2019(02)
■極暑の対処法
++++
「はー、あーっつー…!」
「あ、おかえりエイジ」
「おー、帰ったべ」
大学からマンションに戻ってきてしばし。出かけていたらしいエイジが帰ってきた。テストの終わった緑ヶ丘大学では、昨日から集中講義というものが開講されている。3日間で15コマの授業を一気に取ってしまうというシステムで、単位もその場でもらえるか否かが決まるらしい。
授業の内容が少し面白そうだったのと、これを取ると普段のスケジュールが楽になりそうだなと思って登録してたんだ。だけど、ここで誤算がひとつ。授業は1限から5限までぶっ通し。つまり、9時から授業が始まると。それがどうしたと思うかもしれないけど、何を隠そう俺は朝が苦手だ。
履修登録したときは、自分は夏になっても真面目に大学に通っているものだとばかり思っていたから何とも思わなかったんだけど、今となっては1限がしんどすぎる。だけど成績は出席率で決まるタイプの講義だったから、どうにか頑張って9時までに大学に行かなくちゃいけない。ということで、白羽の矢をエイジに立てた。
集中講義の間は9時始まりの1限に間に合うように起こして欲しいというお願いをして、この3日間はエイジに住み込んでもらうことになっている。エイジは普段山浪の実家から大学に通ってるけど、家風がフランクなのかな。3日帰らないくらいは「わかったよ」とあっさり了解されたとかで現在に至る。
「つかマジでこの部屋暑すぎだべ。いや、星港がバカ暑いのか?」
「あー、星港は暑いよねえ。ビックリしてるよ」
「まあ、どう考えてもお前が光熱費ケチってクーラー入れんのが理由のひとつでもあるっていう」
「今からクーラーなんて入れてたら消せなくなっちゃいそうだからね。それに俺、冷房の風がちょっと苦手でさ」
「お前なあ、ニュースでも適切に冷房使えっつってんべ!? この部屋で1日いるとかガチで死ぬぞ」
俺は冷房のかかった大学の教室に1日こもってるからなかなか気付きにくいんだけど、日中のエイジがなかなか大変なようだった。昨日はうちのことを少しやってくれてたんだけど、如何せん家主じゃないから冷房を勝手に入れるのもな、と遠慮していたみたいで。昨日帰って汗だくのエイジを見たときは少し申し訳なく思ったよね。
「あっ、そう言えばエイジ、今日は朝から出かけてたみたいだけど何してたの?」
「図書館に避難してたっていう」
「へえ、図書館なんてあるんだ」
「図書館なら涼めるし、本も読み放題だっていう。腹が減っても中にカフェがあるし。ガチで1日いられるしなんなら時間が全然足りんべ」
「近いの?」
「まあまあ近かったべ。いやー、いいトコ見つけた。余裕で明日も行くしな」
「避暑地が見つかってよかったね」
「ホントにな」
エイジは本を読むのが趣味で、電車通学の間にもよく文庫本を読んでいる。電子書籍よりは紙の本の方が好きらしい。そもそも俺はあまり本を読まないけど、電子書籍の方が場所も食わないしラクだと思うけどなあ。それはともかく、近くの図書館で暑さを凌いでいたらしい。
俺は近くに図書館なるものがあることすら知らなかったけど、エイジみたくそれに需要がある人からすれば天国のような空間なのかもしれない。エイジによれば、本の他にも映画のDVDなんかも見られるらしい。大学の図書館にもそんなコーナーがあるみたいだけど、大学の図書館にもほとんど行かないもんなあ。
「夜は窓開けてりゃまだギリ耐えられんこともないかなって感じだけど、つかお前この部屋扇風機もないのかっていう」
「そう言えばなかったなあ」
「クーラーがダメでも扇風機くらいはあるだろ普通!」
「ないんだもん、仕方ないよね」
「何が「仕方ないよね」だ。まさかお前扇風機があってもケチるために使わないパターンのヤツか」
「扇風機くらいならつけると思うよさすがに。って言うか俺ってそんなにケチな印象なの?」
「どう考えてもケチだろっていう。まあいいや、メシ作ろうぜ」
「うん」
今日の夕飯は具材を用意して炒めるだけの回鍋肉。それと白いご飯。俺は集中講義中だから控えめにするけどチューハイと、エイジは発泡酒を添えて。暑い中で飲む炭酸のお酒は本当に格別だと思う。でも、ここまで言われると確かに扇風機がないのはな、とも思い始めてきた。
台所で火を扱っていると室温がぐんぐん上がるのを感じるし、汗が噴き出てくる。エイジはTシャツの袖を捲り上げて、ノースリーブ状態だ。うん、やっぱりちょっと扇風機は欲しいかも。って言うかどうして今まで買ってなかったんだろう。一人暮らしを始めるときはシーズンじゃなかったからかな、きっとそうだ。
