2019(02)
■新世界を拓く知恵
++++
「あっ、ひかりちゃん! こっちー!」
「大地、あんま大きな声出さんとってやー」
「ゴメン」
「次からでええわ。ゴメン、待たせたな」
「ううん、全然待ってないよ。俺もさっき来たトコ。もう1人後で来ますって言って席だけ通してもらったんだ」
「凄いやん! そんなことも覚えたんやな!」
星ヶ丘大学近くの“髭”で待ち合わせてたのは高専時代の同級生、烏丸大地。うちと大地は西京エリア出身で同じ高専におって、同じ年に向島の大学に編入したっていうこともあって今でもまあまあ仲良くしとってんな。
うちは星ヶ丘大学の農学部に、大地は星港大学の理工学部に編入した。2人とも遺伝子関係のことを勉強したいわーっつって出て来たはずなんやけど、うちはそんなことより畑のことにシフトしてもーたわ。大地は動物のこととかめっちゃ研究しとるんと違う?
「でも、注文はまだなんだ。ひかりちゃんを待ってようと思って」
「先注文しとって良かったんに」
「メニュー見てもよくわかんないからさ、ひかりちゃんに教えてもらってから決めようと思って」
「ああ、しやな。大地あんま甘ないヤツのがええよね」
「そうだね」
「したらコーヒーやな。でも髭のコーヒーはシロップ入れるんが前提みたいなトコあるからこれにしたらええよ、黒い髭っていう。これシロップ入れん方が美味しいヤツやわ」
「俺、コーヒー飲んだことないんだけど大丈夫かな」
「何事も挑戦やろ?」
「そうだね。コーヒーにするよ。ひかりちゃんは何にするの?」
「うちはなあ、ミルクコーヒーにするわ」
大地は普通とはちょっと違う生まれ育ちをしている。うちらが今まで当たり前のこととして見聞きしたり実際に体験してきていることも、大地にとっては初めての経験ということも珍しくない。高専時代にもそんなことが多々あってんけど、こっちに来てからもそんなことばっかりみたいやね。
どう普通とは違うのかっていうと、中学2、3年くらいまでは外に出たことがなかったんやって。その中で行われてきた具体的な内容も大地本人があっけらかんとして言うけど、聞く側には結構ショッキングな内容なんやわ。多分、外に出るまで精神的な成長が止まっとったんやないかなって。
うちはそんな大地の事情をある程度知っとる数少ない存在として、大地本人から結構頼りにされとるみたいやわ。実際こんなんほっとけんもん。世間のことを知らなさすぎるし。空気読むとかそういうことが出来る域にもまだ達しとらんやろうからね。
「そんで、相談って何?」
「あ、うん。俺、アルバイトを始めたいと思ってるんだよ」
「バイト!? どこで!」
「だからそれを相談しようとしてるんだよ。いくつか良さそうなのがあったからさ」
「ああ、そゆことね」
大地にとっては向島に出て来たのだって大冒険。アルバイトとなると、もう一歩社会に踏み出す大事な一歩。ここでアドバイスをミスったらアカンヤツやんな、責任重大やわ。相談したいことがあるとは聞いとったけど、まさかそんな話やと思わんやん。
地元のお父さんから生活するには困らんくらいの仕送りはされとるそうなんやわ。やけどバイトをしたいっていうのは、何事も挑戦っていう、こっちに出て来る時に抱いた気持ちなんやろうね。実際これからは社会に出てかなアカンっていうのは大地本人がよくわかっとるやろうし。
「で、どんな求人あったん?」
「あのねえ、お店屋さんの接客の仕事とねえ」
「お店屋さんてなあ。いろいろあるやん、飲食店とか、スーパーとか」
「えっと、これ、何屋さん?」
