2019(02)
■イケメンセンサーの暴走
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夏合宿が終わってしまえば対策委員の活動も頻度がガクンと下がり、バイトもしていない俺はただただ暇な夏休みを謳歌していた。いや、何もしていないワケではなく普通に勉強をしたりして過ごしてはいるのだけど、それでもやっぱり暇には暇で。
そんな時にこーたから「世音坂にでも遊びに出ませんか」と誘いがあるのは本当にありがたいなと思う。夜メインとは言えこーたはバイトをしてるから、遊びの誘いを入れて来るのは基本的にこーたの気分次第って感じで俺は受ける方。今日も例によって暇を拗らせていたからもちろん出ますとも。
「来週の今頃はオープンキャンパスかー……まともに番組が出来る気がしない」
「あなたはヒロさんと打ち合わせが出来ているだけまだいいじゃないですか。私なんて打ち合わせすらままならないんですから」
「三井先輩も何気にいい加減な人だからな」
「なんなら野坂さんの超弩級に悪質な遅刻癖がまともに見えてきますよ。どれだけ遅れても、必ず現場には現れるじゃないですか」
「こーたドンマイ。可哀想だしういろう奢ってやるよ」
「ありがとうございます。恐縮です」
――というワケで俺たちはさっそくういろうを買いに向かう。この世音坂に老舗の本店があるのだ。こーたはういろう1本を丸かじりするのがデフォルトになっているほどういろうが好きらしい。普通は一口とか一切れっていう単位で食う物だと思うんだけどなあ。
「あっれ、こーた!」
「ん? ああ、やっちゃん! やっちゃんではないですか! どうしたんです!?」
「フツーに買い物。ストラップ新しくしようと思って」
「そうなんですね。楽器屋に行ってたんですね」
「こーた、お前の知り合いとは思えない程のイケメンだな」
「こちら、高校時代同じ吹奏楽部だった小林泰弘君、通称やっちゃんです。女社会の中で数少ない男子として仲良くしていたんですよ」
俺のこともサークル同期の野坂さんですと紹介されて、小林君に一礼を。と言うか何だこの爽やかイケメンは! 色気を含む圭斗先輩の美しさとも違う、男らしさのあるワイルドな高崎先輩ともまた違って、小林君は爽やかで端正な笑顔が眩しい! ごちそうさまです!
吹奏楽部でこーたがホルンを吹き回す部長だった頃、小林君はベースを担当していたそうだ。そのベースを今でも趣味で続けていて、大学の部活のステージで披露する機会もあるとか。何だよ、カッコ良すぎじゃねーかよ。イケメンはどこまでもイケメンなんだ。
「野坂さん、イケメンセンサーを片付けてください。ごめんねやっちゃん、変な人なんですよ野坂さんは。端的に言うとイケメン好きで」
「こーた、奢るのノーマルからおいもういろうにグレードアップする……」
「やったーい、ありがとうございま~す」
「あ、ういろう買いに行くんだ。こーたは変わんないなあ」
「現在サークルで私が少し可哀想なことになっているということで同情してくれた野坂さんが奢ってくれるということになっていたんですけど、奢る名目が「慰め」から「イケメンとの出会いに感謝」に変わったところです」
「なにそれ。やっぱこーたの友達って面白いわ」
「野坂さん自身も私の知り合いとは思えないレベルのイケメンではあるんですけどね、性根がクズなので私の知り合いなんですよ」
「何とでも言え」
「あー、俺も星羅さん家のスタジオにお邪魔するし、茶菓子でも買ってった方がいいかな。俺も一緒にういろう買うのについてっていい?」
「構いませ――」
「どうぞどうぞ!」
「食い気味ですね~……さすがに引きますよ」
どうせなら普段はお目にかかれないタイプのイケメンを長く堪能していたかったんだ。確かにこーたと遊ぶのはそれはそれで楽しいんだけども、まさかこんなところで目と精神の保養が出来るだなんて思わなかったじゃないか。
「ところで、やっちゃんは確か星ヶ丘で菅野先輩と一緒なんでしたよね」
「うん、そうそう」
「菅野先輩はお元気ですか? お変わりありませんかね」
「泰稚さんはもうあのまんま。あー、でも多分あの人結婚のこともそこそこ意識してるわ」
「結婚!? いや、彼女がいるという話は聞いてましたけど、そんな域に達してたんですか!?」
「本人たちも相手以外考えてないって感じだけど、それより外野が外堀から埋めてる感じ。何なら彼女さんの親父さんが一番乗り気かもしれない。部屋が余ってるからって彼女の家に泰稚さんの部屋作るぐらいだぜ?」
「何ですかそれは!」
って言うか普通は彼女のお父さんがラスボスなんじゃないのか…? まあ、カップルの数だけ結婚への歩み方もあるということだろう。結婚とかそんな単語が出て来ると自分が菜月先輩と結婚したらっていう妄想にしかならないので反省するしかない。
