟んだおつまみ系から、フルーツを挟んだデザート系まで揃っている。
「つか、わざわざ俺が作る必要あったかっていう。お前がバイトしてるパン屋くらいの規模だったら、サンドイッチくらい最初から出来たのが売ってそうなモンだべ」
「あのね、売ってるのもあるよ。普通のハムサンドとかね。でも、さすがに生ハムとかフルーツとかは挟んでなくてしょぼんなんだよ。ごく普通のハムサンドとか、タマゴサンドなんだよ。おつまみサンド食べたいからしっかり作ってよね、しょぼーん」
「へーへー。生ハムチーズサンドがビールに合いそうだから作ってやってるけど、そうじゃなかったら絶対やらなかったべ」
「でも結果やってくれてるよね」
「俺のためだっていう。間違ってもお前のためではない」
「えー! 今日はハナの誕生日なんですけどー!?」
「お前の誕生日だろうが何だろうが高木の家で包丁握ってる時点で俺には何の特別感もねーべ! あー腹立つ。そろそろ真面目に左利き用の包丁でも持ち込んでやろうかっていう」
ちなみに、俺はあまりに堕落し続けた結果、体育の出席がかなりギリギリだし、なんなら月曜1限の英語が一番マズい。こんなとき、通学に45分もかかるのが大きなネックになるんだなと再確認。高崎先輩やL先輩クラスの近さだったら俺でももう少しまともに授業に出られていたかもしれない。
近さよりも生活のしやすさをとった結果の今だ。自転車の範囲で割と何でも揃うし、星港市内だから病院やその他の施設もしっかりと揃っている。まあ、病院なんか行ったことないんだけど、近くにあるに越したことはないよね。高崎先輩はちょっとしたことなら大学の保険センターを利用するって言ってた。その手があったかって感じ。
エイジが俺の部屋に泊まることも多々あるし、何なら入り浸りすぎてる結果エイジをお客さんとしてカウントすることもなくなった。冷暖房はこうやって自分以外にお客さんが来たときだけ運転する。実家から持ってきたオイルヒーターは、今期何回目の運転だろうか。片手で足りるような気がする。
「大体、食パンならともかくフランスパンを普通の包丁で切らすのも違くね?」
「タカティの部屋でそんな道具が揃うワケないじゃん」
「そうだけどよ」
そんなことを話していたらピンポーンとインターホンが鳴り、また誰かが来たみたいだ。エントランスのオートロックを解除して、エレベーターで部屋の前まで来てもらって、もう1回のインターホンで出迎える。ミドリとユキちゃんだ。
「ミドリ、大荷物だね」
「あっ、俺の部屋から電気鍋持ってきたんだ」
「えっ、鍋やるの!?」
「鍋のつもりはなかったけど、こないだユキちゃんと話してて、たこ焼き器があればアヒージョが出来るんだって。ちょっとやってみたいと思ってさ」
「アヒージョってフランスパンとの相性いいんじゃなかったっけ」
「アヒージョはいいけど高木ン家は机がないし、コイツ光熱費ケチるからな」
「光熱費のことはいいじゃないエイジ! あっ、大丈夫。机はないけど鍋は使ってもらって。うん。でもブレーカー落ちたら怖いし暖房は切るね」
「それくらいで落ちるかっていう!」
「でも鍋の方が熱を発するから部屋は暖かいと思うよ。ハナちゃんの会だしみんなお湯割りで温かくなればいいんじゃないかな」
「寒いからお湯割りで酒飲むとか、インターフェイスじゃMBCCだけの感覚らしいべ」
「大丈夫だよ。奥村先輩も杏露酒のお湯割りにするって言ってたよ」
「あの人は雪国の人間だべ!」
「それ雪国の人に謝った方がいいよエージ、しょぼんだよ。雪国の人間みんながみんな寒いからお酒飲んどけばいいやーって考えじゃないからね」
「お前が言っても説得力がまるでないっていう」
あんまり無駄にあっためすぎても部屋が乾燥して体によくないと思うし、やっぱり暖房は最低限しか使わなくていいかなあという方針だよね。大体、俺が日頃から朝と風呂の時しかヒーターを入れてないのに、こうやって部屋に暖房が入ってること自体が変な感じする。ジャージ2枚重ねで毛布かぶってウィスキーで解決なんだよ、寒さは。
寒さを解決するのは布の枚数か酒、それか財力だ。だけど、俺には財力がない。だから身に纏う布の枚数を増やして酒を飲むんだ。これでエアコンやヒーターなんかを終日使おう物なら、一気に破産してしまう。だから今日なんか、暖房に電気鍋にって、実はちょっとヒヤヒヤしている。
