2019(03)
■爪痕を残すなら最後まで
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日曜午後6時。緑大大学祭のメインステージの前がライトアップされ、人がどんどん集まって来る。ステージ前に行くと大祭実行が数字の書かれた紙を配っていて、これが後夜祭の中で行われる抽選会の抽選ナンバーになっているらしい。
今日で大学祭は最終日。ブースの営業は午後4時半までで終了し、それからは撤収作業などに追われていた。そしてブースの撤収作業が一段落した頃、カランコロンと鐘を鳴らして巡回中の飯野が「もうすぐ後夜祭始まるから来いよ」と声を掛けて行ったのだ。
「これ、抽選会の商品ってどんなものがあるんだろう」
「さあな。でも飯野によれば結構いいモンもあるらしいから、それもMBCCで掻っ攫ってやる」
「ブース賞の発表も後夜祭でしたっけ」
「そうらしい」
そう、後夜祭では3日間の大学祭を通じて最も良かったブースに贈られるブース賞というものの発表がある。売り上げや賑わい、大学祭を盛り上げるのに貢献した団体などに贈られるらしい。MBCCではこのブース賞を狙っていた。話によれば、これもなかなかの賞品がもらえるそうだ。
そりゃあもうMBCCはこの大学祭を盛り上げるのに大層貢献したと言えるだろう。女装ミスコンでワンツーフィニッシュしたし、何なら俺だって一応は緑大の準ミスターだの何だのと呼ばれステージ上で担がれてきた。焼きそばの売上だって上々だ。これで俺たちの他にどの団体がブース賞を取れるのかと。
MBCCはメンバー総出で後夜祭にやって来た。抽選会の確率を上げるためでもある。岡崎こそ人の多いところが嫌だという理由で荷物番を買って出たが、その他は大体いるんじゃねえか。これだけいりゃ何かしら抽選も当たるんじゃねえかと思う。
「あっ、始まりましたよ!」
「おっ、ようやくか」
壇上では飯野とアシスタントMCの女が後夜祭を進め始める。3日間に渡る大学祭もいよいよ終わります的な挨拶から入り、後夜祭のタイムテーブルが発表される。まずブース賞の発表があり、お楽しみ大抽選会、その後に大祭実行による火踊りで閉めるらしい。
「それではブース賞の発表です! 今年の緑大祭では最優秀賞が1ブース、優秀賞が3ブース表彰されます。その他にパフォーマンス賞、展示賞、グルメ賞など各部門ごとに投票してもらいました。それでは各賞から発表したいと思います!」
当然、小さい各賞なんざ眼中にねえ。俺らが獲ろうとしてるのはもちろん最優秀賞だ。壇上には小さい賞をもらったブースの代表が呼ばれ、小さな盾と目録が手渡されている。そうじゃねえ、まだ早い。
個人的に最大のライバルは宮ちゃん率いるGREENsの唐揚げ屋と、突如彗星のごとく現れたお米同好会とやらだ。お米同好会のブースは8号館の中という目立たない場所だったが、内容が凄まじく素晴らしかった。美味い米に美味いおとも、その発想があったかと。俺もうっかり普通に金を払って食いに行った。
「それでは優秀賞の発表です! バスケサークルGREENsの唐揚げ、お米同好会・COME※STAND、そして」
「呼ばれるかな、呼ばれないかな」
「バカ高木、俺らは最優秀狙ってんだから呼ばれちゃダメだっていう」
「あそっか」
わああ、と歓声が上がり、優秀賞の発表が終わった。MBCCはまだ呼ばれていない。呼ばれたブースの代表者がそれなりの盾とそれなりの目録を受け取り、スポットライトを浴びている。ただ、壇上に上がった宮ちゃんは若干不服そうだ。
そしていよいよ最優秀賞の発表だ。俺たちが獲るモンだと思っているが、どこにどんな伏兵がいるかわからない。呼ばれるまで油断するな。あれだけ手は尽くしたんだ、使える物も使って来た。呼ばれるものだとは思っているが、まさかもある。
「最優秀賞は……放送サークルMBCCの焼きそば!」
「おおおお! 取ったべ!」
「エイジ取ったね!」
「代表者の方はステージまでお越しくださーい!」
「高崎先輩行って来てくださいっす」
「焼きそばブースの責任者はお前だろ」
「おーいそこの緑大準ミスター、はよ来い。段取りっつーモンがあるんだこっちにも」
