2019(02)
■人としての基礎作り
++++
「何か作るけど……リンも、食べる…?」
「ああ。作ってもらえるなら喜んで食うぞ。ちなみに、何を作るつもりだ?」
「ガーリックライスを……」
「おっ、美味そうだな」
土曜日であろうと、バイト上がりであろうと、行きつく先は大学のゼミ室ということは多い。現在は夏季休業中の星港大学だけど、それで研究がストップするわけではない。尤も、研究や勉学以外の用事で集まることも多々あるのだけど。
下手すると、自分の家や部屋よりゼミ室の方に居心地良さを覚える人もいるそうだ。かく言う私は家も嫌いではないけれど、ここには家とはまた違う居心地の良さがある。キッチンがあって、リビングのような感じでソファやローテーブルがあって……環境がそう思わせるのかもしれない。
「はー、疲れた」
「お前も来るのか」
「徹……バイト上がり…?」
「終わってそのまま来た。一応ドーナツも持って来てるけど、美奈が何か作ってるのか。すげー美味そうな匂い」
「徹も、食べる…? ガーリックライス……」
「うん、食べたい。でも俺が増えて大丈夫か? 量的な問題で」
「冷やご飯は、まだあるから……」
「そうか、それならいいけど」
冷蔵庫を覗けば、冷やご飯はまだあった。まだあるとは言ったものの、本当にあったっけ、と少し不安になってしまった。でも、ちゃんとあったからこれから作るガーリックライスは3人前。
スライスやみじん切りといった形に下拵えしたニンニクを、揚げたり炒めたり。ニンニクの香りが立ってきて、ご飯を入れるタイミングを告げる。パラパラになるようにフライパンとへらを素早く動かしながら。
「……徹」
「ん?」
「沙也ちゃんは…? そろそろ、夏休みも終わり……勉強を見たり、とか……」
「宿題は7月のうちに終わって、今は他の勉強をしてる。何が得意で何が苦手かの分析をして、何を重点的にやればいいかは一応アドバイスしたけど」
「フッ、安定の過保護振りだな」
「煩いな」
「でも、宿題を早くに終わらせられるのは、凄い……計画性がないと、なかなか……それから、意志の強さも必要……」
「それはあれだ、自分が1日にどれくらい作業出来るか理解して、継続しつつ進捗を管理するのは大人になってからも必要なスキルだと説明をしてだな」
「それは、確かに……」
「お前の場合、同人誌を作る際の締め切りとの兼ね合いもある。オタクが言うとより説得力が増すな」
「お前は俺をバカにしたつもりだろうがな、全く以ってその通りだ」
リンの冷やかしに対して徹が堂々とそれを認めたことに、反論を期待していたのであろうリンは拍子抜けしたように「おお」と笑う。ただ、オタク的な観点からのスケジュール管理の重要さは、実際オタクでない人にも活きる話ではある。言わなければわからない話。
完成したガーリックライスを食べながら、夏休みの宿題と進捗管理についての話は盛り上がる。実際今大学でやっている研究や課題にしても、進捗の管理は非常に大事になってくる。自分は何が出来て何が出来ないのかを把握して計画を立てることは意外に難しい。
「オタクの考え方は案外バカに出来ないんだぞ」
「わからんでもないが」
「……例えば…?」
「満遍なく勉強しておけば教養という意味でだな、あらゆる作品の元ネタとかもわかるようになるし、フェイクニュースとかに騙されることも少なくなるだろう」
「確かに……」
「勉強とは少しそれるけど、作る側の人間になれば作品の向こうにいる作り手のことも考えられるようになるし、その物のこだわりなどもわかる人間になるかもしれない。美奈もハンドメイド界隈のことには思うことがあるだろう、ハンドメイドにこの値段は高すぎるから何とかっていういちゃもんの話とか」
「……それは、ある……」
「人がどんな努力をしてそれを作り上げられるようになっているのか、というところにも目を向けられるようになるし、創作物の向こうには人がいるということを分かっているからボロカスに言うようなこともなくなるはずだ」
「フッ。そう上手く行くかな」
「煩いな。何にせよ、沙也には人のことにも目を向けられる優しい子のままでいてもらえるようにだな、教養は必要だと思うワケだ」
既に沙也ちゃんは優しい子だと思うけど、徹はこれからもそんな子でいてもらえるように日頃から気を張ってるみたい……年頃の女の子だから、そろそろそんなお兄ちゃんが鬱陶しくなってくる頃だとも思うのだけど、沙也ちゃんも沙也ちゃんで少しブラコンの気があるから……。まあ、平和が一番。
「お前の理屈で言えば、今美奈が作ってくれたこのガーリックライスも創作物として、それのこだわりなども見えるということなのだな」
「む」
「……特に、強いこだわりはないけれど……」
「この、上に載ってるガーリックチップを今揚げてたところがマメだなとは」
「ほう」
「それは、そういう工程だから……」
「市販のチップもあるだろうに、わざわざニンニクを自分でカットしたりとか」
「チップを探すという、発想がなかった……それに、みじん切りもしなきゃいけなかった……」
話がよくわからない方向に飛んでしまったけれど、ガーリックライスが創作物というのは本当によくわからない。だけど、こうして作った物に対してここがいい、良かったなどと言ってもらえるのは悪くないな、と。正直に言えば嬉しい。それと教養がどう繋がって来るのかは……人や物を見る目?
end.
