2019(02)
■知れ渡る羞恥のリポート
++++
「千景、向舞祭の調子はどうだ」
「それらしくなってきたと思います。今日もこの後から練習と打ち合わせがあって」
世間ではお盆の休みが9連休とか何連休とかっていう人も多いみたいだけど、ウチの倉庫では盆休みがなくって、本当にカレンダー通りの出勤になっている。とは言え出荷量はそこまで多くないから、実質お昼でおしまいっていう感じで。でも朝は荷下ろしがあるからちょっと早いんだけど。
午前の出荷作業が一段落して、仕事探しついでにふらっと構内を散歩していると、外で水浴びをしている塩見さんから声をかけられた。塩見さんには前にバイトと向舞祭との兼ね合いについて相談していたんだ。向舞祭の練習でバイトに入れなくなったらどうしよう、みたいなことを。
「でも、やっぱり暑いですね。練習してても、早くプールに行きたくて仕方ないですもん」
「お前暑いの嫌いだもんな」
「俺も水浴びしたいですもん」
「すりゃいいだろ。着替え持ってねえのか?」
「ありますけど、休憩時間でもないですし」
「出荷は終わってんだから問題ないだろ。出勤日と言え盆シフトで来てない奴は来てねえんだ。勤務時間に緩くいられるのは来てる奴の特権だろうが」
夏は着替え一式を2セット持ってくるのが基本になっているから、パンツもズボンも濡れたら交換すればいいだけ。上だけ脱いでそのまま側溝に敷かれた目皿の上に立つ。ホースの先に付いたシャワー口を向けられて、そのまま勢いよく水が噴き出してくる。ああ、気持ちいい。
「水を浴びるだけでも大分回復しますね」
「だな」
「やっぱり、夏は極力水の中にいたいですね」
「夏じゃなくてもプールにいるだろお前」
「そうですけど、夏は特別そう思いますもん」
バイトと向舞祭の練習の合間のちょっとした時間を見つけてはプールに行くようにしてるんだけど、それでもこれまでよりはプールに行ける時間は少なくなってて。向舞祭の練習がやっぱり大きいかな。あんな暑いところで練習だなんて、やっぱり拷問だと常に思ってる。
昨日の夜、塩見さんと一緒に焼き肉に行った。塩見さんの考え方では、体力を一番回復するのはお肉。ということで、ひたすらお肉だけを食べる大会。たまたま会ったっていう高崎と、塩見さんの友達っていう変わった面々で。その後は兄さんのお店に行って飲む人は飲んでって感じで過ごしてた。俺はフロートを自分で作って飲んでて。
「アシスタントMCだったか?」
「はい。当日のMC補佐だけだと思ってたんですけど、何か別件でも仕事があるみたくて」
「ステージ設営とかか?」
「いえ、俺がアシスタントとして付くのがホシテレのアナウンサーさんなんですけど、前日と向舞祭期間中の中継にも一緒に出ることになっちゃってるみたくて。俺と一緒にアシスタントに入るみんなはそういう別件の仕事はないみたいなんで、えっ俺だけなんだと思って」
向舞祭は向島エリア内に何ヶ所か設営されたサテライトステージに散り散りになって予選会が行われる。当日、俺たちが誰とどこのステージに入るかというのはすでに発表されていて、昨日メインMCを勤める本職の人たちと顔合わせをしたところだ。テレビで見たことある人だなあって思って緊張したよね。
「なかなか貴重な経験じゃねえか。向舞祭はテレビ中継もあるもんな」
「はい。それで、会場を回ったり、ステージやチームの様子を紹介したりするみたいです。屋台を回って食リポもお願いねって言われてて」
「なかなか本格的じゃねえか」
「でも、食リポなんか出来ないですよ。何食べても美味しいですもん」
「誰も素人の大学生に本格的なリポートなんか期待しねえんだから、素直にやってりゃいいんだ。しかしまあ、千景がテレビデビューか。千晴君には言ったのか?」
「もー、聞いて下さいよ塩見さん」
「どうした、困ったような顔して」
困ってるのはそれこそ兄さんのこと。塩見さんが兄さんの名前を出したのに悪気はないんだろうけど、ちょっと、向舞祭を巡る兄さんのリアクションのことを思い出して憂鬱になっちゃうよね。
