2019(03)
■何に飼われて使われて
++++
「あっ、こっちこっちー」
「お疲れさまですー! 和泉君と、そっちが」
「ゆくゆく世界が誇るギタリストになる、長谷川正道な! スラップソウルっつーバンドのギタリストだ!」
「えっと、そしたら拳悟君も何か食べる? 仕事終わりでお腹空いてるでしょ?」
「あっ、じゃあ俺普通にご飯頼んじゃいますね。えっ、2人は」
「俺たちはもう食べちゃったの」
年末の大晦日に、シャッフルバンド音楽祭というイベントを開くことになった。これはただ単に人脈の届く限りのバンドマンや個人を集めてみんなで音楽をやろうっていうだけの会。それぞれのバンドをシャッフルして、全然知らないバンドのいつもやらないジャンルの曲をやるっていう形式なんだ。
星港市内某所ライブバーを貸し切って、年越す? 越さない? くらいの感じでやりたいよね。俺とリン君はその前にブルースプリングの路上があるんだけど。だから大晦日は本当に忙しいし、リン君には路上のために曲を書き下ろしてもらってるよね。その曲も音楽祭のために提出したし。
この音楽祭を俺と一緒に運営してくれるのが、高校の同級生で今はスラップソウルというバンドでギターを弾いている長谷川マサちゃん。見た目は中性的で結構かわいいし、自分がかわいいということをわかってる確信犯的なところもあるよね。中身は結構アレだったりするんだけど。
呼び鈴を鳴らしてメニューを注文している大型犬みたいな子が、俺の行ってる美容院の駆け出し美容師さんで、川崎拳悟君。歳は2コ下。あっ、余談だけど俺は1浪してるから今23歳。拳悟君は小学生の頃からギターをやってて、高校の頃までは普通にバンドもやってたんだって。今回の企画の話をしたら参加してくれることになったんだ。
「それで和泉君、参加者って結構集まったんですか?」
「うん、そこそこ。俺がまず2つバンドやってるしそれで出るでしょ? マサちゃんのスラップソウル、ウチの軽音のリバーシ、バイト先の後輩の子がやってるCONTINUEってバンドもいるよ。それから――」
「本当に結構集まりましたね!」
「いや、まだまだよ。まだまだ集めてもっと賑やかにしてーなー!」
「って言うかマサちゃん、バイト先の子ムリヤリ参加させたんでしょ?」
「やー、アイツは先輩を敬うっつーコトを知らねーからな! ここらでいっちょシメとかねーと」
マサちゃんはピザ屋でデリバリーのバイトをしている。バンドで食べていきたいとは思ってはいるけれど、今はまだまだバイトが本職って感じ。クリスマス時はピザ屋の繁忙期だから忙しくてヤバいわー、なんて言いながら会議してるからね。俺は就活も終わってるし卒論も大体出来てて悠々自適な大学4年だけど。
卒論はね、芹ちゃんのペースに引き摺られてガツガツ書いてたって感じかな。ほら、芹ちゃん12月に入ったらスターウォーズに集中するから卒論なんかやってられないって言ってさ。おかげで俺も早々に書き上がりそうだよね。それで企画に集中出来たし結果オーライ。
で、バイト先にいる後輩の子がマサちゃん的にお気に入りなのかな? 普段はクソだのなんだのってグチってばっかりだけど、スラップソウルの持ち曲の中には「バイト先にいるクソガキ」っていう曲がある。クソガキではあるんだけど、弟分的だからこそそういう曲にするんだろうしね。
「でも、拳悟君のバンド?」
「うん、TCF?」
「どうして自然消滅しちゃったの?」
「それぞれみんな忙しくなっちゃったんですよね。その頃は俺も部活に一生懸命でしたし」
「あー、なるほどねー」
「バンドの休止理由としては結構あるヤツだな。ほら、ウチもさー、バンドとは別に本業持ってる奴は仕事が忙しくなるとバンドの方には来れなくなるワケじゃん? その間待ってるこっちがそこそこしんどいっていうな」
「ああ、ベースさんが忙しい人なんだっけ?」
「そーよ、元ヤンのクセして真面目に仕事なんかしてやがって。今仕事ちょっと落ち着いてるみたいだし、今回の音楽祭ベース不足気味だからアイツにめっちゃやらせるよな! 社畜がどうした、音畜になれよ!」
「音畜って」
