2019(03)
■1111
++++
「じゃがりこタワー」
「よーし」
「ケーキ」
「よーし」
「クラッカー」
「よーし」
「はい。これでいつヒビキが来ても大丈夫だね」
今日、11月11日はヒビキの誕生日。だから、ABCでは盛大にヒビキの誕生会を開くことに。ヒビキの誕生会も今年で3回目。ヒビキの代名詞にもなってるじゃがりこで作るタワーも3回目にもなればその規模がどんどん大きくなって、今では直クンの身長も超えちゃってる。
それこそタワー用に何ケースもじゃがりこを買ってくるんだけど、建設するのもイベントみたくなっちゃってるよね。今年は直クンを建築リーダーに、サドニナが周りで危ないことをしないかどうかをKちゃんがきっちり見張っててた。タワーが完成した瞬間みんな写真撮影してたよね、大きさ比較用の人間を立たせて。
「おは」
「ヒビキ先輩来たっ!」
「うわっ、ナニ! クラッカー早い!」
「あっ、アヤネちゃん!」
「サドニナ、急いでクラッカーの屑片付けて!」
「えー、そのままで良くないですか~? 何で可愛いサドニナが~」
「良くない! アンタが散らかしたんだからアンタが片付けなさい!」
もちろん、このパーティーはヒビキには内緒で準備されている。まあ、3回目だからもしかしてってくらいには思われてるだろうけど。サドニナにクラッカーを浴びせられたアヤネちゃんを慌てて部屋の中に引き込んで、鉄扉を閉める。
「もー、ビックリして瓶落としてたら事件よ~?」
「ゴメンね、みんなヒビキはまだかなって気持ちが逸っちゃってて」
「わかんないでもないけどさ」
「あっ、もしかしてジュース持ってきてくれたの?」
「そーよ、あー重かった」
縦ロールのツインテールとロリータファッションが特徴のアヤネちゃんはABCの3年生だけど、事情があって今年はあまりサークルには来れていなかった。大学祭の頃は水面下で準備を手伝ってくれて、喫茶のメニュー表作りとメニューの中にあるブドウジュースの調達を主に担ってくれていた。
ヒビキの誕生会があることはアヤネちゃんにもヒメちゃんにも知らせてあって、アヤネちゃんは「ジュース持って行きます」と、ヒメちゃんからは「仕事終わってまだやってたら教えて」とそれぞれ連絡をもらっていた。ちなみにヒメちゃんはタレントとしても活動していて、少しずつ忙しくなってるみたい。いいこと。
「アタシの部屋に行けばワインもあるけど、さすがにサークル室じゃね」
「うん、ワインはまた今度かな」
「Kちゃんの分もあるからね、ガッツリ飲んでよ」
「ありがとうございますわざわざ」
「いいなあ啓子、ワイン好きだもんね」
「って言うかテーブルがちょっと殺風景じゃない? いつも通りすぎるって言うか」
「そこまでやる時間がなくってさ」
「甘い。さとちゃん、一瞬ケーキ持ち上げてくれる? 他のみんなも机の上の物一瞬持ち上げて」
アヤネちゃんに言われるままみんなで机の上にあった物を持ち上げると、さっぱりしたところにサッとしかれたサテン風のクロス。そこにグラスを置くようなコースターがセットされて、置いていいよーと号令がかかる。これだけで、ちょっと豪華になった感じがする。
「どーよ、ケーキが映えるでしょうよ」
「確かに。さすがアヤネ先輩」
「せっかくさとちゃんが作ってくれたんだからさあ。どうすればメインを際だたせるかよ。どーせヒビキは写真撮るんだから、それを綺麗にするためにも背景は大事。ま、ちょっとクロス敷いて、コースター敷いただけだけどさ。やんないよりいいでしょう」
