2019(03)
■その役割を見込まれたなら
++++
今日はL宅を会場に、MBCC焼きそばレシピの確認を行うことになった。食品ブースは例年1年がその運営を担当する。たかが焼きそば、されど焼きそば。歴代MBCCで一番、この大学祭全体で一番美味いもんを作らないと利益なんざ出っこない。というワケで、美味い焼きそばの研究開発を進めさせていた。
今年の1年は6人いるが、今回のブースで中心に動いているのは高木、エージ、ハナの3人だ。この3人が協力して何の材料をどれだけ使うだの、作業の手順はどうするなどとレジュメにまとめてきた。レジュメを作れと言った覚えはないが、わかりやすいに越したことはないのでありがたく目を通させてもらう。
「それで、この手順に沿って作ったのがこれでーす」
「ちょっと、台風の影響でこれから何がどんだけ高くなるかは未知数なんすけど、最高のコスパを目指したっす」
「あ、ソースはケチってませんし美味しいと思います」
1年生3人のそれぞれのこだわりが詰まった焼きそばが俺の前に出された。確かにソースの匂いが食欲をそそるし、実際めちゃくちゃ美味そうだと思う。今日に至るまで、三者三様の焼きそばを作って比較し、それぞれのいいとこ取りをするべく研究していたそうだ。その結果。部屋提供と味見役をしていたLは焼きそばに飽きたらしい。
ハナの焼きそばはとにかく手が込んでいる。料理酒を使って肉の臭みを抜いたり、いざ焼くときにも使ってうまみを出すとか。野菜の量にしてもそうだ。エージのそれは火力が命。強い火でサッと炒める。野菜がへたれたり、べちゃべちゃ感が出ないようにするためだ。そして高木のソースへのこだわり。それらを合わせた自信作だという。
「こっちが今焼いたヤツで、こっちがお昼に焼いて置いといたヤツです」
「じゃ、今焼いた方からいただきます」
俺が焼きそばを食う様子を、1年が固唾を呑んで見守っている。連中の実質的保護者のようになっているLもだ。ただ、正直に言えば俺は料理の何がわかっているワケではない。強いて言えば美味いか不味いかというそれだけだ。伊東でも呼んできた方が良かっただろとは思うが、俺が任されたならその使命を全うしなければならない。
「うん」
「高崎先輩、どうすか」
「冷めた方も美味い。これで行こう」
「キャー! 通った!」
「やったべ!」
「はー、よかった」
「だけど、これから問題になってくるのは1週間先の生鮮食品の値段だな」
「そーなんすよね」
「ですよね、しょぼーん」
「一応タマネギはうちの親戚が余らせてるっていうんでそれをもらえることになったんすけど、キャベツとニンジン、それからもやしっすよね。肉もか」
「紅ショウガはなくていいよ別に」
「そりゃお前の都合だろっていう。みんながみんな紅ショウガが嫌いなワケじゃねーべ」
「まあ、そこはタマネギの分でカバーするしかねえな」
「そうっすね」
タッパーや割り箸、輪ゴムといった資材はこれから業務用の店で調達する予定だ。とにかくMBCCには場所の利がある。もらったモンを盛大に活用してどこまで稼ぐかだ。味は美味い。後は全員がそれを再現ようにするのと、レンタルの鉄板でも同じように出来るかがミソになる。
「ああ、そうだエージ。食品ブースの利益を増やすためには絶対に押さえとかなきゃいけないポイントっつーのが1コあって」
「何すか?」
「果林を食品ブースに近付けるな。以上だ」
「あー……食い尽くされるからっていう……」
「ですよねー」
「しょぼーん」
「去年はアイツのつまみ食いで2000円分くらいはやられたからな。1時間おきにつまみ食いしに来てやがったし。一応岡崎にも頼んで果林はDJブースに掛かり切りにさせたけど、気をつけろ」
「うす」
食品ブース運営の最大の障壁は如何せん身内にいる。四次元胃袋の果林のヤツは、とにもかくにも目に付いた食い物を喰らい尽くすのだ。去年の食品ブースはそのおかげでエラいことになった。食うのが好きな奴を食品ブースの運営に携わらせてはいけないとこの件で学んだ。権限を与えると、それを利用して好き勝手にするからだ。
