2019(03)

■恨みを焦がして根を断って

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 今日は、大石君がバイトをしている関係のファミリーセールに菜月と一緒にお呼ばれをした。大石君にとっては年に3回か4回の大きな買い物の機会ということで、とても気合が入っているように思う。とてもハツラツとしていて、いつもより元気と言うか。
 スポーツブランドを主に扱っているセールだそうで、私が普段着る服とは全く毛色が違う雰囲気に、何をどうしようかと考えるのに忙しい。菜月は元々スポーツをしていただけあって、ジャージやスポーツウェアに目を輝かせている。どれがいいかなと見ている様がとても可愛い。

「……2人、お揃い…?」
「本当だ。でも、ネイビーしかなかったんだ」
「うん。このカラーだけたくさん作ってたんだろうね。でも、本当にやっすい。4800円はそうそうないよなっち」

 壁側に出来ていた黒山の人だかりに突っ込んで行った大石君と菜月は、見事にネイビーのダウンジャケットを獲得して帰って来た。それまで人が埋め尽くしていた場所は、全部剥かれて見事に何もなくなり、人も捌けて行った。
 私は白いパーカー、黒とピンクのジャケットにセーター、それから汚れ品だという白いスニーカーを買った。菜月は例のジャケットとニット帽、それからニットワンピースを買っていた。大石君はスウェットを始め、水着に靴にととにかくたくさん。

「はー、お疲れさまー」
「見事にたくさん買ってしまった」
「でも、俺たちはダウンだけで今日は勝利宣言出来るよ」
「そういうものか」

 大石君の中で、ファミリーセールはいい物をいかに早く獲得するかというのが勝負の分かれ目だそう。今回なら目玉だと言われていたダウンジャケット。元値は31000円と消費税だそうだけど、ファミリーセールでの値段は税込み6000円が大石君の社割で4800円。かなりお安い。
 無事に買い物を終えて、すっかりいい時間になったので近くの店で食事をすることにした。今日の成果報告だったり、近況のことや、これからのことなどいろいろ。インターフェイスの飲み会があったりもしたそうなので、その話も少し。

「ホント、焼肉はダメだよ。俺も行きたかったもん」
「大石がいたら大変なことになってただろうなとは3年生が主に言ってたなあ」
「えー!? 大変って!?」
「食糧戦争の本格化ってヤツだな」
「でも、食べ放題ならたくさん頼めるんでしょ? そこまで食べ尽くさないと思うなあ」

 ちなみに今ご飯を食べているのは会場近くのお好み焼き屋さん。今日も菜月が腕を振るってくれている。菜月の焼くお好み焼きは本当にふわふわで美味しい。焼き方だけでこうも変わるものかと毎度素直に感心する。
 大石君は、そこまで食べ尽くさないと思うなあ、という言葉に説得力なんてまるでない食べっぷり。いくら食べ放題メニューを頼んでいるとは言え、食べる速さが段違い。これではみんなにいろいろ心配されても仕方がない。

「ああ……そう言えば、菜月……」
「ん?」
「最近、彼がよく、星大に出没していると、聞いている……」
「彼とは」
「あー、ミッツのこと?」
「……そう。私の友人が、情報センターでアルバイトをしていて……」
「何か今大変みたいだね。ほら、ミドリがバイトしてるじゃん情報センターって。こないだ課題やりに行ったらセンターの陰にミッツがいてさあ。何でこんなところにいるんだろうって思ったら、ミドリが助けてくださいーって。何かセンターのスタッフの女の子に付きまとってるとか何とかってさ。えっ、あの日だけじゃなかったの?」
「ここのところ、よくいるって……」
「はーっ……何をやってるんだアイツは」

 菜月は本当に呆れた様子で金属ヘラをお好み焼きの上に突き立てる。そのヘラには隠し切れない殺意が滲む。情報センターのことに関してはリンから少し相談されているのだけど、彼が一体何者で、どう対応するのが正解なのかということを聞かれている。
 私からは、彼はUHBCではかなり警戒されている人という前提のもとに、目が合ったり優しくした女性はそれだけで惚れられて告白され、それを断ると暴言を吐いて去っていくという性質があると伝えた。軽薄で面倒な男だな、とリンも呆れていた。

「なんかさ、アイツから話はちょっと聞いてたんだよ、星大で新しい運命を見つけたみたいな話は」
「ああ、あずさの次の?」
「そう。それでよく星大に遊びに行ってるんだ~的な話を聞いてたから懲りずによくやるなと思ってたら、そんな犯罪紛いのことをやってたのか」
「……でも、彼は、放っておけば、すぐに飽きる…?」
「うん、多分すぐ飽きると思うんだけど、そのためには次の犠牲が必要だからなあ。大石、もんじゃ食べたい」
「あっ、俺も食べたい。そしたらこの鉄板を片付けて注文しようかー」

 さすがの菜月ももんじゃ焼きを焼くのはそこまで経験がないということで、3人でマニュアルを見ながら何となくもんじゃ焼きを焼いて行く。ぐつぐつともんじゃが煮えていくのを見ながら、菜月の愚痴の方もどんどん煮え滾っているような様子。彼から惚気話を聞かされるのがしんどいようだ。
 それでなくても授業は1人で黙々と受けるタイプらしい菜月が、隣で延々と惚気話をされるのはもううんざりなんだそう。トニーたちが欲しがるので一応は筆談で情報を引き出してはおくけれど、授業は授業として受けたいし、学食での昼食も本当は1人で黙々と食べたいと。

「そう言えば、林原君て美奈の友達なの?」
「えっ、リンのことを知って…?」
「あの、こないだの件でね」
「ああ……それで……」
「ん。もんじゃうまー」
「あっ! なっち抜け駆けしないでよもー」
「食べ放題だからへーきへーき」
「でも食べ放題の一人分はそんなにないもん量が!」
「また頼めばいいじゃないか」


end.


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「ネイビーのハンガーポール戦争」のちょっと後のお話。相変わらず菜月さんは鉄板の魔術師をやっている様子。
情報センターでのあれこれについて美奈とちーちゃんが話しているのを聞きつつ、菜月さんが呆れかえっている様子がまあ何とも。
ナツちーがかわいいし、ナツミナもかわいいしでエコ得キャンペーンでしかない組み合わせです。かわいい。
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