2019(03)
■egg egg egg!
++++
「圭斗」
「ん?」
「あのさあ、山口からメールが来たんだけどさ」
「山口君から? 何て。もしやまた三井がやらかしたとか」
「いや、それはまた別件なんだけど、今度、朝霞の家で玉子焼きを食べる会っていうのが開かれるそうなんだ。良かったら圭斗にも来てほしいって」
「僕も? またどうして」
「それは知らないけど、向島と星ヶ丘の人数バランスを揃えるとか、朝霞がいるから定例会の人間を用意するとか、そういうアレなんじゃないのか、知らないけど」
事の発端は去年にまで遡る。夏合宿が終わって平和な時間の流れ方になった対策委員の会議中、玉子焼きの話になったことがあった。甘い玉子焼きはおかずか否かみたいな話だとか、玉子焼きは玉子焼きだから結局のところはうまーなんじゃないかとか。地域によっても好みの味が違うとかなんとか。
うちもそんな話をしていたなんて忘れてたんだけど、山口はその玉子焼きの話を覚えていたらしい。いつかうちに自分の焼いた玉子焼きを食べさせてくれるということも。ちなみに、その話は朝霞の部屋で玉子焼きを焼いていて思い出したそうだ。「思い出したし、やっとく?」みたいなノリだったようだ。
「玉子焼きを食べる会ね。玉子焼きを買ってきて利き玉子焼きみたいなことをやるのかな?」
「山口が玉子焼きを延々と焼くんだって。参加費は1人につき卵1パック」
「なるほどね。作るのはわかったけど、参加費がそれだけでいいのかい?」
「卵1パックは安いよな」
「いや、そうじゃなくて。僕はともかく卵星人の菜月さんと朝霞君がいて1人1パック計算で足りるのかと」
「失礼だな、そんなにいっぱいは」
「大きな美味しい玉子焼きやだし巻き玉子を作るには、卵をたっぷり使わなければならないと思うんだけどね。山口君も含めて卵4パック。卵に見境のない2人がいて毛頭足りると思わないね」
「む。気持ちとして2パック持って行くか……」
「どれだけ食べる気なのかな?」
「お前が1パックで足りるのかとか言うからじゃないか!」
まったく。失礼な男だ。よくある飲み屋のだし巻き玉子が卵何個くらい使ってるかがわからないけど、あれくらいなら1本くらいは余裕で食べられるだろう。えっ、でもあれ卵にして何個換算なんだろ。3個とか4個とかかなあ。だとしたら……うん! 確かに1パックじゃ足りないな!
ちょっと前までは卵は1日1個までって言われてたけど、今ではそんな個数制限もなく食べたいだけいただけるそうだから、実によろしい時代になったなあと思う。だけど卵星人とまで言われる覚えは全くない。コンビニでおでんを買うときだって、買っても2個までだぞ。寿さし屋の特製ラーメンにだって温玉は1個しかつけないし。
「ところで、本当に玉子焼きを食べるだけの会なのかな?」
「何か、朝霞が見てほしい映像があるらしい。モニター会的な」
「へえ、そうなのかい」
「でも、玉子焼きの大会もそう簡単には終わらないだろ。甘い玉子焼きに、しょっぱい玉子焼きに、具入りの玉子焼きに、洋風で言うならキッシュとかも食べたいし、甘い玉子の代表として伊達巻きとかがあってもいいよな。それから、ポーチドエッグとかエッグベネディクトとかも食べたい」
「ん、だんだん玉子焼きから離れて行ってないかな?」
「でも、作るのが山口だったら期待したいじゃないか」
「まあね」
そう、何がここまで期待値を上げているのかと言えば、玉子焼きを焼くのが山口だということだ。山口は居酒屋でバイトをしている。その居酒屋が焼き鳥をメインに卵料理もいくらか扱っている店で、だし巻き玉子は日常的に焼いているらしい。言わばプロみたいなものじゃないか。
うちは自分では玉子焼きを作れないから、こうやって作ってもらえるととても嬉しい。飲み屋とかに行ってもだし巻き玉子は絶対頼むしな。コンビニとかでもレトルトのお総菜で玉子焼きやだし巻き玉子は売ってるけど、何故かああいうのにはあまり手が出ないんだ。
「玉子焼きとかだし巻き玉子と言えば、初心者講習会の弁当にも入っていたね」
「ああ、あれは実に良かった。ヒロはともかく、まさかノサカが玉子を巻いてくるだなんて思わないじゃないか」
