2019(03)
■憧れと信仰の友情ミックス
++++
「ようこーた! 誕生日おめでとう!」
「こーたおめでとう。それから、久し振り」
「いやはや、菅野先輩までわざわざありがとうございます。先輩はやっちゃんに呼ばれたんですよね?」
「そうだね。ヤスがどうしても俺にも来て欲しいっていうから。それにヤスから話聞いて、俺も久々に会いたくなったから」
「嬉しい話ですね」
今日はやっちゃんが私の誕生日を祝ってくれるということで呼び出されました。するとそこには1つ上の先輩である菅野先輩もいてビックリしましたよね。やっちゃんと菅野先輩は今でも星ヶ丘の部活で一緒なんだそうです。高校時代から本当に仲が良かったですからね。
先日、野坂さんと世音坂でやっちゃんと会ったのが高校卒業以来くらいの再会だったと思うのですが、一度再会をしてからは会う頻度がバグってますよね。まあ、私が日中ならある程度ヒマだというのがわかったからでしょうか。私のバイトは夜の時間帯が中心なんですよね。深夜まで営業しているスーパーですから。
「そうだこーた、聞いてくれ」
「どうされました、深刻な顔をして」
「こーたの友達っていう完璧超人のイケメンの子? ヤスがそれはもーう魅了されてるらしくて最近ずっとうるさいのなんの」
「泰稚さんうるさいって何すか!」
「ある種類友なのかもしれませんね。彼も自分の尊敬すべき先輩や好みのイケメンに対してはわあわあ騒ぎ立てますから。やっちゃんについても例外じゃありません」
「その子、どういう子なの? ヤスがそこまでなる子ってどんな子なのかちょっと興味ある」
「少し古いですが写真ならありますよ」
卒業式の時に撮影したサークルメンバー勢揃いの写真ですね。それを菅野先輩に見せてこの人がそうですよと指します。するとやっちゃんも身を乗り出してどれどれって見るんですよね。と言うかあなたは野坂さんを知っているでしょう、と。
「確かにカッコいいね」
「でしょう!? 性格もいいし、スポーツ万能だし、頭もめっちゃいいんすよ!」
「こーた、盲目になったヤスの誇張じゃなくて?」
「スポーツ万能と頭がいいというのは本当です。性格は残念ながら自由極まりなくその上救いようのないクズだとはお伝えしておきます」
「いくらこーたでもそんなこと言ったら許さねーぞ!」
「いやー、まるで尊敬する先輩に対する野坂さんを見ているようですねー」
土田さんもビックリの棒読みが出て自分でも少し引きました。でも、野坂さんに対するやっちゃんの反応が、菜月先輩と圭斗先輩に対する野坂さんのそれと全く同じなんですよね。やっぱり類友でいいじゃないですか、と。
「ちなみに野坂さんの尊敬している先輩というのがこのお二方ですね。この色男と、こちらの女性の先輩です」
「はー、やっぱ野坂君が好きになる先輩だけあって顔がいい」
「野暮なことを聞くようだけど、女子の先輩とは憧れという名の恋愛関係にあったりはしないの?」
「それはないですね。強烈な憧れこそ抱いていますが、神格化しすぎて自らが想いを焦がすことすら憚られるとか、そういうレベルの信仰ですよ」
野坂さん的に一番しんどかった初心者講習会の頃ですね。メンタルがヤバいという話を実は少し聞いていたんです。その上三井先輩が立てていたプロのラジオパーソナリティーとかいう人が講師をドタキャンして絶体絶命の窮地に陥ったとき、菜月先輩が彼と対策委員を崖っぷちから救ってくれたという経緯があります。野坂さんの菜月先輩に対する信仰にも似た憧れの意識はそれ以来強くなったと思います。
「今も昼放送でペアを組んでいて、確か昨日は収録をした流れでテレビでラグビー観戦をしていたんじゃないかと思いますね。野坂さんがラグビー経験者なので横で解説してたんでしょうね。よく野球も一緒に見ているようですし、仲良しの先輩後輩ですよ」
「は、はぁー!? 野坂君とスポーツ観戦とか、はぁー!? 羨ましすぎるだろこの先輩! そのポジション俺と代わってくれー!」
「えーと……やっちゃんてこんなキャラでしたっけ…?」
「彼が絡む話になると星ヶ丘でもこんな感じ」
「ええー……ちなみに、野坂さんもやっちゃんに対してはこんな感じなので、この顔のいい先輩と私の間ではいっそ野坂さんとやっちゃんが付き合ってしまえばいいのでは、という結論に達しました」
「俺が、野坂君と? 付き合う?」