つか準ミスターって呼ぶなって何遍言えばわかるんだこのアホは。壇上からマイク越しに飯野からも呼ばれれば、行くしかないだろう。MBCCの代表として壇上へ。最優秀ブース賞の豪勢な盾と結構な目録を受け取ると、より一層歓声が上がる。
「まあ実際今年のMBCCはえげつなかったわな。ミスコンもミスターコンも荒らしてくれちゃって」
「荒らしてはねえだろ」
「まあね、盛り上げてはもらいましたよ」
「それに、焼きそばは純粋に味が良くて売れたと思ってるからな」
「実際グルメ賞でも得票数が最多だったし。今回ダブル受賞はなしなんでそっちの表彰はなしだけど」
「この後の抽選会でもいいモンもらってくから覚悟しとけ」
「うわー、強欲~! はい、最優秀ブース賞は放送サークルMBCCでしたー、あざっしたー! この後は、お待ちかねの大抽選会でーす! 豪華景品がありますのでぜひご参加ください!」
壇上から降りてエージに盾と目録を渡す。食品ブースの代表者はあくまでエージだからだ。まあ、何だかんだと結構しゃしゃり出ちまったけど、最優秀賞も取れたことだし結果オーライだろう。機材カタログも獲って来れたし。
「高木、俺ちょっとこの盾ユノ先輩に預けて来る。抽選会の紙持っといてくれ」
「わかったよ」
「さ、抽選会だ。結構な豪華賞品らしいからな、何がもらえんのか楽しみだ」
ブース賞の発表も一段落したところでいよいよ後夜祭の目玉、大抽選会が始まる。ステージ上にはこんな景品がもらえますよという実際の商品がセッティングされていく。タブレット端末にゲーム機、テーマパークのチケットなど、様々な物があるようだ。
「高崎先輩、とことん取って来る気ですね」
「そりゃあ、これだけ盛り上げたんだから、最後まで獲って来ねえとな」
end.
++++
後夜祭の話は本当のナノスパ初期の頃にやったっきりじゃなかったかしら。というワケで大学祭も終わりです。
今年の緑大祭は本当にMBCCが荒らし回ってたと思うんだけど、本当に突如現れたお米同好会よ……何者だ。モブにするにはちょっと惜しい。
この後の抽選会でまた高崎は壇上に上がりコンパクトヒーターをもらってくることになるのだけど、その後のことはTKG宅にて。
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日曜午後6時。緑大大学祭のメインステージの前がライトアップされ、人がどんどん集まって来る。ステージ前に行くと大祭実行が数字の書かれた紙を配っていて、これが後夜祭の中で行われる抽選会の抽選ナンバーになっているらしい。
今日で大学祭は最終日。ブースの営業は午後4時半までで終了し、それからは撤収作業などに追われていた。そしてブースの撤収作業が一段落した頃、カランコロンと鐘を鳴らして巡回中の飯野が「もうすぐ後夜祭始まるから来いよ」と声を掛けて行ったのだ。
「これ、抽選会の商品ってどんなものがあるんだろう」
「さあな。でも飯野によれば結構いいモンもあるらしいから、それもMBCCで掻っ攫ってやる」
「ブース賞の発表も後夜祭でしたっけ」
「そうらしい」
そう、後夜祭では3日間の大学祭を通じて最も良かったブースに贈られるブース賞というものの発表がある。売り上げや賑わい、大学祭を盛り上げるのに貢献した団体などに贈られるらしい。MBCCではこのブース賞を狙っていた。話によれば、これもなかなかの賞品がもらえるそうだ。
そりゃあもうMBCCはこの大学祭を盛り上げるのに大層貢献したと言えるだろう。女装ミスコンでワンツーフィニッシュしたし、何なら俺だって一応は緑大の準ミスターだの何だのと呼ばれステージ上で担がれてきた。焼きそばの売上だって上々だ。これで俺たちの他にどの団体がブース賞を取れるのかと。
MBCCはメンバー総出で後夜祭にやって来た。抽選会の確率を上げるためでもある。岡崎こそ人の多いところが嫌だという理由で荷物番を買って出たが、その他は大体いるんじゃねえか。これだけいりゃ何かしら抽選も当たるんじゃねえかと思う。
「あっ、始まりましたよ!」
「おっ、ようやくか」
壇上では飯野とアシスタントMCの女が後夜祭を進め始める。3日間に渡る大学祭もいよいよ終わります的な挨拶から入り、後夜祭のタイムテーブルが発表される。まずブース賞の発表があり、お楽しみ大抽選会、その後に大祭実行による火踊りで閉めるらしい。