でも、言葉はともかく音畜としてやることは音楽と向き合うのが主だから、それはそれでいいなあと思っちゃうんだよね。せめて大学を卒業するまでは好きなように音楽をやってたいと思う。それまでの経歴とか、扱う楽器とか、そういうの関係なしに。なんなら楽器も要らないくらい。体があればそれでもう踊れちゃうんだから。
「そう言えば今回拳悟君のバンドは拳悟君だけが出てくるような感じ?」
「ですかねー、兄貴は仕事で忙しいし、ウチのギターボーカル、本業が音楽なんですよ。バンドで生活してて、そっちの仕事で忙しいでしょうからねー」
「だって、マサちゃん」
「マジかよ! どこのどいつだ!」
「えっと、トリプルメソッドっていうバンドのギターボーカルやってる長崎壮馬っていうヤツがThe Cloudberry Funclubのギターボーカルなんですよ」
「トリプルメソッド!? アレじゃねーか、こないだ星港限定でCD出てたじゃねーか! ……ん? The Cloudberry Funclubってどっかで聞いたような聞かないような」
「えっ、ホントですか?」
「いや~、何だったかな~…!? まあいっか! 本当に聞いたことがあったらそのうち思い出すだろ!」
そう言えば、バンドでではないけど怜ちゃんが次の春から音楽でご飯食べることになってるんだよね。厳密には違うけど、ある意味身内からそういう人が出るってすごいよね。俺は完全に趣味でやってるだけだけど、仕事で音楽をやるって好き勝手にやってればいいってワケじゃないもんね。でも、音楽に限った話じゃなかったな。
「あっ、拳悟君の人脈で誰かいい人いたら声かけてみてよ。今からでもまだ間に合うからさ」
「なんならトリプルメソッドごと呼んでくれてもいーし」
「マサちゃんそれはちょっと強欲すぎない?」
「まあでもガチ事情を言えばベーシストがいいな、この量はさすがのオミでも死にかねねー」
end.
++++
音楽祭のガチ事情である。主催のバンドのベースにムチャ振りさせる、的なことを言ってましたがこんな感じでした。
でも今年は今年度要素のコバヤスとかもいるし全然いないってワケでもないとは思うが、それでも不足気味ではあるのかな
きっとそろそろスガカンがエージとかにも声を掛ける頃合いかしらね。地味に、じわじわと広がっているよ
.
++++
「あっ、こっちこっちー」
「お疲れさまですー! 和泉君と、そっちが」
「ゆくゆく世界が誇るギタリストになる、長谷川正道な! スラップソウルっつーバンドのギタリストだ!」
「えっと、そしたら拳悟君も何か食べる? 仕事終わりでお腹空いてるでしょ?」
「あっ、じゃあ俺普通にご飯頼んじゃいますね。えっ、2人は」
「俺たちはもう食べちゃったの」
年末の大晦日に、シャッフルバンド音楽祭というイベントを開くことになった。これはただ単に人脈の届く限りのバンドマンや個人を集めてみんなで音楽をやろうっていうだけの会。それぞれのバンドをシャッフルして、全然知らないバンドのいつもやらないジャンルの曲をやるっていう形式なんだ。
星港市内某所ライブバーを貸し切って、年越す? 越さない? くらいの感じでやりたいよね。俺とリン君はその前にブルースプリングの路上があるんだけど。だから大晦日は本当に忙しいし、リン君には路上のために曲を書き下ろしてもらってるよね。その曲も音楽祭のために提出したし。
この音楽祭を俺と一緒に運営してくれるのが、高校の同級生で今はスラップソウルというバンドでギターを弾いている長谷川マサちゃん。見た目は中性的で結構かわいいし、自分がかわいいということをわかってる確信犯的なところもあるよね。中身は結構アレだったりするんだけど。
呼び鈴を鳴らしてメニューを注文している大型犬みたいな子が、俺の行ってる美容院の駆け出し美容師さんで、川崎拳悟君。歳は2コ下。あっ、余談だけど俺は1浪してるから今23歳。拳悟君は小学生の頃からギターをやってて、高校の頃までは普通にバンドもやってたんだって。今回の企画の話をしたら参加してくれることになったんだ。
「それで和泉君、参加者って結構集まったんですか?」
「うん、そこそこ。俺がまず2つバンドやってるしそれで出るでしょ? マサちゃんのスラップソウル、ウチの軽音のリバーシ、バイト先の後輩の子がやってるCONTINUEってバンドもいるよ。それから――」
「本当に結構集まりましたね!」
