2019(02)

■pleasant blue

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「ゴメン、慌てて片付けたからまだ汚いかもしれないけど」
「ううん……綺麗にしてある……」

 オープンキャンパスまで1週間となり、さすがにそろそろ帰って来た方がいいなと思って夏の帰省を終了した。帰って来たその日には星港駅で石川と山口とバッタリ会って、駅近くの中華料理店に連れて行ってもらった。ご飯も美味しかったけど、デザートのミルクプリンが特にうまーでした。
 帰りは「どうせ大学まで行くから」と石川が豊葦方面へ走らせる車に乗せてもらえることになり、途中までは山口と3人でやいやいと下らない事を話しながら。山口が降りてからは、共通の友達である美奈の話が多くなっていたように思う。石川からその話を聞いたらしい美奈から「会いませんか」って連絡が来て現在に至る。
 星港でウィンドウショッピングをして、お昼ご飯はお好み焼きを食べた。うちはお好み焼きをふんわり美味しく焼くのが得意だから、久々に腕を振るおうと思って。美奈が美味しいって言って食べてくれたのが本当に嬉しかったなあ。うちが一から作ったワケじゃないけどね。
 ウィンドウショッピングが終われば、今日は夜までじっくりと。美奈がうちの部屋に泊まることになっている。だから昨日慌てて片付けたよな。うちは帰省するときもあんまりガッツリ片付けないから、それはもう惨状と呼ぶのが相応しい状況で……。頑張りました。これを教訓に、今度からは帰省するときもある程度片付けよう。

「前と、変化はあまりない…?」
「そうだね。目立って物も増えてないし」
「青基調なところが、菜月の部屋って感じがする……」

 フローリングに敷かれた絨毯も青だし、カーテンも青のドット柄。それから、座椅子も。ベッドに敷かれた布団にしても淡いブルー。なんなら部屋着も青だ。実家でも、自分の物は大体青で統一している。うちの実家では個人の持ち物を大体色で区別してるから、その癖が出てるんだろうな。

「実家では、青はうちの色なんだ。兄貴は黄色で芽依ちゃんが赤。で、お父さんが緑」
「分かりやすいかも……」
「えっと、夕飯を作る前に少し休憩する?」
「確かに……夕飯にはまだ少し、早め……」

 ここに来るまでの間に、美奈と一緒にスーパーで買い物をして来たんだ。夕飯は何が食べたいかなって話になって。昼がお好み焼きだったから、夜はもうちょっと違うテイストがいいねって。それと、昼はうちがお好み焼きを焼いてくれたから、夜は自分が作るって美奈が言ってくれて。
 美奈はかなり料理上手だから、素直に楽しみで。何が食べたいかなあって考えてたら、ふと煮込みハンバーグが降りて来たんだ。で、何も考えずに煮込みハンバーグって言ったら美奈は「わかった」って言うだろ。そんな急に言って出来るモンなのかって思ったけど、カゴの中に材料が入っていくんだもんなあ。

「ところで……今更だけど、駐車場……本当に良かったの…?」
「うん、麻里さん「いいよ」って言ってくれてるから。って言うか麻里さんがいないってわかってるときは圭斗も普通に許可なく一瞬借りてるし」
「トニーのそれは、一瞬……私は、一晩だから……」
「麻里さんには後でうちからもちゃんとお礼しとくし、大丈夫です」
「ありがとう……」
「あれっ。圭斗? 美奈、今日って何日だっけ」
「15日、だけど……」
「あっ、明日は圭斗の誕生日じゃないか」
「おめでたい……」

 誰の誕生日だからと言って特に何をするでもないMMPというサークルだけど、個人的にそれを気にするくらいはまああるんだ。ヒロに本人のリクエストを受けてチーズケーキを焼いてみたり、りっちゃんにうちセレクトのCDを貸し付けたり。
 明日は圭斗の誕生日。誕生日なのは別にいいんだけど、テストや合宿でバタバタしてたし、帰省もあった。ふと、最近ラーメンを食べてないなと思う。地元でいつものラーメン8号には行った。だけど、こっちにはこっちのいつものがある。それには、圭斗の足が必要だ。

「あ~…! 圭斗のことを思い出したら無性にラーメンを食べたくなってきたぁ~…! お土産渡すのを口実にラーメン食べに連れてけってメールするか~…!?」
「言うと、いい……」
「でもなあ、圭斗って何かこっちから連絡をしにくいと言うか。常に忙しそうだし」
「問題ない……」
「そうかなあ」
「女の子からの誘いを断るようであれば、そのトニーは偽物……だから、臆せず送るといい……」

 圭斗が美奈にどう見えているのかが少し透けて見えたところで、うちは圭斗に送るメールの文面を作り始める。「地元のお土産(液体/ワレモノ)があるので取りに来てください、ついでにご飯でもどうですか」的な内容の文面で。

「だけど、よくよく考えたら愛の伝道師サマが誕生日に本命の相手と過ごさずうちと一緒にラーメン食べてたら爆笑だな」
「ああ……」
「あっ、そうだ美奈、台所に地元で買って来たお酒があるんだ。もし好きそうなのあったら飲んでもいいよ。日本酒と焼酎メインだけど」
「えっ……嬉しい……本当に、いいの…?」
「これは圭斗へのお土産で、こっちは高木と交換する用のウィスキーだけど、それ以外だったらどれを開けてくれてもいいから」
「……BJには…?」
「あっ、全然考えてなかった。ビールでもあれば買って来たかもしれないけど」
「……残念」

 圭斗のおつかいと高木へのお土産(紅社土産との交換用)、それからサークルへのバラまき用お菓子のことで頭がいっぱいで、高崎のことなんかすーっかり忘れてた。まあ、そこまで頻繁に会うワケでもないしな。

「そう言えば……昨日の麻雀大会の時、徹が菜月からもらったっていうおかきを分けてくれて……」
「あ、そうなんだ。どうだった?」
「リンの手が止まらなくなってて、徹が怒ってた……私も、美味しくいただきました……」
「あれは本当に中毒性があるからなあ」
「おかきやお煎餅は、私にも美味しく食べられる物が多い……」
「わかった、今度は本当に緑風代表っていう美味しいおかきを買って来る…!」
「あ、あの……ほどほどに……」

 そうこうしている間に夕飯の準備を始めるくらいの時間になっていたし、圭斗からも珍しく早い返信があった。狭い台所に立つ美奈の背中を眺めながら、うちは明日の予定を埋める作業をしていたんだ。


end.


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去年もあったナツミナの件でした。去年は待ち合わせ段階でしたが、今年は菜月さんのお部屋に戻って来たくらいの時間ですね。
何か大きな事件があるでもなく、ただ単にゆったりと過ぎていく時間を覗いただけのお話なので、ヤマなしオチなしイミなし。
去年との違いは菜月さんの帰省タイミングですね。あと、兄さんとバッタリ会ってたりとか。てか兄さんとやまよと菜月さんて何喋るんだろ

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