2019(02)
■ご飯もりもり元気もりもり
++++
向舞祭まであと1週間。日に日に練習や打ち合わせの密度が濃くなり、祭に向けたムードが高まっていくのに比例するように気温の方もグングンを上がっているように思える。去年ほどではないと口では言うけれど、実際外に立つとかなり暑い。暑いと言うか、熱いと表現する方が正しいようにも思える。
今年の俺は一度やらかしているから、熱中症にはより細心の注意を払っている。熱中症の怖いところは、少し休んでよくなったと思いこんでまた活動を再開すると、またぶっ倒れるところだろう。後遺症が残りやすいと言うか。先に倒れた分はもうよくなってるけど、またいつぶっ倒れるかわからないのが怖い。
「あーっつー……もうお菓子しか食べらんない」
「ヒビキ、ちゃんとご飯食べないとバテるよ」
「アタシは元々大石クンみたくいっぱいは食べられないの!」
「え? そうかなあ。いつもお菓子食べてご飯も食べてって、何気に結構な量になってない?」
「もー! 食べれないったら食べれないんだってば!」
「あー、ちーちゃん、本当のことでも言わない方がいいことってのはあるから」
「と言うか、俺の横を見るとお菓子だけでもきちんと食べてる加賀さんはまだマシじゃないかと」
昼休憩中、インターフェイス定例会はみんな揃ってテントの下で飯を食うことになっている。つか昼休憩くらいどっか適当なオフィスかどっかに入れてくれと思わないこともないが、テントを用意してもらえているだけマシなのだろう。冷房のかかったプレハブで休憩してるエラいさん連中が憎い。
持参したりその辺のコンビニで買ってきた物を淡々と食うワケなんだけど、ここで各人の残り体力がはっきりとわかるんだ。お菓子しか食べられないと言っている加賀さんはその言葉通り食事代わりにお菓子を食べている。ただ、このクソ暑いのにスナック菓子なんかよく食えるなとも思うワケで。
俺と大石、それからカズは普通に飯を食っている。大石はアツアツの大きな牛丼だしカズはサラダとパン2個。俺はと言えば、味付きゆで卵と冷やしうどんだ。まあ、この暑い中で活動してる最中に、俺たち3人はちゃんと食えてる方だとは思うんだよな。問題は、俺の横で微動だにせず死んでいる奴だ。
「圭斗、お昼食べないと午後から動けなくなるよ」
「……ダメだこりゃ。反応すらないじゃんな。つかそもそも生きてる? カオル、脈取れそう?」
「おーい、圭斗。生きてるか」
脈を取れというのはさすがにカズなりの冗談だろうが、圭斗の様子を見ていると強ち冗談とも思えないから手首を触ってみる。よかった、一応脈はある。死んではないようだ。だけど完全に落ちている様子を見ると、いつ死んでもおかしくなさそうだ。この調子だと家に帰っても引き摺るだろう。
「脈はある」
「よかったぁー、これで死んでたらインターフェイスが終わってたぜ」
「でも、何も食べないと今から動けないもん。圭斗、ご飯持ってきてるのかな」
「おい圭斗、お前何か持ってきてんのか」
「……ん、食べる気力がなくてね」
「だろうけど。とりあえず俺の非常食渡しとくから、飲めるようなら飲んどけ」
「かたじけない」
もし自分が今の圭斗みたいな状態になったときのことを想定して、非常食としてのゼリー飲料をいくつか持ってきていた。まあ、俺自身は普通にゆで卵2個とうどんを食えるくらいには元気だったから良かったんだけど。圭斗は受け取ったそれを弱々しく吸い始める。
「ってか逆に、カズたちは何でそんな元気なの? 意味わかんないんだけど」
「俺は元々夏が好きだし、暑さには強い方だと思うんだよね。そもそも俺はPAだから基本テントの下だし」
「ズルっ」
「でも、暑いのはイヤだなあ。俺は早くプールに行きたくて仕方ないよ」
「プールいいね。浸かってるだけでも違うかな」
「早く水に入りたいもん。この暑いのにプールに行けないなんて拷問だよ」
「そんなワガママ放題なのに大石が死んでないのはやっぱり基礎体力の差か?」
「バイト先が40度を越える倉庫だから、暑さの質は違うにしてもある程度慣れてるんじゃないのかなあ」
「40度!?」
「うん、40度。風通しの悪いところだったらもっとあるんじゃないかなあ」
「ムリ!」
「朝霞が元気なのって、星ヶ丘のステージの延長みたいな感じで体が慣れてるってのがありそうだよね」
