2019(03)
■真の無能共には頼れない
++++
「おーいー、冴ー、お前、その気が無いならいー加減にちゃちゃっとアイツをフってくんねーか。センター近くでチラチラされちゃこっちもやりにくくてしょーがねーぜ」
「やァー、どーゆーつもりなンすかねェー」
「そう毎回川北の先輩に頼るワケにもいかねーんだからな」
ここのところ、情報センターには招かれざる客がチョロチョロするようになっていた。向島大学の学生がどうやら土田に惚れている(?)ようで、土田が確実にいるとわかっている情報センターの前で張っているようだったのだ。ついでに、綾瀬とも因縁があるとかないとか。
まだ受付に詰め寄って来たりスタッフに危害を加えたりという行為は見られないものの、受付から見えるか見えないかくらいの場所でチラチラとこちらを窺っているから不気味と言うか、気色悪くて仕方ないとは春山さん。オレもその意見には同意ではある。
最初に奴が現れたときはたまたまセンターを利用しに来た大石という男が対処してくれたのだが、そう毎回大石が来てくれるワケでもない。そして具体的な策もないまま現在に至っている。気色悪いというだけで実害はまだないのだが、如何せん情報センターは他校生の来る場所ではない。どうにかして排除したいというのがオレと春山さんの考えだ。
「はーっ……こうもチョロチョロされてると、そろそろ真面目に学生課かね」
「そうですね。不審な他校生が学内でストーカー行為をしているというだけで十分通報するに値するだろう」
「まあ、カナコが演劇部の公演直前で今日は来ないのが救いって感じだけどな。リン、ガチで通報しようぜ」
「善は急げと言いますから、早速行ってきます。この状況ですから、外に出るのは男の方がいいでしょう」
「わーった。受付は私が見とくわ」
「頼みました」
事務所を出て階段の方に右折すると、物陰にいた奴がビクッと反応する。オレはそれに見向きもせずに階段を下り、別棟にある学生課へと向かう。学生課には数人の学生が列を作っていた。その最後尾に並び、しばし待つ。
オレの順になり、情報センターのことで報告することがあると伝えたのだが、那須田さんはどうしたと、しょうもないことを訊ねられる。いない人には頼れないので学生課に来たと言えば、実害がないのなら様子を見ていろとやる気のない返事をもらってしまった。
そうやって様子を見ているうちに、センターのスタッフや、その他星大の学生に危害が加えられるようなことになってもいいのかと一応聞き返してみたのだが、そういう事案はまず那須田さんを通してくれとの一点張り。これ以上粘っても成果はないだろう。クソ学生課め。
「春山さん、ダメでした」
『あー!? クソ学生課がよ! 国立のクセにやる気ねーだろアイツら!』
「その意見には同意ですが、如何せん那須田さんを通せの一点張りで」
『あ!? テメーらすっ飛ばして国に文句言えってか!?』
「やめんか。とにかく、学生スタッフではなく所長の言うことで無ければ聞けんそうですから」
『そうか……わかった、なっすんにそろそろセンターに顔出せっつってLINEしとくわ』
「頼みます」
『ああ、お前まだ下にいんのか?』
「はい。今から戻ります」
『コーヒーの粉買って来てくれ。無くなりそうなんだ』
「パシリですか」
『あーん? 私が今出歩くと受付が空になるけどそれでもいいのかー?』
「……仕方ないですね。他に買う物はありませんか」
いくつかの買い出しを頼まれ、購買へ。コーヒーの粉やラミネートフィルム、それから自分の買い物を済ませてセンターへと戻る。学生課ではそれらしい成果がなかっただけにさてこれからどうしたものか。本格的に那須田さんが待たれる。
「リン、戻ったか」
「領収証です。金はしっかり返してもらいますからね」
「ったく、ケチケチした野郎だな。ところで、こっちに戻って来る時に例の男はまだいたか」
「まだいましたよ」
「カーッ、ヒマな野郎だな~!」
「全くです」
