2019(02)
■視線は前にやる
++++
「あああーっ、ヤバい降って来た! 書くモン書くモン、いや、弾くモンか!?」
「うるさいぞカン、ちょっと落ち着け」
「ホント唐突っすよね」
菅野班はカンでもっているというようなことを俺はよく言うのだけど、その理由がカンの書く音楽にある。菅野班は星ヶ丘放送部の中でもかなり特異で、自分たちが演者として演目を披露する割合の高い班だ。それは菅野班になる前からこのスタイル。今更変えるつもりもない。
ステージでは、大体の班が自分たちで考えたゲームや何かの企画に参加してくれる人をその場で募って楽しんでもらうということをメインに組み立てている。だけど俺たちは、一般参加型の企画はほとんどせず、自分たちの発する音に周りを巻き込むスタイルだ。
その大きな違いは壇上に人を呼ぶか呼ばないか。ゲームなどの企画は参加してくれる人がいなければ終わってしまうけど、俺たちのそれは別に外部の人を必要としない。たまに飛び入りで踊ったりしてくれる人もいるけど、最悪俺たちのライブで終わることも出来る。保険と言えば保険だ。
どういうコンセプトのステージにするかを決めたら、どんな曲を何分やって、などとセットリストを組み立てていく。その中でアナウンサーとは名ばかりのフロントマンが歌ったり踊ったり観衆を煽ったりして空気を作っていく。
菅野班にしてもCONTINUEというバンドにしても、曲を書いているのはカンだ。何ならSDXでも曲を書いていて、よくアイディアが尽きないなと思う。どこから曲が湧いて来るのかと、カンの脳の構造が素直に謎だし、いつ寝てるんだとすら思う。アウトプット量はそこらのPの比じゃないだろう。
「ナイス信号待ち! メモメモ……あーっ、動くなぁっ!」
「動いてないぞ」
「いや、車じゃなくてカラス!」
「カラス?」
「いーから今話しかけんな!」
俺の車の後部座席でカンが忙しそうにしている。窓から外を覗きながら、スマホをすいすいフリックし続ける。カンのスマホはいつでも曲が書けるようにカスタマイズされている。書くモンも弾くモンも常に手の中にあるのだ。
「ふんふん、ふふふん……」
「ホント唐突っすよねカンさんのこれ」
「今は大方電線に止まってるカラスが音符に見えたんだろ。やだなあ、これだけいたらフン落とされてそう」
「うわっ、えぐっ! つかキモっ! 何すかこの量!」
五線譜のように張られた電線の上には、おびただしい量のカラスが止まっている。日没も大分早くなってきたと思うけど、真っ黒なカラスが空を埋め尽くしている所為で暗く、不気味な雰囲気になっているようにも思う。
どうやらカンにはこのカラスが音符に見えたらしく、そのメロディーラインを鼻歌でなぞりながらメモするのに忙しいようだった。もちろん電線とカラスは厳密な楽譜ではないから、自分のインスピレーションを大切にしているはずだけど。
「あ、そーいやカラスとは関係ないんすけど、こないだストラップ買いに世音坂に行ったんすけど、そこでバッタリこーたに会いました」
「あ、本当に。元気そうだった?」
「あのまんまっすね」
「世音坂だし、安定のういろう?」
「安定のういろうっすね。そんで聞いてくださいよ泰稚さん、こーたと一緒にいた友達がすげー頭良くて! 基本情報の勉強の仕方とか教えてもらいました」
「それは良かったな。こーたって向島だっけ?」
「向島っすね。その向島でオールSとか取ってるすげー頭良い人なんすよ」
「あ、向島でオールSは確かに凄いな。Sって星ヶ丘で言う秀だよな」
「秀っすね。勉強もスポーツも出来て性格もいいのに彼女がいなくて男と遊んでる方が楽しいイケメンって本当にいるんだなと思った」
「言ってこーたの友達ってお前も含めて大体そんな感じじゃなかったか? 男と遊んでる方が楽しいイケメン」
カンが「俺に話しかけるな」と集中しているからか、カンに関係のない、強いて言えば俺とヤスの個人的な話が盛り上がる。神崎耕太は高校の部活の後輩だ。俺とヤスは同じ吹奏楽部でドラムとベースだったんだけど、こーたはホルンを吹いていた。
こーたは相変わらずういろうを丸かじりしているようだし、あのまんまだったとヤスは言ったものの、当時よりちょっと丸くなっていたかもしれないと記憶を呼び戻す。そしてこーたの友達という向島のイケメンだ。話を聞くと、こーたの友達の男って感じだな。
「泰稚さんは元気かとも聞かれたんで、あのまんまだって言ったっすよね」
