2017(02)

■なんかちょっと塩辛い

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「醤油お待ち」
「あっ、スガノ君醤油来たよ」
「ああ」

 目の前には、3人分のラーメンと餃子。それから、宇部の前には生中。今ラーメンを食べに来ているのは俺と洋平、それから宇部という変わった面々。どうしてこうなったのかはよくわからない。敢えて言うなら成り行きか。
 カウンター席で、右から洋平、俺、宇部の順に並んで座っている。俺を挟んで右と左でポツポツと会話が成されている。洋平は塩ラーメンを啜りながら、とんこつの匂い強いね~と宇部のそれに興味を示している。

「何か意外だな」
「何が?」
「宇部ととんこつラーメンっていう組み合わせが。なんかもうちょっとあっさりした物食べてそうなイメージだった」
「あっさりも好きだけど、ラーメンはとんこつが好きよ」
「うんうん、そうだよね~。でもメグちゃん、自分の研究で漬け物も食べてて、塩分過多にならない?」
「外にいることも多いから、今の季節は塩分過多なくらいがちょうどよ」
「あ、そうだよね~」

 洋平は女子に対してちゃん付けで接する印象が強いが、宇部をも“メグちゃん”と呼べるのは単純に凄い。もし他の奴がそんな風に呼ぼう物なら何かしらの処分を下されそうな恐怖もある。
 洋平と宇部は1年の時に付き合っていたが、いつしか別れていた。これを俺も含めた周りは放送部のタブーみたいな扱いにしているけど、本人たちの様子を見ていると触れてくれるなという様子でもなさそうだ。
 俺の記憶が確かなら、2人が付き合っていた頃は洋平も宇部のことを恵美と下の名前で呼び捨てにしていたように思う。異色のカップルにも見えたけど、いい雰囲気だなと憧れてもいた。俺が星羅と付き合い始める前のことだ。

「もろきゅうってわかるかしら」
「たまに食べると美味い」
「キュウリを味噌で食べるヤツでしょ?」
「畑で採ったばかりのキュウリをもろきゅうにして食べると美味しいのよ。味噌も自家製で」
「あ、いいね、特権でしょでしょ~。俺は職業柄やっぱり浅漬けとか、刻み昆布で~とかってしたくなるけど。スガノ君はどう? キュウリの食べ方」
「えーと、俺はサラダかな。カレーの付け合わせのサラダ」

 レタスと、キュウリと、ゆで卵。それらが盛り付けられたサラダ。ポテトサラダがついていてもいい。今日のサラダはスペシャルなんだ、なんて調子に乗っていた星羅の顔が浮かぶ。

「カレーと言えば星羅ちゃんのカレー、美味しいよね~」
「あら、須賀さんにそんな特技があるの」
「うん、本っ当に美味しいんだよ~。って言うかウチの部の女の子ってみんな料理上手だよね~。メグちゃんも上手だし、星羅ちゃんも上手だし~」
「星羅はカレーの他は可も不可もないぞ」
「由宇ちゃんも上手~」
「魚里も上手いのか」
「うん、上手だよ~」
「……魚里さんは、魚を捌くのが上手いのよ」

 ビールを煽りながら難しい顔をして語る宇部に、洋平も困ったように眉を下げた。宇部と魚里の間に何があったのかは知る由もないが、班同士の関係も良くない。
 恐らく、洋平は宇部と魚里の間にあったことも全部知っているのだろう。一気にビールを飲み干した宇部を優しく宥めている。誰も悪くないんだよ、と。

「メグちゃんは、メグちゃんのやりたいことがあって今の宇部Pになったんでしょ?」
「ええ」
「確かに、由宇ちゃんから見ればメグちゃんのやってることは裏切りに映るかもしれない。でも、覚悟したんだったら、やり抜かなきゃ。中途半端が一番よくないと思う。結果で示せって、メグちゃんがいつも言ってることだよね」
「……そうね」
「俺と朝霞クンも頑張ってるし、ネ。メグちゃんがブレずにやり抜けば、きっといつか由宇ちゃんだってわかってくれるよ」

 チラリと俺に目配せをして、洋平は口の前に人差し指を添える。「ここで聞いたことは内緒ね」とでも言いたげに。きっと、宇部の覚悟と同等のそれを洋平も背負っているのだろう。この部は一体どうなっているんだ。


end.


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宇部ラーメンというものの存在を知った結果、やっぱりこうなる。宇部Pにラーメンを食べさせたくなったよね
昨日の流れなのか、洋平ちゃんとスガP。とれたてのキュウリをもろきゅうにして食べる宇部P……きっとひかりと一緒なんやろな
スガPからしたらホンマ何が何やらなんやろなあ。これから学祭に向けてスガPの動きにも注目したい

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