「向舞祭のアシスタントMCとしてこんなことをやるんだーって話したら、録画しなきゃって今から大騒ぎしてるんですよ。録画なんてしなくていいと思いません? 恥ずかしくてたまんないですもん」
「弟の晴れ舞台が嬉しいんだろ」
「それはわかりますけど、レコーダーまで買い換えるって言ってるんですよ?」
「そりゃお前、お前が普段言ってるヤツじゃねえか」
「えっ」
「「兄さんのお金は兄さんの好きなように使ってほしい」っていう、まさにそれだ。それこそ千晴君が自分の好きなように金を使う姿を見られるんだ、お前にとっても悪いことばっかじゃねえだろ」
「うーん……まあ、考え方によってはそうかもしれないですけど」
塩見さんの考え方が本当に前向きだなって思う。俺は自分がテレビに出るのを録画されるのが恥ずかしいなとしか思わなかったんだけど、確かに兄さんが兄さんの使いたいようにお金を使う姿ではあるんだよね。でも、録画するのが向舞祭の中継リポートだっていうのはどうかと思うよ。
「それかあれだな。向舞祭の期間中は会社も休みだし、千晴君に夕方から店開けてもらって向舞祭中継リポートのパブリックビューイングを開催してもらおうか」
「ちょっと塩見さん! 冗談にしてはちょっと悪質じゃないですか、もー!」
「いや、冗談じゃなくてガチで言ってる。お前からいろいろ相談された手前、千景はちゃんとやれてっかなっつって見守る権利くらいはあるだろ」
「恥ずかしいじゃないですか」
「確かホシテレだったな」
「勘弁して下さいよー!」
end.
++++
夏のかわいいオミちーである。水浴びしてきゃっきゃしてるのがいいですね。ゆーてこの義兄弟未遂コンビは基本的にかわいい。
昨日焼肉に行ってベティさんのお店に行ってって……つーことはこの時点で塩見さん、自分とちーちゃん(大石兄弟)との関係は知ってんだな
そしてちーちゃんのテレビデビューにはしゃいでいるベティさんであった。まあでも身内のそういうのが楽しい人は楽しいんだろうね
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「千景、向舞祭の調子はどうだ」
「それらしくなってきたと思います。今日もこの後から練習と打ち合わせがあって」
世間ではお盆の休みが9連休とか何連休とかっていう人も多いみたいだけど、ウチの倉庫では盆休みがなくって、本当にカレンダー通りの出勤になっている。とは言え出荷量はそこまで多くないから、実質お昼でおしまいっていう感じで。でも朝は荷下ろしがあるからちょっと早いんだけど。
午前の出荷作業が一段落して、仕事探しついでにふらっと構内を散歩していると、外で水浴びをしている塩見さんから声をかけられた。塩見さんには前にバイトと向舞祭との兼ね合いについて相談していたんだ。向舞祭の練習でバイトに入れなくなったらどうしよう、みたいなことを。
「でも、やっぱり暑いですね。練習してても、早くプールに行きたくて仕方ないですもん」
「お前暑いの嫌いだもんな」
「俺も水浴びしたいですもん」
「すりゃいいだろ。着替え持ってねえのか?」
「ありますけど、休憩時間でもないですし」
「出荷は終わってんだから問題ないだろ。出勤日と言え盆シフトで来てない奴は来てねえんだ。勤務時間に緩くいられるのは来てる奴の特権だろうが」
夏は着替え一式を2セット持ってくるのが基本になっているから、パンツもズボンも濡れたら交換すればいいだけ。上だけ脱いでそのまま側溝に敷かれた目皿の上に立つ。ホースの先に付いたシャワー口を向けられて、そのまま勢いよく水が噴き出してくる。ああ、気持ちいい。
「水を浴びるだけでも大分回復しますね」
「だな」
「やっぱり、夏は極力水の中にいたいですね」
「夏じゃなくてもプールにいるだろお前」
「そうですけど、夏は特別そう思いますもん」
バイトと向舞祭の練習の合間のちょっとした時間を見つけてはプールに行くようにしてるんだけど、それでもこれまでよりはプールに行ける時間は少なくなってて。向舞祭の練習がやっぱり大きいかな。あんな暑いところで練習だなんて、やっぱり拷問だと常に思ってる。
