2019(02)
■実在の架空ユニットを運営する
＋＋＋＋
「ほら、コンちゃん、チータ、起きて！ ７時だよ！」
「あ……おはようございます」
「ん～……」
「せっかく拓馬が休みなんだから撮り溜めするよ！」
ゲーム実況グループSDX、その収録合宿的なことが昨日からぶっ続けで行われている。俺はカンと一緒にプロさんの住んでいるアパートに乗り込み、そこで今後のSDXの運営についてやどんな動画を作っていくかの話し合いなんかをしていた。当然、今後公開する動画の収録もやっていた。
SDXというのは元々プロさんとソルさんでやっていたＰ＆Ｓというコンビにコンとチータという２人が加入して改名したグループで、主に制作しているのはゲーム実況と呼ばれるジャンルの動画になる。基本４人でわちゃわちゃゲームをしているんだけど、スケジュールの都合で全員揃わなかったりすることもまあある。
で、今はグループ唯一の社会人であるソルさんの会社が繁忙期に突入して残業に次ぐ残業祭みたいなことになっているらしい。だけどこの土日は貴重な休日ということでソルさんも交えてぶっ通しの撮影が行われる。せっかくの休みをそれで費やしていいのかとも思うけど、１回収録すればひと月は誤魔化せるだろうとのことで。
「あれ、ソルさんは」
「拓馬は１回帰ってまた来るって」
「そうですか」
「それより、チータが起きないんだけど」
「いっそ寝かせといてソルさんに文字通り叩き起こしてもらいません？」
「ああ、それもいいかもね。ナイスアイディア」
SDXでやってるゲームはマインクラフトを基本にその他諸々のPCゲームが主になる。だけど最近ではニンテンドースイッチなんかのみんなでわちゃわちゃ出来るゲームをやることも増えている。みんなのスケジュールが会えばこうして実際に集まってひたすら遊び抜くのだ。
そうやって遊び抜いた動画の使える部分をより抜いて、見られる動画にしていくのもなかなか大変な作業だ。動画編集は基本的にプロさんがやってくれてるんだけど、俺もたまにやるから大変さはよくわかる。俺はマイクラでいろんな遊び方が出来るようにシステムを作ったりする方が得意だ。
今も爆睡しているチータことカンは、音楽を作るのが主な仕事になる。それは部活の菅野班でもバンドのCONTINUEでも変わらない。SDXでのカンは動画用のBGMや効果音集なんかを作っている。「もうちょっと頑張ればアルバム作れるんじゃね？」なんて言っているけど、部活もバンドもあっていつ曲を作っているのかといい意味でドン引きだ。
「拓馬もまだもうちょっとかかるみたいだし、チータは起きないし。コンちゃん、買い物でも行く？ 下のコンビニだけど」
「そうですね。今のうちに物資を調達しておきますか。主に食べ物ですよね。でも、ソルさんに頼むのも手では」
「頼んでもいいんだけど、拓馬って自分のこだわりを人にも結構押しつけるでしょ。飲み物は水だけあればいいとか、肉は牛肉だとかさ。だから自分の欲しい物は自分で用意するのが基本だよ」
「あー……そう言われればそんなトコありますね」
向島大学のお膝元にあるプロさんのアパート・レモンハウス。学生街という感じの場所だから、コンビニも歩いてすぐ側にある。と言うか、この辺はリアルに星羅の家の近くだからSDXに入る前から土地勘は結構あったんだ。そのおかげで俺はカンからドライバーみたいな扱いを受けてるワケだけど。
「コンちゃん何食べたい？ 冷蔵庫入るかちょっと不安になってきた」
「俺はサラダとゆで卵と……主食になりそうな物は現地で見て選ぼうと思います」
「チータは何食べそうかな」
「チーズを買って来れば間違いないでしょう。と言うか必要な物があれば本人を走らせればいいだけのことですし」
「コンちゃんってサラダ好きだよね」
「あると嬉しいですね」
「何だっけ？ 彼女が作ってくれるカレーの付け合わせのサラダが一番好きなんだっけ？」
「言いましたっけ」
「チータが言ってた」
「クッソ、暢気な顔で寝てやがる。窓から投げ落としてやろうかな」
「“コンちゃん”らしからぬ口の悪さだね」
「コンはともかく、俺は人並みに怒りますんで」
SDXというグループがやっているのはゲーム実況だけじゃない。もうひとつはキャラクター遊びだ。自分ではない誰かの人格を演じてやりとりするというお遊び。俺が演じる“コン”というキャラクターは、冷静沈着でゲームのクリア目標に向けて淡々と準備しているという性質だ。たまに腹黒いというおまけもありありで。