高崎先輩なんかは典型的な財力タイプだよね。L先輩によれば、高崎先輩の部屋には4万弱ほどする遠赤外線のさらに上のナントカヒーターというのが増設されたそうだ。そりゃ大学祭の後夜祭で当たったちょっとしたヒーターなんか要らないよね。ちなみに、高崎先輩が当てたコンパクト遠赤外線ヒーターは俺が譲り受けました。
「って言うかすごいねサンドイッチ。エージが作ったの?」
「このクソチビが俺に作れってうるさいっていう」
「チビにクソチビとか言われる筋合いないんですけど!」
「これがハム?」
「生ハムとチーズな」
「お酒に合いそう」
「っつーか合わせに行った。で、こっちがフルーツサンド。スイーツとかデザートの枠な。俺だってそんな料理得意な方じゃねーのに何でこんなことやってんだっていう」
「それはハナの誕生日なのと、ここがタカティの部屋だからだよ、しょぼーん」
みんな揃えばパーティーはいつでも始められる。寒いからみんなで集まってご飯を食べてお酒を飲めば、暖房がついてないことにも気付かれないと思うんだ。うん、大丈夫だよね? ウォームシェアしよう、それでいいじゃない。
end.
++++
久々にハナ誕のパーティーです。ハナ誕はLハナであんまん食べてるか1年生のパーティーかですかね
そしてミドリ宅の電気鍋がグレードアップした結果、パーティーでアヒージョとかいうちょっとおしゃんな感じになりました
で、エイジはTKG宅なので台所は勝手知ったる様子。いち氏程とは行かないけれど、ちょっとした料理は日常だ!
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「ハナちゃん誕生日おめでとー」
「わー、ありがとー」
今日はハナちゃんの誕生日だということで、インターフェイスの1年生が俺の部屋で集まることになった。台所ではエイジがせっせと支度をしていて、俺は部屋でみんなのおもてなしをする係になっている。祝われるのがハナちゃんだということで、緑ヶ丘流の会にしましょうということにはなってるんだ。
緑ヶ丘流の会と言うと、やっぱり無制限飲みになるんだよね。食べたい物や飲みたい物は自分で準備するっていう。今エイジが用意しているのは、ハナちゃんが用意した食パンを使ったサンドイッチ。生ハムやチーズを挟んだおつまみ系から、フルーツを挟んだデザート系まで揃っている。
「つか、わざわざ俺が作る必要あったかっていう。お前がバイトしてるパン屋くらいの規模だったら、サンドイッチくらい最初から出来たのが売ってそうなモンだべ」
「あのね、売ってるのもあるよ。普通のハムサンドとかね。でも、さすがに生ハムとかフルーツとかは挟んでなくてしょぼんなんだよ。ごく普通のハムサンドとか、タマゴサンドなんだよ。おつまみサンド食べたいからしっかり作ってよね、しょぼーん」
「へーへー。生ハムチーズサンドがビールに合いそうだから作ってやってるけど、そうじゃなかったら絶対やらなかったべ」
「でも結果やってくれてるよね」
「俺のためだっていう。間違ってもお前のためではない」
「えー! 今日はハナの誕生日なんですけどー!?」
「お前の誕生日だろうが何だろうが高木の家で包丁握ってる時点で俺には何の特別感もねーべ! あー腹立つ。そろそろ真面目に左利き用の包丁でも持ち込んでやろうかっていう」
ちなみに、俺はあまりに堕落し続けた結果、体育の出席がかなりギリギリだし、なんなら月曜1限の英語が一番マズい。こんなとき、通学に45分もかかるのが大きなネックになるんだなと再確認。高崎先輩やL先輩クラスの近さだったら俺でももう少しまともに授業に出られていたかもしれない。
近さよりも生活のしやすさをとった結果の今だ。自転車の範囲で割と何でも揃うし、星港市内だから病院やその他の施設もしっかりと揃っている。まあ、病院なんか行ったことないんだけど、近くにあるに越したことはないよね。高崎先輩はちょっとしたことなら大学の保険センターを利用するって言ってた。その手があったかって感じ。
