2019(03)
■自由な食のある生活を
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懐かしい奴からメールで呼び出され、指定された場所に向かうと本当にいやがった。向島エリアでは大学間の単位交換制度というものがあるらしい。申請をすれば他大学の講義を受けることが出来て、その教科で取得した単位も自大学の単位として認定されるという制度らしい。
俺はそんな制度があることを全く知らなかったから眼中にもなかったが、その制度を利用して青浪敬愛大学から緑ヶ丘大学にやってきたのが長野宏樹だ。何でも、奴は緑大の社学に用事があるらしく、これから毎週火曜日は緑大で授業を受けるそうだ。奴の用事と聞くと、いい予感はしない。
「で、わざわざ俺を呼び出して、どうした」
「緑大って無駄にだだっ広いでしょ。ただ歩いてたんじゃ迷うし、高崎にナビしてもらおうと思って。とりあえず、授業終わったからご飯食べたいんだよね」
「人を都合良くナビ扱いしやがって」
「それは悪いと思ってるけど、緑大に頼る当てなんてそうないし」
「別に本気で嫌だとは思ってねえよ。確かに緑大はだだっ広いし、よっぽど散歩や探索がしたいとかじゃなきゃ効率よく歩くにはナビをつけたい。俺がお前の立場でも俺を呼ぶだろうし、俺が青敬に行ったとしてもお前を呼ぶ」
長野とは対策委員解散以来になるだろうか。前対策委員の他のメンバーとは夏合宿で会ったからさほど久々じゃない。長野が5月頃に消化器を派手にやらかしてしばらく入院したという話は直後にそれを知った山口から聞いていた。石川と一緒に、それは大変だなと肉を食いながら心配したものだ。
今では普通に日常生活を送れるまでに回復し、食事にはまだ少し制限があるそうだが何とかやれているそうだ。入院してしばらくして、先のことを考えるようになってまず心配したのが秋学期に受けることにしていた緑大の授業には間に合うだろうかということだったらしい。それほど本気で受けたかった講義なのだろう。
何の講義を受けたいのかは敢えて聞いていない。呪いの民俗学とかいう冗談じゃねえモンを専攻にしてやがる長野のことだ、どうせそっち系の悪趣味な授業を受けに来ているに違いない。ウチの社学にいやがるんだ、ハカバとかいうそんな授業ばっかやってる奴がよ。断言するが、長野は絶対ハカバ目当てだ。
「単位交換制度の申し込みっていうのが春休みの間なんだよ。秋学期の授業でもその年の春の間に申し込まなきゃいけなくってさ」
「まあ、まさか病気で入院するとは思わねえよな」
「そうなんだよ。間に合わなかったらどうしようかと思ったけど、本当に良かった」
俺も長野も3限はないから、食堂のピークを抜ける時間帯を狙って席に着く。それまでは散歩がてら長野も使いそうな緑大の施設案内をしていた。とは言っても購買や本屋、図書館、それから郵便局と銀行ATMの場所を案内したくらいだ。体育学部でもない限り、緑大の全敷地を歩くことはそうない。
俺はソースカツ丼、長野は素うどんをトレーに乗せ、席に座る。素うどんじゃ味気なくないかと聞けば、素うどんくらいのシンプルさが何が食べられるとか食べられないとかを考えなくて済むから楽なんだそうだ。もし俺がこんな食事制限のある生活をしなければならなくなったら、それは死に等しい。
「高崎、3分の1くらい食べてくれる?」
「いいけど、どうした」
「食事療法の一環でさ、食事の回数を細かく分けてるんだ。1日5食くらいで、少しずつ食べるの。胃酸が直接粘膜をやるのを防げるとかなんとかって。取り分け用の器とかあった方がいい?」
「いや、いい。お前が食った残りを引き継いでもいいし、取り分けたいなら丼の蓋があるからこの上にでも。3分の1くらいならこれでも大丈夫だろ」
「それじゃあ蓋を失礼して。よいしょ」
長野が丼の蓋にうどんを取り分けるのを見ながら、改めて食事制限は大変だなと思う。俺なんか小分けにしなくても1日5食くらいなら全然普通に食えそうだし。いや、やらねえけど。ただ、高校までの遺産で代謝してる感があるからたまにはランニングコースで走るか、大学のジムかプールでも借りるかな。