オレは30分ほど外に出ていたと思うのだが、それでも奴はまだ同じ場所からチラチラとセンターを窺っているようだった。こんなに不審なのだから学生課は動くべきだろうに。と言うか、学生課の人間を無理にでも引き摺って現場を押さえさせねばならんのか。面倒だ。
「しかし、川北の話によれば、女に惚れるのも早いが飽きるのも早いということではないか。放っておけばそのうち諦めませんかね。そろそろ対策を講じるのも面倒極まりない」
「でもよ、目が合った女が惚れられるみたいなレベルなんだろ? 冴とカナコに対する興味は反らせても、センター利用者の一般の学生に興味が移ったところでここに張られたら元も子もないだろ」
「まあ、そうですけどね」
「穏便に済ませなくていいんなら、私とリンで一発なんだろうけどな~…!」
「間違いありませんね。しかし、あくまで学内ですから穏便に済ませなければなりません」
「川北のサークルの先輩の知り合いだろ? こないだのゆるふわ以外にもサークル関係の先輩を招集してもらえば何とかなる説ないか?」
「そうは言っても、今日は川北が非番なのだからそう簡単には――」
いや、待てよ。ツテがないことはない。しかしオレが思い当たるのは幽霊部員と化した性悪と美奈だ。やはりアクティブな人間でなければ期待は出来ないだろうか。しかし、昔はそれ相応にサークル活動に顔を出していたのなら、情報くらいはあるかもしれん。決定的な弱点か何かないものか。
「春山さん、今日はこのまま耐えましょう。那須田さんもいないことですし。まずはあれに関する情報を集めるところから始めましょう」
「はー、たりぃ~」
end.
++++
情報センターがなかなか大変なことになっているようです。リン様もさすがに呆れるよ!
恐らくはサークルでも新しい運命だとか春についてはきゃいきゃいと喋っているであろう三井サンですが、お相手の素性が明らかになった暁には……
そして話があるなら大学職員を通してね!というスタンスの星大学生課。那須田さんよか春山さんの方がセンターでは強いことを知らないのである
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「おーいー、冴ー、お前、その気が無いならいー加減にちゃちゃっとアイツをフってくんねーか。センター近くでチラチラされちゃこっちもやりにくくてしょーがねーぜ」
「やァー、どーゆーつもりなンすかねェー」
「そう毎回川北の先輩に頼るワケにもいかねーんだからな」
ここのところ、情報センターには招かれざる客がチョロチョロするようになっていた。向島大学の学生がどうやら土田に惚れている(?)ようで、土田が確実にいるとわかっている情報センターの前で張っているようだったのだ。ついでに、綾瀬とも因縁があるとかないとか。
まだ受付に詰め寄って来たりスタッフに危害を加えたりという行為は見られないものの、受付から見えるか見えないかくらいの場所でチラチラとこちらを窺っているから不気味と言うか、気色悪くて仕方ないとは春山さん。オレもその意見には同意ではある。
最初に奴が現れたときはたまたまセンターを利用しに来た大石という男が対処してくれたのだが、そう毎回大石が来てくれるワケでもない。そして具体的な策もないまま現在に至っている。気色悪いというだけで実害はまだないのだが、如何せん情報センターは他校生の来る場所ではない。どうにかして排除したいというのがオレと春山さんの考えだ。
「はーっ……こうもチョロチョロされてると、そろそろ真面目に学生課かね」
「そうですね。不審な他校生が学内でストーカー行為をしているというだけで十分通報するに値するだろう」
「まあ、カナコが演劇部の公演直前で今日は来ないのが救いって感じだけどな。リン、ガチで通報しようぜ」
「善は急げと言いますから、早速行ってきます。この状況ですから、外に出るのは男の方がいいでしょう」
「わーった。受付は私が見とくわ」
「頼みました」
事務所を出て階段の方に右折すると、物陰にいた奴がビクッと反応する。オレはそれに見向きもせずに階段を下り、別棟にある学生課へと向かう。学生課には数人の学生が列を作っていた。その最後尾に並び、しばし待つ。