「これはホームセンターやね。家のことに必要な道具とかよーけ売っとるお店や」
「ホームセンターってひかりちゃんと一緒?」
「しやな。でもゆーてうちは外で園芸のことばっかやっとるから店の中のことはあんま詳しくないで」
「ひかりちゃんて畑で野菜育てる仕事すればいいのに、どうして苗を売る仕事なの?」
「そりゃあ畑や農業の良さをいろんな人に布教するためや! ……っていうのは建て前で、ちょうど良さそうやってんよ。でも今は布教に力入れとるで!」
他にも大地はこんなのがあったんだーと言いながらスマホで求人情報を見せてくれる。これってどういう仕事なの? という質問に対してこれはこういうことをするんとちゃうかなって答えながら向き不向きを判断するんやけど、実際やってみて才能が開花することもあるから一概に言えんのやわ。
大地は物覚えがいい。ただ物覚えがいいっていうレベルとちゃうから、多分ホンマもんの天才なんやと思うわ。しやけど、人のことを考えるんはちょっと苦手やし、少しずつ世界を広げてかなアカンってレベルなんにいきなり不特定多数と接しに行くか? って気持ちもちょっとある。うん、うちも過保護かもしれんけど。
「あとねえ、大学の掲示板で見つけたんだけど、こんなのもあるんだ」
「ああ、大学にも求人貼ってるな! どんなん?」
「あのねえ、情報センターっていうパソコンの自習室があるんだけど、そこのスタッフの募集だって」
「へー、学内のバイトか。ええやん、時給も結構ええし。しかも大地アンタパソコンは人並みに使えるんやから」
「情報センターって履修登録の時に1回行っただけなんだよね」
「仕事は誰か教えてくれるやろ? 研修やってあるやろし。うちはこれ結構いいと思うで」
「でも、社会に踏み出すって意味では弱くない?」
「欲張ってもアカン。自分で働くってだけで大きな一歩やん。そうや。一般企業のバイトは大体面接あるし、学内のバイトに応募して面接の練習したらええんちゃう?」
「そうだね! 面接か~、どんなこと話すんだろ」
「バイトなら大体何曜日に何時間入れるかとかそんなことやな」
情報センターのバイトに応募してみるよ! と大地はウキウキして今ここで電話を始めてしまった。まあ、いいんやけど。こういう勢いが大地やし。うちもいつまでも面倒見れるワケとちゃうからなあ。学内のバイトで友達作ったらいいと思うんやわ。
end.
++++
夏合宿が終わり、ナノスパ内でも秋に向かっていくということで秋冬キャラのダイチがアップを始めました。
ひかり嬢も久々っすね。ひかり嬢は星ヶ丘のオープンファームくらいの時期にわーっと出張って来るけど、今年ははてさて
果たしてダイチは情報センターのバイトに合格することができるのかー(棒)
.
++++
「あっ、ひかりちゃん! こっちー!」
「大地、あんま大きな声出さんとってやー」
「ゴメン」
「次からでええわ。ゴメン、待たせたな」
「ううん、全然待ってないよ。俺もさっき来たトコ。もう1人後で来ますって言って席だけ通してもらったんだ」
「凄いやん! そんなことも覚えたんやな!」
星ヶ丘大学近くの“髭”で待ち合わせてたのは高専時代の同級生、烏丸大地。うちと大地は西京エリア出身で同じ高専におって、同じ年に向島の大学に編入したっていうこともあって今でもまあまあ仲良くしとってんな。
うちは星ヶ丘大学の農学部に、大地は星港大学の理工学部に編入した。2人とも遺伝子関係のことを勉強したいわーっつって出て来たはずなんやけど、うちはそんなことより畑のことにシフトしてもーたわ。大地は動物のこととかめっちゃ研究しとるんと違う?
