2019(03)

■プレゼントを探す近道

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 今度の火曜日が徹の誕生日だということで、何か贈り物でも出来ればと街を歩く。以前は徹と言えばと考えた結果のボールペンを贈ったのだけど、あれは私が徹の描くボールペン絵を見たいという理由も込々で贈った物で、打算的な面も少し。今回は純粋に贈り物をしたいと思っているのだけど……。
 雑貨屋に入って、何かいい物がないかを探してみる。確実に喜んでもらえる物であれば徹が通販サイトで公開している欲しいものリストを見て、その物を買って渡すのがいいんだろうけど……それでは少し味気ないような気もする。ここは自分で徹の需要を考えたい。

「これは……」

 いつの間にかカゴの中には自分の欲しいものばかりが入っていた。綺麗な花柄のマグカップに、蝶をモチーフにした髪留め。それから、これからの季節に備えた靴下に、パソコンに繋いで充電出来るエコカイロ。
 そうじゃない、と改めて店を回り直すと、目に入ったのはマスクケース。徹には中学3年生の妹、沙也ちゃんがいる。高校受験を控えているということで、徹は常日頃から沙也ちゃんが風邪やインフルエンザにならないかとても心配している。
 インフルエンザの予防接種を受けに病院に行くのも兄妹2人分は徹の自費。さすがに沙也ちゃんの分は後からお金をもらったそうだけど、誰に言われる前から沙也ちゃんのことを心配しているし、手洗いうがいの徹底を教えている。多分、これからの季節はマスクの需要も増えるはず。
 マスクケースを贈ればいいかもしれない、と考えたのも束の間。多分、この店の主な客層が女性だからか、マスクケースのデザインにしても女性が好きそうな柄の物が多い印象。男性向けと言うか、徹が持ちそうな柄の物は見事にない。

「いらっしゃいませー」

 無ければ作ればいいのでは。雑貨屋の会計を済ませ、次に向かうのは手芸屋さん。普通に男性向けのデザインをしたマスクケースが売っているような店に行けばいいんだろうけど、それよりも手芸屋が近かったから。
 マスクケースを作る上で気を付けたいのは、使う素材に抗菌・除菌加工がされているかということ。一応、一般に流通している素材でもそんな加工がされた物がある。ここは大きなお店だから、きっとそういう素材もあると思うけど。
 男性向けのデザインをしたマスクケースを探すのと、そんなデザインをした生地を探すのはどちらが手間か。少し冷静になればきっと生地を探す方が難しいと思ったかもしれない。だけど、今の私は「作る」と決めてしまっていた。生地を探して一直線。
 ――しようと思ったけど、毛糸のコーナーに見覚えのある人がいる。それが気になって、少し様子を窺ってしまう。彼女は、何色の、どんな太さの毛糸にしようか悩んでいるようだった。この季節だから、編み物をするのかもしれない。

「……こんにちは……」
「あっ、minaさん。こんにちは。お買物ですか?」
「抗菌加工の生地を探しに……さとさんは、編み物ですか…?」
「はい。腹巻を作ろうと思って」
「ああ、やっぱり、寒くなるから……」

 毛糸を選んでいたのは、ハンドメイドイベントに足を運んでいるうちに知り合いになっていたさとさん。縫物が得意な印象があるけど、コサージュなんかの装飾品もかなり綺麗で、先のイベントでは私もひとつ買わせてもらった。
 余談だけど、私はハンドメイド側ではmina(ミーナ)名義で活動している。作った物をネット通販に出したりもしているし、さすがに本名名義にするのはどうかな、と。私はブローチやアクセサリーを作ったり、簡単な縫物を出したりしている。

「男の人に使ってもらう腹巻なんですけど、お店には好きな色のがないって言われちゃって」
「女性を対象の、毛糸のパンツとかは、よく見ますけど……男の人の腹巻となると、単色で、黒か、白か……」
「それこそ一昔前のおじさんのイメージですね、茶色の」
「……確かに……」
「可愛いのがいいそうなんで、それなら私が作りますって」
「使うのは、若い人…?」
「そうですね、私のひとつ上の人なので」
「……20歳そこらの男の人が、腹巻を…?」
「その人、半年ほど前に消化器系の病気をして入院してたそうなんですけど、そういう都合もあって極力お腹を冷やさないようにしたいそうで」
「なるほど……さとさん、大仕事ですね」

 頑張らないとですね、と彼女は紫の毛糸をカゴの中にいくつか入れた。編み物をしてるといろいろ作りたくなるから、欲しい量より多く毛糸を買う癖が付いているそうだ。気持ちはわかる。

「minaさんは、抗菌加工の生地って、何を作るつもりなんですか?」
「マスクケースを……」
「ああー……いいですね!」
「友人への誕生日プレゼントに……ティッシュケースか、小物を入れるポーチとしての機能を付けたい気も……」
「この季節だと、ハンドクリームとかリップクリームは持ってたいですね。何か、めんどくさくなっちゃってカバンの中にクリームとか適当に放っちゃうんですけど、次使う時どこにいったかわかんなくなっちゃうんですよね」
「さとさん、しっかり整理整頓してそうなのに……」
「急いでると全然ですよ」

 抗菌生地はあっちの方で見ましたよと教えてもらって、私は彼女に一礼、そのコーナーに向かう。シンプルだけど、地味過ぎない、いい柄の生地があるといいんだけど。徹のイメージ的に、色はモノトーンがよさそう。あ、グレーのチェック柄がある。
 結局、私も毛糸をいくつかと、肝心の生地、それからパーツ類を少し買い足して買い物終了。火曜日までに作って……一応、端切れで少し練習してからにしよう。いきなりやるのはさすがに少し不安がある。型紙通りにやればいいんだろうけど……。明日は丸一日手芸の日になりそう。


end.


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イシカー兄さんの誕生日が近いということで、美奈のお買物回。マスクケースを贈った話があったはずだからね
美奈とさとちゃんはそれぞれハンドメイドイベントとかに出ているという言及がされていたはず。ミドユキ辺りで。
さとちゃんの腹巻に関しては、今年は全然触れてないけど長野っちにあげるヤツですね

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