2019(03)
■詰め寄り方は慌てず焦らず
++++
「ヤス、学祭の動画が上がったけど、どうする?」
「どーするもこーするも! 見ますよ!」
大学祭が終わって菅野班は解散、班長をヤスに引き継ぎその名を小林班に変えた。代替わりで3年に亘って曲を生み出し続けたカンという稀代の作曲家がいなくなり、小林班がこれからどういったステージのスタイルを採っていくのかは知る由もない。だけど、これまで通り歌ったり踊ったりをメインにしたいとはヤス談。
菅野班班長としての最後の仕事が、学祭で撮っていた映像の引き渡しだ。ステージでは、その記録として映像を残す班が多い。ウチも例外ではなく、先日の学祭でもしっかりと撮影していた。元々撮るつもりではあったけど、ヤスがとにかく動画に残せってウルサかったのもある。
「泰稚さんもーちょっとデカい画面にならないすか?」
「今はこれが限度だ。贅沢言うな。大きな画面で見たければそれ相応の場所に移動することになるけど」
「まあ、今は一刻も早く動画のチェックをしないと。俺がカッコよく映ってるか確認しないといけないっすからね」
「はーっ……本当によくやる」
「だって野坂君が楽しみにしてくれてるはずなんす! カッコよくキメたいじゃないすか!」
ヤスには最近憧れの人が出来たらしい。向島大学に進んだ後輩……ヤスにとっては同期か。高校の部活の後輩である神崎耕太の大学での友達の、野坂君という男子だ。曰く向島大学の理系で成績がオールSという秀才で、運動神経も抜群、顔もイケメン、性格もいいとはヤス談。こーたに聞いても性格の話以外は事実だそうだ。
何故かはわからないけどヤスは彼に熱を上げている。多分、初対面の時に勉強を教えてもらうなどして優しくしてもらったのがオチた大きな要因だろう、知らないけど。遊ぶ約束を取り付けるにも緊張した様子だし、カッコつけたがる。ステージの映像は自分をカッコよく撮ってくれと言ったのも彼に見せるからという理由だ。
それが憧れなのかそれを拗らせた色恋に似た何かなのかは知らない。だけど、高校から数えて5年目になるヤスとの付き合いの中で、ここまで人に対して執着したのを見たことがないし、いいところを見せようとしている姿も初めて見る。本人曰く今は友情を築く段階らしいけど、果たして。
「そう言えば、昨日SDXの打ち合わせがあって」
「あっ、そーだったんすか」
「そこでこの動画をプロさんとソルさんに見せたんだよ」
「マジすか。何か言ってました?」
「ソルさんがベース褒めてた。カッコいい音だって。例によってカンは作編曲した俺の方がすげーだろーがよってキーキー言ってたけど」
「カンさんのそれはデフォっすし。まーあの人が凄いのは事実っすけどね」
俺たちが部活を引退したのと、社畜モード全開だったソルさんの仕事が落ち着いてきて定時で帰れるようになってきたというのもあって、久々にSDXの打ち合わせが行われていた。そこでそれまでの活動報告じゃないけど、こんなことをしてましたよという話もちょっとしてたんだ。
「はー、でも良かった。いや、待てよ。言ってソルさんてベーシストじゃないすか」
「そうだな」
「一般の人から見てもカッコよさってわかるモンすかね」
「それはそれを見る人の感覚だろ。そこまでは俺も責任は取れない。同じベーシストから認められたんだからいいじゃないか」
「まーそーなんすけど」
70分に亘る映像をいちいち全部は見ていられないから、時折早送りをしながらの確認になる。ヤスはこの曲は俺がカッコいい、この曲は控えめだ、などとチェックをしながら動画を確認している。もしかしてプレゼン用に自分がカッコよく見えるところだけを抜き出して編集するつもりか。今のヤスならやりかねない。
「そうとなったら野坂君のアポ取らないとな。土曜日以外で、いつにしよう」
「ホント、よくやるよな」
「ところで、泰稚さんが星羅さんと付き合う前ってどんな感じだったんすか? デートの頻度とか、どこでどんな風に遊んでたとか」
