2019(03)
■ごはんが無ければ何を食べよう
++++
「ハッピーハロウィーン」
「果林、相変わらずすごい買い物袋だね。お菓子くれるの?」
「すみませんいっちー先輩、これは配る用じゃなくてアタシが個人で消費する用です」
「うん、知ってた」
10月になったくらいから町ではハロウィンムードが高まって、スーパーでもお菓子のパッケージがハロウィン仕様になってたりする。実際の意味のハロウィンはともかく、いたずらとお菓子の応酬くらいには軽く楽しみたい。仮装はちょっとハードルが高いし。
果林がいつものように買い物袋を提げてやって来たけど、果林のそれは本人が言うように全部自分で食べる用。四次元胃袋とまで言われた果林が人に食べ物をあげる余裕なんかあるはずもなく、むしろアタシが欲しいくらいですよねーと言ってパンの袋を開ける。
「そう言えばいっちー先輩、ハロウィン系のお菓子は作らないんですか? アタシいっちー先輩が何かカボチャのお菓子作ってくれるの楽しみにしてるんですけど」
「あー、それね。何か作んないのってよく聞かれるんだけどさ、俺、カボチャ苦手だからあんまり扱いたくないんだよね」
「あれっ、そうでしたっけ! いっちー先輩て確かあんことか小豆とかが苦手だったと思ったんですけど、カボチャもダメだったんですか」
「そうなんだよね」
ハロウィン系のお菓子作りに気分が乗らない理由はほぼほぼそれだ。単純に俺がカボチャ嫌いだからっていうだけのヤツ。カボチャの何が嫌いなのかって言ったらよくわかんないんだけど、煮たときにベチャッとなったヤツがとにかく嫌。
「おはようございます」
「おはよータカちゃん」
「おはよータカシ」
「ちょっと、俺もごはんにします」
そう言ってタカシはカロリーメイトの箱を開ける。果林が物凄い燃費の悪さだとしたら、タカシの燃費の良さは異常だ。いや、本人的には本当はもっと食べたいのかもしれないけど、とりあえずカロリーメイトでとか、とりあえず学食のポテトで繋ごうとして繋げるのが凄い。
「タカちゃん、もしかしてまた寝坊したパターンのヤツ?」
「月曜は1限からだとはわかってるんですけど、起きたらうっかり12時でした」
「その1限って確か英語でしょ?」
「応用英語ライティングですね」
「必修! タカちゃんちゃんと起きて! それからちゃんとご飯食べて! お昼食べれてないじゃん12時起きとか! いっちー先輩からも何とか言ってください!」
「あーうん、必修が抜けるのはマズい。食事の内容とかリズムで睡眠のサイクルも整ったりするって言うから、ちゃんと食べた方がいいと思うよ」
「やろうとは思ってます」
「エージがいたら絶対やらないヤツって言ってぶった切られてるヤツだわ」
「きっとそうですね」
薄々勘づいてたけど、タカシが何気にヤバそうだ。1人暮らしだと生活のリズムが崩れて授業もサボりがちになる奴っていうのは少なからず存在する。俺はちゃんとしてる方だけど、慧梨夏なんかがまさにそのパターンだからよくわかる。
ただ、慧梨夏には俺がいるからまだ食事面での環境は整ってる。だけどタカシはこの様子を見ている限りガッタガタなんだろうなあ、食生活も。金がないから食費は削るけど酒代は削らないっていうタイプだし。
さすがにそれだけしか食べないのはダメって言って果林が自分の袋の中からタカシにパンをひとつ手渡してる。あの果林が人に食べ物を渡すだなんて、よほどタカシが酷いということなんだろうなあ。果林の何かを目覚めさせるレベルで。
「いっちー先輩やっぱりお菓子配りましょう!」
「えっ、話戻って来た!?」
「タカちゃんの非常食的な意味でもですね」
「タカシ、そこまで財政状況ヤバいの?」
「秋学期の教科書を買ったので今は節約中ですね」
「あー、教科書かー……うん、確かに高くつく」
大学の教科書の値段の高さってガチで財布に響くもんな。担当教授が自分の本を買わせるためだけに授業で使いもしない本を指定したりするのがマジでウザい。1冊ウン千円とかもガチだから、それが何冊も積み重なるとしんどくなるのはわかる。