「まあ、俺も大して変わってないからなあ」
「でもよー、スガには星羅がいるんだし、いくらなんでも高校から変わってないっつーコトはねーだろ」
「何だカン、曲書いてたんじゃないのか」
「いや、書いてるけど話は聞いてたし。何だよ、コバの友達とかいうその完璧超人。嫌味かよ」
どうやら、曲作りに集中しながらも断片的に話は聞こえていたらしい。カンの視線は相変わらずスマホに注がれているけど、会話くらいは出来るようだ。まあ、その会話の中にも時々メロディーが混ざってるんだけど。
「俺の友達ではないっすよ。友達の友達っす」
「勉強まで教わってんだから友達だろ。つかお前に勉強教えるとかそいつ聖人かよ」
「確かに俺は菅野班の中ではバカポジっすけど、一応は星ヶ丘の理系っすし全く勉強が出来ないこともないんす。ちゃんと教えてもらえればやれるんすよ」
「はいはい、良かったな。今度は受かるといいな基本情報」
「クッソ~…! 人のことバカにして!」
「俺とスガは基本情報なんか一発で通ってるし応用情報も持ってるからバカにする資格はある」
「チクショー…! 次は絶対受かってやりますからね! あームカつく! ちょっとデキるからって!」
「ヤス、ドンマイ。でも、お前が勉強にやる気になったのはいいことだと思う」
「こーたに連絡して彼にまた勉強を教わることって出来ますかね」
「聞いてみればいいんじゃないか?」
「よーし、善は急げ!」
カンはカンでまた曲作りに集中し始めたし、ヤスはヤスで勉強会の開催を実現出来るように必死。それぞれがそれぞれの理由でスマホに視線を落とす中、俺はしっかり前を見て、車を目的地に走らせるだけ。
「……やれやれ」
end.
++++
コバヤスを含めた菅野班3人だけの話ってあったかなと思って。(自分の書いた話ちゃんと覚えてない病)
少しずつコバヤスのキャラクターが出来始めてますね。爽やか系イケメンで菅野班比で勉強は苦手。本人曰く出来ないわけじゃないらしい。
勉強会ね。まあ言ってノサカはチョロいんで、コバヤスからのお願いなんか喜んで受けますわな。ヒロより酷くなきゃ勉強だって教えやすいしな……
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「あああーっ、ヤバい降って来た! 書くモン書くモン、いや、弾くモンか!?」
「うるさいぞカン、ちょっと落ち着け」
「ホント唐突っすよね」
菅野班はカンでもっているというようなことを俺はよく言うのだけど、その理由がカンの書く音楽にある。菅野班は星ヶ丘放送部の中でもかなり特異で、自分たちが演者として演目を披露する割合の高い班だ。それは菅野班になる前からこのスタイル。今更変えるつもりもない。
ステージでは、大体の班が自分たちで考えたゲームや何かの企画に参加してくれる人をその場で募って楽しんでもらうということをメインに組み立てている。だけど俺たちは、一般参加型の企画はほとんどせず、自分たちの発する音に周りを巻き込むスタイルだ。
その大きな違いは壇上に人を呼ぶか呼ばないか。ゲームなどの企画は参加してくれる人がいなければ終わってしまうけど、俺たちのそれは別に外部の人を必要としない。たまに飛び入りで踊ったりしてくれる人もいるけど、最悪俺たちのライブで終わることも出来る。保険と言えば保険だ。
どういうコンセプトのステージにするかを決めたら、どんな曲を何分やって、などとセットリストを組み立てていく。その中でアナウンサーとは名ばかりのフロントマンが歌ったり踊ったり観衆を煽ったりして空気を作っていく。
菅野班にしてもCONTINUEというバンドにしても、曲を書いているのはカンだ。何ならSDXでも曲を書いていて、よくアイディアが尽きないなと思う。どこから曲が湧いて来るのかと、カンの脳の構造が素直に謎だし、いつ寝てるんだとすら思う。アウトプット量はそこらのPの比じゃないだろう。
「ナイス信号待ち! メモメモ……あーっ、動くなぁっ!」
「動いてないぞ」
「いや、車じゃなくてカラス!」
「カラス?」
「いーから今話しかけんな!」
俺の車の後部座席でカンが忙しそうにしている。窓から外を覗きながら、スマホをすいすいフリックし続ける。カンのスマホはいつでも曲が書けるようにカスタマイズされている。書くモンも弾くモンも常に手の中にあるのだ。
「ふんふん、ふふふん……」
「ホント唐突っすよねカンさんのこれ」