「はー、出来た! あづー…! さっさと食うぞ高木」
「そうだね。では、いただきます」
「いただきまーす! く~…! ビールうめー!」
「うん、冷たい飲み物が美味しい。回鍋肉も安定だね」
「そりゃお前、天下のクックドゥ様だぞ。まず失敗はないべ」
「俺でも出来るくらいだもん、様々だよね。って言うか味の濃さがご飯と食べるのには最高だよね」
「そういやお前、そうめんとかそばとか食ってるイメージ全然ないっていう」
「そうだね、実際あんまり食べないかも」
「単品とは言え意外にがっつり食ってんよな、メシとおかずって」
「今のところバテてないから、ご飯は普通に食べたいよね」
これは今年だけの話じゃなくて、これまでもかな。地元にいたときも、特に夏バテらしいバテ方をした覚えがない。食欲の減退とは基本的に無縁というか。普通にご飯を食べてるからそれなりに元気だし。だけど今はお金がないとそうめんだけとかになっちゃうのかな、それはちょっといやだなあ。
「そうだエイジ、俺、扇風機を買おうと思うんだよ」
「おっ、マジか。買うなら買ってくれ、1000円くらいなら出すっていう」
「さすがにそこまでしてもらわなくて大丈夫だよ。そこまで贅沢しなかったら3000円くらいで来るかな」
「来る来る! 明日にでも買おうぜ!」
「と言うか、よくよく考えたら明後日この部屋で夏合宿の打ち合わせが入っててさ」
「……いや、お前それは扇風機とかじゃなくてクーラー入れろよ、ちゃんとしたお客さんだべ?」
「じゃあ、試運転しとかないとなあ……コンセント挿さないと」
end.
++++
久しぶりのタカエイです。TKGが集中講義を受けているようでエイジはそれを起こす係です。安定のヤツ。
冬は冬で暖房を入れないけど、夏も夏で冷房を入れないのでエイジは図書館に避難することを覚えた様子。一石二鳥だねエイジには
TKG宅で夏合宿の打ち合わせが行われるというのも例年の流れになってきましたね。果林が料理をするだろうし盆の帰省前に冷蔵庫を片付けてもらうといいよ
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「はー、あーっつー…!」
「あ、おかえりエイジ」
「おー、帰ったべ」
大学からマンションに戻ってきてしばし。出かけていたらしいエイジが帰ってきた。テストの終わった緑ヶ丘大学では、昨日から集中講義というものが開講されている。3日間で15コマの授業を一気に取ってしまうというシステムで、単位もその場でもらえるか否かが決まるらしい。
授業の内容が少し面白そうだったのと、これを取ると普段のスケジュールが楽になりそうだなと思って登録してたんだ。だけど、ここで誤算がひとつ。授業は1限から5限までぶっ通し。つまり、9時から授業が始まると。それがどうしたと思うかもしれないけど、何を隠そう俺は朝が苦手だ。
履修登録したときは、自分は夏になっても真面目に大学に通っているものだとばかり思っていたから何とも思わなかったんだけど、今となっては1限がしんどすぎる。だけど成績は出席率で決まるタイプの講義だったから、どうにか頑張って9時までに大学に行かなくちゃいけない。ということで、白羽の矢をエイジに立てた。
集中講義の間は9時始まりの1限に間に合うように起こして欲しいというお願いをして、この3日間はエイジに住み込んでもらうことになっている。エイジは普段山浪の実家から大学に通ってるけど、家風がフランクなのかな。3日帰らないくらいは「わかったよ」とあっさり了解されたとかで現在に至る。
「つかマジでこの部屋暑すぎだべ。いや、星港がバカ暑いのか?」
「あー、星港は暑いよねえ。ビックリしてるよ」
「まあ、どう考えてもお前が光熱費ケチってクーラー入れんのが理由のひとつでもあるっていう」
「今からクーラーなんて入れてたら消せなくなっちゃいそうだからね。それに俺、冷房の風がちょっと苦手でさ」
「お前なあ、ニュースでも適切に冷房使えっつってんべ!? この部屋で1日いるとかガチで死ぬぞ」
俺は冷房のかかった大学の教室に1日こもってるからなかなか気付きにくいんだけど、日中のエイジがなかなか大変なようだった。昨日はうちのことを少しやってくれてたんだけど、如何せん家主じゃないから冷房を勝手に入れるのもな、と遠慮していたみたいで。昨日帰って汗だくのエイジを見たときは少し申し訳なく思ったよね。
