2019(02)
■息抜きは性癖全開で
++++
「……ふう。秦野さん、どうでした?」
「うんうん、よかったよー」
「そうですかー」
「それじゃあ休憩しようかー」
よかったよー、じゃないんだけどなあ。星港大学演劇部では、学祭公演と12月公演に向けた練習で忙しい。トレーニングに、読み合わせに、練習にと休みの間中ずっと準備してて、学祭の方はそろそろ詰めていかなきゃいけない頃合い。
演出を担当している秦野先輩が練習を統括してるんだけど、私が「どうでした?」って改善点を聞いても「よかったよ」としか言ってくれないのが専らの悩み。私は自分のやってることが自分で見れないから聞いてるのに、何がどう良かったのかすらもわからないんだもん。
「あっ、香菜子ちゃーん。すごいねー、舞台上とはホントに別人」
「青山さんこんにちは。今日はどうされたんですか?」
「いくつか曲が出来たから持って来たんだよ。秦野君に聞いてもらおうと思って」
とても背の高い、黒縁眼鏡と笑顔が特徴的なこの人は、軽音サークルの青山和泉さん。12月公演はSFミュージカルなんだけど、その音楽を監修してくれてるんだって。青山さん自身映画や舞台が好きで、よく観に行ってるんだって。秦野さんの友達でもあるみたい。
「そうだったんですね。私もどんな曲か楽しみです」
「でも、学祭もあって12月もあるって、大変だよね。セリフとかごっちゃにならない?」
「学祭の人と12月の人は別の人なのでごっちゃにはならないですね。それより私は早く曲を聞きたくって」
「あっ、それじゃあ今休憩中みたいだし香菜子ちゃん先に聴く?」
「いいんですか!?」
12月公演のお話は、とある国のお姫様がお城を飛び出して宇宙を旅するっていうSFミュージカル。歌と踊りでお話が進んでいく。歌と踊りは高校の時から得意だったし、今回のお話も本当に楽しみ。学祭公演も終わってないのにワクワクしてるよね。
聞かせてもらっている音楽は、壮大な宇宙を思わせるBGMや、市場の風景を描いた曲調だったり、いろいろな色を見せてくれて本当に楽しい。演者もそうだけど、舞台装置や音楽、それに関わる全てがその世界を作り上げる物だから、そういうものを作れる人って本当に凄いと思う。
「いいですね、この流れるような感じ。アイリッシュケルト調って感じですね」
「あっ、分かってくれた? さすが香菜子ちゃん」
「ステップを踏むのが楽しそうで。手拍子なんかで会場を乗せても楽しそうですね」
「そうそう! もちろん他にも曲は準備してるけど、今日はここまで~」
「楽しみにしてますね! 12月公演の練習は青山さんも見ててくれるんですよね?」
「時間が合う時は来るよ。どういう感じになってるのか見たいし、場合によっては調整の必要も出て来るだろうから」
青山さんとは映画の話で少し仲良くなって、今では主に12月公演での表現のことなんかを相談させてもらってる。歌と踊りは得意だけど、音楽での表現に関してはやっぱり今回の音楽監修で現役のバンドマンに聞くのが一番だろうから。と言うか正直秦野さんは打っても返ってこないから。
「青山さんの目から見て、舞台上で私が直すべきところって何かありました?」
「うーん、そうだなあ。俺の捉え方がそうなのかもしれないけど、今やってたのって学祭公演の練習でしょ?」
「はい」
「それなのにセリフ回しにちょっと音楽っぽさを感じたと言うか。歌うように喋ってると言うか……そんな印象はちょっと受けたかなあ」
「なるほどお、そう見えてたんですね。よーし、休憩明けはそれを意識してみよう」
「香菜子ちゃんて、欲しがるよねえ」
「欲しがり?」
「鳴り物入りで星大の演劇部に入って、2年生にして看板女優でしょ? 調子に乗ったっていいところを、ストイックに舞台を突き詰めてるじゃん」
「これくらいでストイックだなんて恥ずかしくて言えませんよ」
「でも、物事の改善点を指摘するっていうのは、見る方がちゃんとわかってないと出来ないことだからね。そういうのを欲しがるならやっぱり聞く相手は選んだ方がいいと思うよ」