「参考になります」
勉強になるなあとユキちゃんも机の上をカシャカシャ写真に収めている。ユキちゃんは生活科学部で衣食住の住に関わることを主に勉強してるから、インテリアにも興味が強いのかも。
「で、一応バゲット持ってきてみたよ」
「バゲット?」
「フランスパンね」
「それはわかるよ」
「せっかくじゃがりこがあるんだからお湯でポテサラ風にして、バゲットに乗っけて食べる。付け合わせにチーズ。1コだけワイングラス用意してるからそこにブドウジュースを注いで写真撮ったらちょっと盛れない?」
「いつものABCっぽくない」
「いつものABCはその一手間をめんどくさがるもんね」
アヤネちゃんの手によって、あれよあれよと机の上に手が加えられていく。誰かが言ったように、いつもABCが省きがちな一手間が足されてどんどん豪華なパーティーみたいな設営に変わる。1人いるかいないかってだけで本当に変わってくるんだなって感心しちゃう。
本当は、アヤネちゃんにもヒメちゃんにもずっと安心してサークル室に来て欲しかったけど、無理強いは出来ないし。今日こうやってアヤネちゃんがここで楽しそうにしてくれてるだけでも十分。アタシたちはもう引退しちゃったけど、こうしてここで全員揃えたらなっていう気持ちは今でもある。
アタシたち4人がここで積み重ねるはずだった時間は奪われてしまったし、そのきっかけになったあの人を許すつもりは毛頭ない。アタシたちだけじゃなくて、2年生も傷つけられた憎しみは今でも募るばかり。だけど、せめて今からでも楽しいことがあった場所としての記憶が占める割合を増やしたい。
「はい、アヤネちゃんもクラッカー」
「ヒビキが来たらパン?」
「うん」
「さっき思いっきり顔面にクラッカー食らったんだけど、扉側の子距離感大丈夫?」
「ちょっ、サドニナ! アンタヒビキ先輩の顔面狙ってたでしょ!」
「何のことかわかんないで~す。でもアヤネ先輩はごめんなさ~い。サドニナの可愛さに免じて許してくれますよねっ」
「そんなんで誰が許すと思ってんの! もっとちゃんと謝りなさい!」
「まあまあ啓子、せっかくのパーティーなんだから」
「そうですよKちゃんせんぱ~い、楽しい場なんですから~」
サドニナの挑発にKちゃんが怒りを爆発させ、みんなわあわあと大騒ぎ。もっとやれと煽るユキちゃんに、ひいいと怯えるなっちゃん。じゃがりこタワーとケーキだけは守ってねと直クンとさとちゃんに指示を出す。
「紗希、Kちゃん大変そうだね」
「サドニナとKちゃんはいつもこんな感じだから」
「他の子たちも、楽しそうで何より。紗希、1年間用心棒役お疲れさまです」
「まだ終わってないから気は抜けないけどね。ヒビキもいるから。アタシばっかりじゃないよ」
「1年逃げ回ってて何も出来なかったね。ゴメン」
「ううん、またここに来てくれただけでいいよ」
「ああ、そうだ紗希。ちえみだけどさ」
「うん」
「仕事って体になってるでしょ?」
「うん。仕事終わってまだやってたら教えてって」
「あれホントはウソでさ。ヒビキがここに来てちょっとしたら現れるってサプライズ仕掛けてんだよ。内緒ね」
「4人揃う?」
「うん」
「……ヒビキもきっと喜ぶと思う」
そうとなったら、アタシもクラッカーを握ってそろそろ本格的にヒビキを待とう。ヒビキが来ないと何も始まらない。わあわあと騒いでいた1、2年生にも列を作るよう促して。さ、パーティーを始めよう!
end.
