2019(02)
■偶発的遭遇と復習
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大きな本屋は地上1階に作らなければならない法が早く制定されないだろうか。星港駅にある商業ビル、その8階にある大きな本屋に足を延ばす。地元の本屋や大学の本屋より品揃えがいいと言うか、思いもよらなかった出会いがあるから本屋通いは楽しい。でも立地は出来れば地上1階が好ましい。
学術書や参考書の他にはマンガや小説、イラストハウツーなど、いろいろな本を抱えて歩く。すると、人ばかりが密集した中でもパッと見でそれだとわかる金メッシュの髪が。山口が本を読むという印象がなかったから、正直呆気に取られた。俺が呆気に取られていると、なになに~と奴がこっちに近付いて来る。
「あれ~、石川ク~ン、ど~したの~? ……って、買い物だね~。買い込むね~」
「ああ、まあ、いろいろな。やっぱ大きな店は品揃えがいいし。お前はどんな本を」
「俺はサッカー雑誌だね~」
「お前、今でもサッカーは見てるんだな」
「うん、見てはいる。弟が一応プロのサッカー選手だし。あとは簿記の勉強をするための本かな~」
「やっぱり、経済学部だと簿記検定を受けたりするんだな」
「そうだね。一応2級まではもう持ってるんだよ。次受けるのは1級。でも、理系の学部にも試験はあるんでしょ?」
「そうだな。俺は情報系の基本情報技術者とか応用情報技術者っていうのを持ってるけど、化学系の資格を取る奴もいるかな」
「へ~。化学系の資格か~。難しそ~」
――とは言うけれど、山口が受験しようとしている簿記1級の試験だって簡単ではないのだろう。一応、俺の将来の夢と言うか目標を実現させるにはある程度俺もそっち方面の知識を身に付けておかないといけないのだけど、いつか勉強するときが来て手詰まりになったらコイツに聞いてみよう。
「って言うか石川クンこの後時間ある~?」
「あるけど、どうした?」
「もしよかったら一緒にご飯行かな~い?」
「ああ、行こうか」
このビルの中ではないんだけど、ちょっと歩いたところにおいし~中華の店がオープンしたんだって~と奴は言う。オープンしたばかりの店なんて人が並んで入れないんじゃないかと思ったけど今は平日で、しかもランチのピークタイムからは少し離れている。
買った本を提げて歩き、ようやく地上1階に戻ると安心感でほっと一息。やっぱり、高所は好きじゃない。こっちの方なんだよ~と先導する山口について歩きながら、だだっ広い横断歩道を渡る。青信号はあと10秒。さすがに遠いと俺たちは軽く駆ける。向こう側には渡ることを諦めた人もいる。
「はーっ……何とか渡り切ったな」
「ごめ~ん、点滅しても行けると思った~」
「お前の脚力を基準に考えるな。俺は買った本が重いんだぞ」
「ごめんって~……って、あっれ!? 議長サン!?」
「え、ウソ。あ、ホントだ。奥村さん」
「やたらウルサイのがいると思ったら、お前たちか。石川に山口なんて変わった組み合わせだな」
「俺たちは本屋で会って~、今から中華ランチしに行くトコ~」
「奥村さんは帰省から戻って来たところ? スーツケース引いてるし」
「ああ、そうだな。あそこに黄色いバスがいるだろ。あれが緑風から一本の高速バスだ」
横断歩道を渡り切った先には空港や地方都市へ向かう高速バスのバス停がある。駅の北側にある高速バスターミナルとはまた別にだ。バス停には目が痛くなるような黄色のバスが止まっている。彼女はあれに乗って向島に戻って来たのだと言う。
「戻って来るには早くない? 向島も秋学期来月からじゃなかったっけ」
「そうなんだけど、オープンキャンパスがあるからな。MMPで公開生放送やるから、その都合で」
「へえ、向島さんはさすがだな」
「でしょでしょ~。あっ、議長サンも一緒にご飯行かない? 長旅で疲れてなければ」
「中華って言ったな」
「うん。デザートもいろいろあって~、美味し~んだって~」
「じゃあ、行こうかな。そうだ。ここで会ったが百年目だから、お土産」
SNSでバズった結果入手がほぼ不可能になりつつあるというローカルお菓子のさらに緑風限定味のものを俺と山口に手渡して、彼女は「何やかんや米菓に落ち着くんだよ」とポツリ。煎餅やあられと言った米菓をよく食べて来たのは、米所の緑風で育った結果なのだろう。