これって、遠回しに「秦野さんに聞いてもあなたの欲しい物は得られませんよ」って言われてるような気が。でも実際そうなんだよね。下手に主演やそれに近い役柄で舞台に立つことが多くなると、周りの人があまり物を言ってくれなくなると言うか。別に芸歴とかそういうので左右される部じゃないのに。
「舞台とはちょっと反れますけど、1回本気で性癖全開の映画談義じゃないですけど、映画音楽合わせとか、ギリッギリの衣装で役柄関係なく歌って踊る大会とかをやってみたいんですよね」
「あー、面白そうだね。香菜子ちゃんが言ってたような映画だったら俺は対応出来るよ」
「さすが青山さん!」
「あっ、それだったら俺のバンドの合わせに来てみる?」
「軽音サークルのですか?」
「ううん、大学祭の中夜祭に出るためのバンドっていうのを新しく結成したんだ。正直軽音のバンドは飽きちゃってて。刺激が欲しくてさ。中夜祭のバンド……ブルースプリングっていうんだけど、ブルースプリングなら香菜子ちゃんが歌って踊るのも大歓迎だし、ノリもいいからアドリブでの表現力も鍛えられるかもね」
「すごく興味あるんですけど!」
「だったら、さっそく来ちゃう? えーと、予定が合いそうなのはいつかなー」
たまの気分転換も必要ですよね! そう言い聞かせて性癖を全開に出来る大会に心を躍らせる。どんな人が、音が待っているのか。私はそれにどう立ち回るのか。やっぱり、時々趣味の合う人との会話での息抜きって大事ですよ。
end.
++++
ブルースプリングと顔合わせする前のカナコです。ここから情報センターの秋学期が始まるぞ!
カナコはカナコで欲しがりなんだけども、どうして欲しがりになったのかと言えば高校の先輩がすげえ物を言う人だったようで
そして青山さんって軽音のバンドに飽きてたなあと思い出しました。音楽監修とかやってましたね。
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「……ふう。秦野さん、どうでした?」
「うんうん、よかったよー」
「そうですかー」
「それじゃあ休憩しようかー」
よかったよー、じゃないんだけどなあ。星港大学演劇部では、学祭公演と12月公演に向けた練習で忙しい。トレーニングに、読み合わせに、練習にと休みの間中ずっと準備してて、学祭の方はそろそろ詰めていかなきゃいけない頃合い。
演出を担当している秦野先輩が練習を統括してるんだけど、私が「どうでした?」って改善点を聞いても「よかったよ」としか言ってくれないのが専らの悩み。私は自分のやってることが自分で見れないから聞いてるのに、何がどう良かったのかすらもわからないんだもん。
「あっ、香菜子ちゃーん。すごいねー、舞台上とはホントに別人」
「青山さんこんにちは。今日はどうされたんですか?」
「いくつか曲が出来たから持って来たんだよ。秦野君に聞いてもらおうと思って」
とても背の高い、黒縁眼鏡と笑顔が特徴的なこの人は、軽音サークルの青山和泉さん。12月公演はSFミュージカルなんだけど、その音楽を監修してくれてるんだって。青山さん自身映画や舞台が好きで、よく観に行ってるんだって。秦野さんの友達でもあるみたい。
「そうだったんですね。私もどんな曲か楽しみです」
「でも、学祭もあって12月もあるって、大変だよね。セリフとかごっちゃにならない?」
「学祭の人と12月の人は別の人なのでごっちゃにはならないですね。それより私は早く曲を聞きたくって」
「あっ、それじゃあ今休憩中みたいだし香菜子ちゃん先に聴く?」
「いいんですか!?」
12月公演のお話は、とある国のお姫様がお城を飛び出して宇宙を旅するっていうSFミュージカル。歌と踊りでお話が進んでいく。歌と踊りは高校の時から得意だったし、今回のお話も本当に楽しみ。学祭公演も終わってないのにワクワクしてるよね。
