2019(02)
■それぞれのマシュマロ村
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インターフェイスがお世話になっているフィネスタという会社の入ったビル前でのタイムトライアルが一段落。6階にある物置部屋から夏合宿で使う機材群をドライバーの2人を除く5人でわーっと運び出して行く。スタートからここまでの所要時間は7分。お疲れさまでした。
――というワケで、機材をわーっと運び出したままの勢いで人も適当に車に乗り込んだ結果、ゴティ車に集まった俺、果林、つばめ、そしてドライバーのゴティの4人は腹ごしらえやそれぞれの近況報告でもしようとその辺の店に滑り込んだ。
「つか、つばめ班がヤバいとはよく聞くけど、他の班ってどんな感じなんだ?」
「ウチはもーう、アレよ」
「なにゴティ」
「俗に言うゆるふわマシュマロ村ってヤツよ。それはもーう、ほわほわしてんよ? アクもなければトゲもない」
「マジかよ、インターフェイスの人間が集まってそんなことってあんのかよ」
「いや、それがマジなんだわ。考えてみーよ、2年が俺とこまっちゃんとさとちゃんじゃんな」
「あー、平和!」
「1年生は?」
「1年生も見事にふわっふわしてんだわ。多分どこの班と比べても一番ふわっふわしてるけど、その分個性とかキャラという意味では薄いかなとは」
如何せんインターフェイスにいる人間は何かしら一癖も二癖もあるとは言われている。そのインターフェイスに措いて、たまたまそういうクセの薄い、まったりゆるふわ系の性格をした人間ばかりが集まったゴティ率いる6班だ。その様子はあははうふふきゃっきゃというのが似合う雰囲気だ。
確かに加奈はガチ聖人だし、沙都子も家庭的でふわっとした雰囲気がある。笑顔が似合うその裏には黒い顔が……とかよくありがちなヤツじゃなくて、裏も何もないガチなメンバーが揃っているのが6班の特徴。ただ、ゴティ本人も言うようにキャラとか個性という意味では薄めなんだそうだ。
「果林、4班は?」
「ウチはさ、こないだみんなでカラオケに行ってさ」
「ゲンゴローから聞いてるけどホント4班って異文化だよね。人の家で打ち合わせしたりさ」
「個人宅打ち合わせって最高だよ? ご飯食べたいときに勝手に作って食べれるし」
「班長がこうだもんよ」
「で? カラオケに行って?」
「なっち先輩の美声を堪能しーの、タカちゃんの大迷惑が最高だったーの、ロシアンたこ焼きが盛り上がったよね」
つばめ班とは違う意味でヤバいとよく聞くのが果林班だ。この班はとにかくチームワークが良すぎるが故に、打ち合わせの延長できゃいきゃいと遊んだりすることが多いらしい。他の班でカラオケ行ったとか人の部屋で打ち合わせとかそんな話聞いたことがない。ちなみに去年もそんな話はなかったはずだ。
と言うか、俺も最近は菜月先輩のその歌声を堪能していないというのに、4班メンバーが羨ましすぎて殺意すら沸くぜ! いや、それはまた個人的に、もしくはサークルの行事として企画すればいくらでもなるんだろうけれども。でも、いいなあ。菜月先輩の歌には俺の琴線が殴られっぱなしなんだ。
「ロシアンたこ焼きってあれだろ? 何個中何個かがめちゃ辛いとかそーゆーの」
「それそれ。20個中3個が激辛唐辛子味だったんだけど、うち2個がなっち先輩に当たっちゃってさ」
「うわっ、なっち先輩ドンマイじゃん」
「――と思うだろゴティ。菜月先輩は唐辛子系の辛さには滅法お強くてだな」
「そーなのよ。なっち先輩が全然辛みを感じないって言うからさ、タカちゃんが当たったのと別にあと2個どこ行ったって話になってさ。結局りっちゃんがさ、なっち先輩が気付かず食べた説を出して終わったんだけど」
果林風に言えば「ですよねー」だ。菜月先輩はワサビカラシ系のツンとした辛さはとても苦手で間違えて食べてしまった際のリアクションが非常に可愛らしくてたまらないとは言っておくけど、唐辛子系の辛さには滅法強くてよほどじゃないと何も感じないんだぞ! たこのある少し辛目のおいしいたこ焼きだったんだろう。
「はー、いいねー」
「つばめ、お前が言うと悲壮感がヤバいぞ」
「いや、ウチの班でもいろいろ工夫してはいんのよ? 三井抜きの打ち合わせ日を設けたり。それはもう平和よ、ゴティの言うゆるふわマシュマロ村? そんな雰囲気よ、1年生3人も仲いいし」