「まあ実際そうだろうな。体力なんかは俺は圭斗とトントンくらいだろうし。慣れと対策の部分がデカいと思う」
すると、横からか細い声で「お前らバケモンだ」と聞こえてくるんだ。死んだ奴が何か言ってやがる。だけど、慣れがあるとは言え俺みたいな体力のない典型的文化系でもそこそこやれてんのに、圭斗はどうした。カズはともかくアナ4人は同じ条件のはずなのに、どうしてこうも違ってきてる。
「でも、やっぱ飯を食う食わないとかちゃんと寝る寝ないってのはデカいと思うんだよ。俺こないだ熱中症やらかしたんだけど、ちゃんと飯食って睡眠時間確保して、何もしないで休んでたら復活すんのも早かったし」
「えっ、カオル熱中症やったの」
「ああ。リアルに死にかけた。だから今もぶり返さないようにめっちゃ対策してる」
「でも、そうだよね。夏は特に寝苦しくなりやすいし、寝ないと体力落ちちゃうもん。早出と残業が続くと、俺でもさすがにちょっとしんどくなるもん」
「圭斗、お前ちゃんと寝てる?」
「2時までには寝てるよ」
「遅っ」
「圭斗、早く寝ないと肌に良くないよ」
「ん、ヒビキはそのお菓子ばかりの食生活を改善すべきじゃないかな?」
「ねえ、圭斗実は仮病じゃない? めっちゃ元気じゃん」
「口が回るだけ回復してきたという解釈でいいのか?」
「うーん、いいんじゃない?」
泣いても笑っても向舞祭まではあと1週間だし暑さはまだまだ増してくるだろう。まずは死なないように努力することが第一だ。と言うかアシスタントと言え一応MCとして人前に立つからには、それなりの顔を作らなければならないだろう。その土台としての健康をだな、まずは。
end.
++++
定例会の向舞祭話です。このテの話でヒビキががっつり喋ってるのもなかなか珍しいパターンですね。化け物たちは相変わらず元気です。
圭斗さんが安定的に死んでいるワケですが、今年は脈を取られたりとなかなか本格的に死んでいるみたいですね。生きてはいたみたいです
定例会で一番体力があるのはちーちゃんだけど、ちーちゃんは暑いのが嫌いみたいですね。プールに行けないのが拷問だなんて
.
++++
向舞祭まであと1週間。日に日に練習や打ち合わせの密度が濃くなり、祭に向けたムードが高まっていくのに比例するように気温の方もグングンを上がっているように思える。去年ほどではないと口では言うけれど、実際外に立つとかなり暑い。暑いと言うか、熱いと表現する方が正しいようにも思える。
今年の俺は一度やらかしているから、熱中症にはより細心の注意を払っている。熱中症の怖いところは、少し休んでよくなったと思いこんでまた活動を再開すると、またぶっ倒れるところだろう。後遺症が残りやすいと言うか。先に倒れた分はもうよくなってるけど、またいつぶっ倒れるかわからないのが怖い。
「あーっつー……もうお菓子しか食べらんない」
「ヒビキ、ちゃんとご飯食べないとバテるよ」
「アタシは元々大石クンみたくいっぱいは食べられないの!」
「え? そうかなあ。いつもお菓子食べてご飯も食べてって、何気に結構な量になってない?」
「もー! 食べれないったら食べれないんだってば!」
「あー、ちーちゃん、本当のことでも言わない方がいいことってのはあるから」
「と言うか、俺の横を見るとお菓子だけでもきちんと食べてる加賀さんはまだマシじゃないかと」
昼休憩中、インターフェイス定例会はみんな揃ってテントの下で飯を食うことになっている。つか昼休憩くらいどっか適当なオフィスかどっかに入れてくれと思わないこともないが、テントを用意してもらえているだけマシなのだろう。冷房のかかったプレハブで休憩してるエラいさん連中が憎い。
持参したりその辺のコンビニで買ってきた物を淡々と食うワケなんだけど、ここで各人の残り体力がはっきりとわかるんだ。お菓子しか食べられないと言っている加賀さんはその言葉通り食事代わりにお菓子を食べている。ただ、このクソ暑いのにスナック菓子なんかよく食えるなとも思うワケで。
俺と大石、それからカズは普通に飯を食っている。大石はアツアツの大きな牛丼だしカズはサラダとパン2個。俺はと言えば、味付きゆで卵と冷やしうどんだ。まあ、この暑い中で活動してる最中に、俺たち3人はちゃんと食えてる方だとは思うんだよな。問題は、俺の横で微動だにせず死んでいる奴だ。