「今は大方電線に止まってるカラスが音符に見えたんだろ。やだなあ、これだけいたらフン落とされてそう」
「うわっ、えぐっ! つかキモっ! 何すかこの量!」
五線譜のように張られた電線の上には、おびただしい量のカラスが止まっている。日没も大分早くなってきたと思うけど、真っ黒なカラスが空を埋め尽くしている所為で暗く、不気味な雰囲気になっているようにも思う。
どうやらカンにはこのカラスが音符に見えたらしく、そのメロディーラインを鼻歌でなぞりながらメモするのに忙しいようだった。もちろん電線とカラスは厳密な楽譜ではないから、自分のインスピレーションを大切にしているはずだけど。
「あ、そーいやカラスとは関係ないんすけど、こないだストラップ買いに世音坂に行ったんすけど、そこでバッタリこーたに会いました」
「あ、本当に。元気そうだった?」
「あのまんまっすね」
「世音坂だし、安定のういろう?」
「安定のういろうっすね。そんで聞いてくださいよ泰稚さん、こーたと一緒にいた友達がすげー頭良くて! 基本情報の勉強の仕方とか教えてもらいました」
「それは良かったな。こーたって向島だっけ?」
「向島っすね。その向島でオールSとか取ってるすげー頭良い人なんすよ」
「あ、向島でオールSは確かに凄いな。Sって星ヶ丘で言う秀だよな」
「秀っすね。勉強もスポーツも出来て性格もいいのに彼女がいなくて男と遊んでる方が楽しいイケメンって本当にいるんだなと思った」
「言ってこーたの友達ってお前も含めて大体そんな感じじゃなかったか? 男と遊んでる方が楽しいイケメン」
カンが「俺に話しかけるな」と集中しているからか、カンに関係のない、強いて言えば俺とヤスの個人的な話が盛り上がる。神崎耕太は高校の部活の後輩だ。俺とヤスは同じ吹奏楽部でドラムとベースだったんだけど、こーたはホルンを吹いていた。
こーたは相変わらずういろうを丸かじりしているようだし、あのまんまだったとヤスは言ったものの、当時よりちょっと丸くなっていたかもしれないと記憶を呼び戻す。そしてこーたの友達という向島のイケメンだ。話を聞くと、こーたの友達の男って感じだな。
「泰稚さんは元気かとも聞かれたんで、あのまんまだって言ったっすよね」
「まあ、俺も大して変わってないからなあ」
「でもよー、スガには星羅がいるんだし、いくらなんでも高校から変わってないっつーコトはねーだろ」
「何だカン、曲書いてたんじゃないのか」
「いや、書いてるけど話は聞いてたし。何だよ、コバの友達とかいうその完璧超人。嫌味かよ」
どうやら、曲作りに集中しながらも断片的に話は聞こえていたらしい。カンの視線は相変わらずスマホに注がれているけど、会話くらいは出来るようだ。まあ、その会話の中にも時々メロディーが混ざってるんだけど。
「俺の友達ではないっすよ。友達の友達っす」
「勉強まで教わってんだから友達だろ。つかお前に勉強教えるとかそいつ聖人かよ」
「確かに俺は菅野班の中ではバカポジっすけど、一応は星ヶ丘の理系っすし全く勉強が出来ないこともないんす。ちゃんと教えてもらえればやれるんすよ」
「はいはい、良かったな。今度は受かるといいな基本情報」
「クッソ~…! 人のことバカにして!」
「俺とスガは基本情報なんか一発で通ってるし応用情報も持ってるからバカにする資格はある」
「チクショー…! 次は絶対受かってやりますからね! あームカつく! ちょっとデキるからって!」
「ヤス、ドンマイ。でも、お前が勉強にやる気になったのはいいことだと思う」
「こーたに連絡して彼にまた勉強を教わることって出来ますかね」
「聞いてみればいいんじゃないか?」
「よーし、善は急げ!」
カンはカンでまた曲作りに集中し始めたし、ヤスはヤスで勉強会の開催を実現出来るように必死。それぞれがそれぞれの理由でスマホに視線を落とす中、俺はしっかり前を見て、車を目的地に走らせるだけ。
「……やれやれ」
end.
++++
コバヤスを含めた菅野班3人だけの話ってあったかなと思って。(自分の書いた話ちゃんと覚えてない病)
少しずつコバヤスのキャラクターが出来始めてますね。爽やか系イケメンで菅野班比で勉強は苦手。本人曰く出来ないわけじゃないらしい。
勉強会ね。まあ言ってノサカはチョロいんで、コバヤスからのお願いなんか喜んで受けますわな。ヒロより酷くなきゃ勉強だって教えやすいしな……
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