2019(02)
■自ら生み出す生音シャワー
++++
「どーしたの芹ちゃん、突然呼び出して。ラブホでも行くの?」
「行かねーけど、なあ和泉よォ、この夏は生音を浴びに浴びて、映画も見るだけ見てまーあ楽しかったワケだ」
「そうだね。フェスは1日目が中止になっちゃったけど、楽しかったよねえ。あっ、もしかして芹ちゃん自分もやりたくてうずうずしてる?」
「おっ、やっぱお前は話が早いな」
フェスとかライブは大好きだし、割と真面目にそれを目標に1日1日を生きてる感がある。「次のライブまでは死ねない」ということだけが生きるモチベーションだ。35までには死ぬとは思ってるものの。服も年中柄シャツだけど、夏になると私服がもう「これからフェスに行きます」って感じになるもんな。
で、生音や会場の空気を浴びるだけ浴びて夢の後。向島に戻れば情報センターでの缶詰が始まった。座ってるだけで6000円だけども、ずーっと同じ場所で座ってるだけっつーのもなかなかの苦行だ。あまりに人が来ないモンだからB番のリンも事務所で待機してるくらいだし。
待機中のリンにフェスの話だとかライブの話、それから久々にドハマりしたバンドや新譜について一方的に語りまくってるから音楽への熱がまあ冷めない。宇宙と音楽の話はリンも乗ってくるからつい喋り過ぎるんだよな。他のことだったら無視されるかぶった切られるかしてクソッつってなるんだけど。
一応私もベーシストの端くれだ。ジャズ研究会にいたこともある。方向性、音楽性の違いで今では名義貸し状態だけど。何だよ、スタンダードについてこれのこういうところあこれこれこうでって語ったらドン引きされるって。まあ、何にせよ人を選ぶんだわな、語るにしてもバンドを組むにしても。
同じゼミで知り合った和泉は軽音サークルに入っているドラマーだ。音楽の話で意気投合して仲良くなった悪友みたいな、腐れ縁みたいなモンだ。和泉は私がきゃいきゃいと好きなことの話を好きなように話しても引かないし、音楽に関しては乗ってくる。それに、演ったときの相性も良かったんだよな。
「っつーワケで和泉、学祭を視野にバンドやんねーか?」
「それはいいんだけど、珍しいね、芹ちゃんが学祭でやろうとするだなんて」
「たまには開放感のあるとこでやりてーなと思ったんだよ。大学祭っていうだけあってフェスの一種だろ」
「そうだね、フェスティバルだから間違ってはないね。でもね、個人的にはただのお祭りだけじゃなくて饗宴っていう方が楽しいかなって」
「酒を入れるのは個人的にやる。あ、つかお前軽音の方ってどうなってんだ?」
「まあ例年通り軽音のバンドでも出るよね。でも大丈夫だよ。どうせ惰性でやってるだけだし、芹ちゃんと新しいことやる方が断然楽しいから」
和泉は変態だ。性的な変態でもあるけど今ここで言いたいのは音楽に対する変態さだ。一応言っておくと、音楽に対してはいい意味で用いられるその単語だ。ずっと同じことばかりやっているのが嫌いで、常に何かしらの刺激を求めている。基礎練も疎かにはしないけど、難しい技法も大好きだ。
軽音で組んでいるバンドは、最近では新曲を作るでも新たにカバーをするでもなくただ既存の曲をなあなあにやり続けるだけという活動スタンスになっているそうだ。呼ばれてるからやるけど、あのバンドには正直飽きてるとはよくゼミの時間にグチられる。まあお前はそうだろうなあと返すのが常。人のこと言えねーんだよお前は。
「それで芹ちゃん、どんなジャンルのバンドにするの?」
「ジャズやりたいんだよ久々に」
「おっ、芹ちゃんの真骨頂だね!」
「ベースと、ドラムと」
「ジャズだったら、やっぱりピアノとかになるのかな?」
「それがいいなーとは」
「でも、俺と芹ちゃんのツテで誰かピアノっている? ただピアノを弾くだけの人ならいるけど、芹ちゃんの音楽性と合うピアノって」
――と言われる前から考えていた顔がある。宇宙と音楽の話だけは乗ってくる、人を先輩と微塵たりとも思ってないクソみたいな態度の男が1人。独学でのクラシック畑育ちだが、洋食屋のバイトではジャズアレンジにした曲を演奏している経験もあるし、何より誕生日に詰めてやった芹さんオススメジャズ音源集だ。布教は出来ている。