++++
11月11日のポッキー&プリッツの日はヒビキ誕ということで、例によってABCのパーティーです。
今回はアヤネことレオンにひっかき回してもらいたいなと思ってこんな形に。でも青女と言えばシーナさんのもたらした闇なので、その件にも少し。
青女3年生が4人揃ったら3年生本人たちも嬉しいだろうけど、きっと2年生も自分たちのことのように喜びそうだから何とも言えませんね
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「じゃがりこタワー」
「よーし」
「ケーキ」
「よーし」
「クラッカー」
「よーし」
「はい。これでいつヒビキが来ても大丈夫だね」
今日、11月11日はヒビキの誕生日。だから、ABCでは盛大にヒビキの誕生会を開くことに。ヒビキの誕生会も今年で3回目。ヒビキの代名詞にもなってるじゃがりこで作るタワーも3回目にもなればその規模がどんどん大きくなって、今では直クンの身長も超えちゃってる。
それこそタワー用に何ケースもじゃがりこを買ってくるんだけど、建設するのもイベントみたくなっちゃってるよね。今年は直クンを建築リーダーに、サドニナが周りで危ないことをしないかどうかをKちゃんがきっちり見張っててた。タワーが完成した瞬間みんな写真撮影してたよね、大きさ比較用の人間を立たせて。
「おは」
「ヒビキ先輩来たっ!」
「うわっ、ナニ! クラッカー早い!」
「あっ、アヤネちゃん!」
「サドニナ、急いでクラッカーの屑片付けて!」
「えー、そのままで良くないですか~? 何で可愛いサドニナが~」
「良くない! アンタが散らかしたんだからアンタが片付けなさい!」
もちろん、このパーティーはヒビキには内緒で準備されている。まあ、3回目だからもしかしてってくらいには思われてるだろうけど。サドニナにクラッカーを浴びせられたアヤネちゃんを慌てて部屋の中に引き込んで、鉄扉を閉める。
「もー、ビックリして瓶落としてたら事件よ~?」
「ゴメンね、みんなヒビキはまだかなって気持ちが逸っちゃってて」
「わかんないでもないけどさ」
「あっ、もしかしてジュース持ってきてくれたの?」
「そーよ、あー重かった」
縦ロールのツインテールとロリータファッションが特徴のアヤネちゃんはABCの3年生だけど、事情があって今年はあまりサークルには来れていなかった。大学祭の頃は水面下で準備を手伝ってくれて、喫茶のメニュー表作りとメニューの中にあるブドウジュースの調達を主に担ってくれていた。
ヒビキの誕生会があることはアヤネちゃんにもヒメちゃんにも知らせてあって、アヤネちゃんは「ジュース持って行きます」と、ヒメちゃんからは「仕事終わってまだやってたら教えて」とそれぞれ連絡をもらっていた。ちなみにヒメちゃんはタレントとしても活動していて、少しずつ忙しくなってるみたい。いいこと。
「アタシの部屋に行けばワインもあるけど、さすがにサークル室じゃね」
「うん、ワインはまた今度かな」
「Kちゃんの分もあるからね、ガッツリ飲んでよ」
「ありがとうございますわざわざ」
「いいなあ啓子、ワイン好きだもんね」
「って言うかテーブルがちょっと殺風景じゃない? いつも通りすぎるって言うか」
「そこまでやる時間がなくってさ」
「甘い。さとちゃん、一瞬ケーキ持ち上げてくれる? 他のみんなも机の上の物一瞬持ち上げて」
アヤネちゃんに言われるままみんなで机の上にあった物を持ち上げると、さっぱりしたところにサッとしかれたサテン風のクロス。そこにグラスを置くようなコースターがセットされて、置いていいよーと号令がかかる。これだけで、ちょっと豪華になった感じがする。
「どーよ、ケーキが映えるでしょうよ」
「確かに。さすがアヤネ先輩」
「せっかくさとちゃんが作ってくれたんだからさあ。どうすればメインを際だたせるかよ。どーせヒビキは写真撮るんだから、それを綺麗にするためにも背景は大事。ま、ちょっとクロス敷いて、コースター敷いただけだけどさ。やんないよりいいでしょう」
