2019(03)

■どんな肉でも肉は肉

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「対策委員です」

 夏合宿が終わってその活動も鈍化していた対策委員だけど、今はその夏合宿に関わる行事に向けて動いていた。定例会と同じように対策委員も次の対策委員が選出されたけど、こっちの代替わりは3月だから、まだまだ俺たち2年生が主体となって動いていく時間は残っている。
 で、夏合宿に関わる行事な。それは、夏合宿の打ち上げ。毎年、夏合宿の参加者を対象にした打ち上げの飲み会というのが開催されている。それは俺たちの記憶にもあるし、過去の議事録にもしっかり残っている。それが毎年この時期だから、今年もやりましょうという流れになっていて。

「えー、今日店を決めてしまって、この場で予約の電話をしましょう」
「はーい」
「一応参加資格は夏合宿の参加者とモニター会にお越しいただいた方という体だけど、ぶっちゃけここまでくるとほぼインターフェイス全体だし、資格も何もって感じではあるんだよな」
「まあ、一応夏合宿のそれっていう体だし、そこは崩さないにしても参加したい人は来たらいいんじゃないっていうのでいいんじゃない?」
「じゃあそういう感じで。で、大体50から60人くらいを見てたらいいかな、参加者は。さすがに全員は来ないだろうし」
「まあそれっくらいかね」

 日程も無事11月最後の金曜日とかいうめっちゃ混んでそうな日に決まった。22日だと急すぎる上にMMPと緑ヶ丘は交流会やってるし、12月は忘年会シーズンだと考えるとここに賭けるのが正しいだろうという結論になった。これはこの話を始めるのが遅かった対策委員の不手際と言わざるを得ない。
 奇跡的に50から60人くらいが入れる店がどこか残っていることを祈りつつ、どんな店で、どんな物を飲み食いしながらの会にするのかの話し合いが始まる。しかし、この人数の入れる店をまずは洗い浚いリストアップして、そこから選んでいくのがいいかもしれない。

「まあ、さすが花栄周辺、お店の数はちょこちょこ出たね」
「ここから何を残すかだな」
「アタシはやっぱりがっつり食べたいんですよねー」
「それには異議なし」
「ちょっと、仮にも対策委員が主催なのにその議長と委員長が食糧戦争やってるとかやめてよ?」
「だけどさ果林、モニター会に来た人も参加資格あるんだろ。どーすんよ、高崎先輩も来たら。あの人来たら食糧戦争に拍車がかかるぞ」
「ホントだ! ちょっと、各大学食べる人リスト出してー!」
「えーと、ウチはまず俺と、こーたと……」

 もちろん、食べる人リストというのは冗談にしても、先につばめの言った「対策委員の議長委員長が食糧戦争なんかしてんな」というのはこの会に措いて大事なことだろう。対策委員が主催である以上、俺たちはきっちりこの会を運営しなければならない。内輪でぎゃあぎゃあやっている場合でもないのだ。
 ただ、飲み会をやるからにはガッツリ食べたいというのは真理で、みんなで検索したリストの中から詳細を見るのは食べ物が美味しそうな店ばかり。まあ、議長が俺で委員長が果林の時点で食に重点を置くのは対策委員の方針として皆様にご理解いただけるだろう。俺たちの顔があればそれを伝えるのに言葉なんていらないんだ。

「野坂先輩、ここなんかどうですか」
「おっ、いいねタカティ。ちょい見せて」
「はい。焼き肉の食べ放題ですね」
「安っ。飲み放題付きで3500円。焼き肉か、いいなあ」
「でも、こんな店の食べ放題の肉なんかタカが知れてない?」
「つばめサンは舌が肥えてるんすよ、居酒屋慣れしてるっていう」
「エージ、言うねえ」
「高木にはこんな肉でも肉は肉、定額で肉を食い倒れられるかもしれないっていう機会がまず貴重なんで見逃してやってください。それよりコイツは酒の質がアレな方がキレるポイントなんで」
「おっ、いいねえ。どうせ飲むなら美味しいのが飲みたいよねタカティ!」
「そうですね」

 そう、どんな肉でも肉は肉。正直、俺は今この焼き肉の食べ放題にとても心が惹かれている。それと言うのも、先週の木曜日だっただろうか、風邪でしんどいなーと思いながら家のソファでごろごろしていると、菜月先輩から焼き肉の画像が送られてきたんだ。プレミアムコース+アルコール飲み放題最高、という文面で。
 三井先輩からの奢りだというそれが本当に羨ましかったし、まあ、それをポンと奢る三井先輩は本当に意味がわからなかったんだけどもだ。だけど、それ以来俺は焼き肉が食べたいなあと悶々としていたんだ。菜月先輩に作っていただいたおじやも幸せの味だったけど、風邪が治った今、俺は無性に肉が食べたい。

「俺はここに今、議長権限を発動する!」
「野坂が立った!」
「ノサカが立ったよ」
「クララが立ったみたいに言うな。こほん。第1候補は焼き肉だ!」
「その心は?」
「俺たちは若い。食べ盛りの学生に肉は魅惑の響き。どんな肉でも肉は肉。そして食べ放題だということは、食糧戦争が起こる機会も軽減出来るだろう。もちろんそれを起こさないよう努力もするけど、限られた食糧を奪い合うよりは、頼めば出てくる環境にあった方が安全だ」
「確かに。よく言った議長。委員長も援護射撃しますよねー」
「って言うか、俺が肉を食いたいんだ! つかこの時期の飲み会って魚介類の鍋メインだろ? 俺魚介類食えないからめっちゃ不利なんだよ!」

 ――というワケで、議長権限で決めたんだからお前が予約の電話をしろと言われ、喜んで電話をしますよね。そしたらなんと、予約が出来たんだからマジでありがとうございますと! よーし、菜月先輩が先日いただいたプレミアムコースには劣るにしても、肉は肉だ! ひゃっほう!

「予約出来ました!」
「わー!」
「そうだ野坂、魚介類で思い出したけど、アンタ来週の交流会で高ピー先輩にお礼言った方がいいよホントに」
「ん? 高崎先輩?」
「いっちー先輩曰く、高ピー先輩がアンタが魚介類食べれないことを考慮したお鍋のメニューにしてくれてるんだって。鶏団子鍋だって言ってた」
「ナ、ナンダッテー!? それは激しくお礼を…! えーっ!? えっ、でも俺高崎先輩にそのようなことをお伝えした記憶が……」
「村井さん? か誰かが「野坂も魚介類ダメなんだよー」って言ってたのを覚えてたとか何とか」
「いや、まあ……本当に、ご配慮いただきマジでありがとうございますだよ……高崎先輩、神か…!? いや、神だわ、知ってた」


end.


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対策委員です。久々! 先週から引き続いての焼き肉ムーブでした。さては肉とる~び~と私!? つばちゃんとイシカー兄さんの絡みも見たい。
そしてエイジである。タカちゃんの食生活を知っているので、定額で肉を食い倒れられる機会の重要性を説くのである。
そういやつばちゃんって居酒屋通いしてるからそら美味しいもの普段から食べてますね、それも洋平割で。

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