聞かせてもらっている音楽は、壮大な宇宙を思わせるBGMや、市場の風景を描いた曲調だったり、いろいろな色を見せてくれて本当に楽しい。演者もそうだけど、舞台装置や音楽、それに関わる全てがその世界を作り上げる物だから、そういうものを作れる人って本当に凄いと思う。
「いいですね、この流れるような感じ。アイリッシュケルト調って感じですね」
「あっ、分かってくれた? さすが香菜子ちゃん」
「ステップを踏むのが楽しそうで。手拍子なんかで会場を乗せても楽しそうですね」
「そうそう! もちろん他にも曲は準備してるけど、今日はここまで~」
「楽しみにしてますね! 12月公演の練習は青山さんも見ててくれるんですよね?」
「時間が合う時は来るよ。どういう感じになってるのか見たいし、場合によっては調整の必要も出て来るだろうから」
青山さんとは映画の話で少し仲良くなって、今では主に12月公演での表現のことなんかを相談させてもらってる。歌と踊りは得意だけど、音楽での表現に関してはやっぱり今回の音楽監修で現役のバンドマンに聞くのが一番だろうから。と言うか正直秦野さんは打っても返ってこないから。
「青山さんの目から見て、舞台上で私が直すべきところって何かありました?」
「うーん、そうだなあ。俺の捉え方がそうなのかもしれないけど、今やってたのって学祭公演の練習でしょ?」
「はい」
「それなのにセリフ回しにちょっと音楽っぽさを感じたと言うか。歌うように喋ってると言うか……そんな印象はちょっと受けたかなあ」
「なるほどお、そう見えてたんですね。よーし、休憩明けはそれを意識してみよう」
「香菜子ちゃんて、欲しがるよねえ」
「欲しがり?」
「鳴り物入りで星大の演劇部に入って、2年生にして看板女優でしょ? 調子に乗ったっていいところを、ストイックに舞台を突き詰めてるじゃん」
「これくらいでストイックだなんて恥ずかしくて言えませんよ」
「でも、物事の改善点を指摘するっていうのは、見る方がちゃんとわかってないと出来ないことだからね。そういうのを欲しがるならやっぱり聞く相手は選んだ方がいいと思うよ」
これって、遠回しに「秦野さんに聞いてもあなたの欲しい物は得られませんよ」って言われてるような気が。でも実際そうなんだよね。下手に主演やそれに近い役柄で舞台に立つことが多くなると、周りの人があまり物を言ってくれなくなると言うか。別に芸歴とかそういうので左右される部じゃないのに。
「舞台とはちょっと反れますけど、1回本気で性癖全開の映画談義じゃないですけど、映画音楽合わせとか、ギリッギリの衣装で役柄関係なく歌って踊る大会とかをやってみたいんですよね」
「あー、面白そうだね。香菜子ちゃんが言ってたような映画だったら俺は対応出来るよ」
「さすが青山さん!」
「あっ、それだったら俺のバンドの合わせに来てみる?」
「軽音サークルのですか?」
「ううん、大学祭の中夜祭に出るためのバンドっていうのを新しく結成したんだ。正直軽音のバンドは飽きちゃってて。刺激が欲しくてさ。中夜祭のバンド……ブルースプリングっていうんだけど、ブルースプリングなら香菜子ちゃんが歌って踊るのも大歓迎だし、ノリもいいからアドリブでの表現力も鍛えられるかもね」
「すごく興味あるんですけど!」
「だったら、さっそく来ちゃう? えーと、予定が合いそうなのはいつかなー」
たまの気分転換も必要ですよね! そう言い聞かせて性癖を全開に出来る大会に心を躍らせる。どんな人が、音が待っているのか。私はそれにどう立ち回るのか。やっぱり、時々趣味の合う人との会話での息抜きって大事ですよ。
end.
++++
ブルースプリングと顔合わせする前のカナコです。ここから情報センターの秋学期が始まるぞ!
カナコはカナコで欲しがりなんだけども、どうして欲しがりになったのかと言えば高校の先輩がすげえ物を言う人だったようで
そして青山さんって軽音のバンドに飽きてたなあと思い出しました。音楽監修とかやってましたね。
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