「菜月さんが急遽講師に決まったということで、弁当に菜月さんの好きな物を入れたかったんだろうね」
「でも、アイツはだし巻き玉子を作れるんだろ。うーん」
「何か思うところがあるのかい?」
「いや、ちょっと悔しいなと思って。元々は唐揚げ担当で、その日は揚げ物だってやってたじゃないか」
「いくらお母さんの監督があったとは言え、確かに少し練習したくらいでやれることじゃないとは思うけどね」
初心者講習会のときに食べた玉子焼きとだし巻き玉子はそれぞれ美味しかったと思うけど、やっぱり、だし巻き玉子のインパクトが大きかったんだよなあ。玉子焼きならともかくだし巻き玉子が入ってるなんて思わなかったから。結局だし巻き玉子はうちは半分以上食べたんじゃないか、多分。
「そもそも、玉子焼きを食べる会は大会みたいな規模でやることなのかな?」
「大会だろう。なんなら祭りと言ってもいい」
「そうか、祭りか……」
「そうだ圭斗」
「ん、なんだい」
「玉子焼きの会とは別に、そろそろMMPでも鍋かおでん大会を決行すべきだと思うんだ。卓上コンロは学祭とこないだの缶蹴りでテスト出来たんだ」
「そうだね。確かにそろそろ先輩方を招くことにもなるだろうから、おでんと熱燗の練習は必要だね。サークルでもやろうか?」
「卵は何パックあればいい」
「ん、どれだけ食べるつもりなのかな?」
end.
++++
例の玉子焼きを食べる会に向かうまでのお話。こういうお誘いをするのは大体洋平ちゃんですね。
三井サンのやらかしに関してはサークルも代替わりしてるし圭斗さんはもう関係ないけどビクついてる様子。でも別方向から話が聞こえてくるんだよなあ
おでん大会の季節にもなってきたし、定例会おでんもそろそろかしら。鍋を囲んでわちゃわちゃさせたい。
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「圭斗」
「ん?」
「あのさあ、山口からメールが来たんだけどさ」
「山口君から? 何て。もしやまた三井がやらかしたとか」
「いや、それはまた別件なんだけど、今度、朝霞の家で玉子焼きを食べる会っていうのが開かれるそうなんだ。良かったら圭斗にも来てほしいって」
「僕も? またどうして」
「それは知らないけど、向島と星ヶ丘の人数バランスを揃えるとか、朝霞がいるから定例会の人間を用意するとか、そういうアレなんじゃないのか、知らないけど」
事の発端は去年にまで遡る。夏合宿が終わって平和な時間の流れ方になった対策委員の会議中、玉子焼きの話になったことがあった。甘い玉子焼きはおかずか否かみたいな話だとか、玉子焼きは玉子焼きだから結局のところはうまーなんじゃないかとか。地域によっても好みの味が違うとかなんとか。
うちもそんな話をしていたなんて忘れてたんだけど、山口はその玉子焼きの話を覚えていたらしい。いつかうちに自分の焼いた玉子焼きを食べさせてくれるということも。ちなみに、その話は朝霞の部屋で玉子焼きを焼いていて思い出したそうだ。「思い出したし、やっとく?」みたいなノリだったようだ。
「玉子焼きを食べる会ね。玉子焼きを買ってきて利き玉子焼きみたいなことをやるのかな?」
「山口が玉子焼きを延々と焼くんだって。参加費は1人につき卵1パック」
「なるほどね。作るのはわかったけど、参加費がそれだけでいいのかい?」
「卵1パックは安いよな」
「いや、そうじゃなくて。僕はともかく卵星人の菜月さんと朝霞君がいて1人1パック計算で足りるのかと」
「失礼だな、そんなにいっぱいは」
「大きな美味しい玉子焼きやだし巻き玉子を作るには、卵をたっぷり使わなければならないと思うんだけどね。山口君も含めて卵4パック。卵に見境のない2人がいて毛頭足りると思わないね」
「む。気持ちとして2パック持って行くか……」
「どれだけ食べる気なのかな?」
「お前が1パックで足りるのかとか言うからじゃないか!」
まったく。失礼な男だ。よくある飲み屋のだし巻き玉子が卵何個くらい使ってるかがわからないけど、あれくらいなら1本くらいは余裕で食べられるだろう。えっ、でもあれ卵にして何個換算なんだろ。3個とか4個とかかなあ。だとしたら……うん! 確かに1パックじゃ足りないな!
