2019(03)

■coming down with a cold

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「へっ……くしょん」
「さっきからどうしたノサカ、風邪か」
「ええ、そうかもしれません。申し訳ございません、菜月先輩にうつしてしまうようなことがあってはいけませんし、購買でマスクを買ってくるべきでした」

 MMPサークル室には咳やくしゃみの声に、鼻をすする音なんかが響いていた。うちはピンピンしてるけど、さっきからくしゃみを連発しているノサカに咳をするりっちゃん、鼻をかんでいるカンザキと、これは明らかに流行が始まっているなと察するには十分だった。
 奈々に関しても熱が出てそもそも大学に来ていないのでサークルは休みますという連絡が圭斗からあった。どうして圭斗からうちにその連絡が流されてきたのかと言えば、圭斗は定例会で留守にするからだ。今日の定例会は代替わりの役職発表という重大な回のはずだけど、戦争がどうしたとぶつぶつ言っていたのが不気味だった。

「おはよーございます」
「ヒロ、何かいつにも増してヒドそうだな」
「多分カゼひきました。どーせいつもの鼻炎やろ思て放置しとったら、どんどんしんどくなってきて」
「その結果俺が風邪をうつされて現在に至ります」
「私は野坂さんからうつされたのではないかと」
「じャー自分はこーたからうつされた体にしてぶっコロしやスわ」
「それは言いがかりでしょう!」

 2年生のノリは相変わらずだけど、どうやらMMP内における風邪のプチ流行の起点はヒロでいいようだ。確かに、ヒロがちょっと鼻をすすってたところで「またか」「鼻炎か」くらいにしか思わないんだよなあ。慢性鼻炎持ちだから、風邪の鼻水と鼻炎のそれが区別出来なかったらしい。
 そんなヒロと一緒にいることの多いノサカはヒロからうつされたとしてもおかしくはない。理系の2年生はほとんど学部固有で履修が埋まっているらしく、大体同じ授業を受けることになるとか。ノサカによれば、最近のヒロは珍しく真面目に授業を受けていたので大体自分と一緒にいた、とのこと。
 カンザキとりっちゃんがどこから風邪を拾ってきたかは知らないけど、どこかしらで拾って発症してるんだから、十分大変そうだ。そもそも来れてない奈々が一番しんどそうなのかもしれない。そう考えると、1人だけピンピンしてるうちがおかしいんじゃないかとすら思えてきた。

「おはよー。あれっ、何か2年生死んでない?」
「何だ三井、お前はピンピンしてるな」
「俺は元気だよ。どうかした?」
「見ての通り、2年生が全員風邪で死んでるんだ」
「あっちゃー、大変だね。マスクとか持ってないの?」
「ものの見事に全員ないらしい」
「あらそう。仕方ないからさっき購買で買ったヤツあげるよ。5枚入ってるから全員に行き渡るでしょ?」
「そういうことだから2年生、お前たちは全員マスクをしてくれ」
「は~い……」

 たまたま三井が買って来ていたマスクを2年生で分け合い、見事にマスクの集団が出来上がった。ヒロとりっちゃんはどこがメガネの曇らないポイントかを探すのに忙しいらしい。何せここから購買までは徒歩15分。それを買いに行くにも往復30分であることを考えると今日のところは三井様々だ。

「ところで、お前はどうしてマスクを買ったんだ? そんなにピンピンしてるのに」
「バイト先がスーパーのレジ打ちだし、不特定多数の人と接するからね。急に寒くなったし今年はインフルの流行も早いらしいからちょっと気をつけようと思ってさ」
「三井の言ってることが珍しくド正論で突っ込みどころがない」
「えっ、俺の言ってるコトって突っ込みどころを探すものなの!?」
「まあ、おかしいのが基本だと思ってるからなあ」
「そりゃないよ~」

 うちが三井としょうもない雑談をしている間にも咳やくしゃみを連発してる声がしてるから、マスクがあって大正解だ。5枚入りマスクが4枚なくなったことに対しては、バイトに残り1枚をしていってその場でもう1回買うから問題ない、と。この件で2年生に対して恩着せがましくならないかどうかだけが心配だ。

「菜月も今のところは元気そうだね」
「うちはちょっと寒くなったくらいじゃ何ともないからな」
「ああ~、緑風は向島より寒いからみたいなこと?」
「かなあ、知らないけど。冬の風邪には強い方だと思うぞ」
「その代わり夏風邪をやるんでしょ?」
「ウルサイ。それはそうと、この調子じゃ今日のサークル後のご飯はなしかあ、圭斗もいないし。何食べよう、肉まんとかでいいかな」

 圭斗と書いて車とか足と読むような感じ。サークル後にご飯を食べに行かないとなれば、ここから帰るのもまた徒歩だ。徒歩25分の道のりをただただ下って帰るのだ。いや、食べるものを買いにコンビニに寄りたいから、30分はかかるだろう。ただ帰宅途中にご飯を買うだけでも徒歩だと時間がかかる。

「あっ、そしたら菜月、俺と食べに行かない?」
「えー? お前と食べに行くとか、必然的にうちは徒歩じゃないか。サークルが終わって7時、下界まで降りて7時半、それから徒歩で食べに行く? ヤなこった。うちはおうちに引きこもってゆっくりしたいんだ」
「奢るから行こうよ。聞いて欲しい話もあるしさ」
「面白い話だろうな」
「授業中にしてる筆談の続きだよ」
「じゃあ付き合ってやる。だけどその話は相談の体だろ? 相談ってことは相談料はもらうからな」
「奢るって言ってるじゃない」
「ご飯に付き合うのはいいけど、今日だと遅くなるから明日とかにしてくれないか。それなら授業終わりで行けるし」
「わかったよ。それじゃあ明日ご飯ね。行くところは俺が決めるし」
「うちはお前の選択に従うぞ」

 あれよあれよと三井とご飯に行く約束になったところで2年生たちに目をやると、やっぱり死んでいる。代替わりで2年生に実権が移ってるはずなのに、元気なのが3年生だけっていうな。

「三井、2年生が死んでるし暇潰しにうちとお前の即興でお遊び番組でもやるか? お前がミキサーかマルチで」
「そうだね、やろうか。菜月と2人でトランプとかスーファミしてても卑怯なことばっかりしてくるから勝てないし」
「お前は一言余計なんだ。誰が卑怯って?」
「あーゴメンゴメン、ラブ&ピースね」


end.


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どうやらMMP内で風邪が流行りだしたようですが、三井サンに毒気がないのもある種の病気に見えてくるなど。
今回の三井サンは放送論などに関わらないのでいい方の三井サンですが、菜月さんの財布としての働きは安定の様子。
そういやMMPのサークル室にはゲームがあるんでしたね。ただ菜圭がスーファミしてる話がやりたい

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