2019(03)
■噂のあの子たち
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大学祭の頃に提出したゼミ希望届。第1希望から第3希望までを書いて、ゼミによっては必要になる専用エントリーシートを添付したりして提出するそれだ。その届を出したことも少し忘れかけていた頃、社会学部のお知らせとして「新2年生所属ゼミ掲示」という項目が加えられていた。
俺は鵠さんと一緒にその掲示がされている社会学部棟、5号館に足を運んだ。学部のお知らせはスマホアプリになってるのに、所属ゼミの発表は学籍番号が書かれた紙が掲示されるという、かなりアナログな方式。まあ、これくらいなら紙の発表でも問題ないのかな。
「えーっと……あっ、あった」
「俺もあった。はー、学科違うからどうなるかと思ったけど、無事に通れたじゃん? よかったよかった」
「鵠さんは面談に行ったときも好感触って感じだったじゃない。俺は成績で弾かれないか不安で仕方なかったよ」
「それを言ったらお前こそMBCCのミキサーなんだから即戦力って感じでヒゲさんも言ってたじゃんか。……まあ、成績が不安なのはわかんないでもないけど」
「何はともあれ、よかった」
「祝勝会じゃないけど、合格祝いに何か食うか。学食だけど」
「いいね。小腹が空いた頃だったんだ」
今の時間は3限後。2時半くらいだとおやつにはちょうどいい頃合い。第1学食の2階でお好み焼きと紅茶を買って、適当な席に座る。大学祭も終わったし、学期の中盤、それから水曜日だということもあって人はちょっと少ない。
「あっ、タカちゃん。さっき振り」
「あ、果林先輩。さっき振りです」
「ゼミの発表見て来た?」
「はい。おかげさまで無事佐藤ゼミに決まりました」
「おお~、おめでとう」
「ありがとうございます」
第1学食2階には、同じく3限が終わって腹ごしらえをしているらしい果林先輩。2限の体育で会って以来。その授業の中で、今日はゼミの合格発表があるんですよという話はしていたんだ。無事に通ってるといいねと応援してもらって。
「千葉ちゃん、買って来たよ」
「店長ありがとー! あっ店長、この子だよアタシの後輩」
「おー、噂の! 本当に大人しそうな、普通の子やね」
「大人しそうだからって甘く見ちゃダメだよ店長、ミキサーの腕は1年生としてはすっごいんだからね!」
「へー、やっぱMBCCは凄いんやなあ」
「えーと、果林先輩? 「噂の」って…?」
「せっかくだし、一緒にご飯食べる?」
――というワケで、果林先輩と相席をすることに。俺と鵠さんと、果林先輩とメガネをかけた大柄な先輩の4人で。テーブルの上には食べる物が山盛り。果林先輩は当然として、鵠さんもメガネの先輩も食べる量が多いみたいだ。
「店長、名乗っといたら? 今のところまだ謎の人だから」
「そうやね。俺は平田満。学祭の食品ブースで店長やっとったでみんなから店長って呼ばれるようになったんよ」
「高木隆志です」
「鵠沼康平です」
「おー、噂の体育会系やん。康平でええ?」
「いいっすよ」
「えっと果林先輩、その噂のって…?」
「ゼミ希望届と一緒に出したエントリーシートあるでしょ? あれね、今いる2、3年のゼミ生が目を通してこの子は面白そう、この子はなさそうっていう書類選考があるんだよ」
「マジすか」
「マジ。ヒゲが面談したときの印象がある子ならこの子はこういう感じでねって解説が入るんだけど、如何せん倍率が高いから、現役ゼミ生が情報を持ってたらそれも参考にするって感じらしいよ」
へー、と鵠さんと声が揃う。あのエントリーシートにそんな意味があったのか。特に面白いことも書けなかったし、そんな風に選考されてたならエントリーシートの中身的に「絶対面白くない」って見なされて落とされてただろうなと思う。
「今年は何か普通っぽい人が多いっつってヒゲさん退屈そうにしとったでね、そんな中に彗星のごとく登場したゴリゴリの体育会系よ。ヒゲさん、それはもーうテンションバリ上がっとってね」
「は、はあ」
「その体育会系と一緒に来たのが!」
「タカちゃんだよ。ヒゲが待ち侘びたMBCCのミキサーね」
「この子は絶対通すでエントリーシートが面白くなくても合格の箱に入れといてねっつっとったでね」
「実際エントリーシートは面白くないって言ってたもんね」
「あ、やっぱり」
