2019(02)
■いつメンあの頃恋愛譚
++++
「それじゃあ俺たちの再会に、かんぱーい!」
紅社の大学に行っている万里が盆休みでこっちに帰ってきたということで、俺と拳悟という高校時代にはいつものメンツだった3人で集まって飲むことになった。俺はこの盆休みもバイト漬けなワケだが、この集まりだけを楽しみにしていたと言っても過言ではない。
俺と拳悟は中学からの付き合いで腐れ縁だ。万里は1年の時のクラスメイトで一番仲良くしていた。拳悟と万里は同じ男子バスケ部で、拳悟が万里にとにかく懐いていて、毎朝わざわざウチのクラスまで挨拶をしに来ていたんだ。その流れなのか何なのか、こんな感じで定着した間柄だ。
現在では俺は緑大だし万里は紅社の大学で物流システムだとかそんなようなことについて勉強している。拳悟は高校を卒業した後美容専門学校に進学して、今年から美容師として働き始めた。俺らの中でも一番のバカが社会人として働き始めているという事実はなかなか感慨深い。
「はいどうぞ~、5種盛り3人前と、チキン南蛮、シーザーサラダで~す」
「ありがとうございまーす」
「つか高崎早っ! お前もうジョッキ空けた!?」
「生追加で」
「生ですね~、少々お待ち下さいませ~」
万里の家からそこそこ近い飲み屋に来ているワケだが、まさか山口がバイトをしている店だとは思わなかったっつーな。まあ、害がなければ何でもいいんだけど。最初に頼んでいた5種盛りの串に手を伸ばす。うん。ももがうめえ。
「はい、お待ち遠様でした~、追加の生で~す」
「サンキュ」
「まさか高崎クンがプライベートで来てくれるなんて~」
「たまたまだ。店のチョイスは完全に任せてたからな」
「何の集まり~?」
「こっちが腐れ縁で、こっちは高校のダチだ」
「へ~。それではごゆっくり~」
拳悟と万里も、俺と山口のやりとりを見てどういう繋がりだと聞いてきたからサークル関係だと答えておく。嘘は言ってねえ。つか、山口も山口で盆はバイト漬けか。人のことは言えないけどよくやるよなと思う。前々から聞いている感じだとコイツはバイトを修行だと捉えてるようだから、これもまた必要なことなのだろう。
「越野はいつまでこっちにいるの?」
「来週にはもう戻る」
「早っ! 越野ってばいつもそう! 帰省が短すぎて全然遊べない!」
「しょーがねーだろ、俺だけの都合でどうこう出来るモンでもないし。俺も向こうで忙しーの」
「こっちでもクソ忙しいみたいじゃねえか。俺らがお前のためにどんだけ頑張ってスケジュール調整したと思って」
「それは素直にあざっす」
「ホントに。えっ、美南とはさすがに会うんでしょ?」
「花火行くことになってるけど」
「あー!? 俺が断られたのって美南とデートだったからなの!?」
「うっせーよ、お前は麻見と行っとけよ」
拳悟と万里にはそれぞれ彼女がいる。高1の時から付き合ってるから、かれこれ5年近くになるだろうか。かのバカップルと似たようなものだ。拳悟の彼女は現在青女の心理だかで、万里の彼女は大学には通いつつもアナウンサーになるという目標に向けて邁進しているらしい。
高校の頃は俺にも1年の頃から付き合った彼女がいたが、大学に入るか入らないかっつー頃に別れた。向こうが向島の外に進学するに当たり距離がどうしたっていうアレで。その点、現在進行形で遠距離恋愛中の万里はよく続いてるなと思う。付き合い始めたのが高校からとは言え、元々が幼馴染みだというのも大きいだろう。
「あっ、お兄さーん! 枝豆もらえますかー!?」
「はいは~い、枝豆ですね~! 今行きま~す!」
「ところで、高崎にその辺何か浮いた話などは」
「ねえよ」
「またまた」
「いや、ガチでねえ」
「でも1年の頃とかは割と取っ替え引っ替えしてたくない?」
「人聞きがわりィだろ。自分から言い寄ったことは一度もねえからな」
「は~! モテる男は違いますわ!」
「ほら、高崎って昔から女の子に困ることはなかったしね。本人の意思とは関係なく向こうから寄って来るから」
「何だそれ!」
「高校の頃、荒幡ちゃんと2年ちょい付き合った高崎比の純愛がまず例外中の例外って言うか」
「つか、俺に寄ってくるのなんか大体が体目当ての女だぞ。俺が性欲処理に付き合ってやってんだろうが。そのクセ連中は1回ヤって彼女面し始めんだけど、2回3回ヤったら勝手に離れてくからな。それが10人20人って積み重なるだけだ」
「いや~、高崎クン、貫禄の発言でしょでしょ~。あっ、枝豆で~す。気持ち量サービスしときま~す」