「って言うかさ果林、この場合作るにしてもお菓子よりもパンとかの方がいいんじゃないの?」
「パンが無ければお菓子を食べればいいのでお菓子ですね」
「果林が食べたいだけじゃなくて」
「アタシが食べたいだけですよ?」
「まあ、お菓子作るかー、ハロウィンついでに」
「でもいっちー先輩カボチャ大丈夫なんですか?」
「ぶっちゃけレシピ通りに作ればよっぽど失敗はないから味見が出来ないくらいはなんてことない。それに、別にハロウィンだからってカボチャを扱わなきゃいけないってことも全くなかった」
「ですよねー」
そうとなれば、今日はクッキーの材料でも買って帰ろうか。ハロウィンと言えばオレンジと紫のカラーリングってイメージだから、カボチャと紫いもか何かで色を付けた何かに挑戦してみようかな。レシピはいくらでもある。
「もっと言えばパンも食べたいですけどね」
「どっちも一気にはちょっと難しいかなー、出来なくはないけど時間的な問題でね」
「おハナに賭けるしかない感じですかねー」
「ハナちゃんがバイト先に寄って来てることを期待しましょう。俺もナチュールは最近行ってないから久々に食べたい」
「俺は何でもいいのでお腹に溜まる物が食べたいですね」
「……タカシ、今日うち来るか。こないだの芋がまだ残ってるし、それで何か溜まるモン作るから」
「すみません、ありがとうございます」
「えー!? アタシも食べたいんですけどー!」
「それじゃあ果林もおいでよ」
「やったー!」
「買い物してからになるからちょっと遅くなるけど」
end.
++++
ハロウィンのシンボル的に描かれるジャック・オ・ランタンにちなみカボチャのお話。いち氏はカボチャが苦手です。
子供たちの食育に忙しいMBCCの母です。タカちゃんがとにかく酷い生活を送っているようですがデフォルトなんだよなあ
そしてご飯のある所に果林ありですね。ごはんーってぴよぴよ言ってるのがただただ可愛いヤツ。
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「ハッピーハロウィーン」
「果林、相変わらずすごい買い物袋だね。お菓子くれるの?」
「すみませんいっちー先輩、これは配る用じゃなくてアタシが個人で消費する用です」
「うん、知ってた」
10月になったくらいから町ではハロウィンムードが高まって、スーパーでもお菓子のパッケージがハロウィン仕様になってたりする。実際の意味のハロウィンはともかく、いたずらとお菓子の応酬くらいには軽く楽しみたい。仮装はちょっとハードルが高いし。
果林がいつものように買い物袋を提げてやって来たけど、果林のそれは本人が言うように全部自分で食べる用。四次元胃袋とまで言われた果林が人に食べ物をあげる余裕なんかあるはずもなく、むしろアタシが欲しいくらいですよねーと言ってパンの袋を開ける。
「そう言えばいっちー先輩、ハロウィン系のお菓子は作らないんですか? アタシいっちー先輩が何かカボチャのお菓子作ってくれるの楽しみにしてるんですけど」
「あー、それね。何か作んないのってよく聞かれるんだけどさ、俺、カボチャ苦手だからあんまり扱いたくないんだよね」
「あれっ、そうでしたっけ! いっちー先輩て確かあんことか小豆とかが苦手だったと思ったんですけど、カボチャもダメだったんですか」
「そうなんだよね」
ハロウィン系のお菓子作りに気分が乗らない理由はほぼほぼそれだ。単純に俺がカボチャ嫌いだからっていうだけのヤツ。カボチャの何が嫌いなのかって言ったらよくわかんないんだけど、煮たときにベチャッとなったヤツがとにかく嫌。
「おはようございます」
「おはよータカちゃん」
「おはよータカシ」
「ちょっと、俺もごはんにします」
そう言ってタカシはカロリーメイトの箱を開ける。果林が物凄い燃費の悪さだとしたら、タカシの燃費の良さは異常だ。いや、本人的には本当はもっと食べたいのかもしれないけど、とりあえずカロリーメイトでとか、とりあえず学食のポテトで繋ごうとして繋げるのが凄い。
「タカちゃん、もしかしてまた寝坊したパターンのヤツ?」