「でも、大学祭の食品ブースってどんなのがあるんだろう」
「ホントだねー。今年はタピオカとかいっぱいあるのかな。ハナはタピオカよりレモネードがいいなー」
「大学ならではの変わり種とかもあるべきっと」
「食品ブースで気をつけるのはGREENsの唐揚げだな」
「え、気をつけるんすか」
「レシピはプロが監修してるしクオリティはガチだ。GREENsの唐揚げは詰め放題方式で300円なんだが、連中のブース位置次第では俺らも食われかねねえ」
「GREENsって確か伊東先輩の彼女さんがいるバスケサークルですよね」
「ああ。あの女が大祭……つかイベントごとに懸ける意気は並じゃねえ。ヌルいことをやってたら掬われる。一瞬たりとも気を抜くな。ブース賞を取るのはMBCCだ」
宮ちゃんとは女装ミスコンに関しては同盟相手だが、その他に関しては最大の敵だ。並大抵のことをやってたところであの女率いるGREENsには勝てない。しかし、奴がやってくるようなぶっ飛んだ策は俺にはないから、モノのクオリティとある物で勝負するしかないのだ。
今日もそこの駐車場には奴の車が止まっていた。連中も最後の仕上げに忙しいのだろう。もしかして、外を歩けば唐揚げがもらえるかもしれない。奴の方もMBCCには負けないと鼻息を荒くしているから、そういう相手として見込まれたことに恥じない戦いをしなければならない。
「つか、ビール飲みてえ。L、ビールないか」
「えー! 自分ばっかりずるいー! しょぼんなんですけどー!」
「うるせえ。焼きそばにはビールだろうがよ」
「それには同意だっていう」
end.
++++
焼きそばの試食会です。どうやら1年生の自信作が完成したようです。おいしそうだね!
そして高崎のGREENs……というか慧梨夏への敵意な。そりゃ最大のライバルだからしゃーない。
唐揚げと焼きそばの交換とかしててもいいなと思ったけど、高崎が手の内を敵に見せるようなことはしないか。
.
++++
今日はL宅を会場に、MBCC焼きそばレシピの確認を行うことになった。食品ブースは例年1年がその運営を担当する。たかが焼きそば、されど焼きそば。歴代MBCCで一番、この大学祭全体で一番美味いもんを作らないと利益なんざ出っこない。というワケで、美味い焼きそばの研究開発を進めさせていた。
今年の1年は6人いるが、今回のブースで中心に動いているのは高木、エージ、ハナの3人だ。この3人が協力して何の材料をどれだけ使うだの、作業の手順はどうするなどとレジュメにまとめてきた。レジュメを作れと言った覚えはないが、わかりやすいに越したことはないのでありがたく目を通させてもらう。
「それで、この手順に沿って作ったのがこれでーす」
「ちょっと、台風の影響でこれから何がどんだけ高くなるかは未知数なんすけど、最高のコスパを目指したっす」
「あ、ソースはケチってませんし美味しいと思います」
1年生3人のそれぞれのこだわりが詰まった焼きそばが俺の前に出された。確かにソースの匂いが食欲をそそるし、実際めちゃくちゃ美味そうだと思う。今日に至るまで、三者三様の焼きそばを作って比較し、それぞれのいいとこ取りをするべく研究していたそうだ。その結果。部屋提供と味見役をしていたLは焼きそばに飽きたらしい。
ハナの焼きそばはとにかく手が込んでいる。料理酒を使って肉の臭みを抜いたり、いざ焼くときにも使ってうまみを出すとか。野菜の量にしてもそうだ。エージのそれは火力が命。強い火でサッと炒める。野菜がへたれたり、べちゃべちゃ感が出ないようにするためだ。そして高木のソースへのこだわり。それらを合わせた自信作だという。
「こっちが今焼いたヤツで、こっちがお昼に焼いて置いといたヤツです」
「じゃ、今焼いた方からいただきます」