「あの……ところで小林君は彼女などは……」
「俺? ぜーんぜん」
「やっちゃんは昔から女っ気が全然ないですもんねえ。あっさりしていると言うか、男子と遊ぶ方が楽しいと言うか。女子をカボチャ扱いするあなたと同じですよ」
「ウソだろ!? こんなイケメンに彼女がいないだなんて詐欺じゃないか!」
「野坂さん、あなた自分も彼女なしでしょう! イケメン詐欺だなんて完全なるブーメランじゃないですか!」
「うるせー! 俺は性根がクズなんだから彼女がいなくても当たり前だけど……だけど……」
「もういいですからこれ以上やっちゃんを困らせないで下さい! ごめんねえやっちゃん」
「見てて面白いから大丈夫」
大丈夫だという小林君のフォローに、こーたが当てつけのようにバカでかい溜め息をひとつ。
「野坂さんもイケメンが絡まなければ、大学での成績もオールSで運動神経も抜群ですし、見た通りイケメンなんですが……如何せん性根がクズな偏屈理系男なんですよ」
「つか向島の理系でオールSって野坂君ヤバくね!?」
「ヤバいでしょう? 情報系の資格なんかもこないだ受かってましたよね」
「基本情報な。次は応用だ。と言うかヒロの奴、人が懇切丁寧に教えてたのに教え方が悪いとか言いやがって」
「野坂君基本情報受かったの!? どんな勉強した? 俺春落ちて今度また受けるんだけど、良かったら後でポイントとか教えてくれないかな」
「喜んで! こーた、勉強出来るフリースペースってこの辺にあったっけ」
「ありますよ」
「じゃあ、ういろう買って、唐揚げか何か食べてそのフリースペースに行こう」
「やっちゃん、わざわざ野坂さんに聞かなくても菅野先輩に相談すれば良かったんじゃないですか? 菅野先輩も情報系でしたよね」
「泰稚さんは部活と音楽の人って感じで、一緒に勉強をする相手ではないんだよ」
end.
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星ヶ丘菅野班のコバヤスが、何故かぽーんと神崎と同級生だった感じで降って来たので、そのように書きました。やったね!
神崎がコバヤスのことをやっちゃんって言ってるのがただただかわいいだけのヤツ。と言うか神崎とスガPも繋がったぞ?
私の中で吹奏楽部ドラム男子は部長やってそうなイメージなので、多分スガPから神崎に部長が引き継がれたんじゃないかと思うの
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夏合宿が終わってしまえば対策委員の活動も頻度がガクンと下がり、バイトもしていない俺はただただ暇な夏休みを謳歌していた。いや、何もしていないワケではなく普通に勉強をしたりして過ごしてはいるのだけど、それでもやっぱり暇には暇で。
そんな時にこーたから「世音坂にでも遊びに出ませんか」と誘いがあるのは本当にありがたいなと思う。夜メインとは言えこーたはバイトをしてるから、遊びの誘いを入れて来るのは基本的にこーたの気分次第って感じで俺は受ける方。今日も例によって暇を拗らせていたからもちろん出ますとも。
「来週の今頃はオープンキャンパスかー……まともに番組が出来る気がしない」
「あなたはヒロさんと打ち合わせが出来ているだけまだいいじゃないですか。私なんて打ち合わせすらままならないんですから」
「三井先輩も何気にいい加減な人だからな」
「なんなら野坂さんの超弩級に悪質な遅刻癖がまともに見えてきますよ。どれだけ遅れても、必ず現場には現れるじゃないですか」
「こーたドンマイ。可哀想だしういろう奢ってやるよ」
「ありがとうございます。恐縮です」
――というワケで俺たちはさっそくういろうを買いに向かう。この世音坂に老舗の本店があるのだ。こーたはういろう1本を丸かじりするのがデフォルトになっているほどういろうが好きらしい。普通は一口とか一切れっていう単位で食う物だと思うんだけどなあ。
「あっれ、こーた!」
「ん? ああ、やっちゃん! やっちゃんではないですか! どうしたんです!?」
「フツーに買い物。ストラップ新しくしようと思って」
「そうなんですね。楽器屋に行ってたんですね」
「こーた、お前の知り合いとは思えない程のイケメンだな」
「こちら、高校時代同じ吹奏楽部だった小林泰弘君、通称やっちゃんです。女社会の中で数少ない男子として仲良くしていたんですよ」
俺のこともサークル同期の野坂さんですと紹介されて、小林君に一礼を。と言うか何だこの爽やかイケメンは! 色気を含む圭斗先輩の美しさとも違う、男らしさのあるワイルドな高崎先輩ともまた違って、小林君は爽やかで端正な笑顔が眩しい! ごちそうさまです!
