2019(03)
■型破りのガールミーツボーイ
++++
「うっわ、何だこれ。めちゃ美味そう」
「味も美味しいから、是非食べてください!」
「それじゃあ、いただきます」
今日はゼミでやっているペア研究のレポートを進めていた。ゼミでは1年をかけて卒論でやる自分の研究テーマとは別のテーマをペアで研究することになっている。俺は伏見と組んでやっているんだけど、春学期はステージばかりでほとんど伏見に投げる形になってしまったのだ。
さすがにそれではいけないと、大学祭が終わって部活を引退した今では今までの分を取り戻すかのように調べ物をしたり、自分の足で稼ぎ回ったりしてレポートの材料を集めている。伏見はまだ映研の現役脚本家だし、それにも身を入れて欲しいという気持ちがある。伏見の書く話には味があって好きなんだ。
で、そんな勉強の合間に伏見がポテトパイなる物を焼いて持ってきてくれた。「そのままでも食べれるけど、朝霞クン家のオーブンでちょっと焼き直せばもっと美味しくなるよ」とのことだったので、俺の部屋で休憩ついでの夕飯を。せっかく作ってくれたんだから、一番美味い温度で食うのが礼儀だろう。難しいけど。
「……どう…?」
如何せん俺は食っている間は喋らない方なので、美味いということを親指を立てて伝える。伏見はホッとした様子だ。いや、でも美味いなこれ。ジャガイモがクリーミーかつホクホクっていういろんな食感があるし、ベーコンのピースはスモーキーな味が鼻を抜けるし、挽き肉のピースはトマト風味で酸味が美味い。味に変化があって楽しい。
「マジで美味い。えっ、これお前が一から作った?」
「作りました」
「すげえ、尊敬する。うまっ。まだ食べていいか?」
「どうぞどうぞ。食べて食べて。朝霞クン、食べるの遅いけど地味に量食べるからパイ作るなら大きくしてあげてってちーが教えてくれたよ」
「そうか。つかアイツがバカみたいに食うのが早いんだろ」
「ホントそうだよねえ。ちーは流し込むみたいに食べちゃうから。もっとよく噛みなさいって昔からハルちゃんに叱られてばっかりでさ」
向舞祭の食レポでもちーは一瞬で食べ物を消しちゃうし、などと伏見が喋っているのを聞きながら、俺はパイに舌鼓を打っていた。伏見は少し前まで大石に惚れていたということもあって、元々が幼馴染みだしアイツのことをよく知っているなと思う。大石関係でつつくと今好きなのは違う人だもん、と頬を膨らますのが面白い。
「でも、急にパイなんてどうしたんだ?」
「あのね、ちーがジャガイモをくれたんだよ。ケースでもらったからって」
「ジャガイモ? いいなあ、俺も欲しい」
「何か、星大でいろいろあったみたい。星大のパソコン室で課題やろうとしてたら、学生スタッフさんから助けて欲しいって言われたんだって。で、ジャガイモはそのお礼にもらったんだって」
「ふーん。でも、人助けっていうのはアイツらしいな。困ってる奴をほっとけなかったんだろ」
「何か、女の子のスタッフがあの人に付きまとわれてたんだって」
「あの人とは」
「ほら、あの人だよ! 学祭のときにさあ!」
「ああ、ミッツか。アイツ、どこにでも沸いてくるな」
神出鬼没のミッツは、気紛れで星大に遊びに行ったらしい。そこで学内を案内してもらった女子に運命を感じたそうだ。その女子のバイト先が星大のパソコン室だったらしい。さらに、伏見が脚本を書いた作品にエキストラで出ていたという美人も同じパソコン室のスタッフだったらしく、ミッツはなおその場所に執着していた、と。
星大のパソコン室の学生スタッフは血気盛んと言うかなかなかに物騒なことで有名らしく、事を荒立てたくないと「アイツと知り合いならそれとなく追い出してくれ」と頼まれたそうだ。スタッフの安全を考えてのことだそうだ。ジャガイモはそのミッションの報酬とのこと。実に上等なジャガイモらしい。
大石曰く(その大石はなっちから聞いたらしい)、ミッツは伏見が俺と付き合っていると勘違いして次の春に向かって行ったそうだ。しかし、ちょっとしたことで運命を感じる性質がちょっとやそっとで治るはずもなく、現在は星大で新しい運命を見つけたのではないか、とのこと。定例会おでんで圭斗にも話すそうだ。
「何をどう見たら俺とお前が付き合ってるように見えるんだか」
「そぉうだよねえ…!?」
「学祭の時なんか特に俺は気が立ってたはずだし、お前にも怒鳴り散らしただろ。あっ、そういやあのときは悪かった」
