2019(03)
■get warm by the fire
++++
「おはよう」
「やァー、菜月先輩、おはようございヤす。買い物スか?」
サークル室に行くと、いつものようにいつもの面々が出迎えてくれる。12月にもなるとさすがに少し寒くなってきたなという感じがする。とは言え向島は晴れの方が多いからまだあったかいかな。圭斗はもうダウンジャケットを着込んでるけど、正直そこまでやらなくていいだろうと。
ダウンジャケットと言えばりっちゃんもそんなような上着を着てるけど、りっちゃんの家は山浪エリアの山間部にある。雪が降るか降らないかという次元の話だ。そんな場所から通ってきてるりっちゃんだから、装備も厳重に。所詮その辺に住んでる圭斗とはレベルが違うんだ。
「ホットミルクがおいしい季節だろ。でも、今は豆乳をレンチンで飲むのが流行ってるそうなんだ。上にマシュマロを乗っけてもおいしいって言うから、マシュマロ」
「へェー、いースねェー。ホットミルクと言や高崎先輩を思い出しヤすわ」
「ああ、確かに。でもアイツは季節問わずホットミルクだからな。ゼミのパーティーか何かのプレゼント交換でハチミツをもらってからは砂糖の代わりにハチミツを入れてるって聞いた」
「美味いスわ」
「絶対おいしいよなあ」
――とか何とか話していると、続々とメンバーがやって来る。今日のサークルでやることは前回のうちに決まっていた。MMPでは恒例となっている年末特番の制作だ。年末特番というのはその名の通り、年の終わりにその代のサークルを統括するための番組で、3年生にとっては集大成となる。
例年の年末特番は、ラジオドラマを収録したり、通常番組をちょっとやったりという形式だ。今年もそれに沿って通常の30分番組が1本、そしてラジオドラマ枠で「ブラケイト」という圭斗のお散歩番組を録ることになっているのだ。ラジオドラマをめぐってはちょっといろいろあったんだ、今年度は。
そのいろいろは、星ヶ丘の作品出展のラジドラをモニターしてた時のこと。三井が例によって壮大なディスりを展開してたんだけど、そもそもお前は何も書けやしないのに何をほざいているんだ、そこまで言うなら書いて来いとうちがブチ切れただけのちょっとしたお話だ。
「やあ、おはよう」
「あっ、圭斗。相変わらずの重装備だな」
「菜月さんが軽装過ぎるのでは」
「そうだ、今日はブラケイトの収録だぞ」
「だから僕は覚悟をして、服の下にホッカイロを仕込んだところだよ」
「ええー……引くわー……」
「でも、夕方になると急に冷えるだろう?」
「それはそうだけど、まだカイロはいいんじゃないか?」
圭斗は圭斗なりに覚悟を決めていたようだ。今日に至るまでの企画段階で、ブラケイトという企画をいかにして通すかというのと、圭斗は寒がりだし外を歩かせる説得がめんどくさいという話で盛り上がっていた。基本ウチの2年生ミキサーはアナウンサーとしての圭斗を面倒がっている。扱いもまあ雑だ。
普段は神だ何だと圭斗を崇め讃えるノサカですら企画会議ではアナウンサーとしての圭斗をどう扱うか、苦心して言葉を選んでいるようだった。本当はボロクソに思っているのだろう。ノサカでこのザマだから、ノサカ曰くドSコンビのりっちゃんとカンザキはもうヒドいヒドい。それが真綿で首を絞めるように圭斗をいたぶっていて。
さすがの圭斗でもそこまで言われてしまえば寒いだのなんだのと喚くことも出来なくなり、ブラケイトをやりますと返事せざるを得なかった。そもそも、MMP式ブレーンストーミングの大喜利で出された無数の案の中から選ばれた企画なんだ。これがイヤならこれに変わる案を出せと言う話で。出なかったんですね、それが。
「みんなー、サツマイモ買ってきたから焼き芋やろー」
「三井先輩、今日はブラケイトの収録スよ」
「うん、だから外に出るでしょ? 圭斗が散歩してるところに焼き芋と遭遇した体でいいじゃない。ねえりっちゃん」
「火ィ使って大丈夫なンすかね」
「別の団体もたき火してたからそれは多分大丈夫じゃないかな」
「三井、もしかしてそのサツマイモ、中身が箱に書いてある銘柄通りなら、甘いって今流行ってるヤツか!?」
