2019(03)
■耳障りのいい大義名分
++++
「伊東、朗報だ。無事に予選通過して、本戦に進出出来るぞ」
「うわーい」
「いっちー先輩目が死んでますよねー」
「そりゃ死にもするよ。俺の知らないうちにエントリーされてた女装ミスコンでMBCCのためとか言って俺を女装させることに執念を燃やしてた奴に売られたんだから」
日々大学祭に向けた空気が色濃くなっている。大学全体がそんな感じ。アタシの場合はゼミでも食品ブースを出すし、MBCCでもラジオと食品をやるからとにかくバタバタ走り回ってるような感じ。ゆっくり見て回る時間はあんまりなさそうだけど、それはそれで楽しみたい。
で、この大学祭のメインイベントが2日目の土曜日にある女装ミスコン。この女装ミスコンになんと! 我らがいっちー先輩がエントリーしてたんですって! だけどいっちー先輩の言うようにこのミスコン出場劇の裏にはどうやら高ピー先輩の暗躍が絡んでたみたいで。
「俺だってミスコンの優勝賞品が某有名メーカーの機材カタログの中から好きなモン1点とかじゃなきゃこうやってお前という刺客を送り込むことはなかったんだ。恨むならMBCC向けな賞品を設定しやがった大祭実行と、テストのノートだの何だのの見返りにその情報を俺に売った大祭実行ナンバーツーを恨め」
「まあ、機材のためっていうのは1万歩譲って呑むにしても、どうして慧梨夏に協力を求めたのかっていうね」
「俺の周りでその手のことに一番強いのが宮ちゃんだからだ」
「デスヨネー」
「このミスコンで機材を穫って来れれば機材代も浮くしその分何かに使えるだろ。学祭の儲けは学祭の打ち上げに回すとして、浮いた機材代で追いコンだの卒コンだのに回すとかな。俺がお前の女装を見て楽しみたいっつーことではない。すべてはMBCCのためだ」
MBCCのためという高ピー先輩の言葉にウソはなさそうだ。厳密にはMBCCで行う店飲みのためという風に聞こえなくもないけど。でも、4年生の先輩たちもお酒はガンガン行く人たちだから、追いコンや卒コンに向けた積み立てじゃないけど、保険はかけておいた方がいいっていう考えなのかな。それはわかんないでもない。
「本戦は写真審査じゃなくてガチなステージでの審査だからな。エグゼクティブプロデューサーにはこれまで以上の管理を頼んどかねえとな」
「うへー」
この女装ミスコンには結構参加者が集まったらしくて、写真審査での予選が行われてたみたい。まあ、我らがいっちー先輩は余裕で通過したみたいだけど。アタシの心配は本戦でのいっちー先輩がどれくらいのレベルなのかってこと。まあ、アタシの仕向けた刺客がいっちー先輩を脅かすってことはないだろうけど、一応ね。
「おはようございます」
「うーす」
「おはよータカちゃん」
「おはよータカシ」
「伊東先輩、目が死んでますけど大丈夫ですか?」
「ほら高ピー、タカシにもわかるくらい目が死んでるって俺」
「それがどうした」
「あーほら俺の意向なんか完全に無視!」
「お前が恨む先はまだあった。エグゼクティブプロデューサー の手元に残る形で女になってちやほやされてみたいとか何とかってイキってた高1当時のお前自身だ」
「それを言われたら死ぬしかない」
結局、いっちー先輩はミスコンの本戦に出場することになってしまったし、高ピー先輩相手にわあわあ喚いてみたところで並の喚き方じゃ勝てっこないんだから、腹を括るしかないんですよねー。しかも高ピー先輩のバックにはいっちー先輩の彼女さんがいるっぽいし、諦めて原型がわからないくらいの美少女にしてもらった方がいいかも。
「果林先輩、伊東先輩どうしたんですか?」
「女装ミスコンの本戦に無事出場出来たんだって」
「ああ、なるほど。……それで、こっちはどうなりました?」
「……こっちも無事に予選は通りましたよ」
「通っちゃったんですね……」
で、いっちー先輩の件とは別にアタシがミスコンに送り込んだ刺客が何を隠そうこのタカちゃん。ノリと勢いって怖いですよねー。インターフェイスの1・2年飲みのジャンケン大会のバツゲームでこんなことになっちゃったんだけど、やってみたら案外それらしくなっちゃったんだから。
1位はいっちー先輩に持って行ってもらうとして、こっちが狙ってるのは2位賞品のお酒詰め合わせセット。お酒代を浮かせたいっていうタカちゃんの意向とガッツリ合ったので一応2位狙いでやらせてもらってます。大体1万円相当の詰め合わせセットらしいから、これが取れたらかなり大きいでしょう。
