2019(03)

■rendezvous ethics

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「はい、全員来てるかな?」
「せんせー、 のさかくんがまだきてませーん」
「ちょっと待てこーた、ウソを言うな! はい、います! 野坂います!」
「いない奴はいないかな? 返事をするんだよ」

 午後5時、向島大学サークル棟前。MMPではサークル解散時に毎回このサークル棟前の玄関先で解散の挨拶をするんだけど、今日はいつもより2時間ほど早い挨拶の格好だ。とは言え今やっているのは解散の挨拶ではなく集合確認だ。今日は午後5時にサークル棟前集合という話になっていたから。
 ただ、言ってしまえば今日は金曜日で、サークルの通常活動日だ。特に頑張って集合しようとしなくても、いつも通りにサークルに顔を出す感覚でいれば十分間に合うはずなんだ。それなのに、圭斗が「いない奴はいないかな?」というお馴染みのヤツをかましてくれる意味だ。

「圭斗せんせー」
「ん、何かな菜月ちゃん」
「うわキモっ。ちゃん付けは無い」
「うん、僕も呼んでいて思ったからごっこ遊びはやめて通常に戻そうか。はい、菜月さん」
「ヒロと三井はどうした」
「知ったこっちゃない」
「ただでさえ向島はインターフェイスでも時間にルーズなので悪名高いんだ。今日やらかしでもしたら高崎がキレかねない」
「僕もそれを危惧しているところだよ。向こうにはプチ遅刻常連の伊東がいるとは言え、こちらはそれを優に超える逸材ばかりだからね」

 今日はこれから緑ヶ丘との交流会が開かれる。前半が緑ヶ丘主催の飲み会で、後半が向島主催の缶蹴り大会だ。MMPではこの缶蹴り大会で必勝を期すべく作戦会議を繰り返し、飲み会では必要以上に飲まないでおこうと確認したばかりだ。ホワイトボードにはその跡が生々しく残っていることだろう。
 インターフェイス関係の行事+待ち合わせ=向島のやらかし、というのが公式になりつつある今日この頃、さすがにそういつもかもやらかしてばかりはいられない。というワケで今日はしっかり集合時間を決めてこうやって集まっているにも関わらず来てない奴がいるという事態だ。

「ノサカ、ヒロはどうした。一緒の授業じゃなかったのか」
「一緒の講義でしたが講義後半は課題なので、俺はヒロを見捨てて現在に至っているというワケです。ヒロに構っていると時間に遅れると判断しました」
「今日くらい見捨ててやるなよ」
「野坂さん、電話が鳴ってますよ」
「あ、ヒロだ。はいもしもし。つかお前何やってんだよ。もうみんなサークル棟の前に――あ? ああ、わかった。じゃあ、ちゃんとわかるところにいろよ。ふらふらすんなよ、ちゃんと立ってろよ、いいか、動くな? じゃあ後で」
「野坂、ヒロは何だって?」
「どーせ下りるんに坂上るんめんどいんでバス停の前で待ってます、とのことです」
「一理ある」

 向島大学のサークル棟はスクールバスのバス停から徒歩15分だ。どうせ下りるのに上るのは面倒だというヒロの言い分はまあわからないでもない。徒歩で往復をすればそれでもう30分だから。それに、遅いにしても一応連絡をくれたからみんな納得した。問題は、一切の音沙汰がない三井だ。

「うちは、もう三井は無視してヒロを拾いに行った方がいいと思うんだ」
「その心は」
「三井は集団行動が出来ない奴だし、こうしましょうってみんなで決めても自分がやりたい風にやる奴だというのはうちもお前もこの3年でよく見てきたじゃないか」
「そうだね。まさにその通り」
「三井の行動パターン的には、それこそヒロじゃないけど「サークル室に行くのは面倒だし、同じ徒歩なら上豊葦駅に行った方がいいや」に30ペソ」
「ああー、僕たちは向環を使おうと思ってるけど、敢えて星鉄に行く天の邪鬼だよ」
「仮説な。でも、正直三井を待つだけ無駄だと思う」

 これに異論は出なかった。言って三井が好き勝手なことをするのは今に始まったことじゃない。三井にはサークル棟を出ましたとだけ連絡を打ち、本隊はヒロを拾いにまずはバス停へ。時間が合えばバスに乗って向環の駅前で下りるけど、まあ、徒歩で坂を下ることになるだろう。
 徒歩の時間などを計算した上での集合時間だ。電車の時間も一応は見るけど、全員揃わずに1本2本見送ることなんか余裕で計算してある。緑ヶ丘との待ち合わせ時間と比べてMMPの集合時間を早く設定してあるのは、ある程度のやらかしくらいは見込んでいないと始まらないからだ。

「あっヒロお前!」
「あ、ノサカやん。先輩たち、おはよーございます。バスは2分後らしーですよ」
「じゃあ、バスに乗って行こうか」
「やったー。歩くんめんどいと思っとったんでよかったです」
「お前は現時点で全然歩いてないだろ」
「何やのノサカ!」

 高崎からは、向島の待ち合わせ倫理はうちとりっちゃん以外信用ならないと聞いている。うちもたまにノサカクラスの大爆発をやらかすけど、それでもうちとりっちゃん以外は確かに怪しいモンだ。奈々は予定を詰め込みすぎて目が回ってるし。しかし、待ち合わせ倫理か。初めて聞いたけど、しっくりくる言葉だな。
 一番ヒドいのは言わずと知れたノサカだけど、ノサカだけシメればどうにかなるものでもないのがMMPだ。誇れることじゃない。今日は他校があることだから余計に気をつけなければならないのだけど。と言うかいっそ三井は亡き者にしておいた方が平和に事が進むんじゃないか。

「あっ、バス来たよ!」
「スクールバスなんて久し振りだな」
「本当だね。僕はそう乗る機会がないから逆に楽しみだよ。あ、お前たち、缶蹴り大会は終バスの後になるから、楽を出来るのはここまでだよ」


end.


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(交流会だけど)戦争に出向く前のMMPですが、サークル活動日とは言え全員揃わないのがデフォみたいっすね
そりゃ高崎じゃなくても向島との行事だとアイツらちゃんと来るのかよって心配になる気持ちはわからんでもない。菜月さんにすべてを託したくなる気持ちも。
菜圭のごっこ遊びがただただ気色悪いというだけのお話でした。菜月ちゃんて。

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