オレの順になり、情報センターのことで報告することがあると伝えたのだが、那須田さんはどうしたと、しょうもないことを訊ねられる。いない人には頼れないので学生課に来たと言えば、実害がないのなら様子を見ていろとやる気のない返事をもらってしまった。
そうやって様子を見ているうちに、センターのスタッフや、その他星大の学生に危害が加えられるようなことになってもいいのかと一応聞き返してみたのだが、そういう事案はまず那須田さんを通してくれとの一点張り。これ以上粘っても成果はないだろう。クソ学生課め。
「春山さん、ダメでした」
『あー!? クソ学生課がよ! 国立のクセにやる気ねーだろアイツら!』
「その意見には同意ですが、如何せん那須田さんを通せの一点張りで」
『あ!? テメーらすっ飛ばして国に文句言えってか!?』
「やめんか。とにかく、学生スタッフではなく所長の言うことで無ければ聞けんそうですから」
『そうか……わかった、なっすんにそろそろセンターに顔出せっつってLINEしとくわ』
「頼みます」
『ああ、お前まだ下にいんのか?』
「はい。今から戻ります」
『コーヒーの粉買って来てくれ。無くなりそうなんだ』
「パシリですか」
『あーん? 私が今出歩くと受付が空になるけどそれでもいいのかー?』
「……仕方ないですね。他に買う物はありませんか」
いくつかの買い出しを頼まれ、購買へ。コーヒーの粉やラミネートフィルム、それから自分の買い物を済ませてセンターへと戻る。学生課ではそれらしい成果がなかっただけにさてこれからどうしたものか。本格的に那須田さんが待たれる。
「リン、戻ったか」
「領収証です。金はしっかり返してもらいますからね」
「ったく、ケチケチした野郎だな。ところで、こっちに戻って来る時に例の男はまだいたか」
「まだいましたよ」
「カーッ、ヒマな野郎だな~!」
「全くです」
オレは30分ほど外に出ていたと思うのだが、それでも奴はまだ同じ場所からチラチラとセンターを窺っているようだった。こんなに不審なのだから学生課は動くべきだろうに。と言うか、学生課の人間を無理にでも引き摺って現場を押さえさせねばならんのか。面倒だ。
「しかし、川北の話によれば、女に惚れるのも早いが飽きるのも早いということではないか。放っておけばそのうち諦めませんかね。そろそろ対策を講じるのも面倒極まりない」
「でもよ、目が合った女が惚れられるみたいなレベルなんだろ? 冴とカナコに対する興味は反らせても、センター利用者の一般の学生に興味が移ったところでここに張られたら元も子もないだろ」
「まあ、そうですけどね」
「穏便に済ませなくていいんなら、私とリンで一発なんだろうけどな~…!」
「間違いありませんね。しかし、あくまで学内ですから穏便に済ませなければなりません」
「川北のサークルの先輩の知り合いだろ? こないだのゆるふわ以外にもサークル関係の先輩を招集してもらえば何とかなる説ないか?」
「そうは言っても、今日は川北が非番なのだからそう簡単には――」
いや、待てよ。ツテがないことはない。しかしオレが思い当たるのは幽霊部員と化した性悪と美奈だ。やはりアクティブな人間でなければ期待は出来ないだろうか。しかし、昔はそれ相応にサークル活動に顔を出していたのなら、情報くらいはあるかもしれん。決定的な弱点か何かないものか。
「春山さん、今日はこのまま耐えましょう。那須田さんもいないことですし。まずはあれに関する情報を集めるところから始めましょう」
「はー、たりぃ~」
end.
++++
情報センターがなかなか大変なことになっているようです。リン様もさすがに呆れるよ!
恐らくはサークルでも新しい運命だとか春についてはきゃいきゃいと喋っているであろう三井サンですが、お相手の素性が明らかになった暁には……
そして話があるなら大学職員を通してね!というスタンスの星大学生課。那須田さんよか春山さんの方がセンターでは強いことを知らないのである
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