「それではブース賞の発表です! 今年の緑大祭では最優秀賞が1ブース、優秀賞が3ブース表彰されます。その他にパフォーマンス賞、展示賞、グルメ賞など各部門ごとに投票してもらいました。それでは各賞から発表したいと思います!」
当然、小さい各賞なんざ眼中にねえ。俺らが獲ろうとしてるのはもちろん最優秀賞だ。壇上には小さい賞をもらったブースの代表が呼ばれ、小さな盾と目録が手渡されている。そうじゃねえ、まだ早い。
個人的に最大のライバルは宮ちゃん率いるGREENsの唐揚げ屋と、突如彗星のごとく現れたお米同好会とやらだ。お米同好会のブースは8号館の中という目立たない場所だったが、内容が凄まじく素晴らしかった。美味い米に美味いおとも、その発想があったかと。俺もうっかり普通に金を払って食いに行った。
「それでは優秀賞の発表です! バスケサークルGREENsの唐揚げ、お米同好会・COME※STAND、そして」
「呼ばれるかな、呼ばれないかな」
「バカ高木、俺らは最優秀狙ってんだから呼ばれちゃダメだっていう」
「あそっか」
わああ、と歓声が上がり、優秀賞の発表が終わった。MBCCはまだ呼ばれていない。呼ばれたブースの代表者がそれなりの盾とそれなりの目録を受け取り、スポットライトを浴びている。ただ、壇上に上がった宮ちゃんは若干不服そうだ。
そしていよいよ最優秀賞の発表だ。俺たちが獲るモンだと思っているが、どこにどんな伏兵がいるかわからない。呼ばれるまで油断するな。あれだけ手は尽くしたんだ、使える物も使って来た。呼ばれるものだとは思っているが、まさかもある。
「最優秀賞は……放送サークルMBCCの焼きそば!」
「おおおお! 取ったべ!」
「エイジ取ったね!」
「代表者の方はステージまでお越しくださーい!」
「高崎先輩行って来てくださいっす」
「焼きそばブースの責任者はお前だろ」
「おーいそこの緑大準ミスター、はよ来い。段取りっつーモンがあるんだこっちにも」
つか準ミスターって呼ぶなって何遍言えばわかるんだこのアホは。壇上からマイク越しに飯野からも呼ばれれば、行くしかないだろう。MBCCの代表として壇上へ。最優秀ブース賞の豪勢な盾と結構な目録を受け取ると、より一層歓声が上がる。
「まあ実際今年のMBCCはえげつなかったわな。ミスコンもミスターコンも荒らしてくれちゃって」
「荒らしてはねえだろ」
「まあね、盛り上げてはもらいましたよ」
「それに、焼きそばは純粋に味が良くて売れたと思ってるからな」
「実際グルメ賞でも得票数が最多だったし。今回ダブル受賞はなしなんでそっちの表彰はなしだけど」
「この後の抽選会でもいいモンもらってくから覚悟しとけ」
「うわー、強欲~! はい、最優秀ブース賞は放送サークルMBCCでしたー、あざっしたー! この後は、お待ちかねの大抽選会でーす! 豪華景品がありますのでぜひご参加ください!」
壇上から降りてエージに盾と目録を渡す。食品ブースの代表者はあくまでエージだからだ。まあ、何だかんだと結構しゃしゃり出ちまったけど、最優秀賞も取れたことだし結果オーライだろう。機材カタログも獲って来れたし。
「高木、俺ちょっとこの盾ユノ先輩に預けて来る。抽選会の紙持っといてくれ」
「わかったよ」
「さ、抽選会だ。結構な豪華賞品らしいからな、何がもらえんのか楽しみだ」
ブース賞の発表も一段落したところでいよいよ後夜祭の目玉、大抽選会が始まる。ステージ上にはこんな景品がもらえますよという実際の商品がセッティングされていく。タブレット端末にゲーム機、テーマパークのチケットなど、様々な物があるようだ。
「高崎先輩、とことん取って来る気ですね」
「そりゃあ、これだけ盛り上げたんだから、最後まで獲って来ねえとな」
end.
++++
後夜祭の話は本当のナノスパ初期の頃にやったっきりじゃなかったかしら。というワケで大学祭も終わりです。
今年の緑大祭は本当にMBCCが荒らし回ってたと思うんだけど、本当に突如現れたお米同好会よ……何者だ。モブにするにはちょっと惜しい。
この後の抽選会でまた高崎は壇上に上がりコンパクトヒーターをもらってくることになるのだけど、その後のことはTKG宅にて。
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