「私の音楽性と合うかどうかは知らねーけど、私の音楽の話を普通に聞いてくれるピアノの男がいるにはいる。腕もまあそこそこあるし。難点はクソ悪い性格だな」
「この際性格は何も問題ないよね。何なら俺と芹ちゃんも大概だし。でも芹ちゃんの音楽談義を普通に聞ける人って貴重だよ」
「それなんだよ」
「その人、バンドやってくれそう?」
「やらせる。奴を動かすネタはあるんだ」
「こわっ」
リンがただバンドをやると言ったところでやるような奴とは到底思えない。勝手にやってろと言われて終わるに決まっている。だから、この話をする前には絶対に奴が断れないネタを用意しておかなければならない。幸い私には権力があるし、奴の弱点を知っている。Aという文字で埋めた紙を用意すればいいだけだ。
奴は自他共に認める受付適性皆無だ。学祭までの何ヶ月間のシフトを全部Aで埋めた紙をチラツかせてやれば、さすがのリンでも首を縦に振らせることが出来るだろう。バンドをやるか、何ヶ月間ずっと受付をやり続けるか選べと。ただ話したんじゃ動きそうにないお前の性格を呪えとしか言えないな。
「とりあえず、学祭の中夜祭かなとは思ってんだよ。昼より夜の方が雰囲気出そうだし」
「それはわかる。まあ、昼は俺も軽音の方があるから夜の方がいいかな」
「よーし、どの曲やるか考えるぞ和泉。とりあえずトリはチキンな」
「どれだけ枠もらえるかも決まってないのに気が早いね芹ちゃん」
end.
++++
今年もブルースプリングが動き始めるよ! 春山さんと青山さんの間の密会でバンド結成が話し合われるんでしたね。リン様がんばえー
青山さんは軽音サークルですが、自分のバンドには飽きている模様。そうなると怜さんのワンマンだけど曲ガンガン作るリバーシは面白い方なのかそしたら
新しいことをやりたいっていろいろ動いてる結果演劇部の音楽監修なんかを始めたりするのね青山さん。そうか、そろそろカナコも登場するのね
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「どーしたの芹ちゃん、突然呼び出して。ラブホでも行くの?」
「行かねーけど、なあ和泉よォ、この夏は生音を浴びに浴びて、映画も見るだけ見てまーあ楽しかったワケだ」
「そうだね。フェスは1日目が中止になっちゃったけど、楽しかったよねえ。あっ、もしかして芹ちゃん自分もやりたくてうずうずしてる?」
「おっ、やっぱお前は話が早いな」
フェスとかライブは大好きだし、割と真面目にそれを目標に1日1日を生きてる感がある。「次のライブまでは死ねない」ということだけが生きるモチベーションだ。35までには死ぬとは思ってるものの。服も年中柄シャツだけど、夏になると私服がもう「これからフェスに行きます」って感じになるもんな。
で、生音や会場の空気を浴びるだけ浴びて夢の後。向島に戻れば情報センターでの缶詰が始まった。座ってるだけで6000円だけども、ずーっと同じ場所で座ってるだけっつーのもなかなかの苦行だ。あまりに人が来ないモンだからB番のリンも事務所で待機してるくらいだし。
待機中のリンにフェスの話だとかライブの話、それから久々にドハマりしたバンドや新譜について一方的に語りまくってるから音楽への熱がまあ冷めない。宇宙と音楽の話はリンも乗ってくるからつい喋り過ぎるんだよな。他のことだったら無視されるかぶった切られるかしてクソッつってなるんだけど。
一応私もベーシストの端くれだ。ジャズ研究会にいたこともある。方向性、音楽性の違いで今では名義貸し状態だけど。何だよ、スタンダードについてこれのこういうところあこれこれこうでって語ったらドン引きされるって。まあ、何にせよ人を選ぶんだわな、語るにしてもバンドを組むにしても。
同じゼミで知り合った和泉は軽音サークルに入っているドラマーだ。音楽の話で意気投合して仲良くなった悪友みたいな、腐れ縁みたいなモンだ。和泉は私がきゃいきゃいと好きなことの話を好きなように話しても引かないし、音楽に関しては乗ってくる。それに、演ったときの相性も良かったんだよな。
「っつーワケで和泉、学祭を視野にバンドやんねーか?」
「それはいいんだけど、珍しいね、芹ちゃんが学祭でやろうとするだなんて」