「いや、まだまだよ。まだまだ集めてもっと賑やかにしてーなー!」
「って言うかマサちゃん、バイト先の子ムリヤリ参加させたんでしょ?」
「やー、アイツは先輩を敬うっつーコトを知らねーからな! ここらでいっちょシメとかねーと」
マサちゃんはピザ屋でデリバリーのバイトをしている。バンドで食べていきたいとは思ってはいるけれど、今はまだまだバイトが本職って感じ。クリスマス時はピザ屋の繁忙期だから忙しくてヤバいわー、なんて言いながら会議してるからね。俺は就活も終わってるし卒論も大体出来てて悠々自適な大学4年だけど。
卒論はね、芹ちゃんのペースに引き摺られてガツガツ書いてたって感じかな。ほら、芹ちゃん12月に入ったらスターウォーズに集中するから卒論なんかやってられないって言ってさ。おかげで俺も早々に書き上がりそうだよね。それで企画に集中出来たし結果オーライ。
で、バイト先にいる後輩の子がマサちゃん的にお気に入りなのかな? 普段はクソだのなんだのってグチってばっかりだけど、スラップソウルの持ち曲の中には「バイト先にいるクソガキ」っていう曲がある。クソガキではあるんだけど、弟分的だからこそそういう曲にするんだろうしね。
「でも、拳悟君のバンド?」
「うん、TCF?」
「どうして自然消滅しちゃったの?」
「それぞれみんな忙しくなっちゃったんですよね。その頃は俺も部活に一生懸命でしたし」
「あー、なるほどねー」
「バンドの休止理由としては結構あるヤツだな。ほら、ウチもさー、バンドとは別に本業持ってる奴は仕事が忙しくなるとバンドの方には来れなくなるワケじゃん? その間待ってるこっちがそこそこしんどいっていうな」
「ああ、ベースさんが忙しい人なんだっけ?」
「そーよ、元ヤンのクセして真面目に仕事なんかしてやがって。今仕事ちょっと落ち着いてるみたいだし、今回の音楽祭ベース不足気味だからアイツにめっちゃやらせるよな! 社畜がどうした、音畜になれよ!」
「音畜って」
でも、言葉はともかく音畜としてやることは音楽と向き合うのが主だから、それはそれでいいなあと思っちゃうんだよね。せめて大学を卒業するまでは好きなように音楽をやってたいと思う。それまでの経歴とか、扱う楽器とか、そういうの関係なしに。なんなら楽器も要らないくらい。体があればそれでもう踊れちゃうんだから。
「そう言えば今回拳悟君のバンドは拳悟君だけが出てくるような感じ?」
「ですかねー、兄貴は仕事で忙しいし、ウチのギターボーカル、本業が音楽なんですよ。バンドで生活してて、そっちの仕事で忙しいでしょうからねー」
「だって、マサちゃん」
「マジかよ! どこのどいつだ!」
「えっと、トリプルメソッドっていうバンドのギターボーカルやってる長崎壮馬っていうヤツがThe Cloudberry Funclubのギターボーカルなんですよ」
「トリプルメソッド!? アレじゃねーか、こないだ星港限定でCD出てたじゃねーか! ……ん? The Cloudberry Funclubってどっかで聞いたような聞かないような」
「えっ、ホントですか?」
「いや~、何だったかな~…!? まあいっか! 本当に聞いたことがあったらそのうち思い出すだろ!」
そう言えば、バンドでではないけど怜ちゃんが次の春から音楽でご飯食べることになってるんだよね。厳密には違うけど、ある意味身内からそういう人が出るってすごいよね。俺は完全に趣味でやってるだけだけど、仕事で音楽をやるって好き勝手にやってればいいってワケじゃないもんね。でも、音楽に限った話じゃなかったな。
「あっ、拳悟君の人脈で誰かいい人いたら声かけてみてよ。今からでもまだ間に合うからさ」
「なんならトリプルメソッドごと呼んでくれてもいーし」
「マサちゃんそれはちょっと強欲すぎない?」
「まあでもガチ事情を言えばベーシストがいいな、この量はさすがのオミでも死にかねねー」
end.
++++
音楽祭のガチ事情である。主催のバンドのベースにムチャ振りさせる、的なことを言ってましたがこんな感じでした。
でも今年は今年度要素のコバヤスとかもいるし全然いないってワケでもないとは思うが、それでも不足気味ではあるのかな
きっとそろそろスガカンがエージとかにも声を掛ける頃合いかしらね。地味に、じわじわと広がっているよ
.