「そう言えば、高崎ってカツ丼好きなんだね」
「カツ丼も好きだけど、俺が特別好きなのはこのソースカツ丼だな」
「あ、そっか。長篠以外じゃカツ丼って言うと煮カツ丼の方が先に来るんだっけ。長篠じゃそのソースカツ丼がカツ丼で、卵でとじてあるのは煮カツ丼っていうんだよ」
「ああ、そういやこれって長篠式のソースカツ丼だったな。はっ。もしや長篠に行けばソースカツ丼の美味い店もそこらじゅうに」
「あるね。俺はまだちょっと揚げ物に制限があるから食べられないけど、元気だったら緑大のカツ丼も1回食べたかったなあ」
「ツーリングにも良さそうな時期だし、長篠カツ丼ツアーでも考えるかな」
「いいコース考えようか」
「オカルト巡りコースとかはやめてくれよ」
「あっ、オカルト巡りコースがよかった?」
「てめェぶっ飛ばすぞ」
長野の話を聞いていると、こうして俺が好き勝手に飲み食いしたり、やりたいことをやりたいように出来ているのは当たり前のようで当たり前じゃねえんだなと気付く。特に健康なんかは若いからと油断しがちだが、生活が乱れやすいのもまた一人暮らしの大学生だ。俺も今一度気をつけたい。
「話変わるけど、俺、車に乗るようになったんだよ」
「本当に唐突だな。つか免許あったんだな。車種は?」
「コペンだね、2人乗りの」
「あー、何つーか、ぽい」
「でしょ。ドライブでもする?」
「お前、俺が箱物の乗り物ダメなの知ってて言ってるだろ」
end.
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長野っちが緑大に来てるなあと思い出したんですね、唐突に。というワケで火曜日の高崎です。
カツ丼云々の話は情報センターの方でミドリがよく言ってたと思うのですが、長野っちもよなあと思い出す。目の前で食ってりゃ1回くらいは話すかなって
これからミソノとかさとちゃんとか、長野っち周りのキャラも久々に出て来るかしら。秋だもの
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懐かしい奴からメールで呼び出され、指定された場所に向かうと本当にいやがった。向島エリアでは大学間の単位交換制度というものがあるらしい。申請をすれば他大学の講義を受けることが出来て、その教科で取得した単位も自大学の単位として認定されるという制度らしい。
俺はそんな制度があることを全く知らなかったから眼中にもなかったが、その制度を利用して青浪敬愛大学から緑ヶ丘大学にやってきたのが長野宏樹だ。何でも、奴は緑大の社学に用事があるらしく、これから毎週火曜日は緑大で授業を受けるそうだ。奴の用事と聞くと、いい予感はしない。
「で、わざわざ俺を呼び出して、どうした」
「緑大って無駄にだだっ広いでしょ。ただ歩いてたんじゃ迷うし、高崎にナビしてもらおうと思って。とりあえず、授業終わったからご飯食べたいんだよね」
「人を都合良くナビ扱いしやがって」
「それは悪いと思ってるけど、緑大に頼る当てなんてそうないし」
「別に本気で嫌だとは思ってねえよ。確かに緑大はだだっ広いし、よっぽど散歩や探索がしたいとかじゃなきゃ効率よく歩くにはナビをつけたい。俺がお前の立場でも俺を呼ぶだろうし、俺が青敬に行ったとしてもお前を呼ぶ」
長野とは対策委員解散以来になるだろうか。前対策委員の他のメンバーとは夏合宿で会ったからさほど久々じゃない。長野が5月頃に消化器を派手にやらかしてしばらく入院したという話は直後にそれを知った山口から聞いていた。石川と一緒に、それは大変だなと肉を食いながら心配したものだ。
今では普通に日常生活を送れるまでに回復し、食事にはまだ少し制限があるそうだが何とかやれているそうだ。入院してしばらくして、先のことを考えるようになってまず心配したのが秋学期に受けることにしていた緑大の授業には間に合うだろうかということだったらしい。それほど本気で受けたかった講義なのだろう。