「さすが菜月! そう、ちょうどバイト先に仕入れられて来てさ。菜月は好きだろうなと思って買ってみたんだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「突然どうしたんだノサカ」
「いえ、何でもございません」
「いーからさッさと機材の準備しろ、機材管理担当」
今日は外での収録ということで、それなりに用意が要る。焼き芋の道具とかじゃなくて、録音用の機材などの話だ。さすがにミキサーを持ち歩くワケにはいかないので、この為にサークル費で中古のICレコーダーを調達したそうだ。ちなみにうちのサークル費(滞納分込みで3000円)は暖房じゃなくてこっちになったらしい。
「みんな、準備はいいかな」
「各自貴重品は持ち歩くよーにしてくだせーよ。盗まれても自分は知りヤせんよー」
「はーい」
「あ、菜月先輩」
「ん?」
「買い物袋はいースか?」
「買い物袋って、マシュマロのことか?」
「焼き芋やるのに焚き火するンなら、焼きマシュマロにしたら絶対ウマいヤツじゃないスかァー。自分焼きマシュマロ好きなんスよ」
「……本当だ! その発想はなかった! でも、串とかはさすがにないよな」
「学祭の残りの割り箸でいーンでないです?」
マシュマロを焼いて食べるとか、絶対美味しいヤツじゃないか。何だっけ、スモア何とかみたいな。マシュマロはコンビニにも売ってるだろうし、帰りに忘れず買うことにして、さっき買ったヤツは今焼いて食べよう。焼き芋は焼き芋で楽しみだけど、焼きマシュマロのキャンプ感だ。
「って言うかりっちゃんて甘いものと言うか、焼きマシュマロ好きなんだな」
「フツーにウマくないスか?」
「美味しい」
end.
++++
圭斗さんがただただボコボコにされていたようですが、ナレーションベースでした。来年度以降お話でボコボコにしたい。
ブラケイトをやるということで、外に出る支度だけは済ませたようです。最近の三井サンはあまり害がないですね。いいことだ。
そして菜月さんが流行や新しいことには結構敏感な様子。いや、多分それは食べ物のことだけなんだろうけど、うまうましたいんだろうなあ。肥えるぞ
.
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「おはよう」
「やァー、菜月先輩、おはようございヤす。買い物スか?」
サークル室に行くと、いつものようにいつもの面々が出迎えてくれる。12月にもなるとさすがに少し寒くなってきたなという感じがする。とは言え向島は晴れの方が多いからまだあったかいかな。圭斗はもうダウンジャケットを着込んでるけど、正直そこまでやらなくていいだろうと。
ダウンジャケットと言えばりっちゃんもそんなような上着を着てるけど、りっちゃんの家は山浪エリアの山間部にある。雪が降るか降らないかという次元の話だ。そんな場所から通ってきてるりっちゃんだから、装備も厳重に。所詮その辺に住んでる圭斗とはレベルが違うんだ。
「ホットミルクがおいしい季節だろ。でも、今は豆乳をレンチンで飲むのが流行ってるそうなんだ。上にマシュマロを乗っけてもおいしいって言うから、マシュマロ」
「へェー、いースねェー。ホットミルクと言や高崎先輩を思い出しヤすわ」
「ああ、確かに。でもアイツは季節問わずホットミルクだからな。ゼミのパーティーか何かのプレゼント交換でハチミツをもらってからは砂糖の代わりにハチミツを入れてるって聞いた」
「美味いスわ」
「絶対おいしいよなあ」
――とか何とか話していると、続々とメンバーがやって来る。今日のサークルでやることは前回のうちに決まっていた。MMPでは恒例となっている年末特番の制作だ。年末特番というのはその名の通り、年の終わりにその代のサークルを統括するための番組で、3年生にとっては集大成となる。
例年の年末特番は、ラジオドラマを収録したり、通常番組をちょっとやったりという形式だ。今年もそれに沿って通常の30分番組が1本、そしてラジオドラマ枠で「ブラケイト」という圭斗のお散歩番組を録ることになっているのだ。ラジオドラマをめぐってはちょっといろいろあったんだ、今年度は。
そのいろいろは、星ヶ丘の作品出展のラジドラをモニターしてた時のこと。三井が例によって壮大なディスりを展開してたんだけど、そもそもお前は何も書けやしないのに何をほざいているんだ、そこまで言うなら書いて来いとうちがブチ切れただけのちょっとしたお話だ。