「何で俺の話が出てくるんだ」
「自分が仲良くなりたいなと思った人と距離を縮めるときの参考にしたいだけっすよ。別に今更冷やかしてどーこーするつもりもないっす」
「友情云々の話だったらカンとの話の方が良くないか。何で恋愛の話になるんだ」
「え、だって泰稚さんとカンさんの話なんかちっとも参考にならないんすもん」
確かに、そう言われればそうかもしれない。カンとは趣味が合って気付いたらこんな感じで一緒にいる時間が長くなってたから、特に距離を縮めようとして縮めていたわけではない。今のヤスが欲しい情報なら、それこそ星羅との馴れ初めの方が参考としては正しいだろう。
「星羅との話もそんなに参考にならないと思うけどな。元々最初に意気投合したのがゲームのことだったから、星羅の家で一緒にゲームしてばっかりだったし。音楽やってる友達ならうちに連れておいでよって誠司さんが招いてくれたのもデカかった」
「そ、そ……その手があったー!」
「どうしたんだ急に」
「こーたからの情報によれば野坂君もゲーム好きなんすよ! そうだ! ゲームの話なら俺もそこそこ出来るし、それだー! さすが泰稚さん、あざーっす!」
「まあ、役に立てたならよかった」
まるでヤスの周りに花が咲いているような、そんな喜びのオーラが溢れている。まあ、俺には頑張れとしか言えないんだけど。
「ねえ泰稚さん、日曜日とかどっすかね!」
「どうして俺に聞いた」
end.
++++
菅野班解散後、その班はコバヤスに引き継がれたようです。まあ、まだ菅野班にはコバヤス以外の1・2年生の気配がないからなあ
さて、学祭が終わったのでここからまたノサカだのコバヤスだのがきゃいきゃいし始めるのでしょうか。するんだろうなあ
2人の話に巻き込まれがちなスガPと神崎はドンマイとしか言いようがないし、この調子だと年末の野坂家にもコバヤスいそう
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「ヤス、学祭の動画が上がったけど、どうする?」
「どーするもこーするも! 見ますよ!」
大学祭が終わって菅野班は解散、班長をヤスに引き継ぎその名を小林班に変えた。代替わりで3年に亘って曲を生み出し続けたカンという稀代の作曲家がいなくなり、小林班がこれからどういったステージのスタイルを採っていくのかは知る由もない。だけど、これまで通り歌ったり踊ったりをメインにしたいとはヤス談。
菅野班班長としての最後の仕事が、学祭で撮っていた映像の引き渡しだ。ステージでは、その記録として映像を残す班が多い。ウチも例外ではなく、先日の学祭でもしっかりと撮影していた。元々撮るつもりではあったけど、ヤスがとにかく動画に残せってウルサかったのもある。
「泰稚さんもーちょっとデカい画面にならないすか?」
「今はこれが限度だ。贅沢言うな。大きな画面で見たければそれ相応の場所に移動することになるけど」
「まあ、今は一刻も早く動画のチェックをしないと。俺がカッコよく映ってるか確認しないといけないっすからね」
「はーっ……本当によくやる」
「だって野坂君が楽しみにしてくれてるはずなんす! カッコよくキメたいじゃないすか!」
ヤスには最近憧れの人が出来たらしい。向島大学に進んだ後輩……ヤスにとっては同期か。高校の部活の後輩である神崎耕太の大学での友達の、野坂君という男子だ。曰く向島大学の理系で成績がオールSという秀才で、運動神経も抜群、顔もイケメン、性格もいいとはヤス談。こーたに聞いても性格の話以外は事実だそうだ。
何故かはわからないけどヤスは彼に熱を上げている。多分、初対面の時に勉強を教えてもらうなどして優しくしてもらったのがオチた大きな要因だろう、知らないけど。遊ぶ約束を取り付けるにも緊張した様子だし、カッコつけたがる。ステージの映像は自分をカッコよく撮ってくれと言ったのも彼に見せるからという理由だ。