「あっ、そう言えばエイジ、今日は朝から出かけてたみたいだけど何してたの?」
「図書館に避難してたっていう」
「へえ、図書館なんてあるんだ」
「図書館なら涼めるし、本も読み放題だっていう。腹が減っても中にカフェがあるし。ガチで1日いられるしなんなら時間が全然足りんべ」
「近いの?」
「まあまあ近かったべ。いやー、いいトコ見つけた。余裕で明日も行くしな」
「避暑地が見つかってよかったね」
「ホントにな」
エイジは本を読むのが趣味で、電車通学の間にもよく文庫本を読んでいる。電子書籍よりは紙の本の方が好きらしい。そもそも俺はあまり本を読まないけど、電子書籍の方が場所も食わないしラクだと思うけどなあ。それはともかく、近くの図書館で暑さを凌いでいたらしい。
俺は近くに図書館なるものがあることすら知らなかったけど、エイジみたくそれに需要がある人からすれば天国のような空間なのかもしれない。エイジによれば、本の他にも映画のDVDなんかも見られるらしい。大学の図書館にもそんなコーナーがあるみたいだけど、大学の図書館にもほとんど行かないもんなあ。
「夜は窓開けてりゃまだギリ耐えられんこともないかなって感じだけど、つかお前この部屋扇風機もないのかっていう」
「そう言えばなかったなあ」
「クーラーがダメでも扇風機くらいはあるだろ普通!」
「ないんだもん、仕方ないよね」
「何が「仕方ないよね」だ。まさかお前扇風機があってもケチるために使わないパターンのヤツか」
「扇風機くらいならつけると思うよさすがに。って言うか俺ってそんなにケチな印象なの?」
「どう考えてもケチだろっていう。まあいいや、メシ作ろうぜ」
「うん」
今日の夕飯は具材を用意して炒めるだけの回鍋肉。それと白いご飯。俺は集中講義中だから控えめにするけどチューハイと、エイジは発泡酒を添えて。暑い中で飲む炭酸のお酒は本当に格別だと思う。でも、ここまで言われると確かに扇風機がないのはな、とも思い始めてきた。
台所で火を扱っていると室温がぐんぐん上がるのを感じるし、汗が噴き出てくる。エイジはTシャツの袖を捲り上げて、ノースリーブ状態だ。うん、やっぱりちょっと扇風機は欲しいかも。って言うかどうして今まで買ってなかったんだろう。一人暮らしを始めるときはシーズンじゃなかったからかな、きっとそうだ。
「はー、出来た! あづー…! さっさと食うぞ高木」
「そうだね。では、いただきます」
「いただきまーす! く~…! ビールうめー!」
「うん、冷たい飲み物が美味しい。回鍋肉も安定だね」
「そりゃお前、天下のクックドゥ様だぞ。まず失敗はないべ」
「俺でも出来るくらいだもん、様々だよね。って言うか味の濃さがご飯と食べるのには最高だよね」
「そういやお前、そうめんとかそばとか食ってるイメージ全然ないっていう」
「そうだね、実際あんまり食べないかも」
「単品とは言え意外にがっつり食ってんよな、メシとおかずって」
「今のところバテてないから、ご飯は普通に食べたいよね」
これは今年だけの話じゃなくて、これまでもかな。地元にいたときも、特に夏バテらしいバテ方をした覚えがない。食欲の減退とは基本的に無縁というか。普通にご飯を食べてるからそれなりに元気だし。だけど今はお金がないとそうめんだけとかになっちゃうのかな、それはちょっといやだなあ。
「そうだエイジ、俺、扇風機を買おうと思うんだよ」
「おっ、マジか。買うなら買ってくれ、1000円くらいなら出すっていう」
「さすがにそこまでしてもらわなくて大丈夫だよ。そこまで贅沢しなかったら3000円くらいで来るかな」
「来る来る! 明日にでも買おうぜ!」
「と言うか、よくよく考えたら明後日この部屋で夏合宿の打ち合わせが入っててさ」
「……いや、お前それは扇風機とかじゃなくてクーラー入れろよ、ちゃんとしたお客さんだべ?」
「じゃあ、試運転しとかないとなあ……コンセント挿さないと」
end.
++++
久しぶりのタカエイです。TKGが集中講義を受けているようでエイジはそれを起こす係です。安定のヤツ。
冬は冬で暖房を入れないけど、夏も夏で冷房を入れないのでエイジは図書館に避難することを覚えた様子。一石二鳥だねエイジには
TKG宅で夏合宿の打ち合わせが行われるというのも例年の流れになってきましたね。果林が料理をするだろうし盆の帰省前に冷蔵庫を片付けてもらうといいよ
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