何の講義を受けたいのかは敢えて聞いていない。呪いの民俗学とかいう冗談じゃねえモンを専攻にしてやがる長野のことだ、どうせそっち系の悪趣味な授業を受けに来ているに違いない。ウチの社学にいやがるんだ、ハカバとかいうそんな授業ばっかやってる奴がよ。断言するが、長野は絶対ハカバ目当てだ。
「単位交換制度の申し込みっていうのが春休みの間なんだよ。秋学期の授業でもその年の春の間に申し込まなきゃいけなくってさ」
「まあ、まさか病気で入院するとは思わねえよな」
「そうなんだよ。間に合わなかったらどうしようかと思ったけど、本当に良かった」
俺も長野も3限はないから、食堂のピークを抜ける時間帯を狙って席に着く。それまでは散歩がてら長野も使いそうな緑大の施設案内をしていた。とは言っても購買や本屋、図書館、それから郵便局と銀行ATMの場所を案内したくらいだ。体育学部でもない限り、緑大の全敷地を歩くことはそうない。
俺はソースカツ丼、長野は素うどんをトレーに乗せ、席に座る。素うどんじゃ味気なくないかと聞けば、素うどんくらいのシンプルさが何が食べられるとか食べられないとかを考えなくて済むから楽なんだそうだ。もし俺がこんな食事制限のある生活をしなければならなくなったら、それは死に等しい。
「高崎、3分の1くらい食べてくれる?」
「いいけど、どうした」
「食事療法の一環でさ、食事の回数を細かく分けてるんだ。1日5食くらいで、少しずつ食べるの。胃酸が直接粘膜をやるのを防げるとかなんとかって。取り分け用の器とかあった方がいい?」
「いや、いい。お前が食った残りを引き継いでもいいし、取り分けたいなら丼の蓋があるからこの上にでも。3分の1くらいならこれでも大丈夫だろ」
「それじゃあ蓋を失礼して。よいしょ」
長野が丼の蓋にうどんを取り分けるのを見ながら、改めて食事制限は大変だなと思う。俺なんか小分けにしなくても1日5食くらいなら全然普通に食えそうだし。いや、やらねえけど。ただ、高校までの遺産で代謝してる感があるからたまにはランニングコースで走るか、大学のジムかプールでも借りるかな。
「そう言えば、高崎ってカツ丼好きなんだね」
「カツ丼も好きだけど、俺が特別好きなのはこのソースカツ丼だな」
「あ、そっか。長篠以外じゃカツ丼って言うと煮カツ丼の方が先に来るんだっけ。長篠じゃそのソースカツ丼がカツ丼で、卵でとじてあるのは煮カツ丼っていうんだよ」
「ああ、そういやこれって長篠式のソースカツ丼だったな。はっ。もしや長篠に行けばソースカツ丼の美味い店もそこらじゅうに」
「あるね。俺はまだちょっと揚げ物に制限があるから食べられないけど、元気だったら緑大のカツ丼も1回食べたかったなあ」
「ツーリングにも良さそうな時期だし、長篠カツ丼ツアーでも考えるかな」
「いいコース考えようか」
「オカルト巡りコースとかはやめてくれよ」
「あっ、オカルト巡りコースがよかった?」
「てめェぶっ飛ばすぞ」
長野の話を聞いていると、こうして俺が好き勝手に飲み食いしたり、やりたいことをやりたいように出来ているのは当たり前のようで当たり前じゃねえんだなと気付く。特に健康なんかは若いからと油断しがちだが、生活が乱れやすいのもまた一人暮らしの大学生だ。俺も今一度気をつけたい。
「話変わるけど、俺、車に乗るようになったんだよ」
「本当に唐突だな。つか免許あったんだな。車種は?」
「コペンだね、2人乗りの」
「あー、何つーか、ぽい」
「でしょ。ドライブでもする?」
「お前、俺が箱物の乗り物ダメなの知ってて言ってるだろ」
end.
++++
長野っちが緑大に来てるなあと思い出したんですね、唐突に。というワケで火曜日の高崎です。
カツ丼云々の話は情報センターの方でミドリがよく言ってたと思うのですが、長野っちもよなあと思い出す。目の前で食ってりゃ1回くらいは話すかなって
これからミソノとかさとちゃんとか、長野っち周りのキャラも久々に出て来るかしら。秋だもの
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