それが憧れなのかそれを拗らせた色恋に似た何かなのかは知らない。だけど、高校から数えて5年目になるヤスとの付き合いの中で、ここまで人に対して執着したのを見たことがないし、いいところを見せようとしている姿も初めて見る。本人曰く今は友情を築く段階らしいけど、果たして。
「そう言えば、昨日SDXの打ち合わせがあって」
「あっ、そーだったんすか」
「そこでこの動画をプロさんとソルさんに見せたんだよ」
「マジすか。何か言ってました?」
「ソルさんがベース褒めてた。カッコいい音だって。例によってカンは作編曲した俺の方がすげーだろーがよってキーキー言ってたけど」
「カンさんのそれはデフォっすし。まーあの人が凄いのは事実っすけどね」
俺たちが部活を引退したのと、社畜モード全開だったソルさんの仕事が落ち着いてきて定時で帰れるようになってきたというのもあって、久々にSDXの打ち合わせが行われていた。そこでそれまでの活動報告じゃないけど、こんなことをしてましたよという話もちょっとしてたんだ。
「はー、でも良かった。いや、待てよ。言ってソルさんてベーシストじゃないすか」
「そうだな」
「一般の人から見てもカッコよさってわかるモンすかね」
「それはそれを見る人の感覚だろ。そこまでは俺も責任は取れない。同じベーシストから認められたんだからいいじゃないか」
「まーそーなんすけど」
70分に亘る映像をいちいち全部は見ていられないから、時折早送りをしながらの確認になる。ヤスはこの曲は俺がカッコいい、この曲は控えめだ、などとチェックをしながら動画を確認している。もしかしてプレゼン用に自分がカッコよく見えるところだけを抜き出して編集するつもりか。今のヤスならやりかねない。
「そうとなったら野坂君のアポ取らないとな。土曜日以外で、いつにしよう」
「ホント、よくやるよな」
「ところで、泰稚さんが星羅さんと付き合う前ってどんな感じだったんすか? デートの頻度とか、どこでどんな風に遊んでたとか」
「何で俺の話が出てくるんだ」
「自分が仲良くなりたいなと思った人と距離を縮めるときの参考にしたいだけっすよ。別に今更冷やかしてどーこーするつもりもないっす」
「友情云々の話だったらカンとの話の方が良くないか。何で恋愛の話になるんだ」
「え、だって泰稚さんとカンさんの話なんかちっとも参考にならないんすもん」
確かに、そう言われればそうかもしれない。カンとは趣味が合って気付いたらこんな感じで一緒にいる時間が長くなってたから、特に距離を縮めようとして縮めていたわけではない。今のヤスが欲しい情報なら、それこそ星羅との馴れ初めの方が参考としては正しいだろう。
「星羅との話もそんなに参考にならないと思うけどな。元々最初に意気投合したのがゲームのことだったから、星羅の家で一緒にゲームしてばっかりだったし。音楽やってる友達ならうちに連れておいでよって誠司さんが招いてくれたのもデカかった」
「そ、そ……その手があったー!」
「どうしたんだ急に」
「こーたからの情報によれば野坂君もゲーム好きなんすよ! そうだ! ゲームの話なら俺もそこそこ出来るし、それだー! さすが泰稚さん、あざーっす!」
「まあ、役に立てたならよかった」
まるでヤスの周りに花が咲いているような、そんな喜びのオーラが溢れている。まあ、俺には頑張れとしか言えないんだけど。
「ねえ泰稚さん、日曜日とかどっすかね!」
「どうして俺に聞いた」
end.
++++
菅野班解散後、その班はコバヤスに引き継がれたようです。まあ、まだ菅野班にはコバヤス以外の1・2年生の気配がないからなあ
さて、学祭が終わったのでここからまたノサカだのコバヤスだのがきゃいきゃいし始めるのでしょうか。するんだろうなあ
2人の話に巻き込まれがちなスガPと神崎はドンマイとしか言いようがないし、この調子だと年末の野坂家にもコバヤスいそう
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