++++
久々の星大組3人は、リン美奈がご飯にしようとしたら兄さんまでやって来て、多分美奈的には以下略
さて、シスコン兄さんと教養のお話でした。妹がオタクになったらそれはそれでいろいろ指導しそうではある
ガーリックライスは案外材料が少なくて済むので美奈からすればそこまで手間ではなかったのでしょう
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「何か作るけど……リンも、食べる…?」
「ああ。作ってもらえるなら喜んで食うぞ。ちなみに、何を作るつもりだ?」
「ガーリックライスを……」
「おっ、美味そうだな」
土曜日であろうと、バイト上がりであろうと、行きつく先は大学のゼミ室ということは多い。現在は夏季休業中の星港大学だけど、それで研究がストップするわけではない。尤も、研究や勉学以外の用事で集まることも多々あるのだけど。
下手すると、自分の家や部屋よりゼミ室の方に居心地良さを覚える人もいるそうだ。かく言う私は家も嫌いではないけれど、ここには家とはまた違う居心地の良さがある。キッチンがあって、リビングのような感じでソファやローテーブルがあって……環境がそう思わせるのかもしれない。
「はー、疲れた」
「お前も来るのか」
「徹……バイト上がり…?」
「終わってそのまま来た。一応ドーナツも持って来てるけど、美奈が何か作ってるのか。すげー美味そうな匂い」
「徹も、食べる…? ガーリックライス……」
「うん、食べたい。でも俺が増えて大丈夫か? 量的な問題で」
「冷やご飯は、まだあるから……」
「そうか、それならいいけど」
冷蔵庫を覗けば、冷やご飯はまだあった。まだあるとは言ったものの、本当にあったっけ、と少し不安になってしまった。でも、ちゃんとあったからこれから作るガーリックライスは3人前。
スライスやみじん切りといった形に下拵えしたニンニクを、揚げたり炒めたり。ニンニクの香りが立ってきて、ご飯を入れるタイミングを告げる。パラパラになるようにフライパンとへらを素早く動かしながら。
「……徹」
「ん?」
「沙也ちゃんは…? そろそろ、夏休みも終わり……勉強を見たり、とか……」
「宿題は7月のうちに終わって、今は他の勉強をしてる。何が得意で何が苦手かの分析をして、何を重点的にやればいいかは一応アドバイスしたけど」
「フッ、安定の過保護振りだな」
「煩いな」
「でも、宿題を早くに終わらせられるのは、凄い……計画性がないと、なかなか……それから、意志の強さも必要……」
「それはあれだ、自分が1日にどれくらい作業出来るか理解して、継続しつつ進捗を管理するのは大人になってからも必要なスキルだと説明をしてだな」
「それは、確かに……」
「お前の場合、同人誌を作る際の締め切りとの兼ね合いもある。オタクが言うとより説得力が増すな」
「お前は俺をバカにしたつもりだろうがな、全く以ってその通りだ」
リンの冷やかしに対して徹が堂々とそれを認めたことに、反論を期待していたのであろうリンは拍子抜けしたように「おお」と笑う。ただ、オタク的な観点からのスケジュール管理の重要さは、実際オタクでない人にも活きる話ではある。言わなければわからない話。
完成したガーリックライスを食べながら、夏休みの宿題と進捗管理についての話は盛り上がる。実際今大学でやっている研究や課題にしても、進捗の管理は非常に大事になってくる。自分は何が出来て何が出来ないのかを把握して計画を立てることは意外に難しい。
「オタクの考え方は案外バカに出来ないんだぞ」
「わからんでもないが」
「……例えば…?」
「満遍なく勉強しておけば教養という意味でだな、あらゆる作品の元ネタとかもわかるようになるし、フェイクニュースとかに騙されることも少なくなるだろう」
「確かに……」
「勉強とは少しそれるけど、作る側の人間になれば作品の向こうにいる作り手のことも考えられるようになるし、その物のこだわりなどもわかる人間になるかもしれない。美奈もハンドメイド界隈のことには思うことがあるだろう、ハンドメイドにこの値段は高すぎるから何とかっていういちゃもんの話とか」
「……それは、ある……」
「人がどんな努力をしてそれを作り上げられるようになっているのか、というところにも目を向けられるようになるし、創作物の向こうには人がいるということを分かっているからボロカスに言うようなこともなくなるはずだ」
「フッ。そう上手く行くかな」
「煩いな。何にせよ、沙也には人のことにも目を向けられる優しい子のままでいてもらえるようにだな、教養は必要だと思うワケだ」
既に沙也ちゃんは優しい子だと思うけど、徹はこれからもそんな子でいてもらえるように日頃から気を張ってるみたい……年頃の女の子だから、そろそろそんなお兄ちゃんが鬱陶しくなってくる頃だとも思うのだけど、沙也ちゃんも沙也ちゃんで少しブラコンの気があるから……。まあ、平和が一番。
「お前の理屈で言えば、今美奈が作ってくれたこのガーリックライスも創作物として、それのこだわりなども見えるということなのだな」
「む」
「……特に、強いこだわりはないけれど……」
「この、上に載ってるガーリックチップを今揚げてたところがマメだなとは」
「ほう」
「それは、そういう工程だから……」
「市販のチップもあるだろうに、わざわざニンニクを自分でカットしたりとか」
「チップを探すという、発想がなかった……それに、みじん切りもしなきゃいけなかった……」
話がよくわからない方向に飛んでしまったけれど、ガーリックライスが創作物というのは本当によくわからない。だけど、こうして作った物に対してここがいい、良かったなどと言ってもらえるのは悪くないな、と。正直に言えば嬉しい。それと教養がどう繋がって来るのかは……人や物を見る目?
end.
++++
久々の星大組3人は、リン美奈がご飯にしようとしたら兄さんまでやって来て、多分美奈的には以下略
さて、シスコン兄さんと教養のお話でした。妹がオタクになったらそれはそれでいろいろ指導しそうではある
ガーリックライスは案外材料が少なくて済むので美奈からすればそこまで手間ではなかったのでしょう
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