吹奏楽部でこーたがホルンを吹き回す部長だった頃、小林君はベースを担当していたそうだ。そのベースを今でも趣味で続けていて、大学の部活のステージで披露する機会もあるとか。何だよ、カッコ良すぎじゃねーかよ。イケメンはどこまでもイケメンなんだ。
「野坂さん、イケメンセンサーを片付けてください。ごめんねやっちゃん、変な人なんですよ野坂さんは。端的に言うとイケメン好きで」
「こーた、奢るのノーマルからおいもういろうにグレードアップする……」
「やったーい、ありがとうございま~す」
「あ、ういろう買いに行くんだ。こーたは変わんないなあ」
「現在サークルで私が少し可哀想なことになっているということで同情してくれた野坂さんが奢ってくれるということになっていたんですけど、奢る名目が「慰め」から「イケメンとの出会いに感謝」に変わったところです」
「なにそれ。やっぱこーたの友達って面白いわ」
「野坂さん自身も私の知り合いとは思えないレベルのイケメンではあるんですけどね、性根がクズなので私の知り合いなんですよ」
「何とでも言え」
「あー、俺も星羅さん家のスタジオにお邪魔するし、茶菓子でも買ってった方がいいかな。俺も一緒にういろう買うのについてっていい?」
「構いませ――」
「どうぞどうぞ!」
「食い気味ですね~……さすがに引きますよ」
どうせなら普段はお目にかかれないタイプのイケメンを長く堪能していたかったんだ。確かにこーたと遊ぶのはそれはそれで楽しいんだけども、まさかこんなところで目と精神の保養が出来るだなんて思わなかったじゃないか。
「ところで、やっちゃんは確か星ヶ丘で菅野先輩と一緒なんでしたよね」
「うん、そうそう」
「菅野先輩はお元気ですか? お変わりありませんかね」
「泰稚さんはもうあのまんま。あー、でも多分あの人結婚のこともそこそこ意識してるわ」
「結婚!? いや、彼女がいるという話は聞いてましたけど、そんな域に達してたんですか!?」
「本人たちも相手以外考えてないって感じだけど、それより外野が外堀から埋めてる感じ。何なら彼女さんの親父さんが一番乗り気かもしれない。部屋が余ってるからって彼女の家に泰稚さんの部屋作るぐらいだぜ?」
「何ですかそれは!」
って言うか普通は彼女のお父さんがラスボスなんじゃないのか…? まあ、カップルの数だけ結婚への歩み方もあるということだろう。結婚とかそんな単語が出て来ると自分が菜月先輩と結婚したらっていう妄想にしかならないので反省するしかない。
「あの……ところで小林君は彼女などは……」
「俺? ぜーんぜん」
「やっちゃんは昔から女っ気が全然ないですもんねえ。あっさりしていると言うか、男子と遊ぶ方が楽しいと言うか。女子をカボチャ扱いするあなたと同じですよ」
「ウソだろ!? こんなイケメンに彼女がいないだなんて詐欺じゃないか!」
「野坂さん、あなた自分も彼女なしでしょう! イケメン詐欺だなんて完全なるブーメランじゃないですか!」
「うるせー! 俺は性根がクズなんだから彼女がいなくても当たり前だけど……だけど……」
「もういいですからこれ以上やっちゃんを困らせないで下さい! ごめんねえやっちゃん」
「見てて面白いから大丈夫」
大丈夫だという小林君のフォローに、こーたが当てつけのようにバカでかい溜め息をひとつ。
「野坂さんもイケメンが絡まなければ、大学での成績もオールSで運動神経も抜群ですし、見た通りイケメンなんですが……如何せん性根がクズな偏屈理系男なんですよ」
「つか向島の理系でオールSって野坂君ヤバくね!?」
「ヤバいでしょう? 情報系の資格なんかもこないだ受かってましたよね」
「基本情報な。次は応用だ。と言うかヒロの奴、人が懇切丁寧に教えてたのに教え方が悪いとか言いやがって」
「野坂君基本情報受かったの!? どんな勉強した? 俺春落ちて今度また受けるんだけど、良かったら後でポイントとか教えてくれないかな」
「喜んで! こーた、勉強出来るフリースペースってこの辺にあったっけ」
「ありますよ」
「じゃあ、ういろう買って、唐揚げか何か食べてそのフリースペースに行こう」
「やっちゃん、わざわざ野坂さんに聞かなくても菅野先輩に相談すれば良かったんじゃないですか? 菅野先輩も情報系でしたよね」
「泰稚さんは部活と音楽の人って感じで、一緒に勉強をする相手ではないんだよ」
end.
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星ヶ丘菅野班のコバヤスが、何故かぽーんと神崎と同級生だった感じで降って来たので、そのように書きました。やったね!
神崎がコバヤスのことをやっちゃんって言ってるのがただただかわいいだけのヤツ。と言うか神崎とスガPも繋がったぞ?
私の中で吹奏楽部ドラム男子は部長やってそうなイメージなので、多分スガPから神崎に部長が引き継がれたんじゃないかと思うの
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