2019(02)

■必勝の皮算用

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「宮ちゃん、計画の方はどうだ」
「水面下で準備を進めてるよ。高崎クンは?」
「つっても俺は何を準備するとか、そういうのはねえからな」
「それもそっか」

 甘いケーキをつつきながらするのは、悪い話。少し前に高崎クンから持ち掛けられていたとても楽しい計画に向けた進捗報告。この計画のことはまだ悟られちゃいけない。それとなく、自然にそういう風に持って行けるように段取りを踏まなきゃいけない。

「でも、ただ女装させるワケでもねえっつってただろ。何か攻略法でもあんのか」
「もちろん! うちを誰だと思って。コスプレイヤーの友達もいるから、その人のツテで女装レイヤーさんを当たって女装メイクや体作りなんかのポイントも教えてもらうよ」
「化粧するにもまた違うんだな」
「そう。女の人の女装メイクと男装メイク、それから男の人の男装メイクと女装メイクはいろいろ違って来るんだって」

 高崎クンから依頼されたのは、大学祭2日目に開かれる女装ミスコンで優勝出来るようにカズを仕上げて欲しいという内容。カズ本人にはまだコンテストにエントリーしたことは言ってないそうだけど、退路を断ってしまおうということらしい。
 何でも、高崎クンの友達の中に大祭実行のお偉いサンがいるんだってね。テスト対策だったかレポート課題の見返りか何かで女装ミスコンの情報をもらったとか。何が高崎クンにとってオイシかったのかというと、優勝賞品。某有名オーディオメーカーの機材カタログの中から好きな物を1点。

「とうとう念願叶いそうだし、お前としてはガチるだろ?」
「ガチだよそりゃあ。悲願だよ。ふっふっふ……カズはきっと後悔するね。こんなことになるなら早いうちにうちを満足させておけばよかったと!」
「……まあ、お前のことだし1回やって満足なんか到底しねえだろ」
「それは言わないお約束じゃないですかあ」

 そう、カズのガチ女装プロデュースは高校の頃からの悲願。星港高校の生徒会時代、企画運営をしていた学園祭の目玉イベントが女装コンテストだった。すべてはカズを女装させるために。だけど、その時はカズが絶対に嫌だって言って引かなかったんだよね。
 あれから3年、大学生になってオタクとしてのレベルもメイクや何かのオシャレのスキルも、人脈も時間も財力もパワーアップした。欲望、煩悩、本能のすべてを注ぎ込んで今こそ叶える時! この野望をずーっと忘れることのなかったうちの執念は根強いですよ。

「それで、優勝出来る算段はあるか」
「やるからには当然優勝させるよ。だけど、大学は高校なんかとは規模が段違いだから出場者の母数がまず多いじゃん。やっぱりその分レベルも高いだろうし対策は万全にしないとなって。優勝しないとただただやり損じゃん」
「そうだな、やり損だな。伊東からしちゃ何でそんなことやらされた挙句ロクな賞品も取れなかったんだって話になるわな」
「それでさ、どこの路線を目指していくのかっていうことになるのよ。高崎クン、ここにファッション誌を用意しました。これはうちが擬態学習用に毎月買ってる雑誌なんだけどさ」
「擬態学習…?」
「オタクも外に出ていかなきゃいけないからね。清潔感って大事よ。いつだってジャージにメガネで出歩けるワケでもないし」
「まあそうだな」
「それはともかく、とにかくファッション誌があるから、カズがどの路線の美少女を目指すかを男の子目線でちょっと見てもらっていい?」

 高崎クンに差し出したファッション誌がパラパラと開かれている。カジュアル・フェミニンタイプ別着回しコーデとかいろんな特集が組まれていて、それらをカズがどんな路線で行くかというのの参考にしようっていうね。

「ぶっちゃけ、アイツの素材が素材だから何やってもある程度映えるんだろうけどな」
「そんな中で、敢えてね! なんならスポーティースタイルだったら彼氏の服を借りてますって体の私服で全然イケるからねサイズ感的に」
「あー、確かにアイツ、デフォルトがオーバーサイズだもんな」
「そうなの。普段のキャップとパーカーにショーパンで十分イケるんだけど、それじゃあ面白くなくない? 的な」
「じゃあ、こういうのじゃねえか?」
「あー、大人しすぎず可愛い系のワンピに羽織りね」
「こういうチェックのワイドパンツが推されてるけど、アイツの脚の細さを活かしてタイツだのスキニーだので攻めた方が良くねえか」
「一理ある。11月だったらニットワンピとかもきっとかわいいよねー。どーしよ」

 とりあえずスカート路線で行くことに決まったところで、高崎クンがスマホに目をやっている。えー、でもどーしよ。髪型をどうするかっていう問題もあるよね。それから服の色。カズは色白な方じゃないしこの夏も例に漏れず焼けまくってるからな~、どうしたモンでしょ。

「宮ちゃん、ミスコン最新情報が来た」
「何て!?」
「何でも、ミスコンの本戦に出場するためには写真投票での予選を勝ち抜く必要が出て来たらしい」
「予選?」
「エントリーが意外に多かったみたいだな」
「なるほどねー……つまり、写真の腕も問われると」
「まあ、そうなる」
「そうなればこっちのモンですよ! こちらには泣く子も黙るコスプレイヤーのアヤ様が! カメラと写り方のあれこれもご伝授いただかねば! ちなみに予選投票っていつ?」
「10月第2週とか何とか」
「案外日がないなあ」

 そもそも、まだカズをミスコンに出すっていう話も通してないからね。そこの説得からしないといけないっていう。でも、負ける戦いをしないのが高崎クンだから、いかにカズを捻じ伏せる説得術を見せてくれるのかに期待ですよ。


end.


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今年は女装ミスコンの依頼編を通り過ぎて、暗躍しようとしている段階からスタートです。
どんな継投で攻めようかなって考えている2人は相当悪い顔をしてるんだろうなあ。いい素材だから攻め方もいろいろあって楽しい
慧梨夏本人もパワーアップしてるけど、パワーアップしてる人脈の方が最大限に生かされる戦いでもあるんだよなあ

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