「でも、注文はまだなんだ。ひかりちゃんを待ってようと思って」
「先注文しとって良かったんに」
「メニュー見てもよくわかんないからさ、ひかりちゃんに教えてもらってから決めようと思って」
「ああ、しやな。大地あんま甘ないヤツのがええよね」
「そうだね」
「したらコーヒーやな。でも髭のコーヒーはシロップ入れるんが前提みたいなトコあるからこれにしたらええよ、黒い髭っていう。これシロップ入れん方が美味しいヤツやわ」
「俺、コーヒー飲んだことないんだけど大丈夫かな」
「何事も挑戦やろ?」
「そうだね。コーヒーにするよ。ひかりちゃんは何にするの?」
「うちはなあ、ミルクコーヒーにするわ」
大地は普通とはちょっと違う生まれ育ちをしている。うちらが今まで当たり前のこととして見聞きしたり実際に体験してきていることも、大地にとっては初めての経験ということも珍しくない。高専時代にもそんなことが多々あってんけど、こっちに来てからもそんなことばっかりみたいやね。
どう普通とは違うのかっていうと、中学2、3年くらいまでは外に出たことがなかったんやって。その中で行われてきた具体的な内容も大地本人があっけらかんとして言うけど、聞く側には結構ショッキングな内容なんやわ。多分、外に出るまで精神的な成長が止まっとったんやないかなって。
うちはそんな大地の事情をある程度知っとる数少ない存在として、大地本人から結構頼りにされとるみたいやわ。実際こんなんほっとけんもん。世間のことを知らなさすぎるし。空気読むとかそういうことが出来る域にもまだ達しとらんやろうからね。
「そんで、相談って何?」
「あ、うん。俺、アルバイトを始めたいと思ってるんだよ」
「バイト!? どこで!」
「だからそれを相談しようとしてるんだよ。いくつか良さそうなのがあったからさ」
「ああ、そゆことね」
大地にとっては向島に出て来たのだって大冒険。アルバイトとなると、もう一歩社会に踏み出す大事な一歩。ここでアドバイスをミスったらアカンヤツやんな、責任重大やわ。相談したいことがあるとは聞いとったけど、まさかそんな話やと思わんやん。
地元のお父さんから生活するには困らんくらいの仕送りはされとるそうなんやわ。やけどバイトをしたいっていうのは、何事も挑戦っていう、こっちに出て来る時に抱いた気持ちなんやろうね。実際これからは社会に出てかなアカンっていうのは大地本人がよくわかっとるやろうし。
「で、どんな求人あったん?」
「あのねえ、お店屋さんの接客の仕事とねえ」
「お店屋さんてなあ。いろいろあるやん、飲食店とか、スーパーとか」
「えっと、これ、何屋さん?」
「これはホームセンターやね。家のことに必要な道具とかよーけ売っとるお店や」
「ホームセンターってひかりちゃんと一緒?」
「しやな。でもゆーてうちは外で園芸のことばっかやっとるから店の中のことはあんま詳しくないで」
「ひかりちゃんて畑で野菜育てる仕事すればいいのに、どうして苗を売る仕事なの?」
「そりゃあ畑や農業の良さをいろんな人に布教するためや! ……っていうのは建て前で、ちょうど良さそうやってんよ。でも今は布教に力入れとるで!」
他にも大地はこんなのがあったんだーと言いながらスマホで求人情報を見せてくれる。これってどういう仕事なの? という質問に対してこれはこういうことをするんとちゃうかなって答えながら向き不向きを判断するんやけど、実際やってみて才能が開花することもあるから一概に言えんのやわ。
大地は物覚えがいい。ただ物覚えがいいっていうレベルとちゃうから、多分ホンマもんの天才なんやと思うわ。しやけど、人のことを考えるんはちょっと苦手やし、少しずつ世界を広げてかなアカンってレベルなんにいきなり不特定多数と接しに行くか? って気持ちもちょっとある。うん、うちも過保護かもしれんけど。
「あとねえ、大学の掲示板で見つけたんだけど、こんなのもあるんだ」
「ああ、大学にも求人貼ってるな! どんなん?」
「あのねえ、情報センターっていうパソコンの自習室があるんだけど、そこのスタッフの募集だって」
「へー、学内のバイトか。ええやん、時給も結構ええし。しかも大地アンタパソコンは人並みに使えるんやから」
「情報センターって履修登録の時に1回行っただけなんだよね」
「仕事は誰か教えてくれるやろ? 研修やってあるやろし。うちはこれ結構いいと思うで」
「でも、社会に踏み出すって意味では弱くない?」
「欲張ってもアカン。自分で働くってだけで大きな一歩やん。そうや。一般企業のバイトは大体面接あるし、学内のバイトに応募して面接の練習したらええんちゃう?」
「そうだね! 面接か~、どんなこと話すんだろ」
「バイトなら大体何曜日に何時間入れるかとかそんなことやな」
情報センターのバイトに応募してみるよ! と大地はウキウキして今ここで電話を始めてしまった。まあ、いいんやけど。こういう勢いが大地やし。うちもいつまでも面倒見れるワケとちゃうからなあ。学内のバイトで友達作ったらいいと思うんやわ。
end.
++++
夏合宿が終わり、ナノスパ内でも秋に向かっていくということで秋冬キャラのダイチがアップを始めました。
ひかり嬢も久々っすね。ひかり嬢は星ヶ丘のオープンファームくらいの時期にわーっと出張って来るけど、今年ははてさて
果たしてダイチは情報センターのバイトに合格することができるのかー(棒)
.