2019(02)

■向舞祭レポートレスキュー!

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「やあやあ高崎様! 作戦会議すっぞ!」
「作戦会議ねえ」

 飯野の野郎の家に招集され、これから始まるのは夏の課題レポート対策会議。これまでのあらすじ。ゼミの成績がヤバい飯野は、レポートの文字数を稼ぐため、内容をより濃くするために奴自身が余らせている出席ボーナスをダシに俺を無理矢理働かせようとしている。以上だ。
 奴の研究テーマは祭に関わることらしいが、具体的に何をやりたいのかはまだ見えていないらしい。例えば祭の成り立ちや歴史についてなのか、祭を運営する側の話なのか、祭を見に来る奴の話なのか……一言で祭と言っても切り取り方は無限だ。その道筋を付けてやるのが俺の仕事だろう。
 こないだ祭やイベントに関する資料集めの一環として丸の池公園でやってた星ヶ丘のステージとやらを見て来たけど、飯野的には何か違ったらしい。小ぢんまりとしたステージイベントでダメならデカい規模のガチな祭、向舞祭に乗り込もう。そうやって現在に至っている。

「つか、お前あれから資料をレポートに落とし込んだのか」
「いや、何をどう落とし込めっつーんだよ」
「結局お前は何がやりたいんだ」
「それを向舞祭に探しに行くんだろ!」
「向舞祭の時期に星港の街なかなんか近付けたモンじゃねえっつーのによ」
「そんだけデカい祭りだってことだろ!? 期待大じゃねーかよ」

 向舞祭は向島エリア全体を巻き込んで行われる祭りだ。メイン会場は花栄のど真ん中だが、エリア各地にサテライト会場が設けられていて、そこで行われた予選で勝ち進むと花栄で行われる本踊りに進出出来るというシステムだ。そして本踊りともなると街の熱気がガチでヤバい。とてもじゃねえが生半可な覚悟で近付けたモンじゃねえ。

「俺たちは遊びに行くんじゃねえ。お前のレポートの資料集めに行くんだ。目的を決めとかないとまーたぐだって終わるだけだろ。祭の何について突き詰めたいのか今すぐ考えろ」
「今すぐ考えろって言われてもなー」
「俺はてめェのレポートなんざどうなったっていいんだぞ」
「出席足りないクセに!」
「残り全部完璧に出れば足りなくなるこたねえんだよ」
「はい、ぜってームリなヤツ~」
「いいから要点をまとめろ」

 バンッと机に手を打ち付ければ、奴は大袈裟にビクついて怯えた素振りを見せる。ったく、こちとら慈善事業で付き合ってやってるんじゃねえんだぞ。すべては俺の出席数のためだ。ったく、安部ちゃんも冗談がキツイ。どうしてこのゴミクズのレポートがちょっと手伝っただけでまともなモンになると思うのか。
 そもそも、飯野の部屋の状況でどうやってレポートに集中出来ると言うのか。コイツの部屋は一言で言うとゲーム屋敷だ。新旧問わず様々なゲームが置かれていて、大祭実行の準備などで駆け回っていなければ大体ゲームをやって引き籠もっている。家にいたってレポートをやる前にゲームに負けるだろ。

「お前は祭の歴史に興味があるのか、それとも祭を運営する側に興味があるのか、はたまた」
「歴史にはあんま興味ねーな。祭を回してる人が何を考えてんのかとか、祭でその場所や人にどんな影響があんのかとかの方が」
「ならそれじゃねえか。それをレポートの最初の方に書いとけ。お前がこれまで何を見たかや、抱いた思いや疑問は十分レポートの冒頭を飾るにふさわしい動機付けになる」
「へー、自分のこと書いていいんだ」
「多少はな。祭の何に興味があるのかわかったら、現地調査でも見ることは変わって来る。今お前が言ったみたいなことだったら、祭をやってる最中と言うよりも祭が終わってからや、次の祭の準備に向かう間が勝負になる。そういう頃に関係者にインタビュー出来るようにしとけ。今回はその材料を集めるための特攻だ」
「高崎お前神か!?」
「確か秋学期にメディ文で始まるイベントプロデュースっつー講義の講師が向舞祭関係者じゃなかったか? それ履修しとけばツテも出来るだろうし」
「マジかよ! メディ文の授業取るって発想はなかった!」
「ただ、俺は取らねえからな。単位はお前が自力で取れ。いいな」
「情報あざーす! つかフツーに面白そうな授業じゃん! 絶対とるわ。メモしとこ」

 何を重点的に見させるのかを誘導するのも一苦労だ。漠然とした興味だけで目的も何もなく現地調査に行ったところで得られる物は何もない。行く前に計画を立てて、どんな資料を取って来るのかを決めておかないと、最終的には利用価値のないゴミしか集まらねえ。

「つかさ、お前向舞祭に近付きたくないっつってるけど何で生粋の星港市民が祭に行きたがらないんだよ」
「言って向舞祭はそこまで古い祭じゃねえ。急にポンと始まって、それがやたらめったらデカくなって普通に街を歩くにも苦労するようになってよ。ただでさえ星港はクソ暑いんだぞ。それなのに人混みをわざわざ作るとか意味がわからなくないか」
「祭の熱さはただ不快な暑さとは全然違うだろーがよ」
「俺自身向舞祭にそこまで思い入れがないしな。だからバイトしてるくらいでちょうどなのにお前の所為で向舞祭特攻なんかしなきゃいけなくなっちまったしよ」
「つか、お前の出席が人並みなら出席ボーナス目当てに俺を頼ることもなかったんじゃね?」
「うるせえ、クソが。俺がお前を頼ってんじゃねえ。お前が俺に泣きついて来てんだろうが」
「テッメー…! ンなコト言うか!?」
「事実だろ」

 何はともあれ、今日から向舞祭の前夜祭的な催しは始まっている。明日の向舞祭特攻に向けていろいろな覚悟を積んでおかなくてはならない。ったく、この稼ぎ時に何が悲しくて向舞祭特攻なんか。


end.


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いつもの。飯野と高崎の向舞祭特攻直前対策会議の様子をお送りしております。
そう言えば飯野が朝霞Pの存在に気付くのも向舞祭だったと思うし、今年は久々にその件もさらっと触れたいなあ
何やかんやちゃんと飯野の面倒を見ている高崎である。今回の報酬ってどうなってるのかしらね。

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