2019(03)

■What a Wonderful Ride

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 本当にたまたまだけど、4限が休講になった。これは天からのご褒美か何かか。ということで、予定よりも1時間半待ち合わせの時間を早める。今日は菜月先輩と豊葦市駅近くにあるホテルでスイーツバイキングの予定なのだ。で、何が俺をそわそわさせるって、今日の日付なんだ。
 今日、12月9日は何と! 菜月先輩のお誕生日! 当然俺がそんな基本的な情報を知らないはずはなく、今日の日にスイーツバイキングにご一緒することになったときには「本当に?」といろいろなことを疑った。だけどもせっかくの機会だし、菜月先輩には是非幸せな時間を過ごしていただきたいと強く思う。
 夕方からスイーツバイキング? とも思うんだけど、このホテルでは今週末までスイーツバイキングに力を入れているようなので、その恩恵に与ることに。だけども悩んだのは、場所がホテルだけに服装問題だ。俺の普段の私服ではいろいろダメだろうと、少し服や靴を新調したりして少し気合いを入れましたよ。

「ええー……まさかのコーデかぶり」
「申し訳ございません、菜月先輩の服装までは頭になく」
「白パーカーに紺のコートだのロングカーデだの」
「足元がギリギリ違うくらいでしょうか」

 バス停の前で菜月先輩と合流した瞬間の驚きな。今日の俺は白いパーカーの上に紺のコートを来ていたワケだけど、菜月先輩も白のパーカーの上に紺のロングカーディガンを羽織っていらして、後ろから見る分にはほぼほぼ同じようなコーディネートになってしまっているのだ。いや、これはガチでまさかだ。

「俺は、行く場所がホテルのビュッフェですので普段のような服装ではさすがにダメだろうと思った結果がこれです」
「うちは、いつもよりシックにしようと思った結果がこれだ。まあ、いいんじゃないか? たまたま気が合ったということで」
「そうですね、そういうことにしておきましょう。大変光栄です」

 そんなことを話していたらちょうどスクールバスが来たので、それに乗って駅まで。菜月先輩は窓側の席に、俺はその隣に。って言うかバスの座席ってこんなに狭かったっけ!? 2人用の座席だけど、油断すると脚が触れてしまいそうなくらいなんだが!? 普段よりもシックにとは言うものの、ショートパンツはシックじゃないです!
 と言うか、菜月先輩の白パーカーがただただ可愛すぎて死んでしまうんだが。青い部屋着もそれはそれでいいし、普段の黒基調の服装もクールでいいんだけども、白はダメだろう、反則だ! ただでさえ肌が透き通るほど白くて綺麗なのに、それを際だたせるんだよ。あー、あっつい。ドキドキする。
 で、菜月先輩は乗り物酔い対策のためにバスで9分の距離でもお喋りを必須としている。事実上密着状態でのお喋りは幸せすぎてむしろ毒だ。俺と菜月先輩との物理的な距離が近すぎて。緊張してお喋りどころじゃないんだ俺は。あー、可愛い。ただただ可愛い。素晴らしい先輩なのに可愛いってズルくね!?

「ノサカ、駅に着いたぞ」
「はっ」
「降りようか。冬のバスってあっついわ」
「そうですね。コートを着ているからか、俺も少し暑いです」

 はい、ナチュラルに何個かウソ吐きました、すみません。
 さて、ここから星港鉄道の電車に乗り換えて豊葦市駅に向かいます。よくよく見るとさ、普段は無印のファイルケースをカバン代わりに通学される菜月先輩が、ショルダーバッグを提げていらっしゃるんだ。少し暑いからとパーカーの袖を少し引っ張り上げて露わになる手首もダメ。

「ああそうだノサカ」
「はい」
「バイキングが始まるのが6時なんだ。今が3時過ぎだろ。少しT-FRONTで時間でも潰さないか?」
「はい。それは大丈夫です」
「でも、お茶はしないからな」
「それも承知しております。せっかくのスイーツバイキングですからね」
「……しかしまあ、三井のヤツは何がしたかったんだか」
「本当ですよね。あの律があんなに悲壮感を漂わせるなんてそうそうないですよ」

 元はと言えば、スイーツバイキングに行くことになったきっかけがきっかけだ。それと言うのも、かの財布の人の春の話なんだけども、律は律で、誰がどうしてどうなろうが知ったこっちゃないっていつものノリだったけども、強がってるのが見え見えだったし。どいつもこいつも人様に迷惑かけて何やってんだっていう呆れが大きいらしい。
 ただ、三井先輩から律の姉貴に行って、そこから律に回り菜月先輩の手元にやってきたスイーツバイキングのカップル様クーポンだ。菜月先輩に選ばれしスイーツ好きの男として、その恩恵に与ってやろうじゃないか。そして、真に菜月先輩の隣を歩くのに恥ずかしくない男にならねば。

「星大ではそこそこ大問題になってるみたいだからなあ」
「サークルの関係で起こったことではないのでまだセーフという感じですが、巡り巡って律が参ってるみたいなのはさすがに」
「ほんとに。りっちゃんでもしんどいって相当だぞ」
「え、財布の方が星大で大問題になってるんですか?」
「大石と美奈の話ではな。さすがに毎日ではないにせよ情報センターの前で待ち伏せしてることが多いモンだから、星大の学生課に訴えられたとかなんとか」
「ええー……」
「何か、センターにはりっちゃんの姉さんの他にもアイツが気に入ってる女の子がいるとかいないとかっていう話で、その子もワンチャン行けないかって待ってる説もあるとかないとか」
「軽蔑しますね、そこまで行くと。結局、誰でもいいということなんですか?」
「アイツの恋愛観なんか知ったこっちゃない」
「そうですよね」
「ただ、軽蔑というのは一般的な反応だとは思うぞ。うちだってドン引きだ。そんなにすぐ違う女の尻を追いかけてふらふらふらふらするような奴に誰が首を縦に振る? 仮に彼氏を持つなら最低限誠実であってほしいぞ、少なくともうちは」

 菜月先輩に対しては最低限ならぬ、最大限誠実な男がここにいます! そう心の中では真っ直ぐに挙手をしているのだけど。あ、いや、さすがに大口を叩いてるかもしれないけど、俺はそこそこ誠実なはずだ。酔った菜月先輩の相手をしているときの様子を天は見ているはずだ。

「その点お前は好きな子に一途らしいし。そんな子がいるのにこういう名義で付き合わせて悪いな。スイーツ好きの同士として今日は頼む」
「菜月先輩からのお誘いであればいかなるときも、どんな名義だろうと喜んでお供いたします」
「そう言えば、お前の恋バナってあんまり聞かないな。その後、好きな子との進展は?」
「……俺にほんの一片でも想いを伝える度胸があればどれだけ良かったかと思わない時はありません」
「そうか。まあ、焦ることはないさ。根拠はないけどな。さ、電車が来るぞ」

 冬と言っても、電車が運んでくる風はちょっと生温い。もう一歩踏み出せればいいんだけど、どこかで今の距離感を壊すのが怖い俺もいるんだよな。ほんの一片でも想いを伝える度胸があれば、どれだけ良かったか。


end.


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大体ノサカが菜月さんのかわいさにどったんばったんしてるだけの回です。菜月さんが可愛すぎてしんどい。
今年の菜月誕はEMERGENCY CALLと重ならなかった時間軸のようです。終始ハッピーです。久々にスイーツバイキングの年度ですね。
1回ノサカと美奈でどれだけ菜月さんのかわいいところを言えるかバトって欲しいわー、それでちーちゃんに判定をお願いしよう(エコ得)

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