「月曜は1限からだとはわかってるんですけど、起きたらうっかり12時でした」
「その1限って確か英語でしょ?」
「応用英語ライティングですね」
「必修! タカちゃんちゃんと起きて! それからちゃんとご飯食べて! お昼食べれてないじゃん12時起きとか! いっちー先輩からも何とか言ってください!」
「あーうん、必修が抜けるのはマズい。食事の内容とかリズムで睡眠のサイクルも整ったりするって言うから、ちゃんと食べた方がいいと思うよ」
「やろうとは思ってます」
「エージがいたら絶対やらないヤツって言ってぶった切られてるヤツだわ」
「きっとそうですね」
薄々勘づいてたけど、タカシが何気にヤバそうだ。1人暮らしだと生活のリズムが崩れて授業もサボりがちになる奴っていうのは少なからず存在する。俺はちゃんとしてる方だけど、慧梨夏なんかがまさにそのパターンだからよくわかる。
ただ、慧梨夏には俺がいるからまだ食事面での環境は整ってる。だけどタカシはこの様子を見ている限りガッタガタなんだろうなあ、食生活も。金がないから食費は削るけど酒代は削らないっていうタイプだし。
さすがにそれだけしか食べないのはダメって言って果林が自分の袋の中からタカシにパンをひとつ手渡してる。あの果林が人に食べ物を渡すだなんて、よほどタカシが酷いということなんだろうなあ。果林の何かを目覚めさせるレベルで。
「いっちー先輩やっぱりお菓子配りましょう!」
「えっ、話戻って来た!?」
「タカちゃんの非常食的な意味でもですね」
「タカシ、そこまで財政状況ヤバいの?」
「秋学期の教科書を買ったので今は節約中ですね」
「あー、教科書かー……うん、確かに高くつく」
大学の教科書の値段の高さってガチで財布に響くもんな。担当教授が自分の本を買わせるためだけに授業で使いもしない本を指定したりするのがマジでウザい。1冊ウン千円とかもガチだから、それが何冊も積み重なるとしんどくなるのはわかる。
「って言うかさ果林、この場合作るにしてもお菓子よりもパンとかの方がいいんじゃないの?」
「パンが無ければお菓子を食べればいいのでお菓子ですね」
「果林が食べたいだけじゃなくて」
「アタシが食べたいだけですよ?」
「まあ、お菓子作るかー、ハロウィンついでに」
「でもいっちー先輩カボチャ大丈夫なんですか?」
「ぶっちゃけレシピ通りに作ればよっぽど失敗はないから味見が出来ないくらいはなんてことない。それに、別にハロウィンだからってカボチャを扱わなきゃいけないってことも全くなかった」
「ですよねー」
そうとなれば、今日はクッキーの材料でも買って帰ろうか。ハロウィンと言えばオレンジと紫のカラーリングってイメージだから、カボチャと紫いもか何かで色を付けた何かに挑戦してみようかな。レシピはいくらでもある。
「もっと言えばパンも食べたいですけどね」
「どっちも一気にはちょっと難しいかなー、出来なくはないけど時間的な問題でね」
「おハナに賭けるしかない感じですかねー」
「ハナちゃんがバイト先に寄って来てることを期待しましょう。俺もナチュールは最近行ってないから久々に食べたい」
「俺は何でもいいのでお腹に溜まる物が食べたいですね」
「……タカシ、今日うち来るか。こないだの芋がまだ残ってるし、それで何か溜まるモン作るから」
「すみません、ありがとうございます」
「えー!? アタシも食べたいんですけどー!」
「それじゃあ果林もおいでよ」
「やったー!」
「買い物してからになるからちょっと遅くなるけど」
end.
++++
ハロウィンのシンボル的に描かれるジャック・オ・ランタンにちなみカボチャのお話。いち氏はカボチャが苦手です。
子供たちの食育に忙しいMBCCの母です。タカちゃんがとにかく酷い生活を送っているようですがデフォルトなんだよなあ
そしてご飯のある所に果林ありですね。ごはんーってぴよぴよ言ってるのがただただ可愛いヤツ。
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