「あ、1年生は仲いいんだね」
「うん、そーね。三井有りの打ち合わせの日でも、アタシが三井とバトってる裏でエージとモモがミラを励ましたり一緒に練習したりしてるから」
「エージ頑張ってんね」
「そうみたいだね。つばめ的にエージはどう? 技術的にとか、性格的にとか」
「アタシあーゆー子好きだよ。骨があるし、生意気だけど口だけじゃない。班の盛り立て役みたいになってくれてるよ。将来的にインターフェイスでもそれなりのポジションになるんじゃない? 技術的にはまだ荒削りだけど、それは今からだしね」
「その辺はほら、高ピー先輩にしごいてもらうし」
久し振りにつばめから班のことで前向きな話を聞いたような気がした。いつだってつばめは三井先輩と戦っているようなことばかり言っているから。つばめの言う様子が本当なら、1年生の姿は希望なんだろうなと思う。希望であり、つばめの戦う理由にもなるのかもしれない。
「でも、マジでミラなんだよ。三井がいなきゃ出来るんだって。アイツの存在が圧になってるし、どうにかして守らないと。あ、また暗くなった。野坂、アンタの班は?」
「ウチはあれだよ、出張初心者講習会からの、カメラパーティー的な」
「は?」
「講習はわかるけど、カメラパーティー?」
「カメラガチ勢が2人いるから、圭斗先輩を被写体により良い写真を撮る大会など。俺はスマホで参加しつつガチ勢の審査員としてだな」
「野坂、それってアンタの私利私欲じゃないの?」
「ナ、ナンノコトカナー…?」
end.
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完全に私利私欲で煩悩。数年前の年度の菜月さんならそれで商売を始めようとするかもしれない。
というワケで近況報告回。つばちゃんの班の希望が語られることがそうないので、今回は本当に貴重な話だったなと思います。1年生3人の連帯。
で、菜月さんロシアンたこ焼きをただただ美味しくうまうましてしまう事件。たこのあるたこ焼きはたこ焼きとしか呼べない
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インターフェイスがお世話になっているフィネスタという会社の入ったビル前でのタイムトライアルが一段落。6階にある物置部屋から夏合宿で使う機材群をドライバーの2人を除く5人でわーっと運び出して行く。スタートからここまでの所要時間は7分。お疲れさまでした。
――というワケで、機材をわーっと運び出したままの勢いで人も適当に車に乗り込んだ結果、ゴティ車に集まった俺、果林、つばめ、そしてドライバーのゴティの4人は腹ごしらえやそれぞれの近況報告でもしようとその辺の店に滑り込んだ。
「つか、つばめ班がヤバいとはよく聞くけど、他の班ってどんな感じなんだ?」
「ウチはもーう、アレよ」
「なにゴティ」
「俗に言うゆるふわマシュマロ村ってヤツよ。それはもーう、ほわほわしてんよ? アクもなければトゲもない」
「マジかよ、インターフェイスの人間が集まってそんなことってあんのかよ」
「いや、それがマジなんだわ。考えてみーよ、2年が俺とこまっちゃんとさとちゃんじゃんな」
「あー、平和!」
「1年生は?」
「1年生も見事にふわっふわしてんだわ。多分どこの班と比べても一番ふわっふわしてるけど、その分個性とかキャラという意味では薄いかなとは」
如何せんインターフェイスにいる人間は何かしら一癖も二癖もあるとは言われている。そのインターフェイスに措いて、たまたまそういうクセの薄い、まったりゆるふわ系の性格をした人間ばかりが集まったゴティ率いる6班だ。その様子はあははうふふきゃっきゃというのが似合う雰囲気だ。
確かに加奈はガチ聖人だし、沙都子も家庭的でふわっとした雰囲気がある。笑顔が似合うその裏には黒い顔が……とかよくありがちなヤツじゃなくて、裏も何もないガチなメンバーが揃っているのが6班の特徴。ただ、ゴティ本人も言うようにキャラとか個性という意味では薄めなんだそうだ。
「果林、4班は?」
「ウチはさ、こないだみんなでカラオケに行ってさ」
