2019(02)

■Freedom and Restraint

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「は~……めんどくせー…!」
「どうしたんです野坂さん」
「いや、俺って成人式実行委員じゃんな」

 私たちは今年成人を迎えるということで、年明けにある成人式に向けた成人式実行委員という物が組閣されていました。私と野坂さんは同じ青浪市という括りで成人式に出ることになっているのですが、野坂さんは見事その実行委員に選出されたんですね。
 青浪市の場合、実行委員は地区ごとの持ち回りで選ばれることになっているそうです。去年はこの地区だったから今年はこの地区から出しましょう、という具合に。そして、委員選出は今現在向島の外に出ていないことが条件になりますね。

「地元に残ってるというだけの理由で選ばれた実行委員ですよね」
「正直、実行委員は地区ごとのローテーション的に避けられない仕事だから職務を全うするけど、実行委員として活動してる奴とそれ以外で関わり合いを持つ気は一切ないし誰がどうなろうが死ぬほどどうでもいいんだよ」
「本当にあなたってクズですよね」

 野坂さんは「誰に対しても等しく態度が変わらない好青年」という風に言われているのですが、私から見れば誰に対しても等しく興味がないクズなんですよね。まあ、野坂さんの場合端正なルックスと一見冷静に見える態度(実際はただの偏屈ですね)でフィルターがかけられるようですが。
 誰に対しても等しく興味がないので、周りが少し敬遠しているような人とでも普通に話すことが出来るんですよね。興味がないので。だからそんな人にも話を振ってあげる聖人、みたいな扱いをされるみたいなんです? ただ、野坂さん本人は誰に対しても興味がないので。
 ただ、野坂さんの興味関心で言えば例外があって、それが尊敬すべき先輩方とイケメンに対する態度ですね。近いところで言えば圭斗先輩と菜月先輩に対してはこれ以上ないほどの尊敬具合ですし、最近なら私の友人のやっちゃんに対してイケメンセンサーが反応してました。

「で、何が面倒なんです? 実行委員の会議ですか」
「いや、会議は仕事だしやる。だけど、それ以外での遊びの誘いとか正直面倒でしかない」
「まあ、あなたってそういう人ですよね。ところで、今こうして私と遊んでいるワケですが、それについてはどう説明しますか?」
「お前と遊ぶのは楽しいから喜んで出て行くよ。何の遠慮も要らないし」
「はえ~、野坂さんからそんな風に思われていただなんて光栄ですね」
「こーた、お前俺が何の共通項もない陽キャのコミュ強ときゃいきゃい出来ると思うか?」
「出来なくはないと思いますけど強烈なストレスにはなりそうですよね」
「そう、それなんだよ。出来なくはないけど強烈なストレス! やっぱりお前はわかってるな」

 どうやら、成人式実行委員の人からプライベートでのお誘いが来ていたようですね。今年の委員は皆アクティブなようで、成人式はもちろんそれ以外でのプライベートでも会って遊んで委員の絆を作ろう、みたいなスタンスのようです。
 実行委員の中にいる私の友人も、きゃっきゃと実行委員の会議の様子を語ってくれるのですが……いかに野坂さんがこれまでに実行委員外の活動を避けて来ていたのかがわかるなあと。まあ、一応それらしい理由を付けて、そういうキャラ付けでやっているみたいなので反感は買ってないようですが。

「言ってあなたは実行委員の中でも自由人の扱いなんですから、好き勝手にやれるじゃないですか」
「いくら自由人って言っても俺のは常識の範囲内での自由だからな。本当の自由人っていうのはヒロみたいな奴のことを言うんだ」
「それを出してしまうと終わってしまうではありませんか。で? 今回はどういう集まりなんです?」
「いや、それが実行委員みんなでの集まりじゃなくて、女子から個人的に誘われてて」
「はあああ~!? 女子から個人的にとか、あなたそれ、完全にデートのお誘いじゃないですか! いや、でも知ってますよ? 知ってますから最後までは言わなくていいです。あなたは女子とか心底どうでもいいですしそんな時間があるなら勉強かオタ活に充てたいと。どうせ遊ぶならイケメンとがいいこともわかってますので言わなくていいです」
「俺のことをよーくわかってるじゃないか、こーた」
「で、どんなお誘いだったんです?」
「何か、科学館でも行かないかって。死んでも行くか、勝手に行っとけよ」
「まあ……お察ししますよ。お母様の勤め先ですもんね」

 相手の女の子はどうやら偏屈理系男の野坂さんはサイエンスで釣れると思ったのかそのデートコースを選んだようでしたが、残念ながら科学館は野坂さんがデートで一番行きたくない場所なんですよねえ。

「仮定の話をしますけど、もしも菜月先輩が野坂さんに「科学館に一緒に来て欲しい」と頼んで来たらどうするんです?」
「それは喜んでご案内させていただくに決まってるじゃないか」
「あなたってそういう人ですよね」
「科学館は俺の庭だぞ。と言うか、菜月先輩は科学に対する興味が強いし星に関してはいろいろ教えてもらえるから一緒に楽しめるけど、この誘って来た奴が科学に興味があるとは到底思えないんだよな、普段の言動からして」
「あ、そう言えば菜月先輩って文系らしからず一般教養では科学系の科目をたくさん履修してましたね」
「菜月先輩が素敵なのは今更だけど、俺はどうやってこの誘いを断るべきか。はー、めんどくさすぎる。どうせ2人で遊ぶならイケメンとがいい。贅沢を言えば圭斗先輩クラスのな」
「イケメンじゃなくて悪かったですね」
「お前はほら、陰湿で陰険っていう、陰の物だから一緒にいて落ち着くだろ」
「褒めてないですよね」
「一見褒めてないけど、一緒にいて落ち着くっていうのはめちゃくちゃ褒めてないか?」
「まあ、そういうことにしておいてあげますよ」

 尊敬すべき先輩とイケメンに対する愛情が突き抜けている分、その他に対しては死ぬほどどうでもいいというスタンスはこれからも変わりがないようです。そんな中で、クズな性根を隠すことなく開けっ広げにしてもらえている程度には、私は野坂さんから信頼されているということでいいのでしょう。まあ、あまり嬉しくはないのですが。


end.


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ノサカがただクズなだけのお話。ゆーてノサカはそーゆー男ですわ。神崎から見たノサカ観は限りなく正しいけど、周りには信用されない模様。
そう言えばちょっと前にノサカは菜月さんから科学館に誘われてたんだよなあ。喜んでご案内してたんだよなあ。
果たしてノサカはその子とデートをするのかしないのか! ……まあ何やかんや言って行かんだろうなあ

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