2019(02)

■秋の夜長は案外短い

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「さっあやめ、上がって上がってーッ」
「お邪魔しまーす」

 今日は奈々の家に招待されて、お泊り会が開かれることになった。奈々のお姉ちゃんの水鈴さんとは越谷さんつてに知り合ってたんだけど、奈々とはインターフェイスの夏合宿で会って。同じミキサーだから話す機会があると思うとは越谷さんからも言われてたしね。
 奈々と仲良くなったのは同じミキサーなのもそうだし、水鈴さんや圭斗先輩の話で掴みがあったのが大きかったのかなと思う。共通の話題って人と話す上では本当に大事だと思う。同じ班のアオともカメラとかの話で意気投合したし。講習会には出なかったけど、友達が出来て良かった。
 で、せっかく仲良くなったからってお泊り会ね。特に何をするでもなく、晩ご飯を食べて、夜は奈々の部屋で一緒にお喋りをしながら~っていう感じの、本当にちょっとした会になるとは思うんだけど。でも、こんな会をやっていいよって言われるのは家族の皆さんが寛容なのかな。

「あっ、これがピー子ちゃん?」
「そーなのーッ! カワイイっしょ!?」
「後で写真撮らせてー」
「いいよ! うちも撮影会するし一緒にピー子ちゃんを愛でようッ!」

 岡島家では文鳥のピー子ちゃんを飼っている。みんながみんなピー子ちゃんを溺愛していて、隙あらば写真が動画に撮ってるっていう話は聞いた。動画を見せてもらったけど、ただちょっと歩いてるだけの短い動画でも、飼い主的には可愛いポイントばかりでしんどいみたい。
 今もピー子ちゃんはカゴの中でちゅんちゅんと歩いている。私からすれば歩いてるなー、丸くて可愛いなーって感じ。可愛いなとは思うけど、奈々や水鈴さんが熱弁するほどの魅力はまだわかってない。でも、可愛いポイントを知ってた方が写真や動画に撮る上ではいいよね。

「ただいまー」
「ミーちゃんお帰りーッ!」
「あやめも来てるね」
「水鈴さんこんにちは。お邪魔してます」
「かんなちゃんは一緒じゃないの?」
「かんなにはこの話してないですよ。奈々発ですもん」
「かんなちゃんってあやめの双子のお姉ちゃんだよねッ! えーっ、来てもらえば良かったのにッ!」
「それを抜きにしても別件で用事があったんだって」
「そーなんだ残念!」

 今日のかんなはお出掛けとは言ってたけど明らかに浮かれてたよね。何にせよこの前々から決まってた予定だったみたいだし、この話をしても先約を優先してたと思う。何の用事かっていうのは浮かれてた様子を見ると何となく察するところ。まあ、敢えて突っつかないけど。
 でも、そんな風に環境が変わって来るっていうのはあんまり考えてなかったな。かんなとは学部学科もサークルも、バイト先も一緒だから。でも今ではどっちか1人での行動も増えて来てるし、家を空けるときのルールとか確認しといた方がいいかも。

「別件の用事ってあれでしょ? 裕貴のお土産行脚」
「萩さん関係かなとは思ってたんですけどちゃんとは聞いてないんですよ。でも水鈴さんがそう言うってことはやっぱりそうなんですね」
「裕貴さ、こないだ文化会の行事とかで西京に行ってたんだって。アタシと雄平にもお土産配ってたし、その流れじゃないかな」
「と言うか、萩さんてマメですよね。わざわざみんなにお土産買って来るとか」
「変に真面目だからね」
「それに先月かんなが萩さんと水族館に行って来たみたいなんですけど、誕生日プレゼントとかでハンカチをもらってたんです。何がビックリって、私の分まで用意してもらってて」
「本当に真面目だなあ! えっ、って言うか後で詳しい話聞かせて? 夜、奈々の部屋でお喋りするんでしょ? そこでちょっと」
「あんまりちゃんとは聞いてませんけど、分かる範囲で」
「じゃ、アタシ夕飯の準備してくるね」
「えっ、水鈴さんがご飯作るんですか?」
「今日はあやめが来るからってミーちゃんがハンバーグ作ってくれるんだって」
「えーっ、楽しみですー!」
「待っててよ~、雄平も唸らせた水鈴さんのハンバーグだからねッ!」

 そう言って水鈴さんは台所へと行ってしまった。でも、かんなのお出掛けはやっぱりそうだったか。まあいいか。仲のいい友達を頑なにアピールしてたけど、逆にそれが怪しいってことくらいわからないものかな。別に彼氏が出来たっていいんだけど。
 出してもらってた紅茶を飲みながら、水鈴さんのハンバーグのこととかピー子ちゃんのこと、それからインターフェイスのこととか。とにかくいろんなことを話す。まだ夏合宿が終わってそんなに経ってないけど、まだ知り合ったばっかりだから相手のことを知るのにも忙しい。

「へえ、向島ってオープンキャンパスでDJブース出すんだね」
「食堂の一角を借りてやるんだって。うちも初めてだからどんな感じかよくわかんないけど、ペア決めの時から2年生の先輩の明暗が分かれてるって感じみたい」
「向島ってみんなキャラ濃いよね。私は野坂先輩と圭斗先輩しかちゃんと話してないんだけど」
「濃いよね。あっ、うちオープンキャンパスでは圭斗先輩とペア組むんだよッ!」
「へー、そうなんだ。何か、アナウンサーとしての圭斗先輩って言ったら、野坂先輩が青い顔しながらあれこれこうしてくださいとかこれはやめてくださいとかお願いしまくってた印象しかない」
「あ、あー……うん、例に漏れずウチでもそうだったよ。うちがペアの相手に決まったら、相手が1年生なんだからちゃんとしてあげてってみんなから言われてた。合宿の班では野坂先輩がそんな感じだったんだね」

 そんなことを話していると、少しずつ漂い始めてる美味しそうな匂い。窓の外もだんだん夜に向かって行っている。既に結構喋ったと思うけどまだまだ喋れるな。水鈴さんのハンバーグを食べて、ピー子ちゃんの撮影会をして、お風呂に入って。夜は何を話すんだろう。楽しみだなあ。


end.


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あやめから見たノサカと圭斗さんの印象www でも、来期のMMPは何とかなりそうな気もちょっとしますねwww
さて、岡島家でのお泊り会です。被写体としてのピー子ちゃんに対する反応を見てると、あやめの反応ってそこらの人よりもまだいいんだろうなあ
かんなと萩さんの件は一昨年よりゆっくり進行なので、今回も特に動きなし。多分2人で食べられるお菓子とかがもらえるんじゃないかな

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