「ううん、あたしもごめん、大事な時だってわかってたのに」
「こうやって俺の家でお前が作ってくれたモンを食ってれば、何も知らない人ならそう思う可能性もあるだろうけど、学祭のときのあの光景だけ見たら付き合ってる風にはとても見えないと思うけどな」
「確かに。いくら朝霞クンがステージが一番の人とは言え、彼女にだったらもう少し優しく窘めてくれ……そうにないから朝霞クンだと思うよ!? 朝霞クンだったら彼女とか、自分のことをわかってる相手がそういうことをしたら余計怒ると思います!」
「ちょっと待て、俺ってそんなに短気か!? いや、短気な方だとは思ってるけど」
「短気だよ、優しいけど」
「どっちだよ」
「優しいけど短気。どっちも!」
短気はよく言われるけど、優しいとはあまり言われたことがないから新鮮な評価だと思った。伏見は俺の何を見て優しいと思うのか。聞いてみたい気もするけど、少し恥ずかしいからやめておこう。
「ん? そういやお前、惚れてる奴がいるのに俺の部屋なんかにのこのこ上がってんなよ」
「だって、オーブンであっため直した方がパイが美味しいんだもん! それに、朝霞クンが朝霞クンなのでよくある「今夜は寝かせない」の意味がレポート地獄だってわかってますから! お部屋に上がってもやることはレポートか脚本ですし!」
「ほーん、わかってるようだな? わかってるからには今から夜通しやるってことでいいな! ちょっと待ってろ、今レッドブル取ってくるから」
「いやああああ! 明日も平日ううう! 帰るうううう! 鬼ぃいいい!」
「いやー、伏見がやる気になってくれて嬉しいぞ俺は。一緒に頑張ろうな!」
「そんなキラッキラの笑顔で言うのは反則ですからあああ!」
end.
++++
我々は何を見せられているのだ、な朝霞Pとふしみんのあれこれ。で、先日のジャガイモですね。
ふしみんは料理上手なのでジャガイモをしっかり料理できるよ! 美奈にもこういう調理をしていただきたいものだ。冬に情報交換をしよう。
で、鬼の朝霞Pですね。今夜は帰さないだの寝かさないなどの意味が完全に「レポート頑張ろうな!」だからこそのPさんである
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「うっわ、何だこれ。めちゃ美味そう」
「味も美味しいから、是非食べてください!」
「それじゃあ、いただきます」
今日はゼミでやっているペア研究のレポートを進めていた。ゼミでは1年をかけて卒論でやる自分の研究テーマとは別のテーマをペアで研究することになっている。俺は伏見と組んでやっているんだけど、春学期はステージばかりでほとんど伏見に投げる形になってしまったのだ。
さすがにそれではいけないと、大学祭が終わって部活を引退した今では今までの分を取り戻すかのように調べ物をしたり、自分の足で稼ぎ回ったりしてレポートの材料を集めている。伏見はまだ映研の現役脚本家だし、それにも身を入れて欲しいという気持ちがある。伏見の書く話には味があって好きなんだ。
で、そんな勉強の合間に伏見がポテトパイなる物を焼いて持ってきてくれた。「そのままでも食べれるけど、朝霞クン家のオーブンでちょっと焼き直せばもっと美味しくなるよ」とのことだったので、俺の部屋で休憩ついでの夕飯を。せっかく作ってくれたんだから、一番美味い温度で食うのが礼儀だろう。難しいけど。
「……どう…?」
如何せん俺は食っている間は喋らない方なので、美味いということを親指を立てて伝える。伏見はホッとした様子だ。いや、でも美味いなこれ。ジャガイモがクリーミーかつホクホクっていういろんな食感があるし、ベーコンのピースはスモーキーな味が鼻を抜けるし、挽き肉のピースはトマト風味で酸味が美味い。味に変化があって楽しい。
「マジで美味い。えっ、これお前が一から作った?」
「作りました」
「すげえ、尊敬する。うまっ。まだ食べていいか?」
「どうぞどうぞ。食べて食べて。朝霞クン、食べるの遅いけど地味に量食べるからパイ作るなら大きくしてあげてってちーが教えてくれたよ」
「そうか。つかアイツがバカみたいに食うのが早いんだろ」
「ホントそうだよねえ。ちーは流し込むみたいに食べちゃうから。もっとよく噛みなさいって昔からハルちゃんに叱られてばっかりでさ」