「ちなみにだけど山口、中華のデザートって何がある? 杏仁豆腐とかゴマ団子のイメージが強いけど」
「他には~、ミルクプリンとかがあるよ~。中華って言っても場所によっていろいろ違うけど~、議長サンがあんこ好きなら大体美味しくいただけると思うよ~」
「あんこは好きだぞ」
「石川クンも甘いの好きだよね~」
「甘いものは食べるんだけど、実はそこまで極端な甘党ではないし、ないならないで食べなくても全然平気なんだ」
「えっ、石川お前、あれだけチョコレートを買い漁っておきながらその発言か!?」
「チョコレートは食べるけど、それも正直カカオ分の高い甘さ控えめのヤツの方が好きなんだ」
「へー、そうだったのか。そっか、対策委員でも飲んでるの砂糖なしのソイラテだったもんな」
「あっ、そうだったね~」
「紗希ちゃんがコーヒー苦手でいつも紅茶で、うちと高崎がカフェモカ。長野は紅茶とカプチーノのローテーション」
「ねえねえそしたら議長サン、俺はいつも何飲んでた~?」
「日によって違う。気持ち柑橘ジュースが多かった気がする」
「正解~。さすが、鬼の記憶力の議長サンでしょ~」
同じ対策委員だったと言っても、変わった組み合わせの3人だなという印象は拭えない。当時から思えば、奥村さんと山口がこうやってただただ雑談をしているという光景すら俄かには信じがたいのだから。クッソ仲悪かったもんな、この2人。今この時代がとにかく平和だと感じる。
「俺さ~来週定例会に朝霞クンの代わりに出席するんだけど~、定例会か~って。アウェーだよね~やっぱり」
「定例会なんか、窓際の帝王サマの言うことを適当に受け流しておけば終わるぞ」
「うん、あのペテン師の言うことに惑わされなければお前なら勝てるだろ」
end.
++++
イシカー兄さんとやまよが大きな本屋さんでバッタリ会ったようです。ナノスパは大体ご都合主義で出来ています。
兄さんクラスになると本なんてネットでわさっと買い漁ってそうだけど、実際の本屋を巡るのも好きなのね
そして同じくバッタリ出会った菜月さんの釣り方がまあわかりやすいわね。甘いものが好き。基本的にはPさんと一緒でいいもの。
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大きな本屋は地上1階に作らなければならない法が早く制定されないだろうか。星港駅にある商業ビル、その8階にある大きな本屋に足を延ばす。地元の本屋や大学の本屋より品揃えがいいと言うか、思いもよらなかった出会いがあるから本屋通いは楽しい。でも立地は出来れば地上1階が好ましい。
学術書や参考書の他にはマンガや小説、イラストハウツーなど、いろいろな本を抱えて歩く。すると、人ばかりが密集した中でもパッと見でそれだとわかる金メッシュの髪が。山口が本を読むという印象がなかったから、正直呆気に取られた。俺が呆気に取られていると、なになに~と奴がこっちに近付いて来る。
「あれ~、石川ク~ン、ど~したの~? ……って、買い物だね~。買い込むね~」
「ああ、まあ、いろいろな。やっぱ大きな店は品揃えがいいし。お前はどんな本を」
「俺はサッカー雑誌だね~」
「お前、今でもサッカーは見てるんだな」
「うん、見てはいる。弟が一応プロのサッカー選手だし。あとは簿記の勉強をするための本かな~」
「やっぱり、経済学部だと簿記検定を受けたりするんだな」
「そうだね。一応2級まではもう持ってるんだよ。次受けるのは1級。でも、理系の学部にも試験はあるんでしょ?」
「そうだな。俺は情報系の基本情報技術者とか応用情報技術者っていうのを持ってるけど、化学系の資格を取る奴もいるかな」
「へ~。化学系の資格か~。難しそ~」
――とは言うけれど、山口が受験しようとしている簿記1級の試験だって簡単ではないのだろう。一応、俺の将来の夢と言うか目標を実現させるにはある程度俺もそっち方面の知識を身に付けておかないといけないのだけど、いつか勉強するときが来て手詰まりになったらコイツに聞いてみよう。
「って言うか石川クンこの後時間ある~?」
「あるけど、どうした?」
「もしよかったら一緒にご飯行かな~い?」
「ああ、行こうか」
このビルの中ではないんだけど、ちょっと歩いたところにおいし~中華の店がオープンしたんだって~と奴は言う。オープンしたばかりの店なんて人が並んで入れないんじゃないかと思ったけど今は平日で、しかもランチのピークタイムからは少し離れている。