「たまには開放感のあるとこでやりてーなと思ったんだよ。大学祭っていうだけあってフェスの一種だろ」
「そうだね、フェスティバルだから間違ってはないね。でもね、個人的にはただのお祭りだけじゃなくて饗宴っていう方が楽しいかなって」
「酒を入れるのは個人的にやる。あ、つかお前軽音の方ってどうなってんだ?」
「まあ例年通り軽音のバンドでも出るよね。でも大丈夫だよ。どうせ惰性でやってるだけだし、芹ちゃんと新しいことやる方が断然楽しいから」
和泉は変態だ。性的な変態でもあるけど今ここで言いたいのは音楽に対する変態さだ。一応言っておくと、音楽に対してはいい意味で用いられるその単語だ。ずっと同じことばかりやっているのが嫌いで、常に何かしらの刺激を求めている。基礎練も疎かにはしないけど、難しい技法も大好きだ。
軽音で組んでいるバンドは、最近では新曲を作るでも新たにカバーをするでもなくただ既存の曲をなあなあにやり続けるだけという活動スタンスになっているそうだ。呼ばれてるからやるけど、あのバンドには正直飽きてるとはよくゼミの時間にグチられる。まあお前はそうだろうなあと返すのが常。人のこと言えねーんだよお前は。
「それで芹ちゃん、どんなジャンルのバンドにするの?」
「ジャズやりたいんだよ久々に」
「おっ、芹ちゃんの真骨頂だね!」
「ベースと、ドラムと」
「ジャズだったら、やっぱりピアノとかになるのかな?」
「それがいいなーとは」
「でも、俺と芹ちゃんのツテで誰かピアノっている? ただピアノを弾くだけの人ならいるけど、芹ちゃんの音楽性と合うピアノって」
――と言われる前から考えていた顔がある。宇宙と音楽の話だけは乗ってくる、人を先輩と微塵たりとも思ってないクソみたいな態度の男が1人。独学でのクラシック畑育ちだが、洋食屋のバイトではジャズアレンジにした曲を演奏している経験もあるし、何より誕生日に詰めてやった芹さんオススメジャズ音源集だ。布教は出来ている。
「私の音楽性と合うかどうかは知らねーけど、私の音楽の話を普通に聞いてくれるピアノの男がいるにはいる。腕もまあそこそこあるし。難点はクソ悪い性格だな」
「この際性格は何も問題ないよね。何なら俺と芹ちゃんも大概だし。でも芹ちゃんの音楽談義を普通に聞ける人って貴重だよ」
「それなんだよ」
「その人、バンドやってくれそう?」
「やらせる。奴を動かすネタはあるんだ」
「こわっ」
リンがただバンドをやると言ったところでやるような奴とは到底思えない。勝手にやってろと言われて終わるに決まっている。だから、この話をする前には絶対に奴が断れないネタを用意しておかなければならない。幸い私には権力があるし、奴の弱点を知っている。Aという文字で埋めた紙を用意すればいいだけだ。
奴は自他共に認める受付適性皆無だ。学祭までの何ヶ月間のシフトを全部Aで埋めた紙をチラツかせてやれば、さすがのリンでも首を縦に振らせることが出来るだろう。バンドをやるか、何ヶ月間ずっと受付をやり続けるか選べと。ただ話したんじゃ動きそうにないお前の性格を呪えとしか言えないな。
「とりあえず、学祭の中夜祭かなとは思ってんだよ。昼より夜の方が雰囲気出そうだし」
「それはわかる。まあ、昼は俺も軽音の方があるから夜の方がいいかな」
「よーし、どの曲やるか考えるぞ和泉。とりあえずトリはチキンな」
「どれだけ枠もらえるかも決まってないのに気が早いね芹ちゃん」
end.
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今年もブルースプリングが動き始めるよ! 春山さんと青山さんの間の密会でバンド結成が話し合われるんでしたね。リン様がんばえー
青山さんは軽音サークルですが、自分のバンドには飽きている模様。そうなると怜さんのワンマンだけど曲ガンガン作るリバーシは面白い方なのかそしたら
新しいことをやりたいっていろいろ動いてる結果演劇部の音楽監修なんかを始めたりするのね青山さん。そうか、そろそろカナコも登場するのね
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