「やあ、おはよう」
「あっ、圭斗。相変わらずの重装備だな」
「菜月さんが軽装過ぎるのでは」
「そうだ、今日はブラケイトの収録だぞ」
「だから僕は覚悟をして、服の下にホッカイロを仕込んだところだよ」
「ええー……引くわー……」
「でも、夕方になると急に冷えるだろう?」
「それはそうだけど、まだカイロはいいんじゃないか?」
圭斗は圭斗なりに覚悟を決めていたようだ。今日に至るまでの企画段階で、ブラケイトという企画をいかにして通すかというのと、圭斗は寒がりだし外を歩かせる説得がめんどくさいという話で盛り上がっていた。基本ウチの2年生ミキサーはアナウンサーとしての圭斗を面倒がっている。扱いもまあ雑だ。
普段は神だ何だと圭斗を崇め讃えるノサカですら企画会議ではアナウンサーとしての圭斗をどう扱うか、苦心して言葉を選んでいるようだった。本当はボロクソに思っているのだろう。ノサカでこのザマだから、ノサカ曰くドSコンビのりっちゃんとカンザキはもうヒドいヒドい。それが真綿で首を絞めるように圭斗をいたぶっていて。
さすがの圭斗でもそこまで言われてしまえば寒いだのなんだのと喚くことも出来なくなり、ブラケイトをやりますと返事せざるを得なかった。そもそも、MMP式ブレーンストーミングの大喜利で出された無数の案の中から選ばれた企画なんだ。これがイヤならこれに変わる案を出せと言う話で。出なかったんですね、それが。
「みんなー、サツマイモ買ってきたから焼き芋やろー」
「三井先輩、今日はブラケイトの収録スよ」
「うん、だから外に出るでしょ? 圭斗が散歩してるところに焼き芋と遭遇した体でいいじゃない。ねえりっちゃん」
「火ィ使って大丈夫なンすかね」
「別の団体もたき火してたからそれは多分大丈夫じゃないかな」
「三井、もしかしてそのサツマイモ、中身が箱に書いてある銘柄通りなら、甘いって今流行ってるヤツか!?」
「さすが菜月! そう、ちょうどバイト先に仕入れられて来てさ。菜月は好きだろうなと思って買ってみたんだよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「突然どうしたんだノサカ」
「いえ、何でもございません」
「いーからさッさと機材の準備しろ、機材管理担当」
今日は外での収録ということで、それなりに用意が要る。焼き芋の道具とかじゃなくて、録音用の機材などの話だ。さすがにミキサーを持ち歩くワケにはいかないので、この為にサークル費で中古のICレコーダーを調達したそうだ。ちなみにうちのサークル費(滞納分込みで3000円)は暖房じゃなくてこっちになったらしい。
「みんな、準備はいいかな」
「各自貴重品は持ち歩くよーにしてくだせーよ。盗まれても自分は知りヤせんよー」
「はーい」
「あ、菜月先輩」
「ん?」
「買い物袋はいースか?」
「買い物袋って、マシュマロのことか?」
「焼き芋やるのに焚き火するンなら、焼きマシュマロにしたら絶対ウマいヤツじゃないスかァー。自分焼きマシュマロ好きなんスよ」
「……本当だ! その発想はなかった! でも、串とかはさすがにないよな」
「学祭の残りの割り箸でいーンでないです?」
マシュマロを焼いて食べるとか、絶対美味しいヤツじゃないか。何だっけ、スモア何とかみたいな。マシュマロはコンビニにも売ってるだろうし、帰りに忘れず買うことにして、さっき買ったヤツは今焼いて食べよう。焼き芋は焼き芋で楽しみだけど、焼きマシュマロのキャンプ感だ。
「って言うかりっちゃんて甘いものと言うか、焼きマシュマロ好きなんだな」
「フツーにウマくないスか?」
「美味しい」
end.
++++
圭斗さんがただただボコボコにされていたようですが、ナレーションベースでした。来年度以降お話でボコボコにしたい。
ブラケイトをやるということで、外に出る支度だけは済ませたようです。最近の三井サンはあまり害がないですね。いいことだ。
そして菜月さんが流行や新しいことには結構敏感な様子。いや、多分それは食べ物のことだけなんだろうけど、うまうましたいんだろうなあ。肥えるぞ
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