2019(03)

■大祭orゼミ? 究極の選択

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「ハッピーハロウィーン! 安部ちゃーん! トリックオア単位ー!」

 ドタドタと安部ゼミの研究室にやって来た飯野は、それはもうハロウィンらしく派手な格好をしていた。派手と言っても仮装とはまた少し違った。大学祭実行委員のつなぎの上からさらに黒い法被を羽織っている。背中に金色で書かれているのは今年のスローガンの漢字一文字。この法被が出て来ると、そろそろかと。

「飯野君、ゼミに来てて大丈夫なの?」
「あーもー、ゼミが大事っす! しかも今日ハロウィンパーティーっしょ!? 俺がいなくちゃパーティーが盛り上がらないじゃないすか!」
「やあやあ飯野、俺のために出席ボーナスを稼いでくれてありがとう」
「何がどう間違ったらお前のためになるんだ」
「お前が出席ボーナスを余らせると俺がそれに集る、その結果お前はレポートがそれらしくなる。安部ちゃんは問題児の成績が良くなっていいこと尽くめじゃねえか」

 今日の安部ゼミはハロウィンパーティーが開催されている。毎年この時期になるとハロウィンパーティーをやるのだが、今年はバッチリ日付が合ってるから、安部ちゃんが先週から凄く乗り気だったんだよな。
 座学もやるしレポートはそれこそ死ぬほど書かせる安部ゼミだけど、その分遊びの要素もある。七夕やハロウィンと言ったイベントの時期にはパーティーと称したお茶会が開催されて、安部ちゃんからは1回分の出席ボーナスがもらえるんだ。
 この出席ボーナスのために俺は今日、死にもの狂いで早起きをした。まあ、結果2時起きだから2限には出れてないし(当社比)って感じの早起きではあるが、ゼミに間に合ってるからセーフだ。ちゃんとお菓子も昨日のうちから用意しといたしな。

「飯野、お前お菓子は持って来てんのか。ハロパはドレスコードとお菓子持参ルールがあるだろ」
「じゃーん! 俺は野菜かりんとう!」
「飯野君のも美味しそうだね」
「かりんとうを選んでくる辺りあざといな。トリックオア単位がガチ過ぎて引く」
「うるせー!」

 ちなみにかりんとうは安部ちゃんの大好物で、俺は去年出席が足りなくなった時に黒糖かりんとうを賄賂として渡している。今年は去年のようには行かないからねと学年が上がった時にしっかり釘を刺されているのでこうしてこまめに出席を稼いでいるのだ。

「つか高崎、お前コスプレしてる様子もないし、何のお菓子配ったんだ?」
「いや、狼男のコスプレのつもりだったんだけど」
「お前さあ、ちょっと髪の色グレーに変えたくらいでコスプレを名乗るな? どーせシャンプーで落ちるチョークみたいなヤツだろ? ガチ勢に怒られるぞ!?」
「つってもこのゼミにガチ勢なんかいないだろ」
「あと、お前のそれはコスプレじゃなくてただのイメチェンだからな? ちきしょー男前はこれだから! 学祭のミスターコンに出ろよ!」

 飯野曰く、目玉イベントである女装ミスコンはそれなりに参加者も集まって注目度も高まっているけど、そのすぐ後に開催されるミスターコンテストの方はミスコンに比べると盛り上がりに欠けるらしい。参加者にそれという華のあるエントリーが少ないとか。まあ、イロモノと正統派じゃな。

「ミスターコンには出ねえが、一応ダウンジャケットも今日はファー付きのフードが付いたヤツで獣感を出したつもりだった」
「ちなみに高崎君のお菓子はこれだね。黒糖かりんとうまんじゅう」
「あーほら出たトリックオア単位人のこと言えないヤツ~!」
「たまたま通りかかったところにかりんとうまんじゅうの店があって、そういや明日ハロパだったな~って思い出した結果じゃねえか。今年は賄賂受け取らねえって最初に釘刺されてんだ。そんなあからさまなことするかよ」
「ところで飯野君、倉橋君はどうって?」
「あー、アイツは今日来ないって言ってたっす」
「まあそうだよねえ。大祭実行は今が一番忙しいもんねえ」
「コイツがおかしいんすよ。ナンバーツーのクセして前夜祭直前にゼミなんか来て」

 そう何を隠そう緑大の大学祭は明日から始まる。そして今日は諸々の準備と前夜祭が開催されるのだ。ブース担当の倉橋は忙しさでバタバタしていて今日のゼミには来れないらしいが、大祭実行ナンバーツーの飯野がここでお茶を淹れているというギャップだ。
 そもそも安部ゼミの出席ボーナスという制度は公欠や病欠、あるいは今の倉橋のように大祭実行などの行事でやむを得ずゼミに出席出来ない奴のための救済制度だ。まあ、単に出席の少ない俺にも有り難い制度だが。しかし、本来その恩恵を受けるはずの飯野は出席ボーナスを余らせている。
 大体、勉強よりも大祭の方が大事なはずの飯野が大祭を放り出してゼミに来ているということ自体な。「トリックオア単位」……単位をくれなきゃイタズラするぞというふざけた挨拶が物語るように、すべては単位のためでしかない。レポートが書けないから出席で稼ぐ、と。

「わかるか高崎」
「何がだよ」
「俺くらいの立場になると、1コの仕事に集中してないワケよ!」
「あー、全体を見なきゃいけないから的なことか?」
「そう! 確かにやらなきゃいけない仕事はあるけど、1コマ90分くらいだったら他のメンバーに任せてもオッケーなワケ」
「言いたいことはわからないでもないけどな」

 実際俺も学祭当日はMBCCの方に付きっ切りでいられないからという理由でDJブースを岡崎に任せたワケだし、言いたいことはまあわかるんだ。上に行った人間のやることは、仕事の割り振りと責任を背負うことだ。

「だからゼミのハロパは全力でハロパする。トリックオアトリート!」
「かりんとうまんじゅうやっただろうが」
「もう1個食べたい。めちゃうめえ」
「てめェで買って来い」
「トリックオアトリートアンドレポート!」
「トリックオア出席ボーナス」
「お前それ、俺じゃなくて安部ちゃんに言うヤツじゃね?」
「安部ちゃんからも貰った上で、お前からもぶんだくる」


end.


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ハロウィンパーティーをやるにはちょうどいい日程になったので、やるよね!
高崎のイメチェンもといコスプレは多分コスプレとして認識されないのではないかなと思う。うん、ただのイメチェンよなあ……
飯野も高崎もトリックオア単位がガチなので、倉橋嬢がいたらまたわーわー言われてるヤツ

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