「参考になります」
勉強になるなあとユキちゃんも机の上をカシャカシャ写真に収めている。ユキちゃんは生活科学部で衣食住の住に関わることを主に勉強してるから、インテリアにも興味が強いのかも。
「で、一応バゲット持ってきてみたよ」
「バゲット?」
「フランスパンね」
「それはわかるよ」
「せっかくじゃがりこがあるんだからお湯でポテサラ風にして、バゲットに乗っけて食べる。付け合わせにチーズ。1コだけワイングラス用意してるからそこにブドウジュースを注いで写真撮ったらちょっと盛れない?」
「いつものABCっぽくない」
「いつものABCはその一手間をめんどくさがるもんね」
アヤネちゃんの手によって、あれよあれよと机の上に手が加えられていく。誰かが言ったように、いつもABCが省きがちな一手間が足されてどんどん豪華なパーティーみたいな設営に変わる。1人いるかいないかってだけで本当に変わってくるんだなって感心しちゃう。
本当は、アヤネちゃんにもヒメちゃんにもずっと安心してサークル室に来て欲しかったけど、無理強いは出来ないし。今日こうやってアヤネちゃんがここで楽しそうにしてくれてるだけでも十分。アタシたちはもう引退しちゃったけど、こうしてここで全員揃えたらなっていう気持ちは今でもある。
アタシたち4人がここで積み重ねるはずだった時間は奪われてしまったし、そのきっかけになったあの人を許すつもりは毛頭ない。アタシたちだけじゃなくて、2年生も傷つけられた憎しみは今でも募るばかり。だけど、せめて今からでも楽しいことがあった場所としての記憶が占める割合を増やしたい。
「はい、アヤネちゃんもクラッカー」
「ヒビキが来たらパン?」
「うん」
「さっき思いっきり顔面にクラッカー食らったんだけど、扉側の子距離感大丈夫?」
「ちょっ、サドニナ! アンタヒビキ先輩の顔面狙ってたでしょ!」
「何のことかわかんないで~す。でもアヤネ先輩はごめんなさ~い。サドニナの可愛さに免じて許してくれますよねっ」
「そんなんで誰が許すと思ってんの! もっとちゃんと謝りなさい!」
「まあまあ啓子、せっかくのパーティーなんだから」
「そうですよKちゃんせんぱ~い、楽しい場なんですから~」
サドニナの挑発にKちゃんが怒りを爆発させ、みんなわあわあと大騒ぎ。もっとやれと煽るユキちゃんに、ひいいと怯えるなっちゃん。じゃがりこタワーとケーキだけは守ってねと直クンとさとちゃんに指示を出す。
「紗希、Kちゃん大変そうだね」
「サドニナとKちゃんはいつもこんな感じだから」
「他の子たちも、楽しそうで何より。紗希、1年間用心棒役お疲れさまです」
「まだ終わってないから気は抜けないけどね。ヒビキもいるから。アタシばっかりじゃないよ」
「1年逃げ回ってて何も出来なかったね。ゴメン」
「ううん、またここに来てくれただけでいいよ」
「ああ、そうだ紗希。ちえみだけどさ」
「うん」
「仕事って体になってるでしょ?」
「うん。仕事終わってまだやってたら教えてって」
「あれホントはウソでさ。ヒビキがここに来てちょっとしたら現れるってサプライズ仕掛けてんだよ。内緒ね」
「4人揃う?」
「うん」
「……ヒビキもきっと喜ぶと思う」
そうとなったら、アタシもクラッカーを握ってそろそろ本格的にヒビキを待とう。ヒビキが来ないと何も始まらない。わあわあと騒いでいた1、2年生にも列を作るよう促して。さ、パーティーを始めよう!
end.
++++
11月11日のポッキー&プリッツの日はヒビキ誕ということで、例によってABCのパーティーです。
今回はアヤネことレオンにひっかき回してもらいたいなと思ってこんな形に。でも青女と言えばシーナさんのもたらした闇なので、その件にも少し。
青女3年生が4人揃ったら3年生本人たちも嬉しいだろうけど、きっと2年生も自分たちのことのように喜びそうだから何とも言えませんね
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