「あ、そうだ高木」
「はい」
「無事伊東がミスコンの本戦に出場することになったから、1、2年のミキサー陣で何の機材があったらいいかっつーのを話し合っといてくれ」
「えっ、3年生の先輩は話し合わないんですか」
「MBCCは大祭で代替わりだから、その後のことは俺らがああだこうだ口を出すことじゃねえ」
「代替わりですか」
「そうだ。俺らも一応年末までは来るし活動はするけど、ここで実権が2年に移るっつーことだ」
「ちなみに、あったらいいなっていう機材は今のMBCCで使ってる機材に限らずですか?」
「まあ、これからどういうことがやりたいのかっつーことを考えて話し合ってくれればいいんじゃねえかとは思う。ま、その辺はLだの五島だのにも話をしてだな」
「……と言うか、伊東先輩は自分があまり使うことのない機材のために女装ミスコンに売られたってことなんですか…?」
「高木、人聞きが悪りィぞ。ここで機材を穫って来れればそれで浮いた金を今後のMBCCの活動のために使えるっつーワケだ。すべてはMBCCのため。去る者からの置き土産じゃねえか」
「だ、そうです」
「いっちー先輩目が死んでますよねー。高ピー先輩に仕返しはしないんですか?」
「高ピーに仕返しをしようなんて考えないこった。返り討ちにされるのがオチだ」
高ピー先輩といっちー先輩の間の攻防はともかく、先を見据えた戦いであることには違いない。勝てるという前提で皮算用をするけれど、それは確実に勝てるだけの仕込みをやっていくということだから。うん、当分いっちー先輩の目は死んだままなんだろうけど。さて、こっちはどうしようかな。
end.
++++
女装ミスコンを巡るあれこれです。写真審査を経て、無事にいち氏もタカちゃんも本戦に出場が決定したらしい。
そして高崎の言っていることが終始胡散臭い件について。あくまでMBCCのためだよ! MBCCで開く店飲みのためだよ!
でも、確かに高崎に優勝賞品の情報を売ったのってテスト期間に泣きついてきた飯野でしたね……ただ、飯野はいち氏の復讐の協力者でもあるぞ!
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「伊東、朗報だ。無事に予選通過して、本戦に進出出来るぞ」
「うわーい」
「いっちー先輩目が死んでますよねー」
「そりゃ死にもするよ。俺の知らないうちにエントリーされてた女装ミスコンでMBCCのためとか言って俺を女装させることに執念を燃やしてた奴に売られたんだから」
日々大学祭に向けた空気が色濃くなっている。大学全体がそんな感じ。アタシの場合はゼミでも食品ブースを出すし、MBCCでもラジオと食品をやるからとにかくバタバタ走り回ってるような感じ。ゆっくり見て回る時間はあんまりなさそうだけど、それはそれで楽しみたい。
で、この大学祭のメインイベントが2日目の土曜日にある女装ミスコン。この女装ミスコンになんと! 我らがいっちー先輩がエントリーしてたんですって! だけどいっちー先輩の言うようにこのミスコン出場劇の裏にはどうやら高ピー先輩の暗躍が絡んでたみたいで。
「俺だってミスコンの優勝賞品が某有名メーカーの機材カタログの中から好きなモン1点とかじゃなきゃこうやってお前という刺客を送り込むことはなかったんだ。恨むならMBCC向けな賞品を設定しやがった大祭実行と、テストのノートだの何だのの見返りにその情報を俺に売った大祭実行ナンバーツーを恨め」
「まあ、機材のためっていうのは1万歩譲って呑むにしても、どうして慧梨夏に協力を求めたのかっていうね」
「俺の周りでその手のことに一番強いのが宮ちゃんだからだ」
「デスヨネー」
「このミスコンで機材を穫って来れれば機材代も浮くしその分何かに使えるだろ。学祭の儲けは学祭の打ち上げに回すとして、浮いた機材代で追いコンだの卒コンだのに回すとかな。俺がお前の女装を見て楽しみたいっつーことではない。すべてはMBCCのためだ」
MBCCのためという高ピー先輩の言葉にウソはなさそうだ。厳密にはMBCCで行う店飲みのためという風に聞こえなくもないけど。でも、4年生の先輩たちもお酒はガンガン行く人たちだから、追いコンや卒コンに向けた積み立てじゃないけど、保険はかけておいた方がいいっていう考えなのかな。それはわかんないでもない。