プロさんならクズで軟派でゲームもちょっと下手くそという設定だ。ただ、実際ゲームはめちゃくちゃ上手い。それはＰ＆Ｓの動画を見ればわかること。ソルさんは男前だけど暴力的なまとめ役でＰＳお化け、それから社畜という設定。男前なＰＳお化けは合ってる。社畜は……どうだろう、あの人有給ガンガン使うし。
ただ、ソルさんが個人的にスマホパズルゲームのツミツミ動画を上げ始めると、仕事がとんでもないことになってるんだなという目安になる。SDXのツミツミ動画はソルさんが自分の生存報告のために始めたもので、喋りもしないし攻略のポイントを伝えるでもない。それを見て俺たちは「ソルさん、まだ生きてるなあ……」と遠い目をする。
「改めてコンちゃん、昨日立てた目標は」
「SDXのメインコンテンツがツミツミだと思われないようにレギュラー動画の更新頻度を保つ」
「よくできました」
「動画欄がとっちらかってたんで「ソルの生存報告ツミツミ」っていう再生リスト作りましたけど、繁忙期には１日１本は上がるんで動画数がどのシリーズのリストより多いっていう。長寿シリーズと化してるんですよねソルツミが」
「ソルツミって略すんだ」
「視聴者さんの間ではそう言われてるってカンが」
「出た、エゴサの鬼が。俺もエゴサするけどチータのエゴサはハンパないよね」
「作った物がどう見られてるかっていうのが気になるみたいですからね。ダメなトコがあるなら改善しなきゃってよく言ってますし」
「ホント、“チータ”らしからぬ真面目さだよねえ」
「部活もバンドも、コイツでもってますから」
「さ、コンちゃん、買い物行こうか」
「そうですね」
貴重な日曜日は４人でゲーム漬け。仕事のない学生は延長戦も出来るけど。
end.
＋＋＋＋
SDX話が増えてくると秋だなあと思うようになるかな、これから。カンＤは寝てるのでプロ氏とスガＰの２人です。
後のUSDXでは物書きのレイ君を含めて運営サイドという括りになるプロ氏とコンちゃんがグループのことについて淡々と喋ってるといいなあというだけの話。
ツミツミ動画の需要に関しては前年度の冬頃に語られてるから……要らない子じゃないからソルツミも……菜月さんが夢中になるんだぞ！
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「ほら、コンちゃん、チータ、起きて！ ７時だよ！」
「あ……おはようございます」
「ん～……」
「せっかく拓馬が休みなんだから撮り溜めするよ！」
ゲーム実況グループSDX、その収録合宿的なことが昨日からぶっ続けで行われている。俺はカンと一緒にプロさんの住んでいるアパートに乗り込み、そこで今後のSDXの運営についてやどんな動画を作っていくかの話し合いなんかをしていた。当然、今後公開する動画の収録もやっていた。
SDXというのは元々プロさんとソルさんでやっていたＰ＆Ｓというコンビにコンとチータという２人が加入して改名したグループで、主に制作しているのはゲーム実況と呼ばれるジャンルの動画になる。基本４人でわちゃわちゃゲームをしているんだけど、スケジュールの都合で全員揃わなかったりすることもまあある。
で、今はグループ唯一の社会人であるソルさんの会社が繁忙期に突入して残業に次ぐ残業祭みたいなことになっているらしい。だけどこの土日は貴重な休日ということでソルさんも交えてぶっ通しの撮影が行われる。せっかくの休みをそれで費やしていいのかとも思うけど、１回収録すればひと月は誤魔化せるだろうとのことで。
「あれ、ソルさんは」
「拓馬は１回帰ってまた来るって」
「そうですか」
「それより、チータが起きないんだけど」
「いっそ寝かせといてソルさんに文字通り叩き起こしてもらいません？」
「ああ、それもいいかもね。ナイスアイディア」
SDXでやってるゲームはマインクラフトを基本にその他諸々のPCゲームが主になる。だけど最近ではニンテンドースイッチなんかのみんなでわちゃわちゃ出来るゲームをやることも増えている。みんなのスケジュールが会えばこうして実際に集まってひたすら遊び抜くのだ。
そうやって遊び抜いた動画の使える部分をより抜いて、見られる動画にしていくのもなかなか大変な作業だ。動画編集は基本的にプロさんがやってくれてるんだけど、俺もたまにやるから大変さはよくわかる。俺はマイクラでいろんな遊び方が出来るようにシステムを作ったりする方が得意だ。
今も爆睡しているチータことカンは、音楽を作るのが主な仕事になる。それは部活の菅野班でもバンドのCONTINUEでも変わらない。SDXでのカンは動画用のBGMや効果音集なんかを作っている。「もうちょっと頑張ればアルバム作れるんじゃね？」なんて言っているけど、部活もバンドもあっていつ曲を作っているのかといい意味でドン引きだ。