「圭斗、お昼食べないと午後から動けなくなるよ」
「……ダメだこりゃ。反応すらないじゃんな。つかそもそも生きてる? カオル、脈取れそう?」
「おーい、圭斗。生きてるか」
脈を取れというのはさすがにカズなりの冗談だろうが、圭斗の様子を見ていると強ち冗談とも思えないから手首を触ってみる。よかった、一応脈はある。死んではないようだ。だけど完全に落ちている様子を見ると、いつ死んでもおかしくなさそうだ。この調子だと家に帰っても引き摺るだろう。
「脈はある」
「よかったぁー、これで死んでたらインターフェイスが終わってたぜ」
「でも、何も食べないと今から動けないもん。圭斗、ご飯持ってきてるのかな」
「おい圭斗、お前何か持ってきてんのか」
「……ん、食べる気力がなくてね」
「だろうけど。とりあえず俺の非常食渡しとくから、飲めるようなら飲んどけ」
「かたじけない」
もし自分が今の圭斗みたいな状態になったときのことを想定して、非常食としてのゼリー飲料をいくつか持ってきていた。まあ、俺自身は普通にゆで卵2個とうどんを食えるくらいには元気だったから良かったんだけど。圭斗は受け取ったそれを弱々しく吸い始める。
「ってか逆に、カズたちは何でそんな元気なの? 意味わかんないんだけど」
「俺は元々夏が好きだし、暑さには強い方だと思うんだよね。そもそも俺はPAだから基本テントの下だし」
「ズルっ」
「でも、暑いのはイヤだなあ。俺は早くプールに行きたくて仕方ないよ」
「プールいいね。浸かってるだけでも違うかな」
「早く水に入りたいもん。この暑いのにプールに行けないなんて拷問だよ」
「そんなワガママ放題なのに大石が死んでないのはやっぱり基礎体力の差か?」
「バイト先が40度を越える倉庫だから、暑さの質は違うにしてもある程度慣れてるんじゃないのかなあ」
「40度!?」
「うん、40度。風通しの悪いところだったらもっとあるんじゃないかなあ」
「ムリ!」
「朝霞が元気なのって、星ヶ丘のステージの延長みたいな感じで体が慣れてるってのがありそうだよね」
「まあ実際そうだろうな。体力なんかは俺は圭斗とトントンくらいだろうし。慣れと対策の部分がデカいと思う」
すると、横からか細い声で「お前らバケモンだ」と聞こえてくるんだ。死んだ奴が何か言ってやがる。だけど、慣れがあるとは言え俺みたいな体力のない典型的文化系でもそこそこやれてんのに、圭斗はどうした。カズはともかくアナ4人は同じ条件のはずなのに、どうしてこうも違ってきてる。
「でも、やっぱ飯を食う食わないとかちゃんと寝る寝ないってのはデカいと思うんだよ。俺こないだ熱中症やらかしたんだけど、ちゃんと飯食って睡眠時間確保して、何もしないで休んでたら復活すんのも早かったし」
「えっ、カオル熱中症やったの」
「ああ。リアルに死にかけた。だから今もぶり返さないようにめっちゃ対策してる」
「でも、そうだよね。夏は特に寝苦しくなりやすいし、寝ないと体力落ちちゃうもん。早出と残業が続くと、俺でもさすがにちょっとしんどくなるもん」
「圭斗、お前ちゃんと寝てる?」
「2時までには寝てるよ」
「遅っ」
「圭斗、早く寝ないと肌に良くないよ」
「ん、ヒビキはそのお菓子ばかりの食生活を改善すべきじゃないかな?」
「ねえ、圭斗実は仮病じゃない? めっちゃ元気じゃん」
「口が回るだけ回復してきたという解釈でいいのか?」
「うーん、いいんじゃない?」
泣いても笑っても向舞祭まではあと1週間だし暑さはまだまだ増してくるだろう。まずは死なないように努力することが第一だ。と言うかアシスタントと言え一応MCとして人前に立つからには、それなりの顔を作らなければならないだろう。その土台としての健康をだな、まずは。
end.
++++
定例会の向舞祭話です。このテの話でヒビキががっつり喋ってるのもなかなか珍しいパターンですね。化け物たちは相変わらず元気です。
圭斗さんが安定的に死んでいるワケですが、今年は脈を取られたりとなかなか本格的に死んでいるみたいですね。生きてはいたみたいです
定例会で一番体力があるのはちーちゃんだけど、ちーちゃんは暑いのが嫌いみたいですね。プールに行けないのが拷問だなんて
.