2019(03)

■GREENs唐揚げ決起集会

++++

「さあ! 唐揚げの季節ですよ!」
「おー!」

 学内の大学祭ムードが高まる中、バスケサークルGREENsもそれは例外じゃなかった。突然慧梨夏サンが陣頭指揮を取り始めたかと思えば、唐揚げの季節って。それに対しておーと反応した三浦も詳しいことはわかっていないようだ。三浦のそれは今に始まったことでもないじゃん?

「例年GREENsでは大学祭に唐揚げのブースを出店してます。今年も同じく唐揚げで勝負します! 目指せブース賞! というワケで、例年通り3年生主体で回すそうなんで、今年はうちとサトシが中心になってやっていくのでよろしくお願いします」
「毎年同じ唐揚げでも、慧梨夏ちゃんがリーダーってだけで期待度がいくらか増すね!」
「美弥子さんの期待に応えられるように頑張りまーす。見たまんまうちは現場を走り回って、サトシがお金のこととか事務的なことをやるような感じで行こうとは言ってますよね」
「うん、適材適所だと思うよ」

 慧梨夏サンの話にあったように、GREENsでは毎年学祭に唐揚げのブースを出しているらしい。ここで稼いだ金はサークルの予算として活動の足しになるとか。伊東サンの言うことも尤もで、慧梨夏サンがリーダーというだけでブース運営に安定感が増すような気がするし、それは他のメンバーも同じ思いのようだ。
 それだけ慧梨夏サンが普段からGREENsのイベントを企画運営して回しているのを見ているし、百戦錬磨だということを知っているからだ。なんなら他に適任の人がいるのかとすら思う。慧梨夏サンが現場でバタバタ走り回るのをサトシさんが冷静に補佐してくれるんだろうというイメージがある。

「唐揚げは例年通り紙コップへの詰め放題で300円程度の売値を想定している。今年はタピオカ系統の店が例年より増えると予想して、競合の減少という意味合いや、塩気のある唐揚げには追い風にならないかと踏んでいる」
「でも、タピオカはカロリーの塊。タピる前後に同じくカロリーの塊である唐揚げを食べるかと聞かれるとちょっとしんどいものがあるとうちは考えます。そこで! タピることを前提にした上でも食べたくなるおいしいおいしい鶏の唐揚げを作ります!」
「おおーっ」
「毎年安定した美味しさを誇るのもいいけど、1年のスパンがあるんだからより美味しくしたっていいじゃない! というワケでこちら!」
「ババン!」
「さっちゃん効果音ありがとう」
「これは慧梨夏が実家のお母さんから入手してくれた唐揚げのレシピになる。最新トレンドを踏まえたこのレシピで試作を重ね、美味い唐揚げを安定生産出来るよう各々が腕を磨かなくてはならない」
「皆さん心配していると思いますが、うちは調理に関わりません! ご安心ください!」
「――とのことだから、慧梨夏以外で練習をだな」

 俺の隣にいる尚サンに、3年生の先輩が思った以上にガチっすねと呟く。慧梨夏サンはともかく、サトシさんも見た感じ結構ガチじゃないかと。確かに伊東サンの誕生パーティー(という名のネギ祭り)以外のイベントにはひっそりといたように思うけど、ここまで前面に出て声を出すことも珍しいなと思って。
 すると、あの人も案外こういうのは嫌いじゃないんだと、と返ってきた。ふーんと思いつつも、確かにイベント嫌いならGREENsは毛色に合わないかもしれないと思った。バスケだけやるなら一応他にもサークルはあるワケだし。バスケのレベルも高い方だけど、GREENsの特色がこのイベント群だと思うから。

「ここまでで何か質問のある者は」
「はーい!」
「はい、三浦」
「唐揚げの試作ってどこでやるんですかー? 慧梨夏さんのおうちとかですか?」
「うちの部屋はとても人を上げられる場所じゃないからね、違うよ」
「まだ承諾を得ていないが、大学祭関係の前線基地は康平の部屋で構えられないかと考えている。コムギハイツは大学から目と鼻の先だからな。何かと都合がいい」
「ほほう、安心と信頼の鵠沼クンのおうちですね!」
「ん? 何か今俺呼ばれたすか?」
「うへへ~、鵠っち~、部屋を開放するのだよ~」
「康平、そういうことだから、頼む」
「えっと、何を、っすかね?」
「大学祭関係の前線基地にお前の部屋を借りられないかと。嫌だと言っても上がり込むのがGREENsだとは先に言っておく」
「あ、それじゃあ……」

 大学から部屋が近いとこんなことも日常茶飯事だとは何遍も聞かされてきたし、実際これまでのイベントもうちが会場になるのがデフォルトだった。大学祭でもと言われたところで何を驚くことがあるかと。これにはわかりましたと返事をして、部屋の片付けをタスクに足す。あんま自炊しないから台所を使わなさすぎてな、逆に。

「康平、冷蔵庫にあまり物を詰めないようにしておいてくれ」
「元々自炊あんましないんで大丈夫っす」
「鵠っちのご飯って学食メインだもんね」
「自炊をあまりしないということは調理器具などが揃わない可能性が高いということだな」
「その辺はうちが調達しますよ。何せうちの台所は神の住まう要塞ですから!」
「慧梨夏ちゃん、調理器具を勝手に拝借したら要塞の主が怒らない? 平気? 水回りは完全に管理下にあるでしょ?」
「いざとなったら美弥子サンの名前借ります」
「それじゃあアタシの名前を存分に使ってもらって」
「要塞のヌシの神さま?」
「サッチー、回りくどく言ったけど要はアタシの弟ね」
「はっ! 慧梨夏さんのかれぴっぴさん!」
「ですね」

 あれよあれよとどんな体制で行くかが擦り合わさっていく。初めての学祭だけど不安は全くない。むしろ準備期間も含めた長いイベントとして楽しめそうだ。それはきっとリーダーたちの手腕に対する期待。いや、不安はないとは言ったけど、上がられることを想定して部屋の物は少なくしておこう。


end.


++++

GREENsの唐揚げ祭りが始まりました。ナノスパの緑大大学祭は実質GREENs慧梨夏vsMBCC高崎の間のガチンコ勝負ですね。
しかし慧梨夏の部屋の台所まで神の住まう要塞と称されるレベルになってるってどうなってんですかねいち氏よ
そういや鵠さんて食事は学食メインで朝もトーストと目玉焼き(トースター一体型の鉄板で焼ける)なんであんまり自炊らしい自炊がないんですね

.
10/100ページ