「拓馬もまだもうちょっとかかるみたいだし、チータは起きないし。コンちゃん、買い物でも行く？ 下のコンビニだけど」
「そうですね。今のうちに物資を調達しておきますか。主に食べ物ですよね。でも、ソルさんに頼むのも手では」
「頼んでもいいんだけど、拓馬って自分のこだわりを人にも結構押しつけるでしょ。飲み物は水だけあればいいとか、肉は牛肉だとかさ。だから自分の欲しい物は自分で用意するのが基本だよ」
「あー……そう言われればそんなトコありますね」
向島大学のお膝元にあるプロさんのアパート・レモンハウス。学生街という感じの場所だから、コンビニも歩いてすぐ側にある。と言うか、この辺はリアルに星羅の家の近くだからSDXに入る前から土地勘は結構あったんだ。そのおかげで俺はカンからドライバーみたいな扱いを受けてるワケだけど。
「コンちゃん何食べたい？ 冷蔵庫入るかちょっと不安になってきた」
「俺はサラダとゆで卵と……主食になりそうな物は現地で見て選ぼうと思います」
「チータは何食べそうかな」
「チーズを買って来れば間違いないでしょう。と言うか必要な物があれば本人を走らせればいいだけのことですし」
「コンちゃんってサラダ好きだよね」
「あると嬉しいですね」
「何だっけ？ 彼女が作ってくれるカレーの付け合わせのサラダが一番好きなんだっけ？」
「言いましたっけ」
「チータが言ってた」
「クッソ、暢気な顔で寝てやがる。窓から投げ落としてやろうかな」
「“コンちゃん”らしからぬ口の悪さだね」
「コンはともかく、俺は人並みに怒りますんで」
SDXというグループがやっているのはゲーム実況だけじゃない。もうひとつはキャラクター遊びだ。自分ではない誰かの人格を演じてやりとりするというお遊び。俺が演じる“コン”というキャラクターは、冷静沈着でゲームのクリア目標に向けて淡々と準備しているという性質だ。たまに腹黒いというおまけもありありで。
プロさんならクズで軟派でゲームもちょっと下手くそという設定だ。ただ、実際ゲームはめちゃくちゃ上手い。それはＰ＆Ｓの動画を見ればわかること。ソルさんは男前だけど暴力的なまとめ役でＰＳお化け、それから社畜という設定。男前なＰＳお化けは合ってる。社畜は……どうだろう、あの人有給ガンガン使うし。
ただ、ソルさんが個人的にスマホパズルゲームのツミツミ動画を上げ始めると、仕事がとんでもないことになってるんだなという目安になる。SDXのツミツミ動画はソルさんが自分の生存報告のために始めたもので、喋りもしないし攻略のポイントを伝えるでもない。それを見て俺たちは「ソルさん、まだ生きてるなあ……」と遠い目をする。
「改めてコンちゃん、昨日立てた目標は」
「SDXのメインコンテンツがツミツミだと思われないようにレギュラー動画の更新頻度を保つ」
「よくできました」
「動画欄がとっちらかってたんで「ソルの生存報告ツミツミ」っていう再生リスト作りましたけど、繁忙期には１日１本は上がるんで動画数がどのシリーズのリストより多いっていう。長寿シリーズと化してるんですよねソルツミが」
「ソルツミって略すんだ」
「視聴者さんの間ではそう言われてるってカンが」
「出た、エゴサの鬼が。俺もエゴサするけどチータのエゴサはハンパないよね」
「作った物がどう見られてるかっていうのが気になるみたいですからね。ダメなトコがあるなら改善しなきゃってよく言ってますし」
「ホント、“チータ”らしからぬ真面目さだよねえ」
「部活もバンドも、コイツでもってますから」
「さ、コンちゃん、買い物行こうか」
「そうですね」
貴重な日曜日は４人でゲーム漬け。仕事のない学生は延長戦も出来るけど。
end.
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SDX話が増えてくると秋だなあと思うようになるかな、これから。カンＤは寝てるのでプロ氏とスガＰの２人です。
後のUSDXでは物書きのレイ君を含めて運営サイドという括りになるプロ氏とコンちゃんがグループのことについて淡々と喋ってるといいなあというだけの話。
ツミツミ動画の需要に関しては前年度の冬頃に語られてるから……要らない子じゃないからソルツミも……菜月さんが夢中になるんだぞ！
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