「ありがとーございまーす。あっ、お兄さん、コイツの最近の女ネタ何かつかんでます? いい感じの子がいるとか」
万里が山口に最近の女ネタは何かないか詰め寄っている。俺に女ネタなんかないに等しいが、いろいろ曲解されると面倒なことになる話はないことはない。当の山口は、困ったな~と言いながらニヤニヤして俺のことをチラッチラ見てきやがる。腹の立つ顔だ。コイツがバイト中でなければぶん殴っているところだ。
「何もねえ。よな?」
「あっ、な、ない~……かな~?」
「高崎! お前お兄さん脅して言わせてんだろ!」
「でもさ高崎クン、高崎クンが俺に圧をかければかけるだけ議長サンにガチなんだってことにならない? 平気~?」
「ガチとかガチじゃないとかじゃねえ。アイツ絡みでどんだけ向島の先輩から睨まれてると思ってんだ。事実であれ、事実でなかれ、どうなってんだってつつかれる方の身にもなれ。警戒したくもなるだろ」
「あ~……向島の先輩たちって聞くと……うん、でしょでしょ~」
「お兄さん、議長サンとは」
「万里、お前それ以上深堀りしたらどうなるかわかってんだろうな」
「やべっ、元ヤンの顔になってやがる」
「ヤンキーだったことはねえ」
強制的にこの話題を終了して、別の話へ。俺たちに許された時間はそう長くないのに、こんなしょうもねえことに費やしてたまるかと。恋愛らしい恋愛なんざ、柄じゃねえ。そのときが来れば受け入れることもあるだろうが、今はそういう気分でもない。一人が楽だ。
「高崎クン、だし巻き食べる~? とびっきりうまーなヤツ~」
「食うけど、他意はねえだろうな」
「どうだか~」
「お前に被った迷惑の窓口は朝霞でいいな」
「冗談でしょでしょ~!」
end.
++++
星港高校のいつメンが集まって洋平ちゃんのお店で飲んでるヤツ。結構ぐいっぐい来てる話ですね
高崎の恋愛事情、と言うか肉体事情と言った方が正しい女性関係のお話もチラリ。中学のときからのそれを全部知っているのが拳悟である。
そしてやまよをお兄さんって言ってるいつメンたちがかわいい。あと、向島の先輩たちは確かにアレでしたね……
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「それじゃあ俺たちの再会に、かんぱーい!」
紅社の大学に行っている万里が盆休みでこっちに帰ってきたということで、俺と拳悟という高校時代にはいつものメンツだった3人で集まって飲むことになった。俺はこの盆休みもバイト漬けなワケだが、この集まりだけを楽しみにしていたと言っても過言ではない。
俺と拳悟は中学からの付き合いで腐れ縁だ。万里は1年の時のクラスメイトで一番仲良くしていた。拳悟と万里は同じ男子バスケ部で、拳悟が万里にとにかく懐いていて、毎朝わざわざウチのクラスまで挨拶をしに来ていたんだ。その流れなのか何なのか、こんな感じで定着した間柄だ。
現在では俺は緑大だし万里は紅社の大学で物流システムだとかそんなようなことについて勉強している。拳悟は高校を卒業した後美容専門学校に進学して、今年から美容師として働き始めた。俺らの中でも一番のバカが社会人として働き始めているという事実はなかなか感慨深い。
「はいどうぞ~、5種盛り3人前と、チキン南蛮、シーザーサラダで~す」
「ありがとうございまーす」
「つか高崎早っ! お前もうジョッキ空けた!?」
「生追加で」
「生ですね~、少々お待ち下さいませ~」
万里の家からそこそこ近い飲み屋に来ているワケだが、まさか山口がバイトをしている店だとは思わなかったっつーな。まあ、害がなければ何でもいいんだけど。最初に頼んでいた5種盛りの串に手を伸ばす。うん。ももがうめえ。
「はい、お待ち遠様でした~、追加の生で~す」
「サンキュ」
「まさか高崎クンがプライベートで来てくれるなんて~」
「たまたまだ。店のチョイスは完全に任せてたからな」
「何の集まり~?」
「こっちが腐れ縁で、こっちは高校のダチだ」
「へ~。それではごゆっくり~」
拳悟と万里も、俺と山口のやりとりを見てどういう繋がりだと聞いてきたからサークル関係だと答えておく。嘘は言ってねえ。つか、山口も山口で盆はバイト漬けか。人のことは言えないけどよくやるよなと思う。前々から聞いている感じだとコイツはバイトを修行だと捉えてるようだから、これもまた必要なことなのだろう。
「越野はいつまでこっちにいるの?」
「来週にはもう戻る」
