2019(03)

■非公開のはずの誕生日を

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「L、何か餃子食わしてくれるんだって?」
「あっ、高ピーが来たよ!」
「あー、遅いですよ高ピー先輩! アタシもうお腹空いちゃって」

 Lから久々に餃子でも食いませんかと誘いがあったから奴の部屋に行ってみると、そこには伊東だの果林だの、MBCCの連中がいた。俺はいつものようにLとサシメシのつもりでいたから、連中の登場に驚きを隠せない。
 机の上には餃子を焼くセッティングがされているが、今回はいつもの餃子大会とは若干様相が違った。まだ覗いてはないが、台所には伊東が次のおかずをスタンバイしているらしい。餃子大会とは言うが、まるで無制限飲みのようにも見える。

「――って、無制限飲みか」
「無制限飲みだね。高ピーにその開催を伏せてた理由はお察しください」
「一応非公開のつもりだったんだけどな」
「でも知ってるし。まあやるよね」
「仕方ねえな」
「ういーす、Lー、来たぞー」
「サンキュー五島。例のヤツは買えたか?」
「バッチリよ! 俺を誰だと思ってんだ。あっ、冷蔵庫入れとくなー」
「おー」
「あっ、高崎先輩。もう来てたんですね」
「何だ、お前もいたのか高木」
「いました。俺は五島先輩と買い出し組でした」
「じゃ、これで今日の参加者は揃った感じかな」

 それじゃあそれぞれの飲み物を持って下さいと伊東から号令がかかり、俺にはビールが手渡される。まあ、餃子にビールは欠かせねえから自分で持って来てたんだが。Lがフライパンの上に餃子を並べ始め、それと並行して伊東の音頭が始まった。

「えー、今日は高ピーの誕生日だということで、いつものようにMBCCでは無制限飲みをやりたいと思います! で、高ピーと言ったらこれでしょってことで餃子大会です! 思いっ切り楽しみましょう、カンパイ!」
「かんぱーい!」
「――というワケで!」
「ん?」
「まずは鶏むね肉の中華風サラダ。今からワンタンスープと小籠包作るから待ってて。それが終わったら春巻き揚げるし」
「今日は中華大会か」
「やったーいっちー先輩の中華ー!」

 会が始まって早々に伊東は台所に籠ってしまった。まあ、無制限飲みだと言うならそれも妥当だろう。コムギハイツは伊東宅マンションより台所のグレードは落ちるが、それでも手際や出して来るもののクオリティが落ちないのがさすがだ。
 机の上ではLが餃子の面倒を見ている。とは言え触らずにタイミングを見ているだけだが。だけども餃子に関してはLに任せておくのが一番美味くなる。料理はさほど得意ではないが、これだけはバイトで作っているうちに出来るようになっていたらしい。俺で言うピザの盛り付けみたいなモンか。いや、全然違ったな。

「高崎先輩は今日が誕生日だったんですね」
「ああ、まあな」
「果林先輩から去年誕生日プレゼントを交換し合ったみたいな話は聞いたんですけど」
「あー、たまたま会ったからっつー理由でネックレスを買わされた件な」
「えー、人聞き悪くないですか高ピー先輩! それにアタシもちゃんとマフラーでお返ししたじゃないですか」
「本来は誕生日だからって人に集ったりもしねえんだ」

 果林が首から下げている星のネックレスは、去年の果林の誕生日頃に買わされたものだ。買い物に出ていた先でバッタリ会って、一目惚れしたから買ってくれと集られたのだ。ただ奢らされるのも癪だったから、俺も誕生日が近いから何か返せとぶんだくった。それがもう少し寒くなったら出す黒いマフラーだ。
 ただ、俺は誕生日が好きじゃない。人のそれを祝うのは何とも思わないし、めでたいとは思う。それが自分のことになると、どうにもこうにも苦い顔しか出来なくなる。いい思い出があんまりないんだ。俺自身を祝われていたとしても、そういう風には思えないと言うか。今でもどこか斜に構えている。

「なあ伊東」
「なにー? ご飯足りなくなっちゃった?」
「いや。今日の無制限が俺の回っつーことは、食後に甘いモンもあるのか」
「あるよー。今回は俺が作ったんじゃないけど、ゴティが例のヤツを買って来てくれてるから」
「何だよ例のヤツって」
「fine chaseで高ピーがいつも食べてるチョコレートケーキをホールで買って来てる」
「マジか! えっ、テイクアウトが出来るのは知ってたけど、ホール買いなんか出来たのか」
「予約を入れといたら出来るみたいだね。俺も慧梨夏から聞いて知ったんだけど。あっ、高ピーには個別にモンブランもあるよー」
「至れり尽くせりだな」
「そりゃ、今日の主役だからね」

 そう言って伊東は揚がり始めていた春巻きをバットに上げていく。奴のことだから春巻きも冷凍食品とかじゃなくて自分で巻いているのだろう。よくやるぜ。でも、パリッと揚がったそれらがめっちゃ美味そうだ。これでビールが何本も進むヤツだ。

「そういやよ、宮ちゃんから誕プレとか何とか言ってGREENsの唐揚げのタダ券っつーヤツをもらったんだ」
「マジで? 良かったじゃん。俺も試作したの食わしてもらったけどさすが千春さんのレシピ、美味かったよ」
「感心してる場合か。GREENsを倒さなきゃ俺らのブース賞はねえんだぞ」
「でも、タダ券の分は売り上げに関係ないっしょ?」
「まあな。でも、奴らは唐揚げを持ち歩かせることで広告にしようとしてるんだ。だから俺は喫煙所に籠って食うぞ」
「言っても、それもいつも通りだよね」
「例年通りだな。岡崎と分けて食ってるからな」

 明日は水曜日で授業もない。俺は業務用品店を回って焼きそばのブースに必要な消耗品を買ってくることになっている。誕生日どうこうの無制限飲みという体でもいいが、個人的には学祭前の決起集会と呼びたい。

「さ、俺はお前の春巻きでビールを飲むかな」
「あくまで本題は餃子だよ、高ピー」
「餃子は延々とやってんだろ、果林がいるし。俺は春巻きを揚げたてのうちに食いてえんだ」
「どうぞお召し上がりください」


end.


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高崎誕の無制限飲みは本人ではなくいち氏が幹事となって行われます。○年前には菜月さんが出て来たリもしたけど今年は登場なし。ノサナツ年だしね。
高崎が誕生日を好きじゃないことを知っていても、やっぱりお祝いはしたいといういち氏です。知ってるからこそ逆にね。
そして食後に甘いものを要求する高崎がまあ安定よ。ちゃんとモンブランも買って来てるらしいけど、それも絶対いち氏の指示よね。

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