「面白くないって自覚はあったのか」
「まあね。特段変わった趣味もないし」
先輩たちによれば、エントリーシートを見ながらこの子は面白そうだ、この子はそんなでもなさそうだという学生の裁量で合格と不合格が粗方分けられるとのこと。佐藤ゼミ受けしそうな趣味をしていても、性格に難がありそうであればあっさり落とされるとか。
佐藤ゼミの倍率は毎年2倍近くになる。今年は2倍以上あったらしい。50人以上のエントリーから25人を選抜することを考えると、確かに書類である程度はふるいにかけなきゃいけなくなるんだろうなあ。……うん、MBCCのミキサーで良かった。実質無競争当選って本当だったんだ。
「ヒゲはタカちゃんをわかってないなー。エントリーシートは面白くないけど実物はすごく面白いのに」
「千葉ちゃん、あんまおもんないって言ったらん方がええやろ」
「タカちゃんが真価を発揮するのは機材やパソコンに触らせた時だからね。褒めてる褒めてる」
「えーと、俺は本当に褒められてるんでしょうか」
「何にせよ、ゼミには無事通ったんだからいいじゃん? 俺なんかあんま体育会系で期待されてもって感じじゃんな」
そう、何はともあれゼミには通った。その事実は多分覆らないから、これからに期待してていいんだと思う。
「あっそうだタカちゃん」
「はい」
「秋学期の成績。くれっぐれも! よろしくね!」
「あ、あ~……やっぱり引っかかりました?」
「千葉ちゃんめっちゃチクチク言われとったでね」
「タカちゃんの成績のことをアタシに言われてもって感じじゃない!?」
「あ、はい、すみません」
「お前はとりあえず授業中に起きてるところから始めるべきじゃん?」
end.
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ゼミの選考に無事通過したタカちゃんと鵠さんでしたが、やはりTKGはMBCCのミキサーであること以外は難ありのようで
果林からすればタカちゃんの成績のことなんか知らんわって感じですね。授業中に起きてるところから始めよう。
恐らくは現役生からおもんないって言われまくってるであろうTKGですね。きっと果林がいろいろフォローしてんだろうねえ
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大学祭の頃に提出したゼミ希望届。第1希望から第3希望までを書いて、ゼミによっては必要になる専用エントリーシートを添付したりして提出するそれだ。その届を出したことも少し忘れかけていた頃、社会学部のお知らせとして「新2年生所属ゼミ掲示」という項目が加えられていた。
俺は鵠さんと一緒にその掲示がされている社会学部棟、5号館に足を運んだ。学部のお知らせはスマホアプリになってるのに、所属ゼミの発表は学籍番号が書かれた紙が掲示されるという、かなりアナログな方式。まあ、これくらいなら紙の発表でも問題ないのかな。
「えーっと……あっ、あった」
「俺もあった。はー、学科違うからどうなるかと思ったけど、無事に通れたじゃん? よかったよかった」
「鵠さんは面談に行ったときも好感触って感じだったじゃない。俺は成績で弾かれないか不安で仕方なかったよ」
「それを言ったらお前こそMBCCのミキサーなんだから即戦力って感じでヒゲさんも言ってたじゃんか。……まあ、成績が不安なのはわかんないでもないけど」
「何はともあれ、よかった」
「祝勝会じゃないけど、合格祝いに何か食うか。学食だけど」
「いいね。小腹が空いた頃だったんだ」
今の時間は3限後。2時半くらいだとおやつにはちょうどいい頃合い。第1学食の2階でお好み焼きと紅茶を買って、適当な席に座る。大学祭も終わったし、学期の中盤、それから水曜日だということもあって人はちょっと少ない。
「あっ、タカちゃん。さっき振り」
「あ、果林先輩。さっき振りです」
「ゼミの発表見て来た?」
「はい。おかげさまで無事佐藤ゼミに決まりました」
「おお~、おめでとう」
「ありがとうございます」
第1学食2階には、同じく3限が終わって腹ごしらえをしているらしい果林先輩。2限の体育で会って以来。その授業の中で、今日はゼミの合格発表があるんですよという話はしていたんだ。無事に通ってるといいねと応援してもらって。
「千葉ちゃん、買って来たよ」
「店長ありがとー! あっ店長、この子だよアタシの後輩」
