2017(02)

■草葉と陽炎

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 丸の池ステージまでもうあまり日がない。今日は、大学の野外公会堂を借りて行われるリハーサル。大道具も搬入して、本番に近い環境で行われる練習だ。機材の上にはテントも張っていて、結構大掛かり。

「スガー! 準備できたぞー!」
「ああ。後はうちの班の番がくるまで段取りの確認とかを頼む。暑いし、出来るだけ影を見つけて休んでてくれ。俺は班長の仕事があるから後で合流する」
「了解~!」

 ステージの脇の方では、個別に張ったと思われるテントの下で部長が悠々とキャンピングチェアーに腰掛けていた。わざわざ電ドラで電源まで引っ張ってきて、扇風機が回っている。
 部長とは言え、いい身分だ。扇風機は部長よりも機材を冷やすために使うべきじゃないかと思ったりもする。星港市の予想最高気温は36度。影もないここでは体感温度はもっと上がるだろう。

「うー……暑いんだ。外回りはツラいけど、じっとしてるよりはいいんだ」
「星羅、大丈夫か。帽子かぶっとけ」
「泰稚、ありがとうなんだ。お礼にポカリあげるんだ。ボクはもう1本あるんだ」
「ありがとう」

 キャップと交換に得たポカリはいつ飲もうか。冷たいうちに飲みたいけど、まだ早い気もする。例のテントの下では、部長が扇風機の風を浴びながらアイスを食べているし、時折双眼鏡でどこか遠くを見ているような奴もいる。
 周りを見ていると、須賀班や魚里班の面々が忙しなく動いているのがわかる。中立よりも部の幹部に都合の悪い存在。双眼鏡は恐らくこういう面々の監視用だろう。ここまで扱いがあからさまだと朝霞班はどんな無茶を言われているのか。
 現に、俺たち菅野班や宇部班の面々は外回りなどの仕事を命じられておらず、リハーサルの準備に専念することが出来る。それをありがたいとは思えなかった。恐怖の方が先に来る。

「菅野、少しいいかしら」
「宇部。どうした」
「朝霞の姿が見えないの。戸田さんと源吾郎は買い出し、洋平は外でポスター貼りをしてるのまでは確認したけれど」
「まだどっかで台本でも書いてるんじゃないのか?」
「その可能性もあるけど、嫌な予感がするわ」
「わかった。それとなく外を回って、朝霞を探せばいいんだな」
「ええ。私は部長の相手をしなくてはならなくて身動きが取れないの。ごめんなさい、お願いするわ」

 少しステージから離れると、一気に静かになって蝉の声ばかりがうるさい。宇部の“嫌な予感”は大体当たるのだ。それというのも、宇部は部長の右腕だけに不穏な話が入って来やすいことが挙げられる。今もきっと。
 ザッと砂利が音を立てた頃にはステージの音は淡く、随分遠くまで来たなと思った瞬間のこと。ボーッと、力なく立ち尽くす男がいる。朝霞だ。今にも崩れ落ちるんじゃないか、そう思った瞬間のこと。

「朝霞!」

 自分で支えきれなくなった体は熱く、意識はかろうじてあるけどはっきりしてないようだ。草陰では、人影が素早く動いてステージに向かって駆けていく。監視されている。そんなことはどうでもいい。熱中症の対処法を調べてそれらしい応急処置をするのに必死だ。
 クーラーの効いたような場所はさすがにないから、林の影に移動する。首もとまでしっかりボタンが閉められたポロシャツやベルトもゆるめて。飲み物……星羅からもらったこれでいいだろう。

「大丈夫か。飲めるか」

 手元にあったファイルで風を送りつつ、ポカリを少しずつ飲ませていく。さすがに草木の生い茂るここまでは部長の監視網も届いていないだろう。周りに人の気配はない。事情を聞きたい気もしたが、今聞くのは酷だろう。回復を待とう。
 しばらくこうしていると、最初よりは少し落ち着いたようだった。だけど、今外に出ると同じことの繰り返しだろう。部長のやることだ、何かしらの理由を付けて朝霞班にリハーサルはさせないはず。それならばいっそ。

「……もしもし洋平、今大丈夫か。ちょっと頼まれてくれ」


end.


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今年の夏の星ヶ丘、丸の池は少し違うらしい。暑い中でも悠々といられる部長である。
スガPは多分星ヶ丘の中でもかなり常識人っぽいと言うか、恐怖という感情もある点で今までのキャラクターとは違うなと。
朝霞P今期2度目の離脱でさあどうなる朝霞班。

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