2019(03)

■言ってお芋も高いもの

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「いっちー先輩、ジャガイモ大会したくないですか?」
「ジャガイモ大会?」
「オクトーバーフェストってヤツですよ。厳密にはビールの大会ですね」

 突然果林がそんな話を持って来たら、とんでもない規模の大会なんじゃないかって身構えるよね。オクトーバーフェストというお祭りの話は聞いたことがある。確か星港でも夏ごろにやってたような気がする。7月なのにオクトーバーフェストなの、的な。

「ビールの大会なんですけど、ジャガイモ料理やウインナーを目いっぱい食べて飲んで楽しむっていう大会をぜひ! MBCCでも!」
「でも、どうしたの急に」
「あっ、実はタカちゃんと話してたんですよ。ほら、タカちゃんて第2外語ドイツ語じゃないですか。それで辞書開いたらオクトーバーフェストのコラムが載ってて、そこに丸が打ってあったんですって。面白そうじゃないですかって」
「タカシの辞書って確か元々高ピーの所有物だったよね?」
「ですね。つまり、MBCCオクトーバーフェストは提案すれば通る可能性が極めて高いってことです! やりましょういっちー先輩!」
「要はジャガイモとウインナーメインの無制限飲みみたいなことだよね」
「ですね。あっほらいっちー先輩カレンダー見てください、ここ、来週の土曜日! ここ、12日、土曜日! アタシの誕生日があるじゃないですか~!」

 丸が打たれたドイツ語の辞書、12日土曜日にある果林の誕生日。これだけ条件が重なれば確かにやれる。問題は食材をいかにして集めて来るかだ。ビールとかのお酒は例によって飲みたい人が集めて来ればいいんだし。ジャガイモをどれだけ用意すれば猛者たちが満足するかっていうね。
 ジャガイモをいかに料理するか。これは俺の腕が試されているんだろう。いくらジャガイモが美味しくても同じようなメニューばかりではさすがに飽きてしまうし消費能力が落ちる。そして俺がこないだ買った電気圧力鍋と真空保温調理機の出番はまさにここなんじゃないかと。

「よし、じゃあちょっと高ピーに提案してみようかな。でもまさか誕生日を迎える本人からやりましょうって言われるとは思わなかったよ」
「世間的には連休ですし飲むならここみたいなところがちょっとあるじゃないですか」
「わかんないでもないね。さて、俺はここからジャガイモ料理の開発と練習に入るワケだけど」
「期待感しかないじゃないですか!」
「冷凍保存出来る物も用意して当日そつなく動けるようにしとかないとね」
「いっちー先輩がプロ過ぎて。会場はいっちー先輩の部屋の方が良さそうですね」
「そうだね。自分の部屋の方が思いっ切り動けるからね。ホームとアウェーの違いじゃないけどさ。勝手知ったる台所の強みだよね」

 問題はジャガイモの調達なんだよな。練習をするにもジャガイモは必要だけど、ジャガイモを大量に用意するとなったらそれこそネックとなるのが値段で。運搬は慧梨夏か浅浦に手伝ってもらえばいいにしても、誰がどれくらい食うかっていう問題で。高ピーと果林がとにかく食うからなー。

「ジャガイモ料理って何があるだろ。蒸かし芋でしょ、ポテサラでしょ、コロッケでしょ」
「フライドポテトに、煮っ転がしもありますよね」
「和に行ったね」
「オクトーバーフェストは名前だけで実質ジャガイモとビールの大会ですし」
「まあね」
「芋もちとかもありますよねー。ハッシュドポテトでしょ、ポテトグラタンでしょ、ポタージュとかもいいですよねー」
「やろうと思えば何でもイケそうだな。ちょっと調べてみるか」

 ジャガイモ料理については家に帰ってから本腰を入れるとして、次の問題はまだ高ピーにこの話を通していないということ。まあ、実現可能な案としてこういう風にやりますよと提示すればわかったとは返事してくれると思うんだけど。話すまでが緊張するんだよなあ。

「おはようございます」
「おはよータカシ」
「おはよータカちゃん。あっ、昨日言ってたオクトーバーフェストの話あるじゃん、今いっちー先輩とも話してるんだけど、前向きに考えてくれてるよ」
「あ、そうなんですね。やるような感じで」
「何かタカシと果林で話してたんだって?」
「そうですね。ドイツ語の授業中に辞書を開いたらちょうどコラムが載ってて。授業でもオクトーバーフェストの話になってたんで興味が湧いて」
「例のコラムの丸は最初から打ってあったんだよね?」
「そうですね。俺じゃないですね」
「じゃあやっぱり高ピーか」

 ジャガイモだよなあ、やっぱり。1人何個計算で行けばいいんだろ。1個50円くらいと考えると……うーん、どうしたものか。練習用にジャガイモを用意するのが何気にしんどそうな感じ。ポテサラとかコロッケとかは別に練習なしでいいか。初めてやるようなものや鍋たちでやるような物は練習したいんだけど。

「えっと、俺はビールが飲めないんですけど、ビール以外の物を飲んでても大丈夫ですよね」
「MBCC流だし問題ないと思うよ」
「うん、全然オッケーでしょ」
「良かったです。でも、ジャガイモとウインナーを食べるなら飲めなくても普通に楽しそうですけどね」
「タカちゃんジャガイモとウインナー好きなの?」
「そうですね、好きです」
「いっちー先輩、タカちゃんの貴重な食事の機会ですよ!」
「そうだね、それなら気合入れなきゃなあ」
「えーと、普段の食事も一応ちゃんとしてはいますよ?」
「タカちゃんは自分が思うほどちゃんとしてないからね。ちゃんとしたご飯を食べないと」
「果林先輩ほどの量はさすがに食べられないと思いますけど」


end.


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MBCC流オクトーバーフェストの話が出て来ると、そろそろ星大情報センターも爆発するのかなあという感じですね
いち氏は終始ジャガイモの心配をしてるけど、その心配は無用なんだよなあ……そのうち救世主が現れるからな!
タカちゃんのドイツ語の辞書は元々高崎の所有物で、そのお下がりを使っています。果林とはサークル以外でも顔を合わせる模様。

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