2019(02)

■心身の健康あっての創作活動

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「あっ、片桐さんどーも! ご無沙汰してますー」
「ご無沙汰してます」

 俺は趣味で絵を描いている。版権作品のファンアートも描くし、それこそ自分のオリジナル作品も描く。依頼があれば、仕事絵という区分で描かせてもらうことも少し。昔はボールペン絵がメインだったけど、今は専らデジタルで。出来ることが日々増えていくのは嬉しいし、表現の幅が広がると次は何をするかなと考える楽しみがある。
 絵が溜まればイラスト集を作るし、簡単なマンガを描いて冊子を作ったり。そういった同人活動に精を出す中で、いつの間にか相方という存在が出来ていた。それがこの雨宮さんだ。雨宮さんはBL小説をメインに書く女性だけど絵も描くし、小説のジャンルもBLに限らない。何より作品の中身が面白いし、行動力が並じゃない。
 Twitterのタグか何かだったかな、そこで繋がっていろいろ話してるうちに意気投合して、気付けばあれよあれよと本が出来上がっていた。そうして合同サークル「Chocolate Soul Music」を結成、ちょこちょこと新刊を出したり互いの個人誌に寄稿したりしながら現在に至る。
 今日は雨宮さんが先に参加していたイベントの戦果報告ということで顔を合わせている。合同本の売り上げのこともあるし、その辺はしっかりしなければならないから。あと、おつかいを頼んでいたからそのやり取りと。いつか合同か隣接でスペース取ろうとは言うんだけど、なかなか上手くいかなくて。石川クンは何気に忙しい。

「とりあえずこれが合同本の売り上げと、頼まれてたおつかい」
「ありがとうございます。ちなみに売り上げはこれ、俺個人の分ですか?」
「まだ分配はしてないんで、今やろうかなって」
「わかりました。いつも通り単純に2等分ですね」
「ですね」

 印刷費やら売り上げやら、その辺の計算はきっちりと。お金の切れ目が縁の切れ目、と彼女はスマホの電卓で計算をしている。今回の印刷費は雨宮さんに立て替えてもらっているので、俺の分は売り上げから引いてもらっている。机の上には各種料金表。実際の数字と照らし合わせて俺の目の前で計算してもらっているので納得の数字だ。
 正直、俺の出れないイベントで頒布してもらったりその他諸々の雑務もやってもらっているのできっかり2等分の配分では割に合わないだろと思う。だけど、彼女はそれだけのことで自分が多くはもらえないと言う。いや、それだけのことって言うけど実際はかなりの重労働のはずだ。よほど好きじゃないと無償ではやれないだろ。

「そうだ片桐さん、こちら差し入れです」
「何これ。紙袋? おつかいとは別件?」
「別件。俗に言うお布施だね」
「お布施」

 ――という彼女の言葉を受けて小さな紙袋の中を確認すると、中にはアリナミンと書かれた小さな箱。目・肩・腰がしんどいとは常々言っているからだろうか、俺に需要があるのだろうとよこされたそれだ。ぶっちゃけて言えば、めちゃくちゃありがたい! さすが雨宮さん、相方、わかってる。

「学生の財力じゃ小さいのしか買えなかったけど」
「いえいえ、助かります」
「片桐さんいつも目と肩しんどいって言ってるし。腰もバクダン持ってたよね。えっじゃあちょっとでも楽になったらもっといろんなの描いてもらえる? 的な先行投資とも言うね」
「先行投資ね。自分の為か」
「そうね」
「何か、そういう結果私利私欲みたいな感じになるの、俺の幼馴染みを思い出した」
「へえ、どんな?」
「去年、そいつが俺の誕生日に少し高いボールペンをくれたんだ。1本1000円くらいするヤツで、ボディ部分に名前入れてくれてさ」
「えー、いいじゃん」
「でもそんだけいいのってなかなか普段使いするのに踏ん切りつかなくってさ。そしたらそいつが何て言ったか。「自分はこれを筆記具と言うよりは画材として贈った」だって。つまりソイツを使って絵を描けって言ってきたんだよ。小学校からの幼馴染みだから俺がボールペン絵を描いてるの知ってるからさ」
「あ~、片桐さんの絵を自分が見たいが為に! でも片桐神のアナログ原画はうちも見たいかも。その幼馴染みさんの気持ちはわかるね」

 美奈からもらったそのボールペンはしっかり画材として活用させられている。普通に筆記具としても使うけど、画材としてもらったそれを目的の他のことに使うのも送り主の意図とは反するだろうし。いや、くれたのが美奈じゃなかったら普通に筆記具として使わせてもらってただろうけれども、だ。
 私利私欲と言うか打算的、または煩悩とも言うだろうか。自分自身の欲のために人に対していいことをするというのもわからないでもないんだ。言って「石川クン」の存在自体がそういう物だからだ。その煩悩を一身に受けながら、今回の雨宮さんからの差し入れはありがたく使わせていただきます。

「俺のアナログ原画ねえ。そしたら、雨宮さんにミニ色紙でも描く?」
「えっ……本当に言ってますか」
「俺が描いた物が良ければ、雨宮さんならそれを燃料に本の1冊や2冊作ってくれるはずだから。バイク乗りのバディ物とかどう?」
「ほっほーう、そう来ましたか。さすが片桐さん、わかってますわ~。いやっ、こちらとしても燃料の投下は大歓迎ですよ! チャッカマンカモン!」
「投げたら打ち返してくれるのやっぱ最高だわ雨宮さん」
「ヘイヘーイ、ピッチャービビってる~! ヘイヘイヘ~イ!」
「でもそろそろうるせえ」
「サッセーン。あっ、バディの家か事務所でロリっ子を待たせましょう?」
「いいね。色紙と別に1枚描こうか、世界観のサンプル的な」
「燃やしにかかってるじゃないですか…!」
「もーえろよもえろーよ、炎よもーえーろーってヤツね。出来たらTwitterかどこかに上げるからあとは好きに世界広げてもらって。色紙はしばしお待ちください」

 幸い大学はまだ夏休み。やることはいろいろあるけど、授業がない分趣味の時間も取りやすい。元々ワーカホリックな相方をイジリ倒して燃やし尽くすのも面白いけど、自分も感化されて過剰なまでのハイピッチになるのが問題なんだ。さて、俺は体を壊さない程度にどこまでやれるか。心身の健康あっての創作活動。


end.


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イシカー兄さんに美奈が画材としてボールペンをあげたお話は○年前にあったはず。兄さんの誕生日の頃だから11月ですね。
雨宮さんこと慧梨夏と喋ってる時の兄さんて性悪の似非優等生とも石川クンともまた違う感じですね。これは片桐さんの顔かもしかして
そして慧梨夏は誰と喋ってようが通常運転でしたね。しかしこれから学祭やらなんやらで忙しくなるのにまーた原稿抱えに行くのか……

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