買った本を提げて歩き、ようやく地上1階に戻ると安心感でほっと一息。やっぱり、高所は好きじゃない。こっちの方なんだよ~と先導する山口について歩きながら、だだっ広い横断歩道を渡る。青信号はあと10秒。さすがに遠いと俺たちは軽く駆ける。向こう側には渡ることを諦めた人もいる。
「はーっ……何とか渡り切ったな」
「ごめ~ん、点滅しても行けると思った~」
「お前の脚力を基準に考えるな。俺は買った本が重いんだぞ」
「ごめんって~……って、あっれ!? 議長サン!?」
「え、ウソ。あ、ホントだ。奥村さん」
「やたらウルサイのがいると思ったら、お前たちか。石川に山口なんて変わった組み合わせだな」
「俺たちは本屋で会って~、今から中華ランチしに行くトコ~」
「奥村さんは帰省から戻って来たところ? スーツケース引いてるし」
「ああ、そうだな。あそこに黄色いバスがいるだろ。あれが緑風から一本の高速バスだ」
横断歩道を渡り切った先には空港や地方都市へ向かう高速バスのバス停がある。駅の北側にある高速バスターミナルとはまた別にだ。バス停には目が痛くなるような黄色のバスが止まっている。彼女はあれに乗って向島に戻って来たのだと言う。
「戻って来るには早くない? 向島も秋学期来月からじゃなかったっけ」
「そうなんだけど、オープンキャンパスがあるからな。MMPで公開生放送やるから、その都合で」
「へえ、向島さんはさすがだな」
「でしょでしょ~。あっ、議長サンも一緒にご飯行かない? 長旅で疲れてなければ」
「中華って言ったな」
「うん。デザートもいろいろあって~、美味し~んだって~」
「じゃあ、行こうかな。そうだ。ここで会ったが百年目だから、お土産」
SNSでバズった結果入手がほぼ不可能になりつつあるというローカルお菓子のさらに緑風限定味のものを俺と山口に手渡して、彼女は「何やかんや米菓に落ち着くんだよ」とポツリ。煎餅やあられと言った米菓をよく食べて来たのは、米所の緑風で育った結果なのだろう。
「ちなみにだけど山口、中華のデザートって何がある? 杏仁豆腐とかゴマ団子のイメージが強いけど」
「他には~、ミルクプリンとかがあるよ~。中華って言っても場所によっていろいろ違うけど~、議長サンがあんこ好きなら大体美味しくいただけると思うよ~」
「あんこは好きだぞ」
「石川クンも甘いの好きだよね~」
「甘いものは食べるんだけど、実はそこまで極端な甘党ではないし、ないならないで食べなくても全然平気なんだ」
「えっ、石川お前、あれだけチョコレートを買い漁っておきながらその発言か!?」
「チョコレートは食べるけど、それも正直カカオ分の高い甘さ控えめのヤツの方が好きなんだ」
「へー、そうだったのか。そっか、対策委員でも飲んでるの砂糖なしのソイラテだったもんな」
「あっ、そうだったね~」
「紗希ちゃんがコーヒー苦手でいつも紅茶で、うちと高崎がカフェモカ。長野は紅茶とカプチーノのローテーション」
「ねえねえそしたら議長サン、俺はいつも何飲んでた~?」
「日によって違う。気持ち柑橘ジュースが多かった気がする」
「正解~。さすが、鬼の記憶力の議長サンでしょ~」
同じ対策委員だったと言っても、変わった組み合わせの3人だなという印象は拭えない。当時から思えば、奥村さんと山口がこうやってただただ雑談をしているという光景すら俄かには信じがたいのだから。クッソ仲悪かったもんな、この2人。今この時代がとにかく平和だと感じる。
「俺さ~来週定例会に朝霞クンの代わりに出席するんだけど~、定例会か~って。アウェーだよね~やっぱり」
「定例会なんか、窓際の帝王サマの言うことを適当に受け流しておけば終わるぞ」
「うん、あのペテン師の言うことに惑わされなければお前なら勝てるだろ」
end.
++++
イシカー兄さんとやまよが大きな本屋さんでバッタリ会ったようです。ナノスパは大体ご都合主義で出来ています。
兄さんクラスになると本なんてネットでわさっと買い漁ってそうだけど、実際の本屋を巡るのも好きなのね
そして同じくバッタリ出会った菜月さんの釣り方がまあわかりやすいわね。甘いものが好き。基本的にはPさんと一緒でいいもの。
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