「早っ! 越野ってばいつもそう! 帰省が短すぎて全然遊べない!」
「しょーがねーだろ、俺だけの都合でどうこう出来るモンでもないし。俺も向こうで忙しーの」
「こっちでもクソ忙しいみたいじゃねえか。俺らがお前のためにどんだけ頑張ってスケジュール調整したと思って」
「それは素直にあざっす」
「ホントに。えっ、美南とはさすがに会うんでしょ?」
「花火行くことになってるけど」
「あー!? 俺が断られたのって美南とデートだったからなの!?」
「うっせーよ、お前は麻見と行っとけよ」
拳悟と万里にはそれぞれ彼女がいる。高1の時から付き合ってるから、かれこれ5年近くになるだろうか。かのバカップルと似たようなものだ。拳悟の彼女は現在青女の心理だかで、万里の彼女は大学には通いつつもアナウンサーになるという目標に向けて邁進しているらしい。
高校の頃は俺にも1年の頃から付き合った彼女がいたが、大学に入るか入らないかっつー頃に別れた。向こうが向島の外に進学するに当たり距離がどうしたっていうアレで。その点、現在進行形で遠距離恋愛中の万里はよく続いてるなと思う。付き合い始めたのが高校からとは言え、元々が幼馴染みだというのも大きいだろう。
「あっ、お兄さーん! 枝豆もらえますかー!?」
「はいは~い、枝豆ですね~! 今行きま~す!」
「ところで、高崎にその辺何か浮いた話などは」
「ねえよ」
「またまた」
「いや、ガチでねえ」
「でも1年の頃とかは割と取っ替え引っ替えしてたくない?」
「人聞きがわりィだろ。自分から言い寄ったことは一度もねえからな」
「は~! モテる男は違いますわ!」
「ほら、高崎って昔から女の子に困ることはなかったしね。本人の意思とは関係なく向こうから寄って来るから」
「何だそれ!」
「高校の頃、荒幡ちゃんと2年ちょい付き合った高崎比の純愛がまず例外中の例外って言うか」
「つか、俺に寄ってくるのなんか大体が体目当ての女だぞ。俺が性欲処理に付き合ってやってんだろうが。そのクセ連中は1回ヤって彼女面し始めんだけど、2回3回ヤったら勝手に離れてくからな。それが10人20人って積み重なるだけだ」
「いや~、高崎クン、貫禄の発言でしょでしょ~。あっ、枝豆で~す。気持ち量サービスしときま~す」
「ありがとーございまーす。あっ、お兄さん、コイツの最近の女ネタ何かつかんでます? いい感じの子がいるとか」
万里が山口に最近の女ネタは何かないか詰め寄っている。俺に女ネタなんかないに等しいが、いろいろ曲解されると面倒なことになる話はないことはない。当の山口は、困ったな~と言いながらニヤニヤして俺のことをチラッチラ見てきやがる。腹の立つ顔だ。コイツがバイト中でなければぶん殴っているところだ。
「何もねえ。よな?」
「あっ、な、ない~……かな~?」
「高崎! お前お兄さん脅して言わせてんだろ!」
「でもさ高崎クン、高崎クンが俺に圧をかければかけるだけ議長サンにガチなんだってことにならない? 平気~?」
「ガチとかガチじゃないとかじゃねえ。アイツ絡みでどんだけ向島の先輩から睨まれてると思ってんだ。事実であれ、事実でなかれ、どうなってんだってつつかれる方の身にもなれ。警戒したくもなるだろ」
「あ~……向島の先輩たちって聞くと……うん、でしょでしょ~」
「お兄さん、議長サンとは」
「万里、お前それ以上深堀りしたらどうなるかわかってんだろうな」
「やべっ、元ヤンの顔になってやがる」
「ヤンキーだったことはねえ」
強制的にこの話題を終了して、別の話へ。俺たちに許された時間はそう長くないのに、こんなしょうもねえことに費やしてたまるかと。恋愛らしい恋愛なんざ、柄じゃねえ。そのときが来れば受け入れることもあるだろうが、今はそういう気分でもない。一人が楽だ。
「高崎クン、だし巻き食べる~? とびっきりうまーなヤツ~」
「食うけど、他意はねえだろうな」
「どうだか~」
「お前に被った迷惑の窓口は朝霞でいいな」
「冗談でしょでしょ~!」
end.
++++
星港高校のいつメンが集まって洋平ちゃんのお店で飲んでるヤツ。結構ぐいっぐい来てる話ですね
高崎の恋愛事情、と言うか肉体事情と言った方が正しい女性関係のお話もチラリ。中学のときからのそれを全部知っているのが拳悟である。
そしてやまよをお兄さんって言ってるいつメンたちがかわいい。あと、向島の先輩たちは確かにアレでしたね……
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