2019(03)

■年末の予定は埋まり始めていて

++++

「あっ、野坂君! ――って、何でこーたがいるんだよ!」
「私がいたらいけないんですか? 何か都合の悪いことでもあるんですかね~?」
「べ、別にないけど……」

 今日は久々に小林君と遊ぶことになっている。明後日はそんな予定が入ってるんだよという話をこーたにしたら、自分もついて来たいと言ったのでそれを許可した。別に断る理由もないし。言って小林君は元々こーたの友達だしな。
 前回は小林君が学祭のステージの映像を見せてもらった。小林君はつばめと同じ星ヶ丘の放送部だけど、小林君によればつばめの属する朝霞班が本格派のステージをやる班だとすれば、小林君の属する菅野班は自分たちのライブが主体のちょっと異色の班なんだそうだ。
 やっぱり規模の大きな大学はいろいろな色があるんだなあと感心しつつ、再生してくれたその映像を見ていた。小林君はステージバンドではベースを担当している。ステージではやっぱりギターや、このバンドの場合はキーボードの人が目立つ感じだけど、その中にあっても一際カッコよかったぜ…!

「やっちゃんが野坂さんを好き過ぎて情緒不安定になっているという話は菅野先輩から一部始終聞いてますし」
「ナ、ナンダッテー!?」
「ちょっ、こーた! それ仮にも野坂君の前で言うことじゃなくね!? しかも泰稚さんあの人何喋ってんだ!」
「大した話じゃないですよ。やっちゃんが情緒不安定でさって心配してる感じでしたよ」
「あ~、まあ~、泰稚さん優しいからな。心配してくれんのはありがたいけどあの人のことだからワンチャン面白がってそうな気もして」
「さすがやっちゃん、付き合いが長いだけありますね。菅野先輩のことをわかってる」
「やっぱ面白がってんじゃねーか!」

 俺から見ればこーたと小林君の付き合いもかなり長いなというのがこのやり取りの間にもわかる。2人で会うこともまあまああったけど、今のこーたにするみたいにぎゃあぎゃあ騒ぎ散らかすっていう様子はあんまり見られなかったから。
 それは多分俺もそうなんだろうけど。素と言うか地と言うか。多少ぐだぐだとかクズでも問題ない相手に対する接し方が出来るのがMMPの同期メンバーだ。連中に対する俺はその他の、特に先輩方と接するときとは態度が大きく違うと言われても否定は出来ない。

「それで、何をして遊ぶ予定だったんですか?」
「特にこれっていうのはなかったんだけど、あっ、じゃあトランポリン行く? ボルダリングとかスラックラインとかも出来るんだけどさ! 俺たまに行くんだよトランポリン」
「トランポリン? って、あの跳ぶヤツ?」
「そう、跳ぶヤツ。あれって、跳んでるだけでも何気に鍛えられるんだよ。普段使わないトコ使ってたりとかするし。体幹とかバランス感覚も鍛えられるんだって」
「へえ、ちょっと興味あるな。普段全然そんなことやんないし」
「さすがやっちゃん、体を動かすという選択肢が私には信じられませんよ」

 俺とこーたの遊び方と言えば、ゲーセンか漫喫か、本屋か電器屋といった感じでインドアもインドア。俺は元々体育会系だから別に体を動かすのは苦じゃないし、昔は普通にそういう遊び方もしてたけど、こーたの方はバリバリの文化系で……って、吹奏楽部って下手な運動部より鍛えるんじゃなかったか?

「こーた、さてはトランポリンをバカにしてるな?」
「してませんってば」
「俺は昔ゲロゲロに乗り物酔いをしてたんだけど、トランポリンをやり始めてからはちょっと軽減されたんだぞ!」
「えっ、マジで? 乗り物酔いに効くの?」
「うん、三半規管が鍛えられたのかもね」
「へえ、菜月先輩に教えて差し上げたいなあ」

 俺の中で乗り物酔いとイコールで結び付けられるのは菜月先輩だ。如何せん菜月先輩は現状圭斗先輩のお車以外ではゲロゲロに酔われるそうなので、対処法やトレーニング法があるのであれば教えて差し上げたいと思う。努力で治るならそれは素敵なことじゃないか。

「ところで野坂君」
「ん?」
「クリスマスとか年末とかって何か予定ある?」
「クリスマス、って…?」

 クリスマスの予定とか聞かれたことがなさ過ぎて一瞬素で意味がわからなかった。クリスマスって、世間一般ではイブのことを指すんだっけ? それとも25日のことを指すんだっけ? どっちにしたって向島大学はまだ授業をやってるし、何もない普通の1日だろうよ。

「やっちゃん、野坂さんは闇の使者ですのでそのような行事には無縁ですよ。クリスマスには街に溢れるカップルたちを呪い、年末には私を自宅に迎えてオタ活三昧ですからね」
「――って何でそこでこーたが出て来るんだよ!」
「いやあ、弟の彼女の家族が南国に旅行をするらしく、それに神崎家も誘われたんですが、私がそんなところに行ったらいよいよ暗黒面の力が覚醒しますからね。私の家に野坂さんを招いても良かったんですが、まあ、いつものノリで野坂家に2泊3日ほどの日程でお邪魔することに」
「ズルくね!? 野坂君の家!?」
「こーたのヤツ、無駄に母さんに気に入られてるからな」
「こう見えて親年代の女性からは受けがいいんですよ、私は」
「……野坂君、俺、31はライブ入っててダメなんだけど、30の日に混ぜてもらうことって出来ませんか…!」
「俺は全然オッケーだし、イケメンが増えるって言えば母さんはチョロいから許可も出ると思う」
「この顔で良かったと思ったの生まれて二度目だ…!」

 多分俺のイケメン好きは母さんの所為だと思うんだよな。子供の頃から英才教育をされてきたし。それが今の俺を形作ったんだろうよ。そしてそこらの女がカボチャと同等になってしまったおかげで見事に男好き扱いだよ。俺は菜月先輩をお慕いしているだけだというのに。

「でも、ライブ前なのにうちに来てて大丈夫? リハとか練習とか」
「あ~!? 何とかなる!」
「って言うかそのライブを見に行きたい気持ちもある。小林君のカッコいいところを生で見たい」
「なんかね、普通のライブじゃなくて内輪でわちゃわちゃするって感じだから外部の人は入れないんじゃないかな。でも泰稚さんによれば配信はするって言ってたよ」
「菅野先輩も出るんですか?」
「泰稚さんのバイト先の先輩って人が主催らしくてCONTINUEも巻き込まれたって。あっ、トランポリン行くんだよね! えっと、こっちー」
「こーたがバランス崩して転がってるのを動画に収めたい」
「はあ~? 何を言うんですかあなたは。そんな性根だからクリスマスも無縁なんでしょう」


end.


++++

それぞれがわーわー言ってる話はありましたが、ノサカとコバヤスを揃えるのは久し振り。裏では何回か会ってた様子。
そう言えば、年末のノサ神って野坂家できゃいきゃいしてるのが例年の流れだけど、今年もどうやらそんな感じですかね
その会に参加したいコバヤスだけど、31日には音楽祭に参加することになってるのね。ノサカが配信を見てくれることを祈ろう。

.
76/100ページ