俺が焼きそばを食う様子を、1年が固唾を呑んで見守っている。連中の実質的保護者のようになっているLもだ。ただ、正直に言えば俺は料理の何がわかっているワケではない。強いて言えば美味いか不味いかというそれだけだ。伊東でも呼んできた方が良かっただろとは思うが、俺が任されたならその使命を全うしなければならない。
「うん」
「高崎先輩、どうすか」
「冷めた方も美味い。これで行こう」
「キャー! 通った!」
「やったべ!」
「はー、よかった」
「だけど、これから問題になってくるのは1週間先の生鮮食品の値段だな」
「そーなんすよね」
「ですよね、しょぼーん」
「一応タマネギはうちの親戚が余らせてるっていうんでそれをもらえることになったんすけど、キャベツとニンジン、それからもやしっすよね。肉もか」
「紅ショウガはなくていいよ別に」
「そりゃお前の都合だろっていう。みんながみんな紅ショウガが嫌いなワケじゃねーべ」
「まあ、そこはタマネギの分でカバーするしかねえな」
「そうっすね」
タッパーや割り箸、輪ゴムといった資材はこれから業務用の店で調達する予定だ。とにかくMBCCには場所の利がある。もらったモンを盛大に活用してどこまで稼ぐかだ。味は美味い。後は全員がそれを再現ようにするのと、レンタルの鉄板でも同じように出来るかがミソになる。
「ああ、そうだエージ。食品ブースの利益を増やすためには絶対に押さえとかなきゃいけないポイントっつーのが1コあって」
「何すか?」
「果林を食品ブースに近付けるな。以上だ」
「あー……食い尽くされるからっていう……」
「ですよねー」
「しょぼーん」
「去年はアイツのつまみ食いで2000円分くらいはやられたからな。1時間おきにつまみ食いしに来てやがったし。一応岡崎にも頼んで果林はDJブースに掛かり切りにさせたけど、気をつけろ」
「うす」
食品ブース運営の最大の障壁は如何せん身内にいる。四次元胃袋の果林のヤツは、とにもかくにも目に付いた食い物を喰らい尽くすのだ。去年の食品ブースはそのおかげでエラいことになった。食うのが好きな奴を食品ブースの運営に携わらせてはいけないとこの件で学んだ。権限を与えると、それを利用して好き勝手にするからだ。
「でも、大学祭の食品ブースってどんなのがあるんだろう」
「ホントだねー。今年はタピオカとかいっぱいあるのかな。ハナはタピオカよりレモネードがいいなー」
「大学ならではの変わり種とかもあるべきっと」
「食品ブースで気をつけるのはGREENsの唐揚げだな」
「え、気をつけるんすか」
「レシピはプロが監修してるしクオリティはガチだ。GREENsの唐揚げは詰め放題方式で300円なんだが、連中のブース位置次第では俺らも食われかねねえ」
「GREENsって確か伊東先輩の彼女さんがいるバスケサークルですよね」
「ああ。あの女が大祭……つかイベントごとに懸ける意気は並じゃねえ。ヌルいことをやってたら掬われる。一瞬たりとも気を抜くな。ブース賞を取るのはMBCCだ」
宮ちゃんとは女装ミスコンに関しては同盟相手だが、その他に関しては最大の敵だ。並大抵のことをやってたところであの女率いるGREENsには勝てない。しかし、奴がやってくるようなぶっ飛んだ策は俺にはないから、モノのクオリティとある物で勝負するしかないのだ。
今日もそこの駐車場には奴の車が止まっていた。連中も最後の仕上げに忙しいのだろう。もしかして、外を歩けば唐揚げがもらえるかもしれない。奴の方もMBCCには負けないと鼻息を荒くしているから、そういう相手として見込まれたことに恥じない戦いをしなければならない。
「つか、ビール飲みてえ。L、ビールないか」
「えー! 自分ばっかりずるいー! しょぼんなんですけどー!」
「うるせえ。焼きそばにはビールだろうがよ」
「それには同意だっていう」
end.
++++
焼きそばの試食会です。どうやら1年生の自信作が完成したようです。おいしそうだね!
そして高崎のGREENs……というか慧梨夏への敵意な。そりゃ最大のライバルだからしゃーない。
唐揚げと焼きそばの交換とかしててもいいなと思ったけど、高崎が手の内を敵に見せるようなことはしないか。
.