ちょっと前までは卵は1日1個までって言われてたけど、今ではそんな個数制限もなく食べたいだけいただけるそうだから、実によろしい時代になったなあと思う。だけど卵星人とまで言われる覚えは全くない。コンビニでおでんを買うときだって、買っても2個までだぞ。寿さし屋の特製ラーメンにだって温玉は1個しかつけないし。
「ところで、本当に玉子焼きを食べるだけの会なのかな?」
「何か、朝霞が見てほしい映像があるらしい。モニター会的な」
「へえ、そうなのかい」
「でも、玉子焼きの大会もそう簡単には終わらないだろ。甘い玉子焼きに、しょっぱい玉子焼きに、具入りの玉子焼きに、洋風で言うならキッシュとかも食べたいし、甘い玉子の代表として伊達巻きとかがあってもいいよな。それから、ポーチドエッグとかエッグベネディクトとかも食べたい」
「ん、だんだん玉子焼きから離れて行ってないかな?」
「でも、作るのが山口だったら期待したいじゃないか」
「まあね」
そう、何がここまで期待値を上げているのかと言えば、玉子焼きを焼くのが山口だということだ。山口は居酒屋でバイトをしている。その居酒屋が焼き鳥をメインに卵料理もいくらか扱っている店で、だし巻き玉子は日常的に焼いているらしい。言わばプロみたいなものじゃないか。
うちは自分では玉子焼きを作れないから、こうやって作ってもらえるととても嬉しい。飲み屋とかに行ってもだし巻き玉子は絶対頼むしな。コンビニとかでもレトルトのお総菜で玉子焼きやだし巻き玉子は売ってるけど、何故かああいうのにはあまり手が出ないんだ。
「玉子焼きとかだし巻き玉子と言えば、初心者講習会の弁当にも入っていたね」
「ああ、あれは実に良かった。ヒロはともかく、まさかノサカが玉子を巻いてくるだなんて思わないじゃないか」
「菜月さんが急遽講師に決まったということで、弁当に菜月さんの好きな物を入れたかったんだろうね」
「でも、アイツはだし巻き玉子を作れるんだろ。うーん」
「何か思うところがあるのかい?」
「いや、ちょっと悔しいなと思って。元々は唐揚げ担当で、その日は揚げ物だってやってたじゃないか」
「いくらお母さんの監督があったとは言え、確かに少し練習したくらいでやれることじゃないとは思うけどね」
初心者講習会のときに食べた玉子焼きとだし巻き玉子はそれぞれ美味しかったと思うけど、やっぱり、だし巻き玉子のインパクトが大きかったんだよなあ。玉子焼きならともかくだし巻き玉子が入ってるなんて思わなかったから。結局だし巻き玉子はうちは半分以上食べたんじゃないか、多分。
「そもそも、玉子焼きを食べる会は大会みたいな規模でやることなのかな?」
「大会だろう。なんなら祭りと言ってもいい」
「そうか、祭りか……」
「そうだ圭斗」
「ん、なんだい」
「玉子焼きの会とは別に、そろそろMMPでも鍋かおでん大会を決行すべきだと思うんだ。卓上コンロは学祭とこないだの缶蹴りでテスト出来たんだ」
「そうだね。確かにそろそろ先輩方を招くことにもなるだろうから、おでんと熱燗の練習は必要だね。サークルでもやろうか?」
「卵は何パックあればいい」
「ん、どれだけ食べるつもりなのかな?」
end.
++++
例の玉子焼きを食べる会に向かうまでのお話。こういうお誘いをするのは大体洋平ちゃんですね。
三井サンのやらかしに関してはサークルも代替わりしてるし圭斗さんはもう関係ないけどビクついてる様子。でも別方向から話が聞こえてくるんだよなあ
おでん大会の季節にもなってきたし、定例会おでんもそろそろかしら。鍋を囲んでわちゃわちゃさせたい。
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