2017(02)

■消えない心配事

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「つばちゃ~ん、手振ってみてくれる~?」
「おーい!」
「どう? ゲンゴロー、見える?」
「あんまりよく見えませんね」

 今日やってきたのは丸の池公園のステージ。つまり現地での練習。その主な目的は、ゲンゴローに当日のイメージを掴んでもらうため。ミキサーとして1時間回してもらわなきゃいけないしね。
 普通なら、ちゃんと配属先が決まった子でもパートは決まってない頃だし、ステージにそこまでガッツリと絡んでくることはまだないかなって。でも朝霞班の場合は即戦力だし、少しでも感じを掴んでもらいたい。

「このステージが階段状になってるでしょ? 最上段は幅13.5メートル。でも、下って行くと幅が長くなるのはわかるよね」
「はい」
「一番下まで行くと20メートルくらいはあるんじゃないかな。見た目よりも距離があるし、段差があるから死角が出て来る」
「なるほど」
「もちろん俺は基本的に壇上にいるけど、つばちゃんや朝霞クンは同じ場所にいることはそうそうないから。安定して同じ場所にいるのは俺とゲンゴローだけ。わかる?」
「はい」
「だから、ゲンゴローがPとDの中継になることだって出て来る」

 普通の班の場合、どんなに少なくても班員は6人以上。それに対して朝霞班は4人。自由に動き回れるのはPとDのみ。って言うか普通Pって動かずに全体を見てるモンなんだけどね。その辺は仕方なく。

「それとねゲンゴロー。……つばちゃ~ん!」
「はーい!」
「一応ワイヤレスマイクの使い方も覚えといてくれる? ここからはつばちゃん、お願いネ」

 機材的なことに関してはつばちゃんにお任せして、俺は木陰の木製ベンチでステージ全景を目に入れる朝霞Pの横に腰掛けた。ワイヤレスだなんて物騒な物、使わないに越したことはないんだけど本当は。

「ワイヤレスの使い方を教えてるのか」
「本番中の“事故”にも備えなきゃでしょ」
「そうだな」

 朝霞班になってから最初の活動。それはまだ俺たちが2年生だった頃。部の活動という体で幼稚園の子たちとのふれあいイベントに出ることになったとき。その練習中に、マイクケーブルを切られたのだ。
 明らかに人為的に切られた断面だったし、ああ、嫌がらせなんだなって。その時は練習だったからよかったけど、またあの時のようなことがないとも限らない。10メートルオーバーのケーブルなんて安い物でもないのに。

「それに、手が要る時はつばちゃんもケーブル捌いてる場合じゃないし」
「まあな。極論を言えばワイヤレスのピンマイクかヘッドセットがあればってトコだけど」
「あはは、そんな物があったら俺、とんでもないコトになっちゃうよ」
「ああ。だからそれは願望のままでも問題ない。お前はケーブルで多少自由がなくなってるくらいがちょうどいい」

 本来は“事故”への想定じゃなくてやりたいことを広げるためのワイヤレスであるべきなんだけどな。
 そう言って朝霞クンは腰を上げた。俺も同じように腰を上げ、実際には機材も何も置いてないミキサーブース周辺に向かって歩き出す。スケッチブックを使ったつばちゃんの講習も佳境。

「どうだ源、実際に来てみて」
「敷地が広いですよね。去年ゲームしに来てた時はそんなに意識しませんでしたけど」
「ああ。それに、何だかんだで人は来る。俺たちは来てくれた人たちにいかに楽しんでもらうかっていうのを大事にしてる。だから、まずは俺たちが楽しむ」
「何か、そこのベンチとかに人が座って見てるのかなって思ったらワクワクしてきました」
「いいね~ゲンゴロー、その意気でしょでしょ~」

 まずは、来てくれた人たちが俺たちの作る世界に入りやすくなるような空気を作ること。それもステージスターの腕だけど、まずはみんなで思いっきり楽しむこと。それが一番大事。
 事故でも事件でも何でもいいけど、俺は気にし過ぎてるかもしれない。それでも起こり得ることには最大限の想定をした上で、ネ。何もなければそれでオッケーなんだから。


end.


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洋平ちゃんは基本的にネガティブと言うか用心深いので、起こり得る事故などへの想定はしっかりやっておく方。
病み上がりPはみんなを見ながら木陰でいろいろ考えてたのかしら。つばゴローは技術的な話を少々。実際にはないのでエアで。
仮にワイヤレスのピンマイクやヘッドセットがあったらあったで朝霞Pの頭の中で動く洋平ちゃんもわーってなるから多少はね。

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