2019(02)

■ねえねえ、もう寝た?

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 夏合宿2日目。今日は夕食後から番組のモニター会があって、1班から3班の人の番組が行われた。初めてこうしていろんな班の番組を聞いて、みんなすごいなあとか、自分はこれからちゃんと出来るんだろうかと、ちょっと不安になる夜。俺は6班だから、明日の朝からなんだけど、今からそわそわしちゃって。
 お風呂から上がって夜の自由時間になると、番組が終わった班の人たちは開放的になってるみたい。羨ましいなあ。俺たちは当然その時間にも打ち合わせをしてたワケなんだけど。でも、あんまりみんな騒がしかったのか、議長の野坂先輩が雷を落として回ってるみたいだった。

「うう……」

 0時過ぎ、部屋の電気が落とされて、男子の大部屋はみんな就寝モード。大部屋に隙間なく敷かれた布団にそれぞれが横になり、寝よう寝ようと無になる努力をする。だけど、どこからか響く誰かのいびきと歯軋り。寝なきゃいけないんだけど、気になって全然眠れない。もしかしたら、明日への緊張もあるのかもしれない。

「ねえ、エージ」
「……んー…?」
「何かスゴくない…? いびきかなあ、ぐおおおおって」
「……まあ、うるさいにはうるさいっていう……」

 あんまり眠れないものだから、俺の隣にいるエージに声をかけてしまう。何かエージは寝れそうなのかな、声が眠そう。エージはもう番組が終わってるから後は寝るだけだもんなあ、いいなあ。いびきと歯軋りの主は、音のボリュームや方向的に同じ人なんだろうなあ。気持ちよさそうに寝てるなあ。
 こんなとき、女の子たちみたいに3、4人単位の小部屋だったらって思うんだけど、その3、4人の中にこういうタイプの人がいたら完全に詰んじゃうよね。でも、真面目に目が冴えちゃってる。どうしよう、寝なきゃいけないんだけど。でも、焦ったら余計寝れないよね。寝なきゃ寝なきゃ。

「ねえ、エージ」
「ん…?」
「タカティは?」
「知らんべ……」
「何かさっきからずっといなくない?」
「アイツは夜行性だべ……充電器もないし、どっかで時間潰してんだろっていう……」

 エージの奥にはタカティがいたように思うんだけど、いつの間にかいなくなっていた。ううん、もしかしたら最初からいなかったのかもしれない。タカティがいないのが気になってエージに聞いてみたけど、夜行性って。って言うか今何時だろう。ああ、1時頃か。――ってスマホで確認しちゃダメだってば!
 スマホで時間を確認したときに光が目に入って、チラッと残ったそれが瞼の裏をチカチカさせる。余計に目が覚めちゃった。どうしよう、寝なきゃいけないし、俺も寝たいんだけど全然寝れそうな気がしない。何だろう、睡眠導入剤でも持ってきたら良かったのかなあ。普段そんなののお世話に全然ならないけど。

「ねえ、エージ」

 返事がない。まあ、それだけ話しかけてればそろそろ嫌がられるよね。それか本当に寝ちゃったのかも。俺の左隣は3年生のカズ先輩。カズ先輩は静かに寝てるみたい。って言うかさすがに起きてたとしても先輩には話しかけられない。きっと迷惑だろうし。まあ、エージにとっても普通に迷惑だろうけど! ごめん!
 って言うか何でみんなこんな中で普通に寝れるの? 俺もそんなに繊細だった覚えはないんだけど、気になっちゃって全然眠れないよ! いや、寝てると見せかけて実は俺みたく気になっちゃって全然寝れないよ~って人がいるんじゃないかな。うん、その可能性に賭けよう? ……だからどうした!

「……ミドリ」
「あっ、どうしたのエージ」
「お前さっきからドタドタうるせーっていう……」
「ごめん」
「寝れないなら手ぇまっすぐにして、手の平を布団に付けて脱力させれば体全体の力が抜けるっていう」
「へー、ありがとう! 試してみるよ!」
「もう話しかけんなよ。おやすみ」
「うん、ごめん、ありがとう。おやすみ」

 幸い、例のいびきと歯軋りのボリュームが少し収まってきたように思う。今がチャンスだとエージから教えてもらったように布団の中で手の平をベタっと布団に付けて力を抜く。あ、確かにちょっとふわ~って……いい感じになってきた。あとはこのままふ~っと眠るだけ。

「ぐおおおおおお」
「ん~……」

 少しふわ~っと出来たと思ったら、またいびきが始まった。これを気にしなければ勝てるんだ。ふわ~っと、ふわ~っと。脱力、脱力。両サイドにお手本があるんだ。俺も真似して早く寝なきゃ。明日は朝から番組なのに!

「……何時…?」

 こんなことを何度も繰り返して、ほとんど眠れていない。ついスマホで時間を確認すれば、午前3時になる頃だと。……これはもう、1回気分を変える必要があるかもしれない。案外この大部屋の外の方が静かだろうし。緊張もあるだろうから気持ちを落ち着けなきゃね。
 寝てるみんなを踏んづけないようにそーっと部屋を出れば、廊下には非常口の明かりだけがボウッと灯る。外に出たついでだし、トイレにも行こう。でも、この暗さだったら案外部屋の前とかの方が静かだし寝れそうな気がする。一応暇潰し用のスマホも持ってきたけど、どうしようかな。さ、この角を曲がって。

「わっ」
「わーっ!」
「何だ、ミドリか。びっくりした」
「びっ、びっくりしたはこっちのセリフだよー! はーっ、怖かったー…! タカティ、こんなところで何やってるの…!?」

 角を曲がったところの階段にタカティが腰掛けてた。夜だし暗いから余計にびっくりしちゃった。はー、心臓に悪いよー。

「俺はまだ寝るような時間じゃないから、電気泥棒しながら時間を潰してた。ミドリは?」
「あ、えっと、眠れなくて。男子部屋、いびきがすごい人がいて」
「あー……神崎先輩かなあ。まだうるさい感じだった?」
「終始」
「じゃあ、いっそ戻らないでここで仮眠とろうかな。まあ、まだ寝るような時間じゃないからなあ」
「タカティ、俺もここで少し避難してていい?」
「うん、いいよ」

 2人して階段に腰掛けて、いろいろな話を。部屋では声を出すのも遠慮しちゃうけど、ここでなら部屋よりは罪悪感もない。あ、でも夜だからうるさくならないようにはしなきゃいけないんだけど。


end.


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ノサカが雷を落として回ってただって…? 多分男女関係なくはしゃぎ過ぎてた子たちに注意して回っていたのでしょう
で、ミドリです。タカちゃんと一緒にノサカに匿われるまでの話はあったけど、部屋での様子は多分これが初めて。エイジはただの被害者。
1年生男子の主力4人は多分横並びになってるし、ミドリの横にはいち氏がいるのね。何か想像つくわ、俺ミドリの横にしよっかな的なあれこれで

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