「本戦は写真審査じゃなくてガチなステージでの審査だからな。エグゼクティブプロデューサーにはこれまで以上の管理を頼んどかねえとな」
「うへー」
この女装ミスコンには結構参加者が集まったらしくて、写真審査での予選が行われてたみたい。まあ、我らがいっちー先輩は余裕で通過したみたいだけど。アタシの心配は本戦でのいっちー先輩がどれくらいのレベルなのかってこと。まあ、アタシの仕向けた刺客がいっちー先輩を脅かすってことはないだろうけど、一応ね。
「おはようございます」
「うーす」
「おはよータカちゃん」
「おはよータカシ」
「伊東先輩、目が死んでますけど大丈夫ですか?」
「ほら高ピー、タカシにもわかるくらい目が死んでるって俺」
「それがどうした」
「あーほら俺の意向なんか完全に無視!」
「お前が恨む先はまだあった。
「それを言われたら死ぬしかない」
結局、いっちー先輩はミスコンの本戦に出場することになってしまったし、高ピー先輩相手にわあわあ喚いてみたところで並の喚き方じゃ勝てっこないんだから、腹を括るしかないんですよねー。しかも高ピー先輩のバックにはいっちー先輩の彼女さんがいるっぽいし、諦めて原型がわからないくらいの美少女にしてもらった方がいいかも。
「果林先輩、伊東先輩どうしたんですか?」
「女装ミスコンの本戦に無事出場出来たんだって」
「ああ、なるほど。……それで、こっちはどうなりました?」
「……こっちも無事に予選は通りましたよ」
「通っちゃったんですね……」
で、いっちー先輩の件とは別にアタシがミスコンに送り込んだ刺客が何を隠そうこのタカちゃん。ノリと勢いって怖いですよねー。インターフェイスの1・2年飲みのジャンケン大会のバツゲームでこんなことになっちゃったんだけど、やってみたら案外それらしくなっちゃったんだから。
1位はいっちー先輩に持って行ってもらうとして、こっちが狙ってるのは2位賞品のお酒詰め合わせセット。お酒代を浮かせたいっていうタカちゃんの意向とガッツリ合ったので一応2位狙いでやらせてもらってます。大体1万円相当の詰め合わせセットらしいから、これが取れたらかなり大きいでしょう。
「あ、そうだ高木」
「はい」
「無事伊東がミスコンの本戦に出場することになったから、1、2年のミキサー陣で何の機材があったらいいかっつーのを話し合っといてくれ」
「えっ、3年生の先輩は話し合わないんですか」
「MBCCは大祭で代替わりだから、その後のことは俺らがああだこうだ口を出すことじゃねえ」
「代替わりですか」
「そうだ。俺らも一応年末までは来るし活動はするけど、ここで実権が2年に移るっつーことだ」
「ちなみに、あったらいいなっていう機材は今のMBCCで使ってる機材に限らずですか?」
「まあ、これからどういうことがやりたいのかっつーことを考えて話し合ってくれればいいんじゃねえかとは思う。ま、その辺はLだの五島だのにも話をしてだな」
「……と言うか、伊東先輩は自分があまり使うことのない機材のために女装ミスコンに売られたってことなんですか…?」
「高木、人聞きが悪りィぞ。ここで機材を穫って来れればそれで浮いた金を今後のMBCCの活動のために使えるっつーワケだ。すべてはMBCCのため。去る者からの置き土産じゃねえか」
「だ、そうです」
「いっちー先輩目が死んでますよねー。高ピー先輩に仕返しはしないんですか?」
「高ピーに仕返しをしようなんて考えないこった。返り討ちにされるのがオチだ」
高ピー先輩といっちー先輩の間の攻防はともかく、先を見据えた戦いであることには違いない。勝てるという前提で皮算用をするけれど、それは確実に勝てるだけの仕込みをやっていくということだから。うん、当分いっちー先輩の目は死んだままなんだろうけど。さて、こっちはどうしようかな。
end.
++++
女装ミスコンを巡るあれこれです。写真審査を経て、無事にいち氏もタカちゃんも本戦に出場が決定したらしい。
そして高崎の言っていることが終始胡散臭い件について。あくまでMBCCのためだよ! MBCCで開く店飲みのためだよ!
でも、確かに高崎に優勝賞品の情報を売ったのってテスト期間に泣きついてきた飯野でしたね……ただ、飯野はいち氏の復讐の協力者でもあるぞ!
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