向舞祭の食レポでもちーは一瞬で食べ物を消しちゃうし、などと伏見が喋っているのを聞きながら、俺はパイに舌鼓を打っていた。伏見は少し前まで大石に惚れていたということもあって、元々が幼馴染みだしアイツのことをよく知っているなと思う。大石関係でつつくと今好きなのは違う人だもん、と頬を膨らますのが面白い。
「でも、急にパイなんてどうしたんだ?」
「あのね、ちーがジャガイモをくれたんだよ。ケースでもらったからって」
「ジャガイモ? いいなあ、俺も欲しい」
「何か、星大でいろいろあったみたい。星大のパソコン室で課題やろうとしてたら、学生スタッフさんから助けて欲しいって言われたんだって。で、ジャガイモはそのお礼にもらったんだって」
「ふーん。でも、人助けっていうのはアイツらしいな。困ってる奴をほっとけなかったんだろ」
「何か、女の子のスタッフがあの人に付きまとわれてたんだって」
「あの人とは」
「ほら、あの人だよ! 学祭のときにさあ!」
「ああ、ミッツか。アイツ、どこにでも沸いてくるな」
神出鬼没のミッツは、気紛れで星大に遊びに行ったらしい。そこで学内を案内してもらった女子に運命を感じたそうだ。その女子のバイト先が星大のパソコン室だったらしい。さらに、伏見が脚本を書いた作品にエキストラで出ていたという美人も同じパソコン室のスタッフだったらしく、ミッツはなおその場所に執着していた、と。
星大のパソコン室の学生スタッフは血気盛んと言うかなかなかに物騒なことで有名らしく、事を荒立てたくないと「アイツと知り合いならそれとなく追い出してくれ」と頼まれたそうだ。スタッフの安全を考えてのことだそうだ。ジャガイモはそのミッションの報酬とのこと。実に上等なジャガイモらしい。
大石曰く(その大石はなっちから聞いたらしい)、ミッツは伏見が俺と付き合っていると勘違いして次の春に向かって行ったそうだ。しかし、ちょっとしたことで運命を感じる性質がちょっとやそっとで治るはずもなく、現在は星大で新しい運命を見つけたのではないか、とのこと。定例会おでんで圭斗にも話すそうだ。
「何をどう見たら俺とお前が付き合ってるように見えるんだか」
「そぉうだよねえ…!?」
「学祭の時なんか特に俺は気が立ってたはずだし、お前にも怒鳴り散らしただろ。あっ、そういやあのときは悪かった」
「ううん、あたしもごめん、大事な時だってわかってたのに」
「こうやって俺の家でお前が作ってくれたモンを食ってれば、何も知らない人ならそう思う可能性もあるだろうけど、学祭のときのあの光景だけ見たら付き合ってる風にはとても見えないと思うけどな」
「確かに。いくら朝霞クンがステージが一番の人とは言え、彼女にだったらもう少し優しく窘めてくれ……そうにないから朝霞クンだと思うよ!? 朝霞クンだったら彼女とか、自分のことをわかってる相手がそういうことをしたら余計怒ると思います!」
「ちょっと待て、俺ってそんなに短気か!? いや、短気な方だとは思ってるけど」
「短気だよ、優しいけど」
「どっちだよ」
「優しいけど短気。どっちも!」
短気はよく言われるけど、優しいとはあまり言われたことがないから新鮮な評価だと思った。伏見は俺の何を見て優しいと思うのか。聞いてみたい気もするけど、少し恥ずかしいからやめておこう。
「ん? そういやお前、惚れてる奴がいるのに俺の部屋なんかにのこのこ上がってんなよ」
「だって、オーブンであっため直した方がパイが美味しいんだもん! それに、朝霞クンが朝霞クンなのでよくある「今夜は寝かせない」の意味がレポート地獄だってわかってますから! お部屋に上がってもやることはレポートか脚本ですし!」
「ほーん、わかってるようだな? わかってるからには今から夜通しやるってことでいいな! ちょっと待ってろ、今レッドブル取ってくるから」
「いやああああ! 明日も平日ううう! 帰るうううう! 鬼ぃいいい!」
「いやー、伏見がやる気になってくれて嬉しいぞ俺は。一緒に頑張ろうな!」
「そんなキラッキラの笑顔で言うのは反則ですからあああ!」
end.
++++
我々は何を見せられているのだ、な朝霞Pとふしみんのあれこれ。で、先日のジャガイモですね。
ふしみんは料理上手なのでジャガイモをしっかり料理できるよ! 美奈にもこういう調理をしていただきたいものだ。冬に情報交換をしよう。
で、鬼の朝霞Pですね。今夜は帰さないだの寝かさないなどの意味が完全に「レポート頑張ろうな!」だからこそのPさんである
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