2019(02)

■あの頃と友達の思い出

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「あー! ロイド君! 友よー!」
「シン! 久し振りだなあ! 元気にしてたか!」
「もーめっちゃ元気よ! ロイド君は!? 元気にしてた!?」
「俺もこの通り!」

 果たして、俺は何を見せられているのか。星港市内某所“髭”にて、高校の同級生だという飯野と朝霞が高校卒業以来となる再会を果たしたらしい。4人掛けのボックス席には俺と飯野、それから朝霞と山口。正直山羽時代のことに関係ない俺と山口がここにいる意味はよくわからない。
 事の発端は先週末に行われた向舞祭だ。俺はゼミの出席ボーナス目当てに飯野の課題レポートを手伝うことになっていた。飯野のレポートは祭に関する事柄で、資料を集めるのに向舞祭に特攻する、と。たまたま出向いた丸の池公園のサテライトステージに、アシスタントMCとして朝霞が立っていたのだ。
 それに飯野が気付いてからが大変だった。踊りのチームを応援するでもなく、メインMCのタレントでもなく、単なる素人の学生がやっているアシスタントMCの応援を始めるのだから。余りにデカい声で「ロイドくーん!」などと叫ぶものだから、それに気付いた朝霞が一瞬渋い顔をしたのを俺は見逃さなかった。

「山口、お前は何でいるんだ」
「朝霞クンが昨日ウチの店でセルフ打ち上げやってて~、その流れだネ。最終的にグダグダになっちゃったから俺が部屋まで送って~、現在に至るって感じ? 高崎クンは?」
「どうして向舞祭が終わったのに俺が拉致されてきたのかは甚だ疑問だ」

 そうこうしている間に飯野と山口が「朝霞とはこういう関係ですよ」などと自己紹介をしている。山口は今の相棒、飯野は高校時代文化祭の運営などで手を組んでいたと。文化祭か、昔を思い出すな。とにかく宮ちゃんの暴走を抑えるのに必死だったな。

「つか飯野、話を聞く限りお前朝霞と結構仲良かった風だけど、何で本名を覚えてねえんだ」
「えっ、シンお前俺の名前覚えてねーの?」
「ゴメンロイド君、ロイド君で覚えてたから名前はガチで覚えてなかった」
「マジかよお前! ちょっとショックなんだけど」
「ゴメンって! 今覚えるから許して!」
「ったく。朝霞薫な。スマホのアドレス帳もちゃんと直しとけ」
「はい、ホントすんませんっした」

 インターフェイスなんかではDJネームさえ覚えていれば何とかなるが、高校では一応本名を覚えていた方が何かと都合がいいんじゃないかと思う。ただ、飯野は大学祭実行委員でも人の本名を覚えるのが苦手で、特徴とあだ名をリンクして膨大な数になるメンバーを束ねているらしい。本名がわからなくてよくやるなと。

「朝霞クンさ」
「ん?」
「飯野クンに自分の名前覚えてないのショック~って言うけど、朝霞クンも実際いろんなこと忘れるデショ?」
「お前それはあれだ、ステージには必要ない情報だから圧縮されてるんだろ」
「あーこれロイド君も俺のこと覚えてなかった可能性が浮上した!」
「いや、そう言っても目の前のステージなり、お前なら大祭関係の仕事? それと向き合ってるときに高校の同級生を思い出すか?」
「出さない!」
「よな」
「飯野クンはそれで誤魔化せるかもだけど、俺は誤魔化せないからね朝霞クン。高校以前のことなんて覚えてないっていつも言うジャない」
「チッ」

 飯野はバカ単純だからそれっぽい事を言っておけば誤魔化せるが、山口は見た目よりは緩くないし頭も回る。飯野と同レベルの扱いでは攻略出来ないだろう。尤も、その辺のことは朝霞も理解していないはずはないだろうが。「記憶の圧縮」という点に関しては都合のいい記憶媒体を持ってんなと羨ましくも思う。

「なんなら1年の時に付き合った子のことだって「覚えがない」って言うしね。ステージに関することはよ~く覚えてるけど、それ以外のことは友達だろうと何だろうと平気で切り捨てるのが朝霞クンだからね~」
「人聞きが悪いな」
「俺は事実を言ってるだけだよ。俺は朝霞クンから切り捨てられないように友達とかいう曖昧な間柄じゃなくて、ステージスターを全うするだけだからネ」
「それでこそロイド君だ。ロイド君が変わってなくて何よりだ」
「あ、やっぱ昔からそんな感じだった~?」

 朝霞は目的を達成するためには手段を選ばないという感じだろうか。人脈をツールにするためだけに無駄にキープしているどこぞの性悪とは対極を行くようなイメージだ。そのとき自分に重要な人間に対してはこれ以上ない扱いのようだが。ただ、山口の発言が少し引っかかる。

「つかロイド君高校の事忘れてる系? すっげー美人の彼女いたことも?」
「美人の彼女…?」
「いや、つか覚えてねーのかよ! 演劇部の看板女優で、何ならウチの高校で一番の美人じゃねーか! ロイド君演劇部に脚本書いてたじゃんか!」
「え~!? 朝霞クンの彼女!? 飯野クンて、封印された朝霞クンの記憶を紐解く存在ジャないの~!?」
「脚本書いて演出やってたのは言われて思い出したけど、悪い、彼女らしき存在のことはガチで出てこない」
「はー、ロイド君やっぱ人じゃねーわ!」
「だからアンドロイドなんて呼ばれてんだろ」
「今は鬼って呼ばれてるネ」
「つか、ちょっと関係持った奴をいちいち覚えてるか?」
「高崎クンは次元が違うから~」
「いや、ちょっとじゃねーんだよロイド君は! 1年以上付き合った彼女の顔が出てこないっつってんだぞ! 異常だろ!」
「美人は3日で飽きるって言うし、その類なんじゃねえのか。整い過ぎて印象に残らないとか」

 結局、俺は何を見せられていたのか。だが、人脈形成と記憶の開閉に関しては少し考える点があったりなかったり。朝霞は朝霞で高校以前のことを覚えてなかった割に飯野と再会してすぐ昔のノリに戻れるっつーことは、割といい関係だったのだろう。俺で言う拳悟や万里みたいなモンか。

「俺は朝霞クンに忘れられないように常日頃から爪痕を残さないと」
「山口、心配しなくても俺は今日から毎日お前のことを考えるぞ」
「え~と……何を書いてるんですか今は」
「作品出展のラジドラだ。構想を練ってる段階で、まだ書いてはないけど」
「おっ、次は星ヶ丘か」
「モニター、お手柔らかに」
「俺がお手柔らかにするとでも思ってんのか」
「まさか。それに、そもそも俺はお手柔らかなモニターなんか望んでないからな」


end.


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飯野と朝霞Pの再会に高崎と洋平ちゃんという後見人が何故かいる、謎の髭回。
朝霞Pの記憶についてもちょこちょこ語られてますが、高崎からすれば確かに「何を見せられてる」という感じよね
そしてここから星ヶ丘は作品出展の制作にも入っていくのね。夏合宿もあるしがんばろー

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