昨日の夜、塩見さんと一緒に焼き肉に行った。塩見さんの考え方では、体力を一番回復するのはお肉。ということで、ひたすらお肉だけを食べる大会。たまたま会ったっていう高崎と、塩見さんの友達っていう変わった面々で。その後は兄さんのお店に行って飲む人は飲んでって感じで過ごしてた。俺はフロートを自分で作って飲んでて。
「アシスタントMCだったか?」
「はい。当日のMC補佐だけだと思ってたんですけど、何か別件でも仕事があるみたくて」
「ステージ設営とかか?」
「いえ、俺がアシスタントとして付くのがホシテレのアナウンサーさんなんですけど、前日と向舞祭期間中の中継にも一緒に出ることになっちゃってるみたくて。俺と一緒にアシスタントに入るみんなはそういう別件の仕事はないみたいなんで、えっ俺だけなんだと思って」
向舞祭は向島エリア内に何ヶ所か設営されたサテライトステージに散り散りになって予選会が行われる。当日、俺たちが誰とどこのステージに入るかというのはすでに発表されていて、昨日メインMCを勤める本職の人たちと顔合わせをしたところだ。テレビで見たことある人だなあって思って緊張したよね。
「なかなか貴重な経験じゃねえか。向舞祭はテレビ中継もあるもんな」
「はい。それで、会場を回ったり、ステージやチームの様子を紹介したりするみたいです。屋台を回って食リポもお願いねって言われてて」
「なかなか本格的じゃねえか」
「でも、食リポなんか出来ないですよ。何食べても美味しいですもん」
「誰も素人の大学生に本格的なリポートなんか期待しねえんだから、素直にやってりゃいいんだ。しかしまあ、千景がテレビデビューか。千晴君には言ったのか?」
「もー、聞いて下さいよ塩見さん」
「どうした、困ったような顔して」
困ってるのはそれこそ兄さんのこと。塩見さんが兄さんの名前を出したのに悪気はないんだろうけど、ちょっと、向舞祭を巡る兄さんのリアクションのことを思い出して憂鬱になっちゃうよね。
「向舞祭のアシスタントMCとしてこんなことをやるんだーって話したら、録画しなきゃって今から大騒ぎしてるんですよ。録画なんてしなくていいと思いません? 恥ずかしくてたまんないですもん」
「弟の晴れ舞台が嬉しいんだろ」
「それはわかりますけど、レコーダーまで買い換えるって言ってるんですよ?」
「そりゃお前、お前が普段言ってるヤツじゃねえか」
「えっ」
「「兄さんのお金は兄さんの好きなように使ってほしい」っていう、まさにそれだ。それこそ千晴君が自分の好きなように金を使う姿を見られるんだ、お前にとっても悪いことばっかじゃねえだろ」
「うーん……まあ、考え方によってはそうかもしれないですけど」
塩見さんの考え方が本当に前向きだなって思う。俺は自分がテレビに出るのを録画されるのが恥ずかしいなとしか思わなかったんだけど、確かに兄さんが兄さんの使いたいようにお金を使う姿ではあるんだよね。でも、録画するのが向舞祭の中継リポートだっていうのはどうかと思うよ。
「それかあれだな。向舞祭の期間中は会社も休みだし、千晴君に夕方から店開けてもらって向舞祭中継リポートのパブリックビューイングを開催してもらおうか」
「ちょっと塩見さん! 冗談にしてはちょっと悪質じゃないですか、もー!」
「いや、冗談じゃなくてガチで言ってる。お前からいろいろ相談された手前、千景はちゃんとやれてっかなっつって見守る権利くらいはあるだろ」
「恥ずかしいじゃないですか」
「確かホシテレだったな」
「勘弁して下さいよー!」
end.
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夏のかわいいオミちーである。水浴びしてきゃっきゃしてるのがいいですね。ゆーてこの義兄弟未遂コンビは基本的にかわいい。
昨日焼肉に行ってベティさんのお店に行ってって……つーことはこの時点で塩見さん、自分とちーちゃん(大石兄弟)との関係は知ってんだな
そしてちーちゃんのテレビデビューにはしゃいでいるベティさんであった。まあでも身内のそういうのが楽しい人は楽しいんだろうね
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