「ゲンゴローから聞いてるけどホント4班って異文化だよね。人の家で打ち合わせしたりさ」
「個人宅打ち合わせって最高だよ? ご飯食べたいときに勝手に作って食べれるし」
「班長がこうだもんよ」
「で? カラオケに行って?」
「なっち先輩の美声を堪能しーの、タカちゃんの大迷惑が最高だったーの、ロシアンたこ焼きが盛り上がったよね」
つばめ班とは違う意味でヤバいとよく聞くのが果林班だ。この班はとにかくチームワークが良すぎるが故に、打ち合わせの延長できゃいきゃいと遊んだりすることが多いらしい。他の班でカラオケ行ったとか人の部屋で打ち合わせとかそんな話聞いたことがない。ちなみに去年もそんな話はなかったはずだ。
と言うか、俺も最近は菜月先輩のその歌声を堪能していないというのに、4班メンバーが羨ましすぎて殺意すら沸くぜ! いや、それはまた個人的に、もしくはサークルの行事として企画すればいくらでもなるんだろうけれども。でも、いいなあ。菜月先輩の歌には俺の琴線が殴られっぱなしなんだ。
「ロシアンたこ焼きってあれだろ? 何個中何個かがめちゃ辛いとかそーゆーの」
「それそれ。20個中3個が激辛唐辛子味だったんだけど、うち2個がなっち先輩に当たっちゃってさ」
「うわっ、なっち先輩ドンマイじゃん」
「――と思うだろゴティ。菜月先輩は唐辛子系の辛さには滅法お強くてだな」
「そーなのよ。なっち先輩が全然辛みを感じないって言うからさ、タカちゃんが当たったのと別にあと2個どこ行ったって話になってさ。結局りっちゃんがさ、なっち先輩が気付かず食べた説を出して終わったんだけど」
果林風に言えば「ですよねー」だ。菜月先輩はワサビカラシ系のツンとした辛さはとても苦手で間違えて食べてしまった際のリアクションが非常に可愛らしくてたまらないとは言っておくけど、唐辛子系の辛さには滅法強くてよほどじゃないと何も感じないんだぞ! たこのある少し辛目のおいしいたこ焼きだったんだろう。
「はー、いいねー」
「つばめ、お前が言うと悲壮感がヤバいぞ」
「いや、ウチの班でもいろいろ工夫してはいんのよ? 三井抜きの打ち合わせ日を設けたり。それはもう平和よ、ゴティの言うゆるふわマシュマロ村? そんな雰囲気よ、1年生3人も仲いいし」
「あ、1年生は仲いいんだね」
「うん、そーね。三井有りの打ち合わせの日でも、アタシが三井とバトってる裏でエージとモモがミラを励ましたり一緒に練習したりしてるから」
「エージ頑張ってんね」
「そうみたいだね。つばめ的にエージはどう? 技術的にとか、性格的にとか」
「アタシあーゆー子好きだよ。骨があるし、生意気だけど口だけじゃない。班の盛り立て役みたいになってくれてるよ。将来的にインターフェイスでもそれなりのポジションになるんじゃない? 技術的にはまだ荒削りだけど、それは今からだしね」
「その辺はほら、高ピー先輩にしごいてもらうし」
久し振りにつばめから班のことで前向きな話を聞いたような気がした。いつだってつばめは三井先輩と戦っているようなことばかり言っているから。つばめの言う様子が本当なら、1年生の姿は希望なんだろうなと思う。希望であり、つばめの戦う理由にもなるのかもしれない。
「でも、マジでミラなんだよ。三井がいなきゃ出来るんだって。アイツの存在が圧になってるし、どうにかして守らないと。あ、また暗くなった。野坂、アンタの班は?」
「ウチはあれだよ、出張初心者講習会からの、カメラパーティー的な」
「は?」
「講習はわかるけど、カメラパーティー?」
「カメラガチ勢が2人いるから、圭斗先輩を被写体により良い写真を撮る大会など。俺はスマホで参加しつつガチ勢の審査員としてだな」
「野坂、それってアンタの私利私欲じゃないの?」
「ナ、ナンノコトカナー…?」
end.
++++
完全に私利私欲で煩悩。数年前の年度の菜月さんならそれで商売を始めようとするかもしれない。
というワケで近況報告回。つばちゃんの班の希望が語られることがそうないので、今回は本当に貴重な話だったなと思います。1年生3人の連帯。
で、菜月さんロシアンたこ焼きをただただ美味しくうまうましてしまう事件。たこのあるたこ焼きはたこ焼きとしか呼べない
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