「おー、噂の! 本当に大人しそうな、普通の子やね」
「大人しそうだからって甘く見ちゃダメだよ店長、ミキサーの腕は1年生としてはすっごいんだからね!」
「へー、やっぱMBCCは凄いんやなあ」
「えーと、果林先輩? 「噂の」って…?」
「せっかくだし、一緒にご飯食べる?」
――というワケで、果林先輩と相席をすることに。俺と鵠さんと、果林先輩とメガネをかけた大柄な先輩の4人で。テーブルの上には食べる物が山盛り。果林先輩は当然として、鵠さんもメガネの先輩も食べる量が多いみたいだ。
「店長、名乗っといたら? 今のところまだ謎の人だから」
「そうやね。俺は平田満。学祭の食品ブースで店長やっとったでみんなから店長って呼ばれるようになったんよ」
「高木隆志です」
「鵠沼康平です」
「おー、噂の体育会系やん。康平でええ?」
「いいっすよ」
「えっと果林先輩、その噂のって…?」
「ゼミ希望届と一緒に出したエントリーシートあるでしょ? あれね、今いる2、3年のゼミ生が目を通してこの子は面白そう、この子はなさそうっていう書類選考があるんだよ」
「マジすか」
「マジ。ヒゲが面談したときの印象がある子ならこの子はこういう感じでねって解説が入るんだけど、如何せん倍率が高いから、現役ゼミ生が情報を持ってたらそれも参考にするって感じらしいよ」
へー、と鵠さんと声が揃う。あのエントリーシートにそんな意味があったのか。特に面白いことも書けなかったし、そんな風に選考されてたならエントリーシートの中身的に「絶対面白くない」って見なされて落とされてただろうなと思う。
「今年は何か普通っぽい人が多いっつってヒゲさん退屈そうにしとったでね、そんな中に彗星のごとく登場したゴリゴリの体育会系よ。ヒゲさん、それはもーうテンションバリ上がっとってね」
「は、はあ」
「その体育会系と一緒に来たのが!」
「タカちゃんだよ。ヒゲが待ち侘びたMBCCのミキサーね」
「この子は絶対通すでエントリーシートが面白くなくても合格の箱に入れといてねっつっとったでね」
「実際エントリーシートは面白くないって言ってたもんね」
「あ、やっぱり」
「面白くないって自覚はあったのか」
「まあね。特段変わった趣味もないし」
先輩たちによれば、エントリーシートを見ながらこの子は面白そうだ、この子はそんなでもなさそうだという学生の裁量で合格と不合格が粗方分けられるとのこと。佐藤ゼミ受けしそうな趣味をしていても、性格に難がありそうであればあっさり落とされるとか。
佐藤ゼミの倍率は毎年2倍近くになる。今年は2倍以上あったらしい。50人以上のエントリーから25人を選抜することを考えると、確かに書類である程度はふるいにかけなきゃいけなくなるんだろうなあ。……うん、MBCCのミキサーで良かった。実質無競争当選って本当だったんだ。
「ヒゲはタカちゃんをわかってないなー。エントリーシートは面白くないけど実物はすごく面白いのに」
「千葉ちゃん、あんまおもんないって言ったらん方がええやろ」
「タカちゃんが真価を発揮するのは機材やパソコンに触らせた時だからね。褒めてる褒めてる」
「えーと、俺は本当に褒められてるんでしょうか」
「何にせよ、ゼミには無事通ったんだからいいじゃん? 俺なんかあんま体育会系で期待されてもって感じじゃんな」
そう、何はともあれゼミには通った。その事実は多分覆らないから、これからに期待してていいんだと思う。
「あっそうだタカちゃん」
「はい」
「秋学期の成績。くれっぐれも! よろしくね!」
「あ、あ~……やっぱり引っかかりました?」
「千葉ちゃんめっちゃチクチク言われとったでね」
「タカちゃんの成績のことをアタシに言われてもって感じじゃない!?」
「あ、はい、すみません」
「お前はとりあえず授業中に起きてるところから始めるべきじゃん?」
end.
++++
ゼミの選考に無事通過したタカちゃんと鵠さんでしたが、やはりTKGはMBCCのミキサーであること以外は難ありのようで
果林からすればタカちゃんの成績のことなんか知らんわって感じですね。授業中に起きてるところから始めよう。
恐らくは現役生からおもんないって言われまくってるであろうTKGですね。きっと果林がいろいろフォローしてんだろうねえ
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