エイジが俺の部屋に泊まることも多々あるし、何なら入り浸りすぎてる結果エイジをお客さんとしてカウントすることもなくなった。冷暖房はこうやって自分以外にお客さんが来たときだけ運転する。実家から持ってきたオイルヒーターは、今期何回目の運転だろうか。片手で足りるような気がする。
「大体、食パンならともかくフランスパンを普通の包丁で切らすのも違くね?」
「タカティの部屋でそんな道具が揃うワケないじゃん」
「そうだけどよ」
そんなことを話していたらピンポーンとインターホンが鳴り、また誰かが来たみたいだ。エントランスのオートロックを解除して、エレベーターで部屋の前まで来てもらって、もう1回のインターホンで出迎える。ミドリとユキちゃんだ。
「ミドリ、大荷物だね」
「あっ、俺の部屋から電気鍋持ってきたんだ」
「えっ、鍋やるの!?」
「鍋のつもりはなかったけど、こないだユキちゃんと話してて、たこ焼き器があればアヒージョが出来るんだって。ちょっとやってみたいと思ってさ」
「アヒージョってフランスパンとの相性いいんじゃなかったっけ」
「アヒージョはいいけど高木ン家は机がないし、コイツ光熱費ケチるからな」
「光熱費のことはいいじゃないエイジ! あっ、大丈夫。机はないけど鍋は使ってもらって。うん。でもブレーカー落ちたら怖いし暖房は切るね」
「それくらいで落ちるかっていう!」
「でも鍋の方が熱を発するから部屋は暖かいと思うよ。ハナちゃんの会だしみんなお湯割りで温かくなればいいんじゃないかな」
「寒いからお湯割りで酒飲むとか、インターフェイスじゃMBCCだけの感覚らしいべ」
「大丈夫だよ。奥村先輩も杏露酒のお湯割りにするって言ってたよ」
「あの人は雪国の人間だべ!」
「それ雪国の人に謝った方がいいよエージ、しょぼんだよ。雪国の人間みんながみんな寒いからお酒飲んどけばいいやーって考えじゃないからね」
「お前が言っても説得力がまるでないっていう」
あんまり無駄にあっためすぎても部屋が乾燥して体によくないと思うし、やっぱり暖房は最低限しか使わなくていいかなあという方針だよね。大体、俺が日頃から朝と風呂の時しかヒーターを入れてないのに、こうやって部屋に暖房が入ってること自体が変な感じする。ジャージ2枚重ねで毛布かぶってウィスキーで解決なんだよ、寒さは。
寒さを解決するのは布の枚数か酒、それか財力だ。だけど、俺には財力がない。だから身に纏う布の枚数を増やして酒を飲むんだ。これでエアコンやヒーターなんかを終日使おう物なら、一気に破産してしまう。だから今日なんか、暖房に電気鍋にって、実はちょっとヒヤヒヤしている。
高崎先輩なんかは典型的な財力タイプだよね。L先輩によれば、高崎先輩の部屋には4万弱ほどする遠赤外線のさらに上のナントカヒーターというのが増設されたそうだ。そりゃ大学祭の後夜祭で当たったちょっとしたヒーターなんか要らないよね。ちなみに、高崎先輩が当てたコンパクト遠赤外線ヒーターは俺が譲り受けました。
「って言うかすごいねサンドイッチ。エージが作ったの?」
「このクソチビが俺に作れってうるさいっていう」
「チビにクソチビとか言われる筋合いないんですけど!」
「これがハム?」
「生ハムとチーズな」
「お酒に合いそう」
「っつーか合わせに行った。で、こっちがフルーツサンド。スイーツとかデザートの枠な。俺だってそんな料理得意な方じゃねーのに何でこんなことやってんだっていう」
「それはハナの誕生日なのと、ここがタカティの部屋だからだよ、しょぼーん」
みんな揃えばパーティーはいつでも始められる。寒いからみんなで集まってご飯を食べてお酒を飲めば、暖房がついてないことにも気付かれないと思うんだ。うん、大丈夫だよね? ウォームシェアしよう、それでいいじゃない。
end.
++++
久々にハナ誕のパーティーです。ハナ誕はLハナであんまん食べてるか1年生のパーティーかですかね
そしてミドリ宅の電気鍋がグレードアップした結果、パーティーでアヒージョとかいうちょっとおしゃんな感じになりました
で、エイジはTKG宅なので台所は勝手知ったる様子。いち氏程とは行かないけれど、ちょっとした料理は日常だ!
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