当然、これに対して私と菅野先輩は「いくら好きでも憧れだし、さすがに男とは付き合わないよ」とかそういう答えが来るだろうと思っていたんですよね? 誤算だったのは、恐らくやっちゃんがしているであろう野坂さんと自分が付き合っている脳内シミュレーションの時間が長すぎたことです。
「……おい、ヤス?」
「もしもーし、やっちゃーん?」
「はっ」
「ヤス、何の妄想をしてたんだ。長かったな」
「いや、何のって、普通に、デートっす」
「あー、お前は素直すぎるからな。変に焚きつけてごめん」
「それは全然。泰稚さんが謝ることじゃないっす。言って、俺はアリでも相手の意向があることじゃないすか、そーゆーのって。男だろうが女だろうが」
「それはそうだな」
「いや、俺は男だし、普通に女の人と恋愛したり結婚するんだろうとは思ってるんすよ? でもぶっちゃけ今まで俺に言い寄ってきたどの女の人に対してよりめちゃドキドキしてて、苦しくって、しんどくて、今すぐ会いたいんすよ」
「憧れか信仰か恋愛かはわからないけど、強い感情があるってことか」
「多分そうっす。そのどれかを確かめたいってのもあるっす。あと、もうちょっと仲良くなってあだ名とか下の名前で呼ばれる距離感になりたいっす。「小林君」はちょっと他人行儀過ぎると言うか」
変に膨れ上がった感情の名前がわからないにしろ、私が思うよりやっちゃんが野坂さんに向ける想いがガチだったみたいですね。
「会いたいなら連絡すればいいんじゃないですか? 彼はバイトもしていませんし、土曜日でなければよほどのことがない限り誘いに応じてくれると思いますよ」
「サンキューこーた~! 今日ここ好きなモン奢る! 誕生日だし!」
「それではデザートにあんみつをつけてもらっていいですか?」
end.
++++
コバヤスが星ヶ丘でどういう騒ぎ方をしているのかは謎ですが、多分スガカンは「そろそろうっせーな」くらいには思ってたんだろうなあ
多分神崎はノサカの良き理解者ポジションなんだろうなあ。しんどい時にはしんどいなあとちょっとは態度に出しているようだし。
で、ちゃんとノサカは土曜日NGだよとコバヤスに教えてあげる神崎よ……最初から言ってあげる方が双方のためよねw
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「ようこーた! 誕生日おめでとう!」
「こーたおめでとう。それから、久し振り」
「いやはや、菅野先輩までわざわざありがとうございます。先輩はやっちゃんに呼ばれたんですよね?」
「そうだね。ヤスがどうしても俺にも来て欲しいっていうから。それにヤスから話聞いて、俺も久々に会いたくなったから」
「嬉しい話ですね」
今日はやっちゃんが私の誕生日を祝ってくれるということで呼び出されました。するとそこには1つ上の先輩である菅野先輩もいてビックリしましたよね。やっちゃんと菅野先輩は今でも星ヶ丘の部活で一緒なんだそうです。高校時代から本当に仲が良かったですからね。
先日、野坂さんと世音坂でやっちゃんと会ったのが高校卒業以来くらいの再会だったと思うのですが、一度再会をしてからは会う頻度がバグってますよね。まあ、私が日中ならある程度ヒマだというのがわかったからでしょうか。私のバイトは夜の時間帯が中心なんですよね。深夜まで営業しているスーパーですから。
「そうだこーた、聞いてくれ」
「どうされました、深刻な顔をして」
「こーたの友達っていう完璧超人のイケメンの子? ヤスがそれはもーう魅了されてるらしくて最近ずっとうるさいのなんの」
「泰稚さんうるさいって何すか!」
「ある種類友なのかもしれませんね。彼も自分の尊敬すべき先輩や好みのイケメンに対してはわあわあ騒ぎ立てますから。やっちゃんについても例外じゃありません」
「その子、どういう子なの? ヤスがそこまでなる子ってどんな子なのかちょっと興味ある」
「少し古いですが写真ならありますよ」
卒業式の時に撮影したサークルメンバー勢揃いの写真ですね。それを菅野先輩に見せてこの人がそうですよと指します。するとやっちゃんも身を乗り出してどれどれって見るんですよね。と言うかあなたは野坂さんを知っているでしょう、と。
「確かにカッコいいね」
「でしょう!? 性格もいいし、スポーツ万能だし、頭もめっちゃいいんすよ!」
「こーた、盲目になったヤスの誇張じゃなくて?」
「スポーツ万能と頭がいいというのは本当です。性格は残念ながら自由極まりなくその上救いようのないクズだとはお伝えしておきます」
「いくらこーたでもそんなこと言ったら許さねーぞ!」
「いやー、まるで尊敬する先輩に対する野坂さんを見ているようですねー」
土田さんもビックリの棒読みが出て自分でも少し引きました。でも、野坂さんに対するやっちゃんの反応が、菜月先輩と圭斗先輩に対する野坂さんのそれと全く同じなんですよね。やっぱり類友でいいじゃないですか、と。
「ちなみに野坂さんの尊敬している先輩というのがこのお二方ですね。この色男と、こちらの女性の先輩です」
「はー、やっぱ野坂君が好きになる先輩だけあって顔がいい」
「野暮なことを聞くようだけど、女子の先輩とは憧れという名の恋愛関係にあったりはしないの?」
「それはないですね。強烈な憧れこそ抱いていますが、神格化しすぎて自らが想いを焦がすことすら憚られるとか、そういうレベルの信仰ですよ」
野坂さん的に一番しんどかった初心者講習会の頃ですね。メンタルがヤバいという話を実は少し聞いていたんです。その上三井先輩が立てていたプロのラジオパーソナリティーとかいう人が講師をドタキャンして絶体絶命の窮地に陥ったとき、菜月先輩が彼と対策委員を崖っぷちから救ってくれたという経緯があります。野坂さんの菜月先輩に対する信仰にも似た憧れの意識はそれ以来強くなったと思います。
「今も昼放送でペアを組んでいて、確か昨日は収録をした流れでテレビでラグビー観戦をしていたんじゃないかと思いますね。野坂さんがラグビー経験者なので横で解説してたんでしょうね。よく野球も一緒に見ているようですし、仲良しの先輩後輩ですよ」
「は、はぁー!? 野坂君とスポーツ観戦とか、はぁー!? 羨ましすぎるだろこの先輩! そのポジション俺と代わってくれー!」
「えーと……やっちゃんてこんなキャラでしたっけ…?」
「彼が絡む話になると星ヶ丘でもこんな感じ」
「ええー……ちなみに、野坂さんもやっちゃんに対してはこんな感じなので、この顔のいい先輩と私の間ではいっそ野坂さんとやっちゃんが付き合ってしまえばいいのでは、という結論に達しました」
「俺が、野坂君と? 付き合う?」
当然、これに対して私と菅野先輩は「いくら好きでも憧れだし、さすがに男とは付き合わないよ」とかそういう答えが来るだろうと思っていたんですよね? 誤算だったのは、恐らくやっちゃんがしているであろう野坂さんと自分が付き合っている脳内シミュレーションの時間が長すぎたことです。
「……おい、ヤス?」
「もしもーし、やっちゃーん?」
「はっ」
「ヤス、何の妄想をしてたんだ。長かったな」
「いや、何のって、普通に、デートっす」
「あー、お前は素直すぎるからな。変に焚きつけてごめん」
「それは全然。泰稚さんが謝ることじゃないっす。言って、俺はアリでも相手の意向があることじゃないすか、そーゆーのって。男だろうが女だろうが」
「それはそうだな」
「いや、俺は男だし、普通に女の人と恋愛したり結婚するんだろうとは思ってるんすよ? でもぶっちゃけ今まで俺に言い寄ってきたどの女の人に対してよりめちゃドキドキしてて、苦しくって、しんどくて、今すぐ会いたいんすよ」
「憧れか信仰か恋愛かはわからないけど、強い感情があるってことか」
「多分そうっす。そのどれかを確かめたいってのもあるっす。あと、もうちょっと仲良くなってあだ名とか下の名前で呼ばれる距離感になりたいっす。「小林君」はちょっと他人行儀過ぎると言うか」
変に膨れ上がった感情の名前がわからないにしろ、私が思うよりやっちゃんが野坂さんに向ける想いがガチだったみたいですね。
「会いたいなら連絡すればいいんじゃないですか? 彼はバイトもしていませんし、土曜日でなければよほどのことがない限り誘いに応じてくれると思いますよ」
「サンキューこーた~! 今日ここ好きなモン奢る! 誕生日だし!」
「それではデザートにあんみつをつけてもらっていいですか?」
end.
++++
コバヤスが星ヶ丘でどういう騒ぎ方をしているのかは謎ですが、多分スガカンは「そろそろうっせーな」くらいには思ってたんだろうなあ
多分神崎はノサカの良き理解者ポジションなんだろうなあ。しんどい時にはしんどいなあとちょっとは態度に出しているようだし。
で、ちゃんとノサカは土曜日NGだよとコバヤスに